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私、エアリエンス=ぺルグントと彼、アイザック=ギュスターヴは何も出会った時から喧嘩をするような関係性だったというわけではない。
元々はむしろ悪友と言えば良いのか、お茶会中でもよく一緒に抜け出し、下らない遊びをする仲だったのだ。

出会いは8歳の時。母に連れて行かれたギュスターヴ公爵家主催のお茶会でのことだ。
母に他の貴族の子供達と交流を深めてくるようになどと言われて放り出されたその場。いつもであれば2つ年上の兄や従兄が一緒にいてくれるのだが、この日ここに連れてこられたのは私一人だけ。退屈で仕方がなかった。しかし誰かと話そうなどという気にはなれない。兄達と外でアクティブに遊ぶことが多かったせいか、昔の私はこういう腹に一物を抱えながらマウントを取り合う場というのが苦手だった。貴族という立場は向いていなかったのだと思う。
だから、お茶会で最低限の挨拶を済ませた後には既にスコーンやら何やらをテキトーに持ち出し、抜け出す準備をした後にここが広い庭であることを良い事に木に紛れ、さっさとお茶会から姿を消していた。
そしてぶらぶらするのにも飽きた頃だろうか。暇すぎたこともあり、公爵家の湖を氷魔法で凍らせて、スケートリンクを作り出したり、木の上にツリーハウスを作りながら、お茶会の終了を待っていたのだが、そこで声を掛けられたのだ。あの男に――。

「お前……何してるんだ、さっきから」
「……自然保護活動です」
「っくく、絶対嘘だろ、それ」

正直最初は、まずいところを見られたと思った。
何せ人の家の庭を暇つぶしという名の退屈への腹いせで凍らせたり、勝手に建造物を作ったりしていたのだ。見つかった時点で親に報告されたり、その場で怒られることを覚悟していた。でも彼は『自然保護活動』という私の大嘘を、爆笑しながら肯定してくれた。それだけではなく、その後はお茶会が終わるまで一緒に遊んでくれたのだ。彼よりも立場の低い侯爵令嬢でも、そんなこと気にすることなく共に居てくれた――。

***

しかし知り合って3年ほどが経った頃だろうか。そのころには私は既に12歳になっていたこともあり、その頃には既にある程度気心の知れた仲の令嬢も何人かは出来ていた。その同世代の伯爵令嬢にお茶会に呼ばれていた日の事だ。何故かその日は急に、その家でかくれんぼをすることになったので、ちょっとワクワクしながらも庭園の奥の草の茂みに隠れながら、かくれんぼを楽しんでいた。その時の事だ。
複数人の足音が聞こえたので、鬼役の子ではないと思いながらも息を潜めていた時に、急に自分の名前が出たことに驚いた。

「はあ、俺達もそろそろ婚約者が段々と決まっていくのか。俺の妹も誰かのものになってしまうのか……」
「うわ、出たよブラコン。でも僕も良い子と婚約できたらいいな。ケルヒャー子爵家の次女とか個人的にはかなり好みなんだけど」
「ん?好みの女の子の話か!?俺はペルグント侯爵家の長女が一番好みだな!彼女、兄が既に騎士の修練を受けているだろう?だからよく会うんだが、その度に俺に微笑んでくれてな。どこかでお近づきになりたいんだが……」
「そういえばアイザックって、そのペルグントの令嬢と仲が良いよな」
「……別に悪くはない、が」
「そうか!じゃあ俺にしょうか――」
「悪い事は言わない。やめておけ。アイツは一見おしとやかでか弱そうな容姿をしているが、中身はとんだじゃじゃ馬で悪戯ばかりを繰り返す狂暴女だ。どうせ微笑んだのだってお前の顔が間抜けで面白かったとかっていう失礼な理由に決まってる。ヘンリー、アイツは女としてあり得ない選択肢だから、やめておくんだ」

躊躇いなく、一口で言われたその言葉達。確かにいくつかは当てはまることはなくはなかったが、あまりにも酷い言い様、悪口に大きなショックを受けていた。
でも一番傷ついたのは、彼に『女としてあり得ない選択肢』と思われていた事だった――。
だって当時の私は、アイザックの事が既に好きだったのだ。貴族に自由な恋愛など許されないと知っていても、私に笑いかけながら、どんな馬鹿な悪戯にも一緒に付き合ってくれる優しい彼のことが好きだったのだ。だからこそ深く傷ついた。

でも、そこからの私の行動は散々だったと思う。
アイザックに自分から話しかけることはなくなり、彼から声を掛けられても無視をするか罵詈雑言を浴びせる。急に変化した態度に最初こそアイザックは戸惑い、自分が何かをしたなら謝るとまで言ったが、私が『貴方の事が嫌いだからだ』と言ったら、彼にも同じ言葉を返された。ただそれだけのことだ。

その関係性が続いて6年。17歳の時に急にアイザックとの婚約が決まった時には驚きはしたが、既に修復不可能なくらいに溝が深まっていた故に態度が変わることはなかった。勿論、彼からの態度が変わる事もなかった。むしろ、私はどこかでまだアイザックの事が好きで、嫌いになりきれないという状況のせいで、彼に対する態度がもっと冷たくなっていた。
もう長い間、彼の笑顔は見ていなかった。
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