上 下
1 / 7

0.プロローグ

しおりを挟む
柔らかな日差しが差し込む朽ち果てた古城。ガリアと私、フローラ……二人の『いつもの場所』。
瞳に映ったのは、大好きな彼……将来を誓い合った仲でもあった彼と、嬉しそうに、醜く顔を歪めた姉がキスを交わす姿だった。

最初は何が起こっているのかすら分からなかった――否、分かりたくなんてなかった。しかし、二人の息が上がるほどに長い接吻が終わる頃には全てを理解した。自分は姉に大切なものを奪われたのだ。

「セーラ!!貴女は何度同じことをするつもりなの!!?」

自然と大きく、張り上げられた声が怒りで震える。掴みかかった目の前の女が憎くて憎くて仕方がなかった。

私の姉である彼女は、今まで何もかも私から奪ってきた。大切にしていた玩具は彼女の我が儘で壊され、私に対して優しかったメイドは彼女の命令で首にされた。私に与えられたはずの可愛いドレスだって、最終的には彼女のものになり、私にはボロボロになった姉の服がと言われて渡された。
悪い事は全て私のせいにされるのは勿論、彼女の周囲の人間を使って、何度も酷い目にも合わされた。
それを両親に相談してみようものなら、父には『嘘を吐くな』と糾弾され、母には『そんなにもお姉ちゃんの事が嫌い?』と悲しまれる。挙句の果てに相談した事実を知った姉からのイジメが更に酷いものになるのだ。

それでも私はずっと耐え続けていた。

しかし、もう耐えられなかった。この姉を許せなかった。私は自分の左目につけられていた眼帯を勢いよく引き千切る。

「な、なにを――?」
「ゴミはちゃんと焼却しないと」
「痛っ、いやあああぁぁぁああああああ」

元々、私は一族の中でも魔力が突出していた。だから他人を傷つけないように、力を抑えるために、魔力封印の魔法がかかった眼帯を目に装着していた。けれど一度感情が限界を迎えた私には、もうそんなものは邪魔でしかなかった。
全身が蒼い炎に包まれる。それは掴んでいたセーラの首から髪の毛、ドレスにまで燃え広がり、彼女を苦しめていた。

もっと……もっと苦しめばいい。今まで自分が受けていた苦痛を全てこの女に――。

私はもう理性も常識も、この後の事も何もかもがどうでもよかった。全ての箍が外れていたのだ。しかし、そんな私達を見逃さない人間がいた。

「何をしているんだ!?」
「うぐっ――」

今まで硬直してた男・ガリアが正気を取り戻し、私の胸の辺りを突き飛ばすように、思い切り蹴り飛ばす。
予想外の方向からの攻撃だった事もあるが、ガリアの気配で無意識の内に纏っていた魔力を弱めていた私は古城の壁にまで叩きつけられた。
身体強化の魔法を使って蹴り飛ばされた故に、すぐには動けない。それどころか運悪く転がった時に左目には何か棒状のものが刺さり、肋骨も折れて肺に刺さっているのだろう――呼吸が苦しかった。

「なんて、酷い怪我を――大丈夫か!?」
「待、ちなさ、い」
「まだ意識があるのか……この化け物め」
「ばけ――もの」

痛みに侵される中、最も大切な人から一番言われたくなかった言葉を吐き捨てられる。今まで何度も周囲から囁かれて来た言葉。
先程までの怒りはどこへ行ってしまったのか、私はまるでこの世の終焉を見たかのような心境に陥ってしまう。

精神的にも肉体的にも大きなダメージを負った故に、小指の一本も動かすことが出来ず、気を失ったセーラがガリアによって運ばれていくのを空虚な瞳で見つめることしか出来なかった――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ
恋愛
この話は 『内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜』 の続編です。 アイシャが亡くなった後、リサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。 そして、アイシャを産んだ。 父であるカイザも、リサとハイドも、アイシャが前世のそのままの姿で転生して、自分たちの娘として生まれてきたことを知っていた。 ただアイシャには昔の記憶がない。 だからそのことは触れず、新しいアイシャとして慈しみ愛情を与えて育ててきた。 アイシャが家族に似ていない、自分は一体誰の子供なのだろうと悩んでいることも知らない。 親戚にあたる王子や妹に、意地悪を言われていることも両親は気が付いていない。 アイシャの心は、少しずつ壊れていくことに…… 明るく振る舞っているとは知らずに可愛いアイシャを心から愛している両親と祖父。 アイシャを助け出して心を救ってくれるのは誰? ◆ ◆ ◆ 今回もまた辛く悲しい話しが出てきます。 無理!またなんで! と思われるかもしれませんが、アイシャは必ず幸せになります。 もし読んでもいいなと思う方のみ、読んで頂けたら嬉しいです。 多分かなりイライラします。 すみません、よろしくお願いします ★内緒で死ぬことにした の最終話 キリアン君15歳から14歳 アイシャ11歳から10歳 に変更しました。 申し訳ありません。

【完結】愛してました、たぶん   

たろ
恋愛
「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。 「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

処理中です...