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第十四章 大地母神マーテル
14-33 体験教室スタート
しおりを挟む「では、お配りしたレシピを習得してから、それぞれのテーブルへ移動してください」
黎明騎士団がレシピを配り、体験教室希望の人たちが次々と材料がセッティングされている作業用テーブルへ移動していく。
遠征組は勿論のこと、後から合流した補給隊の中にも希望者がいる。
それどころか、保護者の中にも興味を持った人はいたようで、親子揃っての参加も見られた。
「大人数になりましたね」
「そりゃなぁ……あれだけ旨けりゃ、興味も湧くだろ」
リュート様もレシピを習得して作る気満々だ。
いつもは雑務に追われて黎明騎士団の誰かに任せっきりとなっていたので、妙に張り切っている。
むしろ、こういう時間に休んで欲しいのだが……言っても無駄のようだ。
「では、覚えていただいたラーメンの麺作りからはじめます。レシピ通りなので失敗することは無いでしょうが、より美味しく作るために作業を見ていてください。もし判らない事があれば、遠慮無くおっしゃってくださいね」
私はまず、強力粉と薄力粉を同量混ぜ、別容器に白丸石の粉末と塩を、こちらも同量を加えてから水を入れて溶かす。
粉の方に塩と白丸石の粉末を溶かした水を加えていき、ひとまとまりになるよう捏ねていく。
水分量が少ないので中々疲れる作業だけれども、何とか一塊になったのを確認したら、今度はフライフィッシュの浮き袋へ入れて空気を抜いた。
このままでは滑りやすいので、タオルで巻き、チェリシュに視線を合わせる。
「ふみふみ~なの!」
「はい! チェリシュ、お任せしましたよ!」
「あいっ! まっしろちゃん! 頑張りましょうなの!」
「頑張るぞー!」
チェリシュの手を取って踏み踏みする様子を見ていたら、隣でリュート様も同じく踏み踏みし始めた。
何と言うか……やたらと手際が良い。
むしろ、体幹が鍛えられているから危なげないのかも知れないと考えたら、羨ましくさえある。
その邪魔をするつもりではないのだろうが、真白が足元をコロコロ転がっていても、気にする様子が無い。
余裕そのもので笑っていた。
「むむ……リュート様。やりますね」
「まあ……これくらいはな?」
周囲を見てみてもバランスを崩している人は少数派だ。
それなりに鍛えている人が多いのか、安定した足運びである。
カフェとラテなど、今にもステップを踏みそうな勢いだ。
多少ぎこちないのはカカオとミルクである。
同じキャットシーでも、身体能力の差が出るらしい。
モカもやりたいと駄々をこね、ディード様がつきっきりでラエラエたちと一緒に踏み踏みしているが、何だかその麺に特殊効果がつきそうだと感じてしまうのは私だけでは無いだろう。
いや……もっと効果の出そうな方々がいた。
時空神様夫妻だ。
何とも楽しげに作っているのだが、やはり、兄に教わっていたのだろう時空神様は手慣れている。
「ふみふみ~なの、ふみふみ~なの、おいしく~なるの、おいし~の~」
上機嫌なチェリシュの歌声に合わせて、全員がタイミングをあわせている。
体を上下左右に揺らして踏み踏みしながら歌うチェリシュと、今回は力加減を覚えたのか危なげなくコロコロ転がる真白。
それだけでも可愛くて頬が緩んでしまう。
参加者の中にもチェリシュくらいの子供がいて、同じように踏み踏みしている姿が微笑ましい。
ギクシャクしていた家族間も、この体験教室を通して少しずつ打ち解けている様子がうかがえた。
「生地を踏むことでコシを出します。表面が滑らかになるまでシッカリ踏み込んでくださいね」
私の声に反応してか、あちらこちらから返答が聞こえる。
皆、夢中になっているようだ。
「さてと……この間に、私は次のことをしておきましょうか」
私は事前に作って寝かしておいた餃子の皮のための生地を取り出す。
今回は適度な大きさに切った生地を1つずつ綿棒で伸ばすタイプではなく、一気に伸ばした生地を丸い型抜きで抜くタイプにしてみた。
いうなれば、市販の餃子の生地に近い仕上がりだ。
リュート様だったら、この生地も販売するかもしれないと見越してのことである。
「はっ! チェリシュ、そっちもやってみたいですなの!」
「真白ちゃんもー!」
「じゃあ、チェリシュ達の生地は俺がやっておくか」
リュート様は二人を送り出して生地を踏み込み始める。
やはり、チェリシュと真白では生地の踏み込みが甘くなるので、彼はそれも考えての行動だった。
「途中で交換するつもりだったから、手間が省けたな」
私の耳元で悪戯っぽく囁く彼に笑い返して礼を言うと、とても素敵な笑顔をくれる。
す……すこし頬が熱くなるけれども気を取り直してチェリシュと真白の方へ移動した。
「では、適度な厚みになるまで伸ばしますよーっ」
金属の丸い金型を二人に渡し、綿棒を握りしめた私は生地を薄くのばしていく。
慣れた作業なので苦もなく適度な厚さになった生地を見たチェリシュと真白は、目を輝かせて歓声を上げ、パチパチと拍手をしてくれた。
「これで、この生地を隅から隅まで丸く型抜きしていってくださいね」
「あい!」
「まかせてー!」
ポンッポンッと軽快に型を抜いていくチェリシュと真白を横目に、ミンチ肉とキャベツ、それにニラなどを用意する。
此方は、ラーメンの生地を寝かしている間に作るため、準備をしておく。
豚のミンチ肉も大量に準備できているし、野菜も刻んである。
必要な調味料も準備万端だ。
そして、私は実験的にあるものを作ってみたので、それを確認してみる。
冷蔵庫からリュート様お手製の密閉容器を取り出し、中身を確認した。
琥珀色のソレは見事に固まっていて、指で突いてみるとプルリと揺れる。
それに反応したのは六花と蛍だった。
「仲……間?」
首を傾げるような仕草をしてみせる六花と同じく、蛍も首を傾げている。
確かに仲間に見えなくも無いが、これは違うと首を横へ振った。
「これは、蛍とキュステさんが取ってきてくれた天草から作った鶏ガラスープの寒天です」
「お? 寒天も作れるようになってたのか?」
私の顔のすぐ横にリュート様が覗き込むように顔を寄せてくる。
その距離にドギマギしながらコクコク頷いていたら、彼は興味深そうに寒天を見つめていた。
「これ、コーヒーでも作ってみたいな」
「コーヒーゼリーみたいな感じに出来たら良いですよね」
「ソレな。ゼリーとは食感が違うけど、ひんやりして美味しいスイーツになるし手軽に作れそう?」
「コーヒーの『加護』がどこまで影響するか判りませんが、もしかしたら、リュート様も作れるかもしれませんね」
「できそうだから、チャレンジしてみようかな。まあ……オーディナルが帰ってきてからにしよう。マズイ状況だったら教えてくれるだろ」
「そうですね」
「で……コレって、隠し味?」
「餃子の中身をジューシーにするための工夫ですね。皮の閉じ方を工夫して沢山入れたら、小籠包になりますが……火傷する人が続出しそう」
「確かに、アレは猫舌の人には勧められないくらい熱いよな。でも、旨いんだよなぁ……」
リュート様が思い出に浸っていると、私が何をしようとしているのか気づいたらしい時空神様が此方へやってくる。
アーゼンラーナ様はシグ様と一緒になって麺作りに夢中だ。
王族とアーゼンラーナ様が仲睦まじい様子は聖都の人々に安心感を与えるのだろう。
みんな笑顔で様子を見守っている。
「可愛い奥さんは彼に任せてあるから、アシスタントをしにきたヨ」
「助かります。いつもすみません」
「イヤイヤ、陽輝からも頼まれているカラ、気にしないデ」
そろそろ皆の麺作りが一段落しそうだと察知した私は、時空神様と急いで寒天を取り出し、細かくしていく。
リュート様の魔石フードプロセッサーにかけるだけでいいから楽だが、それぞれの作業テーブル用に分けていく作業が残っている。
しかし、そこは勝手知ったる時空神様。
私が指示を出さなくても、次から次へと準備をしてくれている。
あっという間に餃子用の準備が出来たので、チェリシュと真白が作ってくれた皮を回収してセッティングを終えた。
それを黎明騎士団の方々に任せ、私は各テーブルへ足を運ぶ。
「ふむふむ……初めて作ったとは思えないほど良い感じですね」
各テーブルを回って声をかけながら麺の生地を確認する――が、リュート様は心配したのか、私の後ろにピッタリとくっついてきたので、遠征組以外の人たちは緊張の面持ちだ。
しかし、小さな子供受けは良く「お手伝い出来て偉いなぁ」と、彼の大きな手で撫でられた子供達は嬉しそうに頬を染めている。
……リュート様? 無自覚に、その子達の初恋を奪ったりしないでくださいね?
少しだけ心配になりながらも、私たちは質問に受け答えをしながら全部のテーブルを回り終える。
多少、踏み込みが甘いのもあったが、初めてにしては上出来だ。
きっと美味しい麺になると確信し、生地を寝かせるためにフライフィッシュの浮き袋の口を軽く閉じて横へ置き、次の作業へ移る。
黎明騎士団が餃子用の材料を分配し終えたのを確認してから、私たちは皮の閉じ方が少しだけ難しい餃子作りへ取りかかった。
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はじめまして。
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