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13.エピローグ

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あの告白の後……私達は沢山話をした。
私の昔のあのトラウマの話だったり、オルフェの怪我をした経緯やその状態など過去から現在、そしてこれからの未来の事まで話題は尽きなかった。

因みにオルフェの怪我は私の事を考え続けた結果、ここ数日殆ど眠っていなかったようで疲労と眠気で身体が動かなかったのだそうだ。そして魔物の攻撃を受けてしまった、と。それ故、疲労の原因を知っていたあの男性……彼の上司であり団長でもある人からは心配よりも先に物凄く呆れられたのだとか。
しかし無意識のうちに上手く避けていたお陰で傷は見た目ほど酷くはなく、そのうち傷跡すら残らない程に回復できる程度のものらしい。
あと大変だったのが、私の過去の話を聞いた後のオルフェへの対処である。オルフェはすぐに持てる伝手全てを使ってあの元家庭教師兼恋人を探し出して八つ裂きにしようと裏で画策していた。あのままオルフェの行動に気づかなかったらどうなっていたのだろう、と少し冷や汗をかいた程に計画内容はあの人の人権を完全に無視したえげつないものだった。

そしてそこからは流れるように色々なことが変化した。
まずオルフェとの距離感が前よりも縮まったこと。メイや他の同僚たちからは『いつも以上にラブラブしていて妬けるね~』などと揶揄われたが、今はその言葉に対する嫌悪感や拒否感はなかった。むしろそれを笑顔で肯定するオルフェを見て、少し恥ずかしいが、それ以上に嬉しいと感じた程だ。

あとはリンブルクへの留学の件だ。
オルフェも私の留学の件を知ったのは数日前……私が彼を避け始めた頃だったようで、これに関してはかなり揉めた。今更留学を取り下げるようなことも出来ないし、騎士団から留学に行く人間の枠も既に決定済みでありオルフェが交代することも出来ない。そして何よりも私自身もオルフェと離れるのは少し寂しくはあるが、留学はしてみたいと思っていた。

そんな私の心の内も全て知った上でオルフェが取った行動……それは上司の上司――騎士団の一番偉いとりまとめ役――である騎士団総団長を脅して、リンブルクへ留学する人間の枠を増やさせるというとんでもないものであった。

最初に当たり前の様に騎士団のリンブルクへ留学することが決まっている人を脅して枠を奪い取ろうとしたところを私が止めた辺りから何か企んでいるなとは思ってはいたが、無害そうだったので放置していたらこれだ。

結果を聞いてかなり呆れはしたが、これはこれでオルフェらしくはあるし、何よりも彼自身が私と一緒にいたいと思って取ったこの行動が嬉しくもあったため、すぐに笑って許してしまった。

***

そして留学当日――。

「リンブルクへ行っても末永くよろしくお願いしますね、エルカさん」
「相変わらず言葉の節々が重い……けど、こちらこそこれからもよろしくね」

リンブルク行の馬車の中。『お前らと一緒にいるとすぐにイチャつくから、近くに座りたくない』と言われて、6人ほどが乗れる大きさの馬車で前の二人とは距離を開けて、一番後ろの二人用の狭い席に乗せられたのだが、ある意味その彼の言葉も間違えていないなと苦笑する。

「む。エルカさん、貴女今僕以外の事を考えていませんか?」
「……そんなことないわ」

その間が気に食わなかったのか、オルフェは殆ど開いていなかった距離を更に詰めて近づいてくる。そしてまさかとは思ったが、口付けを落とされた。
息も奪うような長くて深いキス――。『鼻で息をするのですよ』と以前散々キスされた時に教えられたが、未だにこの行為には慣れない。今の様に舌で歯列をなぞられる様な動きをされると、身体から力が抜けてそれどころではなくなってしまうのだ。いつまで続くのだろうと思ったその行為はすぐに中断されることになる。

「うわあああぁぁぁああああ!後ろのカップルがイチャついてるっ!!誰か助けてくれー!!」
「お前らふざけんなよ?あんまり独り身の俺らに見せつけてくるようだったら、外にほっぽり出すからな?」

絹を裂くような悲鳴――ただし根底的に野太い男のモノ――によってオルフェの行動は遮られ、キスの嵐も終了する。

「はぁ――。物足りないですが、続きは向こうに着いてからですかね……精々覚悟しておいてください」

雰囲気に流されて、私達以外の人間がいることを忘れていた私は今きっと茹蛸の様に顔が赤いと思う。しかしオルフェは前にいる二人の言葉も、先程までの行為を見られていたことも欠片も気にすることなく、そんな甘い言葉を吐いた。
それに『いつも通り』だな、なんて思いながらも笑って許せてしまえるようになっている私ももう既に毒されてきているのかもしれない。

でもそれも悪くないと思えた。

「ええ。ちゃんと付き合ってあげる」

リンブルクに着いた後も、貴方が言う末永くにも最期まで一緒に――。


************

あとがき:
これにてメインストーリーは完結です!今後は番外編を軽く追加する予定ではありますが、ひとまずこれで小説の方も完結設定にしておきますm(__)m
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