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第七章 外から見た彼女と彼

おまじないの効果(チェリシュ視点)

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 こ、このままじゃ、燃えちゃうのっ!
 パパと同じ、太陽の輝きなの!
 チェリシュの世界よりも少し色味が強くて、ルーの目にそっくりな色の輝きをまとったベオにーにと、横でもたれるように力を抜いているルーは、本当に目を開く気配がなかったの。
 一瞬にして、意識を深く沈めていく……簡単にできることじゃないの。
 それを同時にやっちゃうから、ルーとベオにーにはすごいのっ!
 燃えちゃうんじゃないかって心配しているチェリシュに、ノエルが「大丈夫だよー」って言ってくれたの。
 きっと、ノエルにとってルーとベオにーにの力は驚くことじゃないの。
 つまり……ノエルにとって、ルーたちのこの状態は珍しいことじゃない……なの?

「多分……封印に干渉しているんですよね」
「間違いないだろう……この子たちは本当に……」

 ゼルにーにの言葉に頷いたじーじは、泣きそうな顔をしているし、ノエルと顔を見合わせて、どうしようと焦り出しちゃうの。
 燃えないとあんしんあんしんしている場合じゃなかったの!
 ルーとベオにーにが目を開いてくれないと、じーじが泣いちゃうの!
 目を覚まさない相手を目覚めさせるには……ど、どうしたら……

『目を覚まさないお姫様には、やっぱりキスしかねーよなぁ』

 はっ!
 リューが、そんなことを言っていたの!
 悪戯を思いついたような表情をして言っていたのは、ちょっとだけ気になるけど、今はそれどころじゃないの。
 それに、実績のある『おまじない』なのっ!
 倒れてしまってベッドの上で眠り続けるルーのほっぺと額に、リューがちゅってしてもルーは目を覚まさなかったけど、嬉しそうに笑ってくれたから、チェリシュもちゅーしてみたの。
 その日は変化がなかったけど、次の日にはしっかり目を覚ましてくれたから、きっとあの『おまじない』が効いたの。

 おでこのちゅーは、悪夢よけのおまじないなの。
 ほっぺのちゅーは、いってらっしゃいのご挨拶なの。
 おでことほっぺのちゅーは、目覚めて欲しいときのおまじないなの!

 リュー、大丈夫なの。
 チェリシュはしっかり覚えているの!
 おでこの次に、右ほっぺ、左ほっぺなの。
 順番大事! なのっ

「チェリシュ、目を覚ましてのおまじないをするの!」
「ん? おまじない?」

 ゼルにーにがそういってチェリシュを見たけど、うまく説明できないから、「見てて欲しいの! こうするのっ」といって、体を移動させてベオにーにへもたれかかるルーのおでこと、右ほっぺ、左ほっぺにちゅーしてみるの。
 むぅ……特に反応がなかったの。
 少しだけ、光が薄れてきた気がするけど……効いているの?

「チェリシュ! 放出されていた光が、治まってきたよーっ! すごいよ、チェリシュっ」
「えっへんなの!」
「次はベオだよっ! 二人にしたら、きっと効果があるはずーっ」
「あいっ!」

 ノエルの声援を受けて、『チェリシュ頑張りますモード』なの!
 後ろから「え、いや、ま、待って……そのおまじないって、誰に教わったのっ!?」ってゼルにーにが言うから「リューっ!」と笑顔でお返事したら、ゼルにーにだけではなく、じーじもポカーンとした顔をしていたの。

 ベオにーにの膝の上からベオにーにのおでこにちゅーしようとして、少しだけ長めの前髪が気になって手で押さえると、手に違和感を覚えたの。
 古傷……なの?
 深い傷痕が残っちゃっているの。
 こめかみから眉尻まで、鋭い爪で切り裂かれたような傷だったの。
 んぅー……よくよく見ると眉尻よりも下の目尻にも、うっすらと傷跡が残っていたの。
 一歩間違えたら、失明していたかもしれないの……こ、こわこわなのっ!
 人は古傷が痛む時があるっていうから、少し心配なの。
 リューも、転落事故の時に魔物から受けた傷を完全に治療することができなくて、傷跡が残っているって言っていたの。
 リューも……痛むのかな……
 ベオにーにも、痛むのかな……
 少し、心配なの。

 古傷も心配だけど、人にはできない変化を見せながら深く意識を沈み込ませ、まるで眠っているようなルーとベオにーにの姿に、じーじもゼルにーにも、ノエルもチェリシュも心配だから、早く戻ってきて欲しいの。
 気持ちをいーっぱいこめて、おまじないなの!
 おでこ、右ほっぺ、左ほっぺにちゅーしたら、ゼルにーにが「ソルが知ったら嘆くかも……」って言っていたけど、大丈夫なの。
 チェリシュのパパは、とーっても寛大なのっ!

「責任は、リュートに取らせよう」
「まあ……リュートくんが発端だから、仕方ないですよね」

 リューが教えてくれたおまじないで、パパが怒るはずがないの。
 だって……ほら!
 ベオにーにが反応したのっ!
 リューのおまじない効果は、やっぱりすごいの!

 光が消えて、ベオにーにはゆっくりとまぶたを開くの。
 きれいなお月様のお目々が、チェリシュをジーッと見たかと思ったら、驚いたみたいにまぶたをパチパチさせたの。

「おまじないが効いたの!」
「さすがチェリシュ! すごいねーっ」

 ノエルと手を取り合って喜んでいたら、ベオにーには急いでルーの様子を確認したあと、じーじにお願いしたの。

「妙に……近いような?」
「おまじないをしていたのっ」
「……おまじない?」

 怪訝そうな顔をしていたベオにーには、チェリシュに膝の上で不安定な態勢は危ないだろうと支えてくれたの。
 さすが、保護者のプロなの!

「主神オーディナル……ルナティエラ嬢がすぐに目覚めぬようにしていただけませんか」
「どういうことだ?」
「銀髪の青年が、彼女の記憶に細工をしました。ご報告したほうが良いと思いますが、彼女を通して奴に知られる可能性があるようです」
「会ったのか……あの方に……会ったのかっ!?」
「今は急ぎます。多少時間はずらしてくれているようですが、目覚めてしまいます。急いでください」

 じーじが珍しく取り乱している中、淡々とベオにーにがそう言って頼み事をするの。
 急ぎだけど、じーじとゼルにーには混乱ちゅーなの。
 ということは───チェリシュの出番なの!

「ねんねんころり、よい子はぐっすり、おねむ、ねむねむ~なの」

 春に眠たくなるというけど、チェリシュは眠らせるのも得意なのっ!
 ぽかぽか陽気に、優しいそよ風、チェリシュの力は、パパやママやねーねたちみたいな攻撃力は無いけど、こういうことが得意なのっ!
 ベオにーにはルーに悪いことはしないし、これはきっと、ルーも承知の上なの。
 だったら、お話が終わるまで、ベオにーにに遠慮なく甘えながら待っていてね……なのっ!

「すまん……助かった」
「ルーのためなの。ベオにーにも、ルーに悪いことはしないの。じーじは混乱ちゅーだから、チェリシュが頑張ったの。えっへんなのっ」
「色々考えてくれたのだな……心から感謝する。しかし……奇妙なクセがうつったものだ」

 優しい眼差しのベオにーには、いつもの姿に戻っていたけど……
 さっきの光に包まれた姿は、神族に近かったと思うの。
 ベオにーにとルーは、二人一緒にいると人間という枠から外れた存在になるの。
 それを気付かれないようにしていたのは、きっとじーじの力───
 ノエルも力を貸して、ルーとベオにーにのために頑張っているから、二人が大好きなチェリシュにできることなら、何でもするの!
 言葉にするのはとても難しかったから、ぎゅっと抱きついたら、優しく頭を撫でてくれたの。
 この手の優しさとぬくもりだけで、チェリシュは大満足なのっ!

「チェリシュ……孫がこれほどの気遣いを見せているというのに……僕はなんて情けないんだ……」
「いえ、主神オーディナルにとって、それだけあの青年が大切な存在であることは理解しました」
「大切……か。複雑ではあるな……」

 じーじは悲しそうに目を伏せたあと、力を抜いてソファーに座ったの。
 心配そうにゼルにーにが傍に座ったから、チェリシュもノエルと一緒に、ベオにーにのお膝の上でお行儀よくしているの。
 今からベオにーにがする大事なお話を、チェリシュも聞いておいたほうが良い気がしたの。

「どうやら我々は、主神オーディナルが管理されている封印の場所に、引きずられたようです」
「手を握り合って、力を増幅させようとしたんだよね? ノエルがいたから、増幅されて、変に干渉しちゃったのかな」
「可能性はある。ノエルの増幅能力は、二人と相性が良いのだ」

 はっ!
 もしかして、チェリシュの眠りの力がルーに思いの外、抵抗がなくすんなり入っていったのは、ノエルのおかげ……なの?
 ノエルはすごいの!

「しかし、あの空間に行って何事もないとは……さすがと言えるな」
「銀髪の青年と……リュートによく似た青年のおかげかもしれません」
「まさか……会ったのか……息災であったか? 憔悴しては居なかったか? 無茶なことをしていなかったか?」

 じーじが涙目で、矢継ぎ早に問いかける様子に、チェリシュだけではなくベオにーにも驚いた様子だったけど、静かに頷いて「私をからかうくらい、お元気でした」と教えてくれたの。

「そっか……元気だったんだね。良かった……」

 必死にいろいろなものを堪えているじーじの横で、ゼルにーには涙をこぼして喜んでいるようだったの。
 じーじとゼルにーにの知り合い……なの?
 でも……リューに似ていたということが、とーっても気になるの。

「お知り合いですか」
「まあな……僕の愚息だ」
「以前お伺いした、今はいない長子である先代の時空神なのですか?」

 ベオにーにの言葉に、黙ってじーじとゼルにーにが頷くの。
 な……なんだか……スゴイことを聞いちゃったの。
 ゼルにーにの上に、にーにが居たのっ!
 ……あれ?
 でも……パパとママが、時々……それっぽいことを言っているときがあった……かも……なの?
 チェリシュは、ちっとも気が付かなかったの!

「あのバカのせいで、僕たちがどれだけ苦労しているか……物理的に助かっているが、どれほど心配しているか知りもしないで……あのバカは……」

 目をキツく閉じてじーじが声を震わせてそう言うと、ベオにーには静かな声で「そうでしたか」と呟いたの。
 リューに似ているなら、きっと……
 パパであるじーじを助けたかったの。
 大切なみんなを守りたかったの。
 とっても、優しい気持ちからの結果なの。
 だから、責めないでほしいの……

「とても、素晴らしい神なのですね……からかったり、ルナティエラ嬢に無断で触れたりしたことは許せませんが……」

 べ、ベオにーにが、おこなのっ!
 それを感じたのか、じーじは慌てて顔を上げてベオにーにを見るし、涙を流して喜んでいたゼルにーには、涙が引っ込んだみたいだったの。
 ノエルが隣で、チェリシュにもたれかかりながら「やっぱり、そういうところがベオだよねー」って言って無邪気に笑ったの。
 どうやら、これがベオにーにの通常なの。

「か、からかわれたの?」
「シスコンも程々にしろと言われました」
「あー、まあ……なんというか……」

 勇気を出して聞いたゼルにーには、ベオにーにの不機嫌そうな様子に視線を泳がせて苦笑をこぼしていたの。
 ベオにーには、こういうところがリューに似ている気がしたの。
 いつか、ルーを挟んで二人が最強の盾になっているんじゃないかって考えたら、すごーくドキドキして嬉しくなっちゃったのは、みんなに内緒なのっ!

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