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その訓練。俺も参加させてくれ!

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 マリアベルにルナが先ほどまでここに居たことを聞いた俺は、すぐさま後を追おうとしたのだが、意外にも強い力で引き留められた。
 どうやら戻ってくるようだから、ココで待っているほうが得策のようだ。
 それに、ヴォルフが保護者として着いているなら滅多なことにはならないだろう。
 ヴォルフやマリアベルの幼なじみと会話を楽しんでいる間に頼んだ飲み物が運ばれてきて、俺の膝上で待機していたチェリシュが嬉しそうにベリリミルクに口をつけたのだが、一口飲んで不満そうにする。

「むー……なの」
「ん?」

 どうしたのかと気になって一口貰って――ナルホドと頷いた。

「ベリリの味が薄いな」
「そうなの! ルーたちが作るベリリミルクはもっとうまうまなの!」

 鼻息も荒く力説するチェリシュを宥めながらアイスコーヒーを飲むが、此方は少し水っぽい。
 あー……やっぱり、キルシュで飲むほうがいいな。
 ルナとカフェとラテは、どうやってあんなに美味しく作っているのだろうか。
 もしかしたら、カフェとラテの料理スキルレベルが高い……とか?
 いや、意外と創世神ルミナスラの加護という物が働いている可能性も――そう考えていた俺に、レオという浅黒い肌と底抜けに明るい性格をしているように見える男が話してくる。
 白と黒、両方の騎士団と繋がりがある俺たちのギルドが気になるのだろう。
 レオの隣に座っているシモンという眼鏡をかけた青年も、此方の様子を窺っているようであった。
 ただ、二人から悪意は感じられない。
 警戒心も無い。
 おそらくだが、ヴォルフやマリアベルが心を許しているからだろう。
 尋ねられるままに修行の内容を答えていると、近くの席に座っていた生徒達が一斉に一点を見つめたのがわかった。
 俺の背後……?
 釣られるように振り返れば、建物の入り口からひと組の男女が楽しげに会話をしながら歩いてくるのが見える。
 無表情で顔がやたらと整っているヴォルフと、頬をぷっくり膨らませて文句を言っているのか注意をしているのか、そんな姿も可愛らしいルナの二人であった。
 会話の内容は聞こえないが、大体何を話しているのか想像が付く。
 この二人は喧嘩しているように見えて仲が良い。
 それこそ、本当の兄妹のようだ。
 時折、そこにハルくんが参加して、仲睦まじくしている姿を見て、俺やアーヤがほっこりしているのは言うまでも無い。

「やはり来たか」

 俺に気づいたヴォルフが目元と口元を緩めてそう言ったのだが、それを嬉しく思うのは、更に親しくなったと感じるからだろう。
 片手をあげて「よっ」と軽く挨拶をすると、彼も同じように手をあげてくれた。

「リュート様、チェリシュ!」

 俺たちに気づいたルナが駆け寄ろうと走り出そうとしたが、素早くヴォルフが彼女を止めてくれたことに安堵する。
 あのままだったら、間違い無く転けていた……危ねー!
 チェリシュが膝の上に乗っているから、すぐさまフォローできない状態だったから、本当に助かった。

「また転けるぞ」
「転けませんー」

 唇を尖らせているルナに、ヴォルフは口元に柔らかな笑みを浮かべる。
 ルナを弄ることが大好きなのか、こういうときのヴォルフはとても穏やかだ。
 訓練の時に感じる鬼教官な部分は全く感じられない。
 本当に……アレは鬼だ……

「ルー……ベリリミルクが美味しくない……なの……ションボリなの」
「じゃあ、お店に帰ったら作りましょうね」
「ありがとうなの!」

 俺の膝上で踊り出しかねないほど上機嫌のチェリシュは、慣れたようにルナへ腕を伸ばして抱っこを強請る。
 彼女もひょいっと抱っこして俺の隣へ座ると、ルナを挟んだ反対側にヴォルフが座った。

「聞いたぞヴォルフ。水くさいでは無いか! 我々も、その訓練とやらに何故誘わんのだ」
「お前はまだ力加減が怪しい。リュートたちを壊されてはかなわん」
「いや、しかしだな……」
「生きるか死ぬかのギリギリを保っているのだ。お前の加減知らずが来たら、バランスが一気に崩れる」
「オイ、怖いことをサラッと言うなよ……」

 どちらも怖いが、どちらかというとヴォルフが一番怖い。
 生かさず殺さず、最大限にしごいていると言っているような……いや、言っているな。確実に!

「ヴォルフ様は性格が悪いと言われませんか?」
「ルナティエラ嬢は天然だと言われないか?」
「私のことは良いのですっ! しかも、私は天然ではございません」

 もうっと言って頬を膨らませるルナを興味深そうに眺めていたチェリシュが、手をわきわきさせていたかと思いきや、そろ~りと彼女の頬を指で突いた。

「チェリシュ?」
「ぷくぅっだったの」
「あ……えっと……し、失礼いたしました」
「ルナはヴォルフ相手だったら、ハルくんを相手にしている時みたいな感じになるから面白いよな」
「お、面白い……」
「いや、面白いっていうのは変か。仲が良くて微笑ましいなってアーヤと見て和んでる」
「お前たち兄妹も、そういうところがソックリだな」
「……なんつーか……すげー不本意だ」

 憮然とした表情で告げた俺に、ヴォルフがかすかな微笑を浮かべる。
 どうやら、俺の返答が気に入ったらしい。
 ヴォルフのツボがイマイチ理解出来ないが、楽しそうで何よりだ。

「とりあえず……だ、その訓練。俺も参加させてくれ!」
「出来れば僕もよろしいでしょうか」
「そ、それなら私も!」

 レオ、シモン、そして……ヴォルフの弟であるコンラッドに頼まれてしまえば断れなかったのか、ヴォルフは「どうする?」というような視線を俺へ投げかけてきた。

「俺が相手になるなら良いけど……他の連中は勘弁してくれ」
「それで良い! まずは、お前だ」

 好戦的に笑うレオを見ながら、嫌な予感しかしないが……次の相手は、おそらく拳星だから問題ないだろう。
 多少やられても、ポーションをがぶ飲みさせて復活させれば良い話だ。

「では、私もご一緒しますね」
「マリちゃんも来る……なの?」
「はい。美味しいお茶菓子を準備いたしますね。お姉様たちはどうされますか?」
「見学が出来るのなら興味があるから、是非ともご一緒させていただきたいですわ」
「うん。レオたちが暴走しないか見ておかなければ……」

 キリッとした表情で、「任せて」というシモンの婚約者であるトリスという女性は、かなり頼りになりそうだ。
 マリアベルの姉は、イマイチ考えが読めない。
 しかし、このメンバーと一緒にいるのだから、悪い奴ではないだろう。
 アーヤみたいにぶっ飛んでいるワケでも無いし、気にしすぎか……
 取りあえず、次の訓練はタダでは済みそうにないという予感を抱きつつも、ルナとチェリシュの戯れる姿を見て和むのであった。

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