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第九章 遠征討伐訓練

9-20 どこの世界でも似たような反応をするようです

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「では、最前列にリュート・ラングレイとガイアス・レイブンのチームを配置しましょうねぇ。そこから後衛チームも決定していきましょうか。リュート・ラングレイのチームをAとし、ガイアス・レイブンをBとして、大きく2チームに分けましょうねぇ」

 戦力差が激しくないか? というガイアス様の言葉を聞き、それには同意だったのか、アクセン先生は考え込んでしまう。

「何だったら俺たちが先頭で……トリス、俺が指示したときだけサーチを展開することはできるか?」
「出来る。リュートさん任せになるが良いのか?」
「ああ、それくらい問題無い」
「チェリシュにもお任せなの! パパとママが移動中は教えてくれるの!」

 え? 何ソレ、最強?
 全員の心の声が聞こえた気がして、私はマジマジとチェリシュを見つめてしまった。
 天空から監視なんて、誰にでも出来ることでは無いが、それほど暇な方々ではないはずだ。
 特にオーディナル様を交えた会議がある予定なのだから、色々と準備もあるはずである。

「あの二神が協力してくれんのか? そんな暇ねーだろ?」
「じーじがやれって言ったって言ってるの」
「……オーディナル様」

 軽い眩暈を覚えて頭を左右に振るのだが、現実は変わらない。
 いや、もしかしたら、私を心配したオーディナル様が地上に降りようとしたのを、空からの監視役を引き受けて止めてくれたのかも知れない現実に、頭痛すら覚えてしまう。

「どんだけ過保護だよ……」

 リュート様も頭を抱えて呻いているが、そこで私はおかしいことに気づく。
 同じ世界にいるのなら、神界と地上という隔たりがあっても、その存在を感じるはずなのに、オーディナル様の力を感じることが出来ないのだ。
 意識を研ぎ澄ませても遠く離れている感覚しかなく、微弱な神力を感じているだけで、いつもと変わらない。

『ああ、まだ此方には来ていないよ。真白の後始末に追われていて、紫黒と飛び回っているから、此方へ来るのは明日……もしかしたら、明後日くらいになるかも?』

 不意に聞こえた声に振り返り見ると、姿を消して宙に浮かんでいる時空神様の姿が見えた。
 薄膜のベールに包まれている彼を視認できるのは、私と真白とチェリシュくらいのようである。
 チェリシュが誰も居ない空間に手を振るので、全員がいぶかしげな表情を浮かべるが、察したリュート様とロン兄様とアクセン先生は、顔を見合わせて苦笑を浮かべた。

「じゃあ、森の外ではチェリシュ、森へ入ったらトリスに任せたい」
「わかったの!」
「チェリシュ様の引き継ぎ要員として頑張ります」
「任せたの!」

 ぺちっとハイタッチしてふにゃりと笑うチェリシュと、目元を和らげるトリス様の姿に安堵したのか、これで魔物から先手を取られることは無いだろうと誰もが軽く息を吐く。
 やはり、聖都にいると遭遇することが無く平和に暮らせることもあり、魔物との戦闘になれていない彼らにとって恐怖でしか無いのだろう。
 海のマールでも大騒ぎになるほどだから、聖都がどれだけ平和なのかわかる気がする。
 その割には、昨日は海の覇者といわれるクラーケンに遭遇したわけだが……アレは異例の出来事のようだ。

「では、リュート・ラングレイのチームを最前線に置き、他は後方の左右に展開してくださいねぇ」
「俺たちのチームが右へ行こう。他はどうする?」
「うちのチームは4名構成だったから、半々に別れて左右のチームに吸収される形になるほうが良いと思う」

 明るい茶髪の青年がそう言うと、それなら話が早いと周囲が頷く。

「あー、じゃあ、俺のところが左へ行くわ」

 そう言って名乗りを上げたのは、白い毛玉の召喚獣を連れた彼だった。

「うちのチームは、ほら、ペレテのボーボがいるからな」
「そうか。壁にもなりそうだし助かる」

 ガイアス様と白い毛玉の召喚獣を連れた彼……名前を思い出せずにモヤモヤしていたら、リュート様が彼の名を呼んだ。

「パシュムの召喚獣も、空から偵察出来そうだな」
「あー、風が強くなければいけそう!」
「風か……天気によるな」
「軽くてさ、ふわふわ~って流されちゃうんだよなぁ」
「それは仕方ありませんよ」

 リュート様がシモン様の言葉にうんうんと頷いてみせるので、パシュムと呼ばれた青年も、小さな毛玉を突きながら「怒られなくて良かったなぁ」と笑っている。
 ぽんぽん跳ねては、ふわぁと浮く白い毛玉……
 真白はマシュマロのようにふわふわして柔らかな丸みを帯びたボディが弾む可愛らしさがある。
 しかし、この子は白い綿毛がふわふわ浮かんで飛ぶような愛らしさがあって……とても可愛いです!

「あ、あの……うちの子は、戦闘が得意じゃ無いけど……いいのかな」

 控えめに声をかけてきたのは、先ほど名前が挙がっていたペレテ様だった。
 腕の中でのほほんとした様子で周囲を見ているのは、水牛のようなドッシリとした体つきだが、ヒツジのようなもこもこの毛に覆われており、とても触り心地が良さそうである。

「そいつ、どれくらい大きくなるんだっけ?」
「えっと……10mくらいまでは……」
「すげーな……そりゃ、十分壁になるだろ……ちょっと触ってもいいか?」
「う、うん、大丈夫」

 リュート様が何気なく手を伸ばすと、召喚獣は緊張してしまったのか、更に毛をぽんぽんに膨らませる。

「へぇ……弾力があって、多少の攻撃なら跳ね返すだけの強度があるな」
「そ、そう……なの?」
「ああ。魔力耐性にも優れているし、唯一の弱点は火か……そこは、ガイアスの召喚獣が補えるだろ」
「任せておけ。火の攻撃は全方位でカバーできる」
「俺も一応、フォローできるから問題無いと思うが……初日は省エネ運転させてくれ……ルナの補給無しに魔力をバンバン使えねーのが……辛い……」
「あ、ああ……そうなんだね」
「魔力が溢れすぎるくらい回復するからな……」
「え? ガイアスくんも食べたことあるの?」
「え、あ、その……成り行きで……な」

 一応、リュート様と敵対しているような感じのイメージ作りをしていたガイアス様だったが、このところ崩れているから突っ込まれると弱い。

「悪先から課題を出されて、その時に共同作業する羽目になったんだ。その時にな」
「へぇ……アクセン先生も……凄い組み合わせで課題をさせるんだね……」

 リュート様が機転を利かせてそう言ったのだが、何故かアクセン先生への評価が微妙に下がる結果となってしまった。
 しかし、話し合いは良い方向へ転がっているのか、次々に役割と配置が決まっていく。
 他のクラスも真剣に話し合っているようで、部屋の中では様々な意見が交錯する。

「真白も何かしたーい!」
「俺の頭の上から見張り」
「えー? 魔物が出てきたら消滅とか、敵対しているやつらもろとも燃やすとかー」
「お前は何気に物騒なんだよ!」

 この毛玉はっ! とリュート様ににぎにぎされて悲鳴を上げているのに嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
 定期的に構って欲しい子なのですね?
 しかも、みんなは冗談だと思っているが、真白は至って本気であり、許可をした瞬間に阿鼻叫喚の地獄絵図がこの世に降臨することになるだろう。
 鳳凰の子ですもの……溶岩の中でも平気な子が繰り出す炎ですよ? タダで済むわけがありませんよね?
 チラリと時空神様を見ると、彼は頭を抱えて呻いていた。
 十神でもどうにもならない真白という存在のご機嫌を取ることが出来るリュート様が凄いのか、何を言うわけでも無く従わせてしまうベオルフ様が凄いのか――
 まあ、時空神様からしたら、どちらも凄いと感じているから丸投げしているのだろうと妙に納得してしまった。



 それから1時間ほど話を詰めて決まった配置と陣形を元に、アクセン先生が各クラス配置を説明し、全員が大まかな動きを把握したところで、そろそろ移動を開始するという連絡が入る。
 他の科も話し合いが終わったようで、廊下から賑やかな声が聞こえてきた。
 どうやら、遮音システムを解除したらしい。

「さて、我々が一番に学園を出発しなければなりませんが、聖都の中では迷惑になりますので、聖都の外へ出てから陣形を取りますねぇ。チェリシュ様はいつ頃からサーチされますか?」
「いつもパパとママは見ているの、だから大丈夫なの!」
「そうですか。とても助かります。お礼を申し上げておいてください」
「大丈夫なの。リューとルーがいつもチェリシュをみてくれているお礼って言っているの。もしなにか貰えるなら、ルーの料理がいいって言っているの」
「わかりました。チェリシュと一緒に作ったお料理を、時空神様に届けていただきましょうね」
「あい!」
『何でも届けるから、その時は声をかけてー! 父上がいる間は此方にいるし、陽輝にも言われたし……ご褒美が貰えるから頑張るよ!』

 流暢な日本語で話しかけてくる時空神様は少しだけ落ち込んだ声を出したが、兄のご褒美へ思いを馳せたのか、元気を取り戻したようだ。
 兄が何気に時空神様を操っている……無自覚で恐ろしい兄である。
 しかし、そう考えていた私に、リュート様たち以外の人々から驚愕の眼差しを向けていることに気づき、何か変なことがあったのだろうかと首を傾げてしまう。
 もしかして、時空神様の姿が見えている? ――いや、そんな様子は無い。
 会話が聞こえていた? ――日本語はわからないだろうから問題無いはずだし、聞こえていたのならもっと違う反応になりそうだ。
 どれだろうと考え込む私に、リュート様が笑いながら形の良い唇を私の耳元へ寄せて、囁くように言葉を紡ぐ。

「時空神のUber EATS?」
「あ……」

 しまった!
 兄の親友という感覚でお願いしようと軽く考えていたのだが、この世界での時空神様の立場を忘れていた――と、いま思い出しても発してしまった言葉を回収することは出来ない。

「ゼルにーに、お願いしますなの! うーばーなんとかなの! パパとママも大喜びなのっ」

 時空神様がいる方向に手を振ってきゃっきゃ笑うチェリシュと、リュート様の頭の上でポンポン跳ねて「よろしくねー☆」という真白が見ている方向が同じで――
 全員が一斉にひれ伏したのは言うまでも無く、思わずリュート様と時空神様と顔を見合わせて盛大な溜め息をつき、遠くで太陽と月の夫婦神が楽しげに笑っている声が聞こえた気がした。

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