上 下
18 / 21
3

告白2

しおりを挟む
caution:若干の同性愛表現があります。

******


ユベールはキッチンで素早く紅茶を淹れ、私達二人が緊張のあまりに座っていなかった中央のテーブルに備え付けられた椅子を勧めてくれた。私とレイが横並びに、向かい合うように私の正面にユベール、もう一人の男性――レイにライナスと呼ばれていた――がレイの正面になるように席に着いた。
ここでようやく腰を落ち着ける。辺りに漂うカモミールの優しい香りが心地よい。

「それにしても姉様とレイナルド様、気持ち伝え合えたんですね。良かったです」

ユベールが安心したようにふにゃりと微笑む。

「そうね。ユベールのお陰で」
「あと俺のお陰だろー」
「えっと……」
「俺はライナス=フレメーラ。レイナルドの親友で、ユベールの恋人だ」
「は?」
「え?」

一瞬にして訪れる静寂。
私達の会話に割り込むように会話に入ってきたこの男性。レイと一緒に居たことから、レイの知り合いだとは思っていたが、まさか予想の斜め上の関係性が出てくるとは思わなかった。それに彼の名前は私は聞き覚えがあった。なにせ私の今回のお見合いの相手というのはライナス=フレメーラ。彼だったから。
思わぬ自己紹介と告白に私もレイも咄嗟に言葉が出てこなかった。疑問符だけが口から飛び出す。そこに追い込みをかけるようにユベールが言葉を重ねた。

「姉様。ずっと秘密にしていましたが、僕は少し前からこのライナスさんとお付き合いをしているんです。勿論、プラトニックなお付き合いですよ……まだ」
「ちょっと待ってくれ!イリア、君の弟はちゃんと弟なんだよな?」

レイは相当混乱しているようで、よく分からないことを言っているが、私自身も混乱しているのもあって言いたいことは何となく分かる。

「ユベールは男よ。彼が産まれてからずっと姉である私が証明する」
「じゃあ……」
「俺達は男同士で年齢も離れているが、愛し合っているんだ」

その言葉を聞いて、レイは頭を抱える。しかし私は混乱しながらもどことなく納得もしていた。久しぶりに会って、急に大人びたように見えたユベール。それはライナス……彼の影響なのかもしれない。
しかし、そこで違和感が産まれる。

「そう……だったのね。でもだとすると、私はユベールの彼氏?とお見合いをさせられそうになっていたってことかしら」
「はい。母様から姉様のお見合い相手を聞いた時は驚きました。ライナスさんの家とはそんなに交流がなかった筈ですし、急な話だったので僕にも母様が何を考えてるのか分かりません」

そうなのだ。フレメーラと言ったら伯爵家であり、領地も離れている。ユベールの言う通り、私の家であるヴェスベール伯爵家とは殆ど交流がなかった筈なのだ。私自身もフレメーラ伯爵家との交流の話やパイプを繋ぎたいという話なども一度も聞いたことがない。普通はそんな関係性の家との見合い話なんて来ない筈だ。

「俺の実家から見合いの連絡が来たのもいきなりだった。家名を見ておかしいと思ったから、君に好意を抱いているように見えたレイナルドにも声を掛けて連れて来たんだ」

そこまでライナスさんが話したところで再び訪れる沈黙。違和感は目かくな疑問となって私達を悩ませた。しかしそれらを全て吹き飛ばすように明るい声が響く。

「よし!ユベール達の両親に会いに行こうぜ」

それはライナスさんの言葉だった。彼はきっと、とても真っ直ぐな性格なのだろう。分からないことがあるのなら本人に聞きに行けばいいじゃないかと言うように、さも簡単にそれを提案した。

「おい、ライナス。そんな簡単に――」
「いいえ、レイ。案外そうした方が速いかもしれないわ。それに彼とのお見合い話も断らなければならないしね」
「それは……そうだな。ああ、分かったよ。今から君の両親に会いに行こう」

ライナスさんの突発的な提案にレイは反論しようとしたが、私は案外いい考えだと思ってしまった。
だって私達は両想いになったと言えど、問題がある。ライナスさんとのお見合いだ。それにライナスさんがユベールの恋人だというのなら、弟を安心させてあげるためにも尚更早く今回の事に方をつけるべきだ。
だから、断る機会も兼ねることが出来るこの提案は私達にとってある意味、渡りに船なのだ。
だからレイも、私の言葉ですぐに納得してくれた。そうして私達はこのまま私とユベールの両親に会いに行くことになったのだった。


******

お知らせ:
ここ数日、花粉症で鼻水が止まらないので、完結まで連投できるかどうか分かりません。申し訳ない。下向いてると鼻水が垂れてきて、文章書くのが中々進まなくて……。
待ってくれている方などいらしたら、本当に申し訳ないです。でもなんとか頑張って続きを書くので、完結までお付き合い頂けたら嬉しいですm(__)m
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる

ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。 正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。 そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

大好きな恋人が、いつも幼馴染を優先します

山科ひさき
恋愛
騎士のロバートに一目惚れをしたオリビアは、積極的なアプローチを繰り返して恋人の座を勝ち取ることに成功した。しかし、彼はいつもオリビアよりも幼馴染を優先し、二人きりのデートもままならない。そんなある日、彼からの提案でオリビアの誕生日にデートをすることになり、心を浮き立たせるが……。

処理中です...