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第八章 海の覇者
8-68 ゼルにーにの言葉(チェリシュ視点)
しおりを挟むお空にはいっぱいの光が浮かんでいるの。
この光にも意味があるみたいで、リューとルーはとても嬉しそうにしてニコニコだったの。
チェリシュも、この光が大好きになってキューちゃんのお膝からジーッと見ていたら、不意に頭の中に声が聞こえてきたの。
『チェリシュ、ちょっといいカナ?』
どうしたの、ゼルにーに。
何かあった……なの?
『明日から行く遠征討伐訓練で、ちょっと注意しておこうと思ってネ』
注意……なの?
きっと、リューとルーのために必要なことなの。
しっかり聞くの。
『もしかしたら、ルナちゃんがヤバイことになるかもしれナイ。その時にチェリシュは助けるのではなく、ちゃんと逃げなサイ』
その言葉に、チェリシュは思わず声が出そうになったの。
だって、チェリシュはルーを見捨てられないの。
助けたいのっ!
逃げるなんて、やーの!
チェリシュに出来ることは少ないかもしれないけれども、ちゃんとルーのそばにいたいのっ!
『気持ちはわかるヨ。だけど、それが悪手になることもアル』
それでも……それでも、チェリシュはっ!
『大丈夫ダヨ。そのための一手は打ったカラ』
一手───そのために、ゼルにーには今日ずっと居たの?
いつもは、すぐにいなくなっちゃうのに……
『まあ、そういうことダヨ。ルナちゃんにとって、この遠征討伐訓練は厳しい現実を突きつけられることになると思うケド、必要なことで……きっと、乗り越えてくれると信じているカラ、チェリシュは見守っていてあげてネ』
ルーにとっての厳しい現実……なの?
それは、ルーが泣くようなことになるのだと理解して、とても胸が痛んだの。
いつもチェリシュを優しく包んでくれるルーが傷ついてしまうのは、チェリシュの心や体を傷つけるくらい辛いことなの。
そして、リューもそう感じると思うの。
リューも……泣いちゃうかな。
そう考えるだけで、涙が出そうになっちゃうの。
『チェリシュにも辛い思いをさせてしまってゴメンネ』
んーん……本当に辛いのはゼルにーになの。
全部知っていて、何も出来ないゼルにーにが一番辛いの。
ゼルにーには、ルーのこと気にしてると思うから……
『まあね……俺の親友の妹だから、どうしても気になっちゃうよネ』
親友……前世のルーのにーになの?
『そうだよ。穏やかだけど、怒らせるとメチャクチャ怖い親友だ』
ルーにソックリなのっ!
ルーも、普段優しいけれども、怒るとリューが何も言えなくなるくらい怖いの!
『そっか。その様子も見てみたいネ』
とても楽しげに声を弾ませるゼルにーには、さっきまでの真剣さが抜け落ちて、なんだか楽しそうなの。
本当は、ルーとリューのことが心配なんだと思うの。
出来ることなら自分の手で守って、やり過ごしたいと考えているのが伝わってくるの。
それはきっと、じーじもそうなの。
みんな、大切な人のことになると持つ感情なの。
でも、それが必ずしも相手のためにならないと知っているから、ここはグッと我慢なの!
チェリシュに出来ることは、2人の負担にならないように安全な場所で、信じて待つことなの。
それは、理解出来たの。
でも───
本当に、ルーは大丈夫……なの? 怪我はしない……なの?
心の中で問いかけてみると、ゼルにーには言葉を濁して「大丈夫」としか言わなかったの。
多分、全く無傷で終わる話では無いということなの。
だったら、チェリシュはポーションとかいっぱい持って行くの!
話を聞いているパパとママにお願いしたら、いっぱい用意してくれると思うの。
神界にあるお薬は、有翼人たちが作った物も多いから、きっとルーたちにも効果があるの。
大丈夫、チェリシュにしか出来ないことを、全力で頑張るの!
『チェリシュ……変わったネ。随分と前向きになったネ』
ルーとリューに出会って、チェリシュはいっぱい知ったの。
沢山学ぶの。
これからも、ずっと一緒にいたいの!
『俺にとっての陽輝が、チェリシュにとってのリュートくんとルナちゃんか……良いことだよ、本当に』
嬉しそうに笑うゼルにーにの声を聞いていると、前世のルーのにーにに会いたくなったの。
どんな人なのかな……
ベオにーにも尊敬しているような雰囲気が出ていたから、とーっても気になるの。
『陽輝は、優しくて強くて、弱いところもあるけれども、それだからこそ人の心の傷にも気づけるだけではなく、その傷ごと受け入れて包み込んでくれるような人ダヨ。神という立場を忘れられる、唯一の友でネ。大好きだよって言ったら呆れた顔をしながらも照れるところが好きなんだよネ。俺が女神だったら、絶対に夫にしていたと思うヨ』
……なんだか、リューがルナのことを語るみたいなお話になっているの。
こういうのを、パパとママがするのろけ話というものなの。
『えー? チェリシュのパパとママやリュートくんのとは根本的に違うデショ』
違わないの───と言いたいのをグッとこらえて、前世のルーのにーにがどれだけ素晴らしい人か、熱く語ってくれる言葉に耳を傾けるの。
とても楽しいお話がいっぱいで、あっという間に時間が過ぎていくの。
隣のリューは、ちょっぴり元気が無いサーちゃんとお話しているし、キューちゃんはチェリシュや他の人たちのことを気にかけて世話を焼いてくれているの。
みんなが楽しそうに笑って、ご飯を食べてお酒を飲んでいる光景は夢のようで───
ぜーんぶ、ルーが来てから始まったことなの。
じーじは、何を考えてルーをリューへ託したのかな。
ベオにーにに会ったことあるチェリシュにはわかっているの。
2人は引き離しちゃダメだって……
長い間引き離してしまったら、互いに弱って生きていけなくなっちゃうの。
それくらい、ダメダメなのことなの。
リューでも埋めることが出来ない、魂に関わる、2人だけの理なの。
そう……2人だけにある理なんて初めて見たの。
人の魂が縛られる理は、その世界に存在する理だけなの。
神族は、そこに自分たちが持つ属性や力によって派生した理が関与してくるの。
チェリシュも、それがあるから春の間は地上にいなければならないの。
人の魂そのものを縛ることは出来ない。
だけど……呪いはその器を縛り侵食する可能性があるの。
だから心配なの。
ルーを侵食する呪いは、とても強力で……ヘタをすれば魂が変質してしまいかねないの。
人には解除することができず、神族でも難しいの。
そのダメージを、ベオにーにが肩代わりしている感じなの。
『チェリシュは随分と目が良くなったんだネ。そこまで理解していたのカイ?』
あ……よ、読まれちゃったの。
あわあわと慌てていたら、ゼルにーには楽しそうに笑ったの。
『大丈夫ダヨ。チェリシュは知っていても、口に出さないってわかっているカラ』
話せないことなの。
ルーが知ったら……きっと泣いちゃうの。
ベオにーには、そうやってずっと……ルーを守っているの。
ボロボロになっているのに、ずっと守っているの。
『だからこそ、2人には修行を課しているんダヨ。そろそろ、力の使い方を覚えて貰わないとマズイからネ』
そうしたら、ちょっと楽になる……なの?
『楽になるヨ。きっと、今まで以上に……ネ』
リューには……無理なの?
『根本的に違うから無理な話ダヨ。チェリシュも感じているとは思うけれども、2人は特殊だからネ。それに、リュートくんは違うフォローをしてくれているから、助かっているヨ』
チェリシュも……なにか出来ない……なの?
『チェリシュは好きなことをしていれば良いヨ。それがいつか、ルナちゃんだけではなく、リュートくんやベオルフの為になるカラ』
わかったの!
チェリシュは、みんなのために好きなことをして、全力で頑張るの!
少しでも役に立ちたいけど、春の作物しか出せないチェリシュは、ルーが求めるお米を出してあげられないの。
それが、とても残念なの。
『大丈夫。それもいずれ手に入るヨ。遠くない未来でネ。2人にとってふるさとの味だから、そこは父上もちゃんと考えているヨ。手に入らないのなら、ベオルフを通じて入手することも可能だからネ』
その方が手っ取り早いの?
『手っ取り早いけれども、それでは……意味がないんダヨ』
意味が無い……なの?
少しだけ困ったようにゼルにーにはそう言うと、空を見上げて何かを考えているみたいだったの。
パパとママに話しかけているのかな。
それとも……
「チェリシュ、どうした?」
「なんでもないのっ、リューは楽しい……なの?」
「んー? そりゃな。旨い酒とつまみがあって、ルナがここで安心して眠ってくれているのが嬉しくて、上機嫌って感じだな」
「チェリシュも、ルーが眠れるポッケが欲しいのっ」
「だーめ。コレは俺の特権なの」
「ズルイなのっ!」
ずーるーいーなーのー!
チェリシュがそう言っていると、リューは嬉しそうに目を細めてチェリシュを抱っこしてくれたの。
「チェリシュは俺と一緒に、こうやってルナを間近で見ていたら良いだろ?」
お膝の上に座ったチェリシュの頭をよしよし撫でてくれるリューのぽっこりしたポッケの中には、ふわふわな白い毛並みのルーがすやすや眠っていて……
ソッと寄り添うと、とーってもあたたかいの。
ルーの魔力とベオにーにの魔力が同時に感じられるだけじゃなくて、リューに守られている安心感がすごいの。
ルーが安心するのが納得な安心安全、絶対に守られている場所なの!
「ぽかぽかして……あんしんあんぜんなの」
どうしたのかな。
急に言葉がうまく話せなくなっちゃったの。
ぽやぽやしてきたの。
「おや、おねむみたいだね」
「子供って、どうして急にスイッチが切れるように眠るんだろうな」
「何事にも全力やからちゃう? だんさん、まだ飲むんやったら、僕が抱っこしとこうか?」
「いや、いい。俺が抱っこしておくよ」
サーちゃんとリューとキューちゃんの声が耳に入ってきて心地良い感じなの。
3人の声は、チェリシュに安心をいっぱいくれるの。
リュー、いっぱい大変なことがあるかもしれないけど、チェリシュは自分の身は自分で守るようにするから心配しないでね。
そのかわり、ルーをお願いしますなの。
言葉にならないチェリシュの声は届かなかったかも……
だけど、優しくチェリシュを抱えて頭を撫でてくれるリューに任せていたら、全てが良い方向へ繋がるような気がするの。
それは、きっと……
初めて会ったときから、ずっとチェリシュを守ってくれていたリューへの信頼からくるものなの。
ルーも大丈夫。
きっと、リューがいれば平気なの。
「心配……ないない……なの」
「大丈夫だよ。俺がいるから、安心しろ。何があっても、チェリシュとルナは俺が守るからな」
あやすように抱きしめて心強い言葉をくれるリューの声を聞きながら、ルーとベオにーにの魔力が入り交じったぬくもりを感じて、チェリシュはぎゅっと抱きつきながら眠ったの。
明日も良い日になりますように───
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