509 / 558
第十三章 グレンドルグ王国
13-7 蛍の恩恵
しおりを挟む早めの昼食という事もあり、それほど空腹を覚えていないのかと思いきや、遠征組の人たちは、どこかソワソワした様子で昼食の準備を進めている。
途中で合流した補給隊は、明らかに警戒した素振りをしているが、お父様のひと睨みで黙り込んだので、今のところ大きな問題は起きていない。
むしろ……時空神様やチェリシュが手伝ってくれた料理が食べられるのに、何か文句でもあるのだろうか。
オーディナル様がいなくて良かった……と、私はホッと胸をなで下ろす。
創世神ルミナスラ様が、いつまで起きていられるか判らなかったので、急いで作ってオーディナル様に持って行って貰ったところだ。
久しぶりに祖母と話せる機会だという事で、チェリシュもついて行ってしまったが、今頃楽しい時間を過ごしていることだろう。
だから……お願いですから、此方を見ないでくださいねっ!?
こんな光景を見たら、オーディナル様が怒りだして何をするかわかったものではない。
そう考えると、時空神様はとても温厚な神である。
「時空神様たちの心の広さに感謝するべきですね……」
「アハハハハ、あんなのを一々相手にしていられないヨ」
「賢明だな。まあ……俺に敵意を持っている奴等は警戒して当然かも?」
リュート様がボソリと呟き、私と黎明騎士団の頭上で大人しくしているアルコ・イリスたちが一斉に、補給隊で不満げにしている人たちを睨み付けた。
彼らは私たちの視線に気づいたのか、気まずそうに視線を逸らすが、「睨み付けている頭皮の毛根が死滅してくれたらいいのに……」という私の呟きが聞こえたのか、慌てて頭を庇い隠す。
「ルナちゃん、それは洒落にならないからやめてあげテ。キミの願いを聞き届けてあげたいと考える神は多いんだからネ?」
「さすがに神々も、こんなことに手を貸したりしません……よね? え? 無いですよね? ありえませんよねっ!?」
意味深に笑う時空神様を見ていたら、どんどん不安になってきた私は、彼の後ろを追いかけながら質問するのだが、明確な答えは返ってこなかった。
い、いや……さすがに、そんな暇人な神様はいないでしょう。
「せっかく良い雰囲気になったのに、新しい人が来て空気が悪くなったー! もう我慢ならんー! 真白ちゃんが燃やしてくるー!」
「待て待て、落ち着け。気にせず放っておけ。……それよりも、蛍の帰りが遅いな」
リュート様の言葉に、全員の視線が海へ向けられる。
蛍が海へ入ってから、結構な時間が経っていた。
「何か用事でも出来たのでしょうか……」
「まあ、暫く海から離れていたからなぁ。海の覇者だから怪我の心配は無いだろうし、遊んでいるのかもな」
リュート様と一緒に海を見つめていると、タイミングを見計らったように海面が大きく盛り上がった。
そこから顔を出したのは、元の大きさになっている蛍だ。
蛍のことを知らない人たちが騒然とするけれども、私は至って冷静に海岸の方へ歩いて行く。
「蛍、どうしたのですか?」
私が来たことに気づいた蛍は、腕をにゅっと出して掴んでいるモノを見せてくれた。
「あれ? 天草……ああっ! 聖都へ帰ったら、天草でコーヒー寒天を作ろうって話していたのを覚えていたのですか? しかし……とんでもない量……って、アレ? これ……昆布とわかめもある……海藻がいっぱいですね! とても嬉しいです。ありがとう!」
私が喜んでいるのが判ったのか、蛍はぱあぁっと表情を明るくして二本の触手でバンザイしている。
うん、そのサイズでバンザイをすると、海が凄い事になりますね……
「よし、蛍。俺が預かろうか」
リュート様の言葉にコクコク頷いて、少しずつ渡してくれる気遣いを見せる蛍に、リュート様も笑ってしまう。
「蛍は気遣いの出来る良い子だな。さすがは、ルナの眷属」
褒められて嬉しい蛍は、次から次へと海藻を渡していたのだが、他の腕に持っていたのは、沢山の魚介類。
さすがに見たことも無いほど大きな魚もいて、リュート様も驚きを隠せないようだ。
「すげーな……これ、旨いの?」
すかさず蛍が頷く。
「蛍の好物なんですか?」
コクコク頷く蛍に、それは楽しみだと二人で笑っていると、真白が跳んできて、大きな魚を掴んでいる蛍の腕に着地した。
「すごーい! 真白ちゃんの何倍あるんだろう……ルナに美味しく料理してもらおうね!」
「蛍も期待して持ってきたんだよな?」
えへへ……と、照れた様子の蛍の期待に応えたくて、私は一応、新米時空神のルーペを装着して魚を鑑定した。
蛍の方が大きいので大した事無いように見えるが、地球で言うところのマッコウクジラほどのサイズはある。
15m……いや、それ以上だろうか。
これでは、捌くのも一苦労だ。
「このお魚、アトラウトスという魔物のようですよ? 身は脂ののったサーモンのような味わいだそうです」
「へぇ……ん? アトラウトス……? 待てよ……その魔物って、この海域に居たか?」
リュート様は首を傾げて兄たちを見ると、珍しい魔物だと察したのだろう。
黒の騎士団の面々が集まり始めた。
勿論、黎明騎士団もいる。
「西から中央の海に生息する魔物だが……蛍ちゃん、この海域にいたのかい?」
お父様が問いかけると、蛍はコクコク頷いた。
随分と仲が良くなったようで、かなり打ち解けた口調で話をしていることに驚いたのだろう。
黒の騎士団の面々が、おもむろに頬を引きつらせた。
「ふむ……もしかしたら、エルフの使節団の船についてきたのかもしれないな」
「あぁ……釣られてきたのですね。彼らが途中で襲われずに済んで良かったです」
テオ兄様がそう言ってホッと胸をなで下ろす。
もし、何かあった場合、こちらの責任だとでも言いかねないのだろうか……
エルフにいい印象を持っていないのは、やはり陰険教師の影響が大きいけれども、あまり敵視するのも良くないと考えを改めた。
「蛍の好物だということですし、夜はサーモンのカルパッチョやパスタを作りましょうか」
「うわぁ……それは楽しみだなぁ」
「ロン兄様はカルパッチョ系が好物ですものね」
「うん、あのサッパリとした感じが好きなんだよ」
私とロン兄様がそんな話をしていたのだが、蛍は何かを思い出したようにゴソゴソしはじめ、リュート様の前に、ゴトゴトと何か石のような物を置き始めた。
最初はそれが何か判らなかったのだけれども、石に触れて首を傾げていた彼は、ハッとした顔をして三日月宗近・神打の柄に手をかけて一閃!
真っ二つになった真っ黒な岩の中は、青紫色の透明感のある石だった。
その石が気に入ったのか、真白とアルコ・イリスたちは、石に群がって大はしゃぎだ。
「ま……マジか……蛍……でかした! お前、本当にすげーな! コレを探してきてくれたのかっ!?」
蛍はコクコク頷き、真意が伝わったことで嬉しくなったのか、体をクネクネさせている。
「リュート様……それは?」
「魔石だよ、魔石! しかも、すげー高純度の魔石! オーディナルと話をしていたんだが……もしかして聞いていたのか?」
再び頷く蛍に、リュート様は苦笑を浮かべて納得したようであった。
「だから、オーディナルは近いうちに、入手出来るかもしれないって言ったのか……蛍が話を聞いていたことを知っていたんだな?」
「この魔石は、オーディナル様からいただいた情報だったのですか」
「ノートPCを強化するのに、高純度の魔石が必要でさ……そうしたら、オーディナルが高純度の魔石は深海で発見されることが多いって教えてくれたんだ」
採取方法を考えていたところだったと笑うリュート様に、蛍が真白のように胸を張って見せる。
どうやら、褒めて欲しいらしい。
「蛍は、そんな深海にも行けるのですね。水圧で大変だったでしょうに、本当にスゴイですね。さすがは蛍! とても助かりました、ありがとうございます」
「うんうん、さすがだよな。深海は暗くて何も見えねーだろうに……あ、そっか。蛍は輝いているから、光に困らないのか。あ、でも、それって反対に敵を引き寄せるけど……まあ、海の覇者だもんなぁ」
私たちの褒め言葉に蛍は嬉しそうだが、周囲は首を傾げている。
「リュート様、深海って暗いんっすか? 水圧って……?」
「……え? あ、あの……リュート様?」
「あ……いや……そうだった。失念していた……」
リュート様は無言で私の肩に腕を回して体を反転させ、全員から背を向けた。
そして、内緒話をするように頭を寄せ合い、声を潜めて話し出す。
「この世界の海は危険過ぎて、漁師でも呼吸が続くほどの浅瀬しか潜らないんだ。そのせいで、泳げる人も少ない」
「確か以前にもお伺いしましたが、海の中にも凶悪な魔物が多いから……でしたよね?」
「その通り。人体に深刻な影響を与える水深まで潜ることが、まず無い世界なんだよな……どう説明すればいいだろう……」
皆から背を向けて話をすりあわせ、平静を装いながらも慌てて対策を考えている私たちに気づいたのだろう。
時空神様は吹き出すように笑ったかと思うと、私たちの代わりにモンドさんたちへ返答してくれた。
「ルナちゃんの世界の記憶と混同しちゃったみたいダネ。召喚主と召喚獣の繋がりが強くなればなるホド、こういう現象が起こるカラ、リュートくんたちが変なことを言っても、あまり気にしないであげテ」
「ああ! ナルホド! それで焦っていたんっすね。了解っす!」
「ルナ様の世界は、魔物がいなかったから……リュート様にしてみたら、自分の記憶とごっちゃになって整理するのも大変そうだ……」
「二つの世界の常識が無意識下に定着したら、混乱してもしょうがないですよね」
何の疑問を持つこと無く返答するモンドさんと、理由を察して頷くダイナスさんとジーニアスさん。
三人の考察を聞き、周囲の人たちも納得したようだ。
「さ、サンキュ……助かった……」
「思い出すナ……俺も、新米時空神だった頃に苦労したヨ」
「それは大変だったな……でも、今はフォローできる立場になってるんだから、すげーよ」
「……そうカイ? リュートくんがそう言ってくれると嬉しいネ」
「リュートはシッカリしてそうで結構抜けてるところもあって、すっごく可愛い! ……けど危ういね。お兄ちゃんもドキドキしちゃったよ」
「ああ、こういう感じの時に、そういう知識が零れ落ちていたのだな……と、改めて理解した。改めて見たら以前からこういうことはあったな。私たちが気づかなかっただけか」
ズシリと私たちの背中にのしかかるテオ兄様とロン兄様の重みを感じ、私たちは顔を見合わせて首を竦める。
今までも、こうして無意識に危ういことを言ってしまっている自覚はあった。
今回、それをテオ兄様とロン兄様だけではなく、お父様にも見られてしまったのだ。
お父様は頬をヒクヒク引きつらせて、胃の辺りを押さえている。
「い、胃薬が必要……でしょうか……」
「そうだな……何か、胃に良さそうな物をプレゼントするわ……」
さすがにマズイと思ったのか、リュート様も乾いた笑いを浮かべて、申し訳なさそうにお父様へ一礼していた。
胃の辺りを擦りながら深い溜め息をつくお父様を心配したのか、ぽふんっという音を立てて小さくなった蛍がぴゅんっと飛んでいき、肩へ着地する。
大丈夫? と問いかけているのか、とても心配そうだ。
「大丈夫だ。蛍ちゃんは良い仕事をしてきたんだなぁ、息子のために動いてくれてありがとう」
ヨシヨシと撫でて貰って嬉しそうにしている蛍と、胃の痛みを忘れて朗らかに笑うお父様。
その様子に私たちはホッと息をつくと同時に、魔物を討伐するはずの黒の騎士団の団長と、海の魔物の頂点に君臨する蛍の仲睦まじい様子から感じる幸せに、顔を寄せて笑い合った。
313
お気に入りに追加
12,205
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます
神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。
【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。
だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。
「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」
マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。
(そう。そんなに彼女が良かったの)
長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。
何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。
(私は都合のいい道具なの?)
絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。
侍女達が話していたのはここだろうか?
店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。
コッペリアが正直に全て話すと、
「今のあんたにぴったりの物がある」
渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。
「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」
そこで老婆は言葉を切った。
「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」
コッペリアは深く頷いた。
薬を飲んだコッペリアは眠りについた。
そして――。
アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。
「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」
※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)
(2023.2.3)
ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000
※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。