上 下
541 / 558
第十四章 大地母神マーテル

14-17 対立煽り

しおりを挟む
 

 手紙はオーディナル様へ託し、メロウヘザー様だけではなくルブタン家のブーノさんとウーノさんが参加した遠征組。
 食事のたびに賑やかな様相を見せていたが、その旅路はとても穏やかなものであった。
 魔物との遭遇も少なく、体調の不調を訴える者もいない。
 むしろ、食事内容が充実していて健康になったくらいだという会話が聞こえてくる頃、聖都が見えてきた。
 ようやく聖都郊外へ到着したのである。
 皆は安堵した表情を浮かべ――何故か、絶望の色を含んだ溜め息をこぼす。

「俺……今晩から何食おう……」
「ヤバイよな……」
「ルナ様からいただいたレシピだけじゃ、絶対に足りなくなる」
「定期購入を検討するわ」
「私、もうお小遣い全部投入することにしたもの!」
「俺もそうする!」

 遠征組の絶望の原因は、どうやら食事関連のことらしい。
 途中から参加した補給部隊も何だか憂鬱そうな顔をしているし、最初の頃にあった一部の攻撃的な態度も今はなりを潜めていた。
 全てが食事だというわけでは無いだろうし、リュート様の働きを見ていての改心だとは思うが、大人しすぎて不気味なくらいだ。
 そして、ここにも渋い顔をした人が一人――メロウヘザー様である。

「黒の騎士団は予算を組みましたよ」
「そういう時の行動は早いのね……」
「うちの家族はリュートを筆頭に、ルナちゃん無しでは生きていけませんのでね」

 お父様の言葉を聞いて呆れるメロウヘザー様と、どこか満足げな蛍。
 結局蛍はお父様が気に入ったのか、終始一緒に行動していた。
 私のほうも眷属なだけで、従者ではないのだから好きにしていいと言ってあるから当然だ。
 おそらく、気分次第で彼方へ行ったり此方へ来たりしてくれるだろう。
 それくらい自由にさせているほうが、私も気が楽である。

「でも……いくら安価な料理レシピでも、ルナ様のペースで出されたらヤバイよね……」
「家のキャットシー族たちも覚えてくれないかなぁ」
「俺、学食のキャットシーたちに、お金を支払ってでも覚えて貰いたい!」
「良い考えだな! 学園長に直談判して無理なら、募金活動でもするか!」

 色々なところから聞こえてくる、今後の作戦にリュート様は吹き出した。
 今まで沢山の人がリュート様の食事への執着は異常だと言っていたが、遠征組というメンバーも加わることで、学園内の立場も変わってくるはずだ。
 今までは変人扱いであった。
 しかし、今は違う。
 少なくとも、この遠征組の人たちは彼の味方だ。

「私、ルナ様のレシピを集めることにしたんだぁ。料理ってしたことなかったけど、やってみたら面白いし、美味しいって食べてくれるのが嬉しいしねぇ」
「それわかるー!」

 聖都に近づけば近づくほど、全員の会話が私のレシピへ傾いていく。
 い、いや……皆さん?
 ご家族との対面とか、安心出来る場所への帰還とか……他に話すことがあるでしょう?

「1つ良いことを教えてやろうか。ルナのレシピを使って、意中の相手に料理を振る舞ってみろ」

 近くで会話を弾ませていた遠征組にリュート様が声をかける。
 そのグループの人たちは彼へ「どうして?」という視線を投げかけてきた。
 近くに居た人たちも興味津々と言った様子だ。

「特に男はさ、胃袋を掴まれたらヤベーから。絶対に逃げられねーからな」
「あ……なるほど。今の私たちみたいな感じなんですねぇ」

 女生徒が納得した! と笑い出すと、すかさずモンドさんが声も高らかに余計な一言を発してしまう。
 
「やっぱり、経験者が言うと説得力があるっすね!」
「……俺は逃げたいわけじゃねーから違うし、それだけじゃねーよ!」

 ゴスッという鈍い音と共にモンドさんのうめき声が聞こえてくるけれど、これは自業自得だ。
 モンドさんの余計な一言が多くなってきたが、これは安全な場所へ移動が完了した証なのだろうか。
 それは全員が感じ取っていたのか、無邪気に笑う人が多い。
 さすがに聖都が見える距離だ。
 魔物に襲われても、すぐに救援が来るだろう。

「そういえば、オーディナル様が俺たちの寮をリュート様の店の隣に作ってくれたって、本当っすか?」
「隣っつーか……崖際の危ねーところがあるから、そこにお前らをあてがったらしい。黎明ラスヴェート騎士団は黒の騎士団だが、出来るだけ離れない方が良いという判断だとさ」
「それは、いずれリュート様も黎明ラスヴェート騎士団になるからじゃないですか? オーディナル様は先の先を読んで、仕事場を近くへ持ってきてくださったのですよ」
 
 ダイナスさんの考えが正しい。
 私もそう思うのだが、リュート様は困った顔をしている。

「親父的に大丈夫なのかな……」
「オーディナル様の粋な計らいに文句を言った方がマズイよ」

 ロン兄様の言葉に黎明ラスヴェート騎士団の全員が頷く。
 先頭を歩くお父様とテオ兄様に私たちの会話は聞こえていないが、おそらく、この話を聞けば一緒になって頷いていたことだろう。
 それくらいオーディナル様の影響力は強い。
 そのことを、私はこの遠征で痛感していた。

 つまり……私という存在も、この世界にとっては異質で扱いが難しい。
 
 五体目の人型召喚獣だという事実だけでも腫れ物扱いであるというのに、まさかの『創造神オーディナルの愛し子』である。
 十神が最近地上へ降りてくる機会が増えたのも、神族達がざわついているのも、大方私のせいであると言えた。
 
「ん? 遠征組のラスト休憩だな。昼食はどうすんだろ……早めの昼食を郊外でとるのか、それとも休憩だけで帰還するのか……」
「リュート……何かマズイかもしれんぞ」

 動きを止めた遠征組を見ていたリュート様は、走ってきたレオ様の言葉に反応し、肩にいた私と頭上でふんぞり返っていた真白も一緒にポーチへ入れると、一足飛びでお父様達の居る先頭へ移動する。
 とんでもないスピードで驚いたが、六花りっかはちゃんとついてきているし、チェリシュは大人しくロン兄様に抱っこされたまま見送ってくれた。

「何があった?」
「大地母神マーテル様の神官と聖都の一部の者たちが、我々の帰還を妨害しているのだ。今、メロウヘザー様が説得しているが……マズイな」
「オイオイ……マーテルとセレンシェイラの姉妹喧嘩だとか言って、聖都で問題が起こり始めるぞ……」

 それぞれの信者が対立すれば、とんでもないことだとリュート様は顔を顰める。
 十神は対立すること無く仲が良い。
 だからこそ、穏やかに過ごせている部分もあるのだ。
 しかし、今回の大地母神マーテル様の神官達は、それを狙っているかのように無理難題を私たちに言ってくる。
 いくらメロウヘザー様が問題無いと説明しても、魔物から貰った病を聖都に持ち込み、人々を恐怖へ追いやるのかと抗議しているのだ。

「いい加減にしてくれませんかねぇ……」

 そこへ現れたのはアクセン先生だった。
 遠征組が聖都に帰るため、裏で休む間もなく動いていたのだろう。
 目の下には濃いクマが見える。
 いつも飄々としている先生なのだが、今回ばかりは余裕など無く、走り回るしか無かったのだと知った。

「王室からの発表もありましたよねぇ? それでも信頼できないというわけですか?」

 王室ともやりあうつもりなのか……と、リュート様の低い声が私と真白の耳に届く。
 それだけ敵に回しても、自分たちが勝つと信じているのは、民衆を味方に付けていると錯覚しているからだろう。
 そこにいる人たちは一部である、聖都に住む人たちの代表というわけではない。
 しかし……この騒動を治めるのは一苦労だ。

「ふむ……ならば、暫く聖都の外で待機すれば良かろう。数日くらいであれば問題なかろう? むしろ、聖都の郊外で待たせるのであれば、此方が何をしても文句を言うでないぞ」
「何を偉そうに……!」
「偉そうではない。事実、偉いのだ」

 そういって遠征組の最前列に立ったのはオーディナル様であった。
 間違いない。
 オーディナル様は偉い。
 でも、ここでソレはダメですよ、オーディナル様っ!

「まさか、ここで神力を解放される気ではありませんよねっ!?」

 ポーチから飛び出し、慌ててオーディナル様を止めにかかる。
 しかし、意外にもオーディナル様は穏やかな表情で、彼らの無礼も気にしていない。
 むしろ、悪戯っぽい笑みを浮かべてウィンクしているほどだ。

 あ……何か、企んでいますね?

「あのさ、オーディ……もごもご」

 話しかけたリュート様の口を塞いだのは時空神様だ。
 あの昼食後から今の今まで姿を見せていなかった二神は、自分たちの身分を隠しているような素振りを見せる。
 確かに、この二神に会ったことのある人物など稀だろう。
 遠征組の面々は、もう免疫が出来てしまって普通に接しているが、本来はあり得ないことだ。
 現にアクセン先生の顔色は青を通り越して白くなっている。

「我々は大人しく郊外待機するとしよう。しかし、面会に来る者は構わんだろう?」
「そ……それは問題無いが……」
「ふむ。それでは、ハロルド。ここから少し海寄りの郊外へ移動だ。蛍は昼食用に色々捕ってきてくれんか?」
「~♪」

 オーディナル様からお願いをされた蛍は上機嫌でお父様に「いってきます!」というようにクルクル回って見せてから海へ飛んでいく。
 お父様はオーディナル様に考えがあるのだろうと、反対すること無く従い、遠征組の人たちも『昼食』という言葉に反応して素直に従った。
 大地母神マーテル様の神官達や一部の過激派たちから距離を十分にとってから、リュート様はオーディナル様へ問いかける。

「何を企んでいるんだ?」
「なに……我が子達の対立を煽るような愚か者には、色々と判らせねばな。郊外に待機していれば何をしても問題無いと言っておるのだから、色々とさせてもらおう」
「だから、それが怖いんだって……」
「ちなみに、僕の愛し子よ。ここならば、誰にも迷惑はかけまい? この前のようにドワーフ族や人の迷惑になることは……」
「え? な、内容によりますが……おそらく、郊外は何もしていないと思いますので……。ですよね? リュート様」
「ああ、それは問題無いと思うけど……何を企んでんだ? むしろ、アーゼンラーナが悲鳴を上げて卒倒する姿が見えそうだが?」
「あの子は飛んでくるだろうな。だからこそ、軽く話し合いが出来るような……休憩の出来るような場所を創らねばならんだろう?」

 何故か右腕をグルグル回し、何かの意欲に溢れるオーディナル様を目の当たりにした私とリュート様は、とても嫌な予感を覚えた。
 しかし、こういう時に止めるはずの時空神様が動かないとなれば、何か目的があるのだろう。
 お父様とメロウヘザー様、駆けつけてきたアクセン先生とオルソ先生も話を聞いて顔を引きつらせている。

「まあ……子供達をダシに使おうというのだから、それなりの覚悟はしておいてもらわねば……なぁ?」
「じーじ、やる気いっぱいなの!」
「うむ。こんなふざけたことを今後は考えられなくなるくらいには、色々やってしまおうか」

 このときになって私たちは悟った。
 オーディナル様は大人の対応をしていただけあり、怒っていないわけでは無い。
 我が子達に害をなす者たちへ、まとめて警告するために一度引き下がったのだと――。

「お、オーディナル様っ!? お、お手柔らかに……できるだけ、穏便にお願いしますねっ!」
「判っている。何も力尽くでどうこうするつもりはない。むしろ……そういうやり方よりも、人に効果的な方法というモノがある」

 それがなんなのか言葉にしない。
 しかし、私はどこかで理解していた。
 それが、とんでもないことであり、人の理解の越えた先にあるものなのだと――。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。