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第三章:ポッシェ村
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私が魔力を込めた瞬間、『記憶の魔本』が黄金に光り輝く。
身体の中から魔力が漏れ出していくのを感じた。同時に、黒髪に茶色い瞳という変化させた容姿が元の白銀と黄金に戻る。この本の前では誰も偽ることなどできない。そういわれている通り、偽った姿形すらも真の姿へと戻される。
私が元の容姿を取り戻したせいだろう、少しだけハルトリッヒが驚いたような表情を浮かべるが、それは一瞬だった。すぐに魔法が発動した『記憶の魔本』を認めると、最初のページからそれを読み始めた。
中身がどうなっているのか気になったので、軽く中身を覗くと、そこには幼少期からの私の人生が詳細に三人称で描かれていた。
恋に溺れて好きな人との間に無理矢理私を作り出した母のこと、母に一度として自身を見てもらえなかった私の過去、聖女としての力があると分かってからの酷使され続ける日々、血反吐が出たとしても誰にも心配などしてもらえず努力も認めてもらえない虚しい私、他の貴族や騎士からは見下されて理不尽に絡まれ傷付けられていたあの時。
そして妹に婚約者だったはずの男を奪われ、糾弾され、国から追い出された時。
もしかしたら彼が見てきたブレメンスのイメージとは違うのかもしれない。けれどこれが私からみたあの世界だった。
ハルトリッヒの隣で改めて客観的に自分の過去を見つめ直す機会を与えられてみて思う。ブレメンスでの日々はなんて虚しくて悲しい日々だったのだろう……と。
最近のプライベートな部分までページを捲る前に、ハルトリッヒの手が止まった。
「……もう、十分だ」
「そう。私は帰るわ。一週間、返事を待ってあげる。私の前に立ち塞がるのか、それともフィオレントに保護されるのか。貴方自身が選ーー」
あとは彼の選択次第だと、考える猶予を与えて立ち去ろうとしたーーのだが、ハルトリッヒに後ろから手を掴まれた。
「俺は!!国の施設でずっと、国のため、ブレメンスの未来のためと刻印を刻まれた上で、戦闘に関する訓練も受けてきた。それは俺達のような魔法を使える者が弱き者を、民を、そして国を支える騎士や貴族を守るためだとずっと思ってきたんだ」
「……そう。頑張ったのね」
「だが!お前の過去を知って、分からなくなった。……いや、違うな。あの国の人々が弱者だと思えなくなったんだ。あれは搾取する側だ。ずっと搾取してきた者のやり方だ」
何も言えなかった。
ハルトリッヒにとっては、ずっと信じてきたものが崩れてしまって何を信じれば良いのか完全に分からなくなってしまった状況なのだろう。そんな人間に対して、なんて声を掛ければ良いのか見当がつかなかった。
「ソフィア=トリプレート。お前は認めないかも知れないが、俺にはお前がか弱く見える。国内では誰からも認めてもらえず、その挙げ句裏切られて、それでも虚勢を張り続けて……恨んでいないのか?あの国を」
「…………分からない。恨んでないと言い切ると、嘘になってしまうわね」
恨んでいないのか。そう問われてみると、正直なところ私にも分からなかった。普通はあれだけのことをされたら、直接復讐しなければ満足できないと考えるくらいに恨むのかもしれない。けれど私はあの国から出て、フィオレントに来てからは、あの時のマイナスがプラスに傾くかもしれないくらいの友人や仲間を得た。ポッシェ村、そしてフィオレント王都での繋がりは、それくらいに掛け替えのないものだ。
「でも、恨みたくないと今は思ってる。私は今、この時を大切にして生きたいから。だから生きるために、自分の平穏を取り戻すためにブレメンスに帰るの。……貴方達が差し向けられたことを考えても、きっと争いは不可避だけどね」
ハルトリッヒは無言だった。ただその顔には、出会った時のような嫌悪や殺意はなく、ただ悲しそうな表情が浮かんでいる。
暫く接していたから分かる。ハルトリッヒは表に出している粗暴な言葉遣いとは真逆の人間だ。中身は正義感が強く、他人のことを思いやれる優しい人間。
******
あとがき
長いので一旦切ります。
今週仕事がかなり忙しいので、更新頻度落ちてます。来週の月曜日以降で頑張ります。
身体の中から魔力が漏れ出していくのを感じた。同時に、黒髪に茶色い瞳という変化させた容姿が元の白銀と黄金に戻る。この本の前では誰も偽ることなどできない。そういわれている通り、偽った姿形すらも真の姿へと戻される。
私が元の容姿を取り戻したせいだろう、少しだけハルトリッヒが驚いたような表情を浮かべるが、それは一瞬だった。すぐに魔法が発動した『記憶の魔本』を認めると、最初のページからそれを読み始めた。
中身がどうなっているのか気になったので、軽く中身を覗くと、そこには幼少期からの私の人生が詳細に三人称で描かれていた。
恋に溺れて好きな人との間に無理矢理私を作り出した母のこと、母に一度として自身を見てもらえなかった私の過去、聖女としての力があると分かってからの酷使され続ける日々、血反吐が出たとしても誰にも心配などしてもらえず努力も認めてもらえない虚しい私、他の貴族や騎士からは見下されて理不尽に絡まれ傷付けられていたあの時。
そして妹に婚約者だったはずの男を奪われ、糾弾され、国から追い出された時。
もしかしたら彼が見てきたブレメンスのイメージとは違うのかもしれない。けれどこれが私からみたあの世界だった。
ハルトリッヒの隣で改めて客観的に自分の過去を見つめ直す機会を与えられてみて思う。ブレメンスでの日々はなんて虚しくて悲しい日々だったのだろう……と。
最近のプライベートな部分までページを捲る前に、ハルトリッヒの手が止まった。
「……もう、十分だ」
「そう。私は帰るわ。一週間、返事を待ってあげる。私の前に立ち塞がるのか、それともフィオレントに保護されるのか。貴方自身が選ーー」
あとは彼の選択次第だと、考える猶予を与えて立ち去ろうとしたーーのだが、ハルトリッヒに後ろから手を掴まれた。
「俺は!!国の施設でずっと、国のため、ブレメンスの未来のためと刻印を刻まれた上で、戦闘に関する訓練も受けてきた。それは俺達のような魔法を使える者が弱き者を、民を、そして国を支える騎士や貴族を守るためだとずっと思ってきたんだ」
「……そう。頑張ったのね」
「だが!お前の過去を知って、分からなくなった。……いや、違うな。あの国の人々が弱者だと思えなくなったんだ。あれは搾取する側だ。ずっと搾取してきた者のやり方だ」
何も言えなかった。
ハルトリッヒにとっては、ずっと信じてきたものが崩れてしまって何を信じれば良いのか完全に分からなくなってしまった状況なのだろう。そんな人間に対して、なんて声を掛ければ良いのか見当がつかなかった。
「ソフィア=トリプレート。お前は認めないかも知れないが、俺にはお前がか弱く見える。国内では誰からも認めてもらえず、その挙げ句裏切られて、それでも虚勢を張り続けて……恨んでいないのか?あの国を」
「…………分からない。恨んでないと言い切ると、嘘になってしまうわね」
恨んでいないのか。そう問われてみると、正直なところ私にも分からなかった。普通はあれだけのことをされたら、直接復讐しなければ満足できないと考えるくらいに恨むのかもしれない。けれど私はあの国から出て、フィオレントに来てからは、あの時のマイナスがプラスに傾くかもしれないくらいの友人や仲間を得た。ポッシェ村、そしてフィオレント王都での繋がりは、それくらいに掛け替えのないものだ。
「でも、恨みたくないと今は思ってる。私は今、この時を大切にして生きたいから。だから生きるために、自分の平穏を取り戻すためにブレメンスに帰るの。……貴方達が差し向けられたことを考えても、きっと争いは不可避だけどね」
ハルトリッヒは無言だった。ただその顔には、出会った時のような嫌悪や殺意はなく、ただ悲しそうな表情が浮かんでいる。
暫く接していたから分かる。ハルトリッヒは表に出している粗暴な言葉遣いとは真逆の人間だ。中身は正義感が強く、他人のことを思いやれる優しい人間。
******
あとがき
長いので一旦切ります。
今週仕事がかなり忙しいので、更新頻度落ちてます。来週の月曜日以降で頑張ります。
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