上 下
5 / 78
第一章:序章

4.魔道具①

しおりを挟む
あれから――あの国を出てから一カ月が経過した。

特に行く宛もないたびに出て、結局ブレメンス王国から南下し、大きな国を二つほど越えた場所にあるフィオレント帝国に辿り着いた。
国を出た直後、元貴族という柵すらも邪魔だった故に、まず最初に貯蓄を崩して、自身の身分と国籍を買った。
フィオレント帝国は複数の民族や元々国であったものが全て『フィオレント』という国に吸収された結果に出来た国である。それ故に途轍もなく国土が広い。ブレメンス王国の5倍近い面積があるのだ。
そういう理由もあり、全てを国で管理しきれていないのだろう。帝国の端の方の役所で軽くお金を積めば、新しい身分と国籍は簡単に手に入った。

しかし、身分を買うと言っても何かしらの地位に就いたわけではない。普通の……一般市民という立場が欲しかったのだ。それも計画が簡単に遂行出来た所以である。

そして今はフィオレント帝国南西部にあるポッシェという魔道具開発で発展した村に家を借りて住んでいた。

幸いにも私は今現在、庶民としての一人暮らしというものにあまり苦労していなかった。元公爵令嬢とは言っても、昔から聖女の仕事で外に出向く時もあまり良い待遇を受けていたとは言えなかったためだ。
分かりやすく言えば、お飾り聖女だから世話をしなくてもお咎めはないだろうと足元を見られ、遠征先でも自分の生活は全て自分で管理せざるを得ない状態だった。それ故に誰にも世話をされない――一人だけでの生活に慣れているので特に不便を感じることもなかった。
むしろ誰かから仕事を押し付けられることもなく、どこかの式典にも強制的に参加させられることもない、何をしても自由な生活がとても快適であった。

そんな暮らしの中、私は運命に出会った……。『魔道具作り』である。

実はブレメンス王国にも魔道具というものは存在していた。王国の魔法というのは他国に比べてあまり発展していなかったのもあり、一般市民は当然ながら貴族でも魔法を使えない人間が多かったからだ。
何度か使って見たことはあったが、王国製の魔道具はお世辞にも質が良いとは言えず、私は基本的に自分の魔力を消費して魔法を形成し、ソレらを使うことはなかった。

けれどこのポッシェ村では何もかもが違う。
まず第一に魔道具が一般利用されているのだ……しかもそれも王国の物よりも圧倒的に質が良いものが。しかも種類も多種多様であり、明かりになるものからお湯を沸かすものと言った普段使いのものから使用すれば空を飛べるものや物を一瞬で別の場所に転移させるようなものまでそれら全てが一般に出回っているのだ。

最初にこれらを見た時、驚きと共に他のものに感じたことのない程の大きな興味を抱いた。なにせこの魔道具を使えば、のだ。

今までは聖女のハードな仕事を少しでも楽にするために、錬成する魔法式をより複雑化することによって魔力コストを抑えたり、魔法の要らない部分を見つけ出すと同時に一生懸命省いて魔法を使う研究を普段からしてきた。そんな過去からしたら目から鱗であり、未知との遭遇であった。
魔法の研究が既に趣味と化していた故に、そんな夢の様なものに興味を持たない筈がなかった――。

出会ったその日からは、魔道具に関する書物や道具を金に糸目を付けることなくかき集めた。そして昼も夜も関係なく集中してしまう程に魔道具に対する研究にのめりこんだ。

元々魔法が得意だったことも関係するのだろう。最初歩の魔道具を魔法で解析すると、手が勝手にどんどん魔道具を産みだしていった。

一番簡単な『火を生成する魔道具』に始まり、『動くぬいぐるみ』や『年齢を変化させるもの』といった難易度が高い且つ珍しい物、そして『他人を一時的に魅了するもの』や『物質の空間容量を増大させるもの』などの裏で扱われる様な途轍もなく希少なものまでもを一カ月も経たない内に独学で作り上げてしまった。

そしてそこまで登り詰めると、段々と気になり始めた。自分の実力は如何ほどなのか、ということが。
なにせ私はここでは未知数のだ。まずは自分の立ち位置を知って、もっと魔道具について他の人からも知識を得たいと思い始めていた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

私が消えたその後で(完結)

毛蟹葵葉
恋愛
シビルは、代々聖女を輩出しているヘンウッド家の娘だ。 シビルは生まれながらに不吉な外見をしていたために、幼少期は辺境で生活することになる。 皇太子との婚約のために家族から呼び戻されることになる。 シビルの王都での生活は地獄そのものだった。 なぜなら、ヘンウッド家の血縁そのものの外見をした異母妹のルシンダが、家族としてそこに溶け込んでいたから。 家族はルシンダ可愛さに、シビルを身代わりにしたのだ。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

断罪されたので、私の過去を皆様に追体験していただきましょうか。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が真実を白日の下に晒す最高の機会を得たお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

処理中です...