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第十章 森の泉に住まう者

10-41 多忙極まれり

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「真白が火を灯すから、ちゃーんと教えてね!」
「わかったっす!」
「了解です」

 座卓の上で胸を張って問題児トリオとヤンさんと香炎の神石について話を詰めている姿を横目で見ていたのだが、和気藹々とした様子が微笑ましい。
 先ほどまでぴーぴー泣いていたのに、随分と復活が早いのは真白の良いところかもしれないと感じた。
 リュート様はというと、私に軽く魔力調整をしている様子を時空神様に見て貰っている最中だ。
 この魔力調整中の魔力の流れとマナの輝きで、今現在、私がどれくらいリュート様から離れても問題ないラインなのか調べられるということであった。
 私個人としては魔力調整中なので、体がポカポカしてあたたかく、ゆったりした感じで気持ちが良い。
 ベオルフ様の時とは全く違う魔力の流れだと言うことはわかっているし、体に吸収されるような感覚はないので、ベオルフ様との魔力調整が本当に調整なのか疑わしく感じるほどだ。
 調整というよりも……補給?
 その言葉の方がピッタリと当てはまる。

「んー……最初の頃よりは伸びているし、やはりベオルフとの魔力調整がうまくいっているからか、耐性がついているネ。一時間くらいなら全く問題ないシ、ちょっと無理をすれば二時間はいけるカナ」
「無理をすれば?」
「俺がいるからネ」
「あ……ナルホド。つまり、悪先たちを迎えに行った時に多少もたついても大丈夫そうだな」

 軽く魔力調整を行っただけなので、どことなく中途半端な感覚ではあるが、現時点で魔力を大幅に削るのはよろしくない。
 それに、感覚の問題であって、実際に体には問題がないのだ。
 繋いでいた手を離すのは寂しかったが、致し方ないと諦めることにした。

「一時間……か……最短ルートで大移動させてもギリギリかもな……もたつくことも考えると、早めに行って連れてきた方が良いか」
「イヤ、お昼ご飯を食べてから向かえば良いタイミングだと思うヨ」
「あちらも打ち合わせをしている最中だろうから、ある程度は話を詰めて動いた方が良い」

 眉間に皺を寄せて地図とにらめっこをしていたリュート様に、時空神様とオルソ先生が助言をして、二人の意見に逆らうことなく彼は静かに頷いた。
 リュート様は二人の意見を参考にしながら頭の中でスケジュールを立てているのだろう。
 座卓の上にある地図に、此方へ連れてくる最短ルートを書き入れていく。
 ラミアの巣が気になるのか迂回している場所もあるが、できるだけわかりやすい道を選んでいるようであった。

「このルートにしようと思うんだけど……」
「ふむ……ここは迂回した方が良いだろう。巣の位置からして、偵察隊が動いている可能性が高い。偵察だけなら良いし、お前の魔力で逃げてくれたら良いが……変にちょっかいをかけられても困るからな」
「ギリギリ引っかかるか……小細工をされてもかなわないしなぁ」

 オルソ先生とリュート様が真剣に話し合っている中、時空神様は任せても大丈夫だと判断したのか、聖泉の女神ディードリンテ様へ向き直る。

「俺がいる間は、この集落の結界を維持できるシ、何かあればルナちゃんが所持しているキャンピングカーに神族は逃げ込むようにしようネ」
「ですが……」
「俺たちがいたら、魔物を強化してしまう原因になりかねないからネ。それで彼らに迷惑をかけたら本末転倒ダヨ。神力の欠片ですら、魔物は自らの力に変えてしまウ……わかっているヨネ?」
「……承知しました。これ以上、迷惑をかけるわけにはいきませんね」
「そういうコト」

 結界があっても油断なく、魔物が入り混んで交戦になった際の注意事項を聖泉の女神ディードリンテ様に語って聞かせる時空神様の言葉を聞きながら、神族にとって魔物は天敵なのだと改めて感じた。
 今回の相手が普通の魔物ではなく、知能ある魔物であるから厄介なのだ。
 自分たちの強化を図るため、積極的に神力を取り込もうとする。
 普通の魔物とは動き方が違ってくるから、警戒度合いが違うということらしい。

「リュート様、俺たちも迎えに行くっすか?」
「いや、お前達にはこの集落の修繕をしていて欲しい。建物とか、かなりガタが来ているからな」
「了解しました」

 即座に了承したダイナスさんに再度「頼んだ」と言ったリュート様は、安堵の溜め息をつく。
 今にも崩れ落ちそうであった家屋もあるので、コレで大丈夫だと安心したのだろう。
 こういう建物の修理はダイナスさんが上手だということで、彼は周囲の状態を見渡しながら苦笑を浮かべる。
 おそらく、リュート様が安心した理由を理解したのだろう。

「魔物の襲撃があったとしても倒壊しないくらいにはできますから、ご安心ください」
「専門家じゃねーのに、無理を言うが……」
「いえ、村では我が家が修繕を行っていたので、無関係ではありません」
「それを聞いていたから頼んでいるのもあるが……何か必要な物があったら言ってくれ」
「では、お言葉に甘えて――」

 オルソ先生との話し合いが終わったと思ったら、また違う話し合いが始まる。
 リュート様の忙しさが尋常ではない。
 様々な事に気づくからこそ、対策を練って後手に回らないようにしているのだということは理解出来るが、これでは体がいくつあっても足りないのではないだろうか。
 戦闘中はよく食べるというが、これだけ動いて頭も使っていたら当然だ。
 事前準備から消費しているエネルギーが、他の人とは違い過ぎる。
 作戦を練り、打ち合わせをし、改善策を打ち出し、補給物資を出して人員を配置する――それだけではなく、自ら動いて偵察を行って痕跡を見つけては、相手の動きを読んで作戦を練るのだ。

「リュート様って……本当に忙しい方ですよね」
「まあね……対魔物において黒の騎士団は忙しくなるケド、『聖騎士』の忙しさは尋常ではないヨ。特に、リュートくんはオールマイティーだからネ。兄たちが分担している仕事を、一人でこなせてしまうのが問題ダヨ」

 だからこそ、ロン兄様が心配するのか……と納得はするが、彼の動きを見ていると止められないのもわかる。
 現在の私もそうだ。
 必要だとわかっているし、彼自身が戦闘のことも考えて、無理のない範囲でとどめていると理解している。
 疲れが見えてきたら止めるが、そうならないように、彼は食べることで様々な物を補給して動けるように心がけているのだ。
 今までは、それでもキツイ状況であったが、今は違う……そう、今は違うと言い切れる。

「いま私がやるべきことは、止めるのではなく……作る事ですね」
「だから、二人は相性が良いって思うんダヨ。何事も止めるだけが彼の為になるとは限らないからネ」
「リュート様の凄さを改めて実感しました」
「本当に凄いヨ……だからこそ、俺たち十神も信頼して討伐を依頼するんダヨ」

 強い魔物が討伐できるからという理由だけではない。
 彼が様々な事に配慮して手を尽くしてくれるから、安心して依頼することができるのだ。
 力だけではない。一から十まで言わなくても理解して動いてくれる頭脳を持ち、被害者にも配慮できる人格者であるからこそ、十神は自らの名を使って派遣を決定するのだろう。
 十神から依頼されて来た人物が横暴であったら、十神の名に傷が付く。
 この世界の神々は人に近すぎるからこそ、ヘタなことはできないのだ。

「十神も大変ですね……」
「ルナちゃんやベオルフ……それに、リュートくんほどじゃないヨ」
「私たちですか?」
「父上の相手ができる人は、そういないからネ。神族でも畏れて震えるカラ」

 いつもニコニコしているようにしか思えないが……確かに、言動が荒いときもあるし、不機嫌になると困ってしまう。
 そういう時は、いつもベオルフ様があしらってくれるから、私は言うほど苦労しているようには思えない。
 それに、今はノエルだけではなく真白と紫黒もいてくれる。
 オーディナル様にとって、とても良い環境だと言えた。

「オーディナル様が怒ることはないと思いますが……」
「それは、ルナちゃんとベオルフが定期的にそばにいるからダヨ……」

 それがなくなったら不機嫌モード突入で大変なんだからネっ!? と、何故か涙目の時空神様にかける言葉が見つからず、聖泉の女神ディードリンテ様と顔を見合わせてしまった。
 過去に何かあったのだろうか……謎である。

「でも……確かにオーディナル様が怒りモードになると、神族は裸足で逃げ出しますものね」

 コロコロ笑いながらとんでもないことを言う聖泉の女神ディードリンテ様に、時空神様は何度も頷く。
 では、やはりオーディナル様に説明という名の説教をするベオルフ様が最強なのだな……と感じていたら、私の足元へボールがコロコロ転がってきた。

「しまったなのーっ、お邪魔しますなの!」

 可愛らしい声を上げながら、チェリシュたちお子様組がボールを追ってきたようで、一気に子供の声で賑やかになる。

「まっしろちゃんも作戦に参加中……なの?」
「お仕事を任されたのー!」
「ぶんどったの間違いだろ……」

 リュート様の呆れた響きを宿した言葉は完全スルーされ、真白が「すごいでしょー!」と胸を張る中、チェリシュたちお子様組は「すごーい!」「真白ちゃんえらーい!」という、可愛らしい称賛の声を上げている。

「はっ! いけませんなの! 作戦会議は邪魔したら大変なの!」
「邪魔はだめーだにゃ?」
「いけませんにゃー?」
「たいへんにゃー?」

 幼いキャットシー族の子供達を相手に、お姉さん口調で教えているチェリシュが可愛らしくて、思わず頬が緩む。
 信頼関係をしっかり築けているらしいチェリシュの言葉を素直に聞いた子供達は、「おじゃましましたにゃー!」と言ってボールを回収すると、遠くへ駆けていってしまった。
 お、お行儀が良いですね。
 あの調子で遊んでくれていたら、アイスも美味しくできていることだろうと考えていたら、座卓についていた長老が軽やかに笑った。

「チェリシュ様のおかげで、子供達がとても礼儀正しいですにゃぁ」
「さすがは、太陽神と月の女神の娘です」

 長老と聖泉の女神ディードリンテ様に褒められたのが嬉しかったのか、チェリシュは頬をほんのりと染めて、はにかんだような笑みを浮かべる。

「褒めて貰ったの……嬉しいの! でも、これはリューとルーを見て学んだの! パパとママは甘々なのっ」
「そうなのですか? 良い影響を受けているのですね」
「あい!」

 穏やかな様子で会話をしているチェリシュと聖泉の女神ディードリンテ様からリュート様へ視線を移すと、バッチリと目が合ってしまった。
 なんだか照れくさいのに誇らしい。
 チェリシュが私たちから何かを学んでくれていることが、こんなにも嬉しく感じる。

「真白ちゃんも、ルナとリュートから色々学んでるよー!」
「お前はそれでも、なかなか変わらないんだけどな……」

 リュート様に指先でツンツン突かれながら、真白は「変わったもん!」と文句を言っているが、確かに変わったと思う。
 母を思う余りに自らを殺して似せようと奮闘していた真白が、今は自分らしさを取り戻し、子供らしい我が儘を言ったり、構って欲しいと甘えたりしているのだ。
 我が儘を言って甘えるのは、信頼してくれている証拠であると、今の両親に甘えられなかった私はよく知っている。

「ルナー! リュートがいじめるー!」

 ぴーっと泣きついてくる真白を受けとめ、柔らかく微笑む。

「良かったですね、真白」
「いじめられてるのにっ!?」

 驚愕の声を上げる真白を無言で撫でていると、そこから何かを感じたのか、ぴーぴー文句を言っていた真白は大人しくなり、暫くしてから小さく「えへへ」と笑った。
 ぎゅーっと抱きついてくる小さな真白と、それを見ていて甘えたくなったのだろうか、遠慮がちに私の膝上に移動してきたチェリシュも抱きついてくる。
 チェリシュと真白を抱きしめている私を、みんなの柔らかな空気が包み込む。
 魔物の脅威は、確実に近づいてきている。
 でも、必ず守り抜こう。

 皆で無事に聖都へ帰りましょうね――

 決意を新たにした私は、『私にしかできない戦いをしよう』と、心に固く誓ったのである。

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