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第五章 意外な真実と助っ人

何故ソレが望まれていたのかわかった瞬間

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「ということで、リュートくんがどういう人物か理解出来たと思うので、これくらいでいいかなぁ」

 そう言った時空神様は、文句を言っているリュート様と楽しそうにニコニコしながらそれを聞いている愛の女神様、いつの間にかリュート様に抱っこされながらパンをもぐもぐしているチェリシュが映った映像を消してしまわれました。
 ああああぁぁっ!
 リュート様とチェリシュがあぁぁぁっ!

「起きたら実物がいるんだから良いでしょ?俺なんて……起きて目の前にいるのは陽輝だよ……」
「僕の部屋に勝手に転がり込んできた人が何を言っているの?」

 兄の部屋……時空神様、良かったですね。
 父と母が兄の交友関係を信頼している上に、今回は綾音ちゃんが協力してくれているから問題なく過ごせるかもしれませんよ。
 というか、今まで住まいはどうされていたのでしょう。
 ちょっぴり気になります。
 しかし、リュート様はいつの間にあんな大掛かりなものを作っていたのでしょうか。
 私から離れていないと言っていたのに、色々な物を作っていますし、あのキャンピングカーなんて、いくらスキルがあったとしても数日で造ることができる代物ではないように感じます。
 ギムレットさんの複製スキルが役立っているのはわかりますが、元となる物がなければ意味はありませんし……

「とりあえず、リュートの人柄はわかったよ。人々を救う勇者になることはあっても、大量虐殺を行う魔王になることはないね」
「……果たしてそうだろうか」

 柔和な表情で微笑む兄とは違い、隣のベオルフ様はそういった後に深く考え込んでいる様子です。
 こういう深い瞳の色をする時のベオルフ様の考えは重要なことが多いと知っているので、私は黙って彼を見つめました。

「まあ、リュートにとって結月の生まれ育った世界に愛着はない。むしろ、虐げられていたと知っているならなおさらそうだろうけど、彼は優しいから、召喚されたからと言っていきなり破壊行動に出ることはないでしょ?」

 兄の言う通り、召喚されただけで攻撃するような短慮な方ではありません。
 思慮深く、注意深い方ですもの。
 それに、ベオルフ様のことをご存知だから、まずはコンタクトを取ろうとするはずです。

「彼がそれだけの理性を保てていたら……な」

 低い声で紡がれた言葉の意味がわからず、私と兄は顔を見合わせた後に揃って首を傾げました。

「貴女を失ったり害されたりした状況下の彼が、そこまで理性的に動けるとは正直思わん」

 そういい切ったベオルフ様は、私の目を見つめて、未だ言いたいことを理解していないと判断したのか、ゆっくりと語るように言葉を紡ぐ。

「ミュリア・セルシア男爵令嬢の言葉を思い出せ。彼を召喚するために使うという聖杯を満たす命に、貴女も含まれているのだ」
「で、でも……そんな状況は……」
「確かにミュリア・セルシア男爵令嬢がいう状況に整えることは難しいだろう」

 私があちらの世界にいる限り、ミュリア様が考えている通りにはならない。
 それは、ベオルフ様にもわかっているけれども……黒狼の主が動いていますし、この前は精神体だけですが、奇妙な空間へ連れて行かれたという前例もあります。
 油断ができない……そう考えていらっしゃるのでしょう。

「もし、ヤツの考えているとおりにことが運び、聖杯に1万人の命を捧げられ召喚された彼が、貴女の亡骸を見て正気で居られると思うのか?」
「ちょ、ちょっ!ま、待った!ナニソレ!結月も含まれているって…… 」

 驚きの声を上げて、慌てて攻略本を片手にページを捲って確認しておりますが、その辺りの情報は載っていないのか、力なくソファーの背もたれに全身を預けます。

「駄目だ……情報が無さすぎる……聖杯や王笏は書いてあっても、詳しい内容まではわからないから攻略を進めるしかないよねぇ」
「頑張って陽輝」
「綾ちゃんと一緒に急ピッチで進めるしかないなぁ……結月の命に関わるなら話は別だよ」

 呻くように言った兄の声には苦いものが混じっていて、申し訳ない気持ちになり唇を強く噛み締めました。
 死んだ私が再び迷惑をかけるだけではなく、また死ぬかも知れない……それは、兄にとってとてもつらいことでしょう。
 できることなら巻き込みたくなかった……だけど、兄が持ってくる情報に今は頼るしかありません。

「ごめんね……お兄ちゃん」
「謝らないの。妹を守るのはお兄ちゃんの役目だから、そこは気にしない」
「でも……」
「ソレを言ったら、血のつながらない兄のベオルフが頑張っていることに感謝しなさい。本来ならあり得ないよ?」
「私の方こそ必要ない。ルナティエラ嬢を守ることは私を守ることでもある」
「そうなの?」
「ルナティエラ嬢が死ねば、私も死ぬ。運命共同体なのだ」

 それってどういう意味? と首を傾げた兄に、時空神様が私とベオルフ様の間で行われる何かの循環を丁寧に説明している間、隣の彼は再び考え事をしている様子です。
 先程から黙り込んだままのオーディナル様も気になりますが……ノエルは二人をチラチラ見ては耳をピーンッと立てたりしているので、内緒のお話でもしているのでしょうか。
 二人にしかわからないやり取りの中から、何かを見つけ出して相談しているのなら、私も加えて欲しいのですが……きっと、その私のことを考えての配慮なのかもしれません。

「2の方は、それぞれ主人公が選択できるタイプだから……時間がかかるよねぇ」
「もう1本買って、彼女さんに頼む……とか?」
「それしかないよね」

 あちらはあちらでゲーム攻略の対策を練っているようですし……どちらも邪魔することができない雰囲気です。
 こうしていると何の役にも立てていない気がして申し訳無さが募りますが、ここで自責の念にかられて落ち込むのは違うでしょう。
 気を取り直すように口元を引き締め同時進行で行われている相談事を、どちらもできる限り把握しようと黙って耳を澄ませます。
 ……が、それを邪魔してくる子が一匹……

「ルナー、ブラッシングしてー」

 ベオルフ様の鞄からブラシを取ってきたらしいノエルが私の膝の上に置き、小さな前脚をあわせて「お願いっ」と可愛らしいポーズでおねだりです。
 う、ううぅ……こ、こういう愛らしさに弱いのですよっ!?
 私がカーバンクルの姿でノエルのようにおねだりしたら、リュート様は優しく微笑んで「いいよ」っておっしゃってくださるのでしょうか。
 ベオルフ様でしたら、いじる気満々でブラッシングはしてくださるのでしょうね。
 兄は猫のノエルから逃げられるくらいブラッシングの腕前がイマイチなので、できることなら遠慮したいです。
 期待に満ちたノエルの瞳を見ていたら無下にも出来ず「しょうがないですねぇ」と呟いて、ノエルのブラッシングを開始しました。
 まあ、この子がベオルフ様にじゃれついたりして、お二人の会話を邪魔するのも困りますし丁度良いでしょう。
 しばらくの間そうしていると、どちらの考えもまとまったのか、早速決まったことを報告してくださるようです。

「まずは、攻略チームから今後のお話ね。現状を考えたら急ぎ2の情報が必要みたいだし、綾ちゃんと協力して、起きたらすぐに攻略を開始するよ」
「そ、それでクリア出来るの?」
「本当はさ、月と華からデータの引き継ぎができる仕様になっているから、全クリしたらって考えていたんだけど……悠長に構えていられないし、全攻略していなくてもハッピーエンドのストーリーデータを引き継いで、まずは一通りやってみる」

 大まかな話がわからないことには、今後の相手の動きが見えないからね……と、急遽『君のためにバラの花束を2』の攻略を行うという方針が決まったようです。
 綾音ちゃんによろしく言っておいてねと伝えると兄が心配ないよと微笑むのを見て、兄と綾音ちゃんが良い信頼関係を築けているのだと理解し、とても嬉しくなりました。
 そっか……二人の時間はちゃんと動いていて、私がいなくてもちゃんと繋がってくれたんだ……

「僕はそのサポートをしつつ、地球で元ミュリアの捜索を続けるよ」
「お前にしか出来ないことだから任せたぞ」
「父上もそちらで?」
「しばらくはベオルフと行動を共にしながら世界の様子を見て回る。元ミュリアの捜索も同時進行だが……どうも、今のミュリアが気になる……良からぬ気配がするからな」

 確認をとった時空神様とオーディナル様の今後も決定したようです。
 そうですね……今のミュリア様も奇妙な感じでしたし、元ミュリア様のことも気になりますよね。
 何というか……嫌な予感というのでしょうか、奥底で蠢くモノの気配を不気味に感じます。

「主神オーディナル……1つ確認したいことがある」
「何だ」
「外を巡る魂は倫理を犯せば輝きを失うと言っていたが……絶望して自ら死を選んだ場合はどうなるのだろうか」

 ベオルフ様の問いかけに胸が嫌な音を立てた気がしました。
 とても痛いところを衝かれたような感覚に近く、震えてしまうくらい動揺している自分に気づきましたが、何故そんな状態になっているのかもわかりません。
 我知らず両手を痛いくらい握っていた私の手を包み込むように、大きな手が添えられます。
 ベオルフ様が「大丈夫だ」というように握りしめてくれるところから、あたたかな何かが流れ込んできて、ホッと息がつけました。

「絶望して自ら命を断つほど闇に染まった魂は、一瞬にして輝きを失いかねない。大きな結晶を持つ者であれば数回はそれでも輝きを保てるかもしれないが、基本的に一瞬にして力を失うと考えたほうが良いだろう」

 するりと指を絡めて強く握られたベオルフ様の手を握り返し、私は言葉を無くしてオーディナル様を見つめます。
 何故私だったのか、何故私が『絶望して自らの命を断つ』ことを望まなければならなかったのか……

 心は荒れ狂うようにうねりますが、それをベオルフ様の手を強く握ることで鎮め思考をクリアにし、つらいから、悲しいからと言って思考を止めることはしません。
 ようやくわかったのですもの……!
 ベオルフ様の問いかけで全てが繋がり、相手の目的が見えてくる。 
 絶望して死ぬことにより輝きを失い闇に染まった私の魂の核となっている結晶を、彼らは何らかの理由により狙っていたのだと知った瞬間でもありました。

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