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第七章 外から見た彼女と彼
いっぱいいっぱいのしあわせ(チェリシュ視点)
しおりを挟むくらいくらい闇がうねうねしている星の海。
飲み込まれる光。
何もかもが飲み込まれるなか、2つの小さな光が大きな光の鳥になってうねうね動いている物に突進し、激しくぶつかりあったあと、命を燃やし尽くしたように弾けて消える。
真っ白になって、全てが消えていく……
パパもママも、ねーねたちも、みんながサラサラと砂みたいになって崩れ落ち、動けないリューが叫んで必死に手をのばす先にあるのは、さっきの大きな光の欠片で……
その輝きが小さく「大丈夫」というように、最後の光を弾けさせて消えていく。
全ては、白く塗りつぶされて、黒が白に変わり、全てが無へ───
『どうか、こうはならないで……』
とても大きな樹の下、何もかもを飲み込もうとする光の中で、新緑色の髪と、ルーのような黄金の瞳を持つ女の人が、とても悲しそうに微笑んだ。
はっ!
慌てて周囲を見渡して、チェリシュを抱え込むように眠っているリューを見て、ホッとするの。
すーすーと息をしているから、眠っているだけなの。
ここにリューがいるから、ぜーんぶ悪い夢だったの。
大丈夫なの。
みんなは……大丈夫なの?
ルーは?
姿が見えないルーを探してみると、枕元にある籠の中で眠る小鳥さんを見つけて、ゆっくりと息を吐く。
時々見る悪夢だったの。
でも……今日はリアルでドキドキしちゃったの。
まだ、少しだけぷるぷるしている手を伸ばして籠の中のルーを撫でてみると、ふわふわでやわらかいの。
じんわりとあたたかくて、やさしくて、とても嬉しくなったの。
起こしちゃダメだけど、何だか怖くてルーを籠から出して抱きしめると、ぷるぷるが自然にとまったの。
さすがはルーなの!
『なんだ、寝ていたのではないのか?』
ママなの!
天井が邪魔をして見えづらいけれども、ママは放つ銀色の光がキラキラしているの。
『嫌な夢でも見たのか? それなら、そこですやすや眠っているリュートの頭を殴りつけ、叩き起こしてしまえばいい』
ママ、それはメッ! なの。
リューはお疲れなの。
起こしたら可哀想なの。
お仕事いっぱい、訓練いっぱいだったの!
『そ、そうか。まあ、それくらいでへこたれるような男ではないだろうがな……』
人間は、睡眠大事なの。
いっぱーい食べて寝ないと、大きくなれないの。
『ソレ以上は、どう頑張っても大きくならないだろうに……』
リューなら、大丈夫なの。
もっといっぱーい、大きくなるのっ!
『まあまあ……成人しても身長が伸びる可能性はあるから、絶対にないとは言い切れないし、チェリシュの言うことにも一理あるよ』
『そうやって、すぐ娘に甘い対応をするのだから困ったものだ』
『い、いや、可能性があるっていう話でしょ?』
大好きなパパの優しい声……パパも起きていたのっ!
『神界にいる間は睡眠が必要ではないから大丈夫だよ。父上の世界にいる太陽神ほど強くはないから、色々と調整をしないといけないのが困るよねぇ』
『あの世界にいる太陽神と月の女神は別格だ。他の世界の太陽と月の神々は、我々とそう変わらないと兄上が言っていたぞ』
『そうなの?』
『むしろ、我々は強い部類に入るそうだ。比較対象がおかしいのだと言われた』
パパとママのおしゃべりを聞いて、じーじの世界にいる太陽神と月の女神様が強いとしかわからなかったけど、チェリシュみたいな季節の女神もいるのかなって気になったの。
でも、ルーはじーじ以外の神様に会ったことがないし、動けないって言っていたから、大変そうなの。
でも、パパとママよりも強いって……とってもつよつよなのっ!
『ほら、チェリシュ。ちゃんと寝ておかないと、春の季節を発動させるために消費した神力が戻らないぞ』
『そうだね。リュートくんとルナちゃんも心配するから、寝ておきなさい』
ママの言葉にパパも頷いたような気配がして、天井から金と銀の光がキラキラなの。
思わず手をのばすと、リューから「……ん?」と声が聞こえたの。
「チェリシュ? ……なんだ、起きたのか」
すぐに気づいたリューは、チェリシュをぎゅーっとしようとしてから、チェリシュが抱っこしているルーに気づいたみたいで、慌てて動きを止めちゃったの。
あぶなかったの……ルーがむぎゅーってなるところだったの!
「なんでルナがここに……って、チェリシュか。どうした? 何か変な夢でも見たのか?」
「ちょっとだけ……なの」
「そういう時は、変に遠慮しなくていいって言ったろ? ほら、ルーは籠へ戻してやろうな」
押しつぶしたら危ないからといって、リューはルーを籠へ戻しちゃったの。
残念……なの。
しょんぼりしていたチェリシュを、リューがぎゅっと抱きしめてくれたので、すぐにぬくぬくあんしんなの。
チェリシュのことを、ずーっと心配していてくれたリューのあったかいが、とってもうれしいの。
でも、チェリシュはリューとルーにぎゅーってされているのが好きなの。
パパとママにぎゅーってされるくらい大好きなの。
だから、やっぱり……ちょっぴり、ざんねんざんねんなの。
「ルーもぎゅー……できたらいいの」
「朝になって起きたら、一緒にぎゅーってしてやろうな」
「あいっ!」
リューは、いつも嬉しい提案をしてくれるの。
チェリシュの体は小さいけど、ちゃんとお話がわかることを理解して、ごまかさないし侮らないところが大好きなの。
今まで会ってきた人は、チェリシュの外見や立場だけを見て判断をする人が多かったの。
でも、リューの近くにいる人は、みんなチェリシュのことをわかろうとしてくれるの。
女神ではなく、チェリシュを見てくれるの。
それが、とってもうれしいの。
眠りそうになりながらも、そういうチェリシュの話を聞いて頷いてくれるリューの優しさがうれしくて、ついつい長くなっちゃうけれども、優しく「そうか」といって頭を撫でてくれるリューが大好き。
ルーも、そうしてくれるの。
いっぱいいっぱい、幸せなの。
つらいときはあったけど、今は大丈夫。
だって、リューとルーが守ってくれるし、チェリシュだってちゃんと守るの!
「チェリシュ、そろそろ寝ないと、朝が辛くなるぞ」
「辛くなるの?」
「ルナの朝飯が食えなくなるかもな」
「はっ! それは大変なのっ!」
慌ててお布団をかぶってねんねの姿勢にはいると、リューが肩の上までちゃんとお布団をかけてくれて、ぬくぬくしながらリューの腕の中で、あんしんあんしんしながら目を閉じたの。
背中をぽんぽんと優しく叩いてくれるリズムがぽわぽわして、すぐに眠くなってきたの。
次に起きた時は、ルーをぎゅーってできるかな?
リューと一緒にぎゅーってして、ルーが笑ってくれたら、とっても嬉しいの。
『それなら、早く寝ることだ』
『リュートくん……いいなぁ……』
『バカなことを言っていないで、仕事を片付けてしまえ』
『え……これは君の管轄……』
『よろしくな』
パパは、まだ休めそうにないの。
でも、後ろからねーねたちが手伝おうかって言っているから、きっと大丈夫なの。
溜め息をつくパパに「がんばってなのっ」というエールを送って、リューの懐に潜り込むと、低い笑い声が聞こえてきたから見上げるの。
優しくあたたかい目をしたリューが「おやすみ」って言ってくれたの。
とっても優しい眼差しと声なの。
みんなにも知ってほしいの。
リューは、悪い人じゃないの。
とってもいい人で、とっても優しくて、とっても強い人なんだって……知ったら絶対にだーいすきになるのっ!
うとうと眠りそうになっていたけど、不意にリューが動いて、なにかしているのがわかったから、ちょっぴり目を開いて見てみると、籠に入ったままのルーを引き寄せて、小さなおでこにちゅってしていたの。
おやすみのちゅーなの?
元の位置に戻して、見ていたことに気づいたリューは苦笑した後、チェリシュのおでこにもちゅーしてくれたの。
「早く寝ろ」
言い方は乱暴だけど、とーっても優しい声だから、全然怖くないの。
はっ!
チェリシュもするべきなの!
もぞもぞ動いてリューの腕から抜け出すと、ルーのおでこにちゅーをしたの。
「ルー、おやすみなさいなの」
「ったく……ほら、まだ空気が冷えているから早く布団に入れ」
「あいっ」
戻る前に、リューのおでこにもちゅーなの!
ああーっ! というパパの声は聞かなかったことにしちゃうの。
これは、悪い夢を見ない悪夢よけだってリューが前に言っていたの。
だから、これはおまじないなの!
「リュー、おやすみなさいなの」
「ああ、おやすみ」
今度こそ眠るためにリューの懐に入ってぬくぬくしていたら、パパとママの声が聞こえてきたの。
『まじないくらいさせてやれ』
『でも……僕もしてほしいのに……リュートくん、いいなぁ』
『ヤキモチか?』
『むしろ、小さい頃を思い出して、リュートくんからのおまじないもいいなーって思っちゃう僕は変だろうか』
『いいや、それは激しく同意だ』
パパもママも、リューが大好き。
チェリシュも大好き。
きっと、ねーねたちも大好き。
ルーは、いっぱーい大好き!
キューちゃんは、蹴られても大好き!
お店のみんなも、リューが大好き。
リューの家族も、みんなみんな、大好きの輪がもっと大きく広がればいいな……なの!
いっぱいいっぱい、しあわせになってね。
チェリシュは、ずーっとリューとルーのしあわせいっぱーいを祈っているの。
はじめてかもしれないの。
春の季節が一日でも長くなればいいな……って考えるなんて……離れたくないなってわがまま……なの。
でも、春の季節を、いっぱーい、一緒にいろいろ覚えて、学んで、一緒に楽しむの!
パパ、ママ、心配いらないの。
チェリシュは、今日も元気いっぱいしあわせだったの。
明日もきっと、そうなるの。
帰ったら、おまじないをパパとママにもするの。
だから、それまで……チェリシュは、いっしょうけんめーがんばりますなの!
明日も、ルーと一緒においしいを作るから、今日はおやすみなさいなの。
悪夢は見ない。
リューのおまじないがあるから大丈夫なの。
そして、夢の中の綺麗なねーね、心配しなくても、きっと……大丈夫なの!
リューとルーがいるから、あんな未来は来ないの。
じーじは……どう思う?
ずーっと昔に会った、とーっても強いじーじを思い出して、ゆっくりと目を閉じたら、優しい手付きで撫でてくれるリューが、笑った気がした───
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