上 下
179 / 558
第五章 意外な真実と助っ人

招かれざる客は……

しおりを挟む
 
 
 眠りに落ちた後、ゆっくりとどこかへ向かっている感覚がして、それに身を任せていると……ごつんっ!と額にとんでもない衝撃を覚えます。

「痛っ!」

 その痛みに慌てて目を開き、自分の進行方向を邪魔している障害物を見て、その禍々しさに言葉を失いました。
 なんですか、この黒い結晶……みたいなもの……ですよね?
 それにしては、なんだかどす黒い感じがします。
 良くないものだと本能的に訴えかけるものがあり、私は恐る恐るそれに触れて見ますが、思った以上に強度がありそうでした。
 手で叩いて壊すことは難しいでしょうが、蹴る……いえ、体当たりならなんとかなるかも?

 そうと決まれば、助走をつけてっ!

「えぇーいっ!」 
 
 体に硬質なものが当たる感触と共に、それが砕けて行く手を阻む物がなくなったことに喜んでいると、ぐるりと世界が反転した。
 壁であったと思っていたものが、実は床でした!なんてオチはいりません!
 こ、これでは落ちてしまいますっ!

「え、えっ!?空洞になっているなんて聞いていませんーっ!」

 私の絶叫が空洞にこだまして、落下する浮遊感に体を竦ませ襲いくるだろう衝撃に身構えていると、地面とは違う安堵感を伴うものに包み込まれ、反射的に助けてくれたのが誰であるか理解しました。
 本当に私が困っていると、決まって助けてくれた手のぬくもりを忘れるはずがありません。
 落ちないように首筋にすがりつき、体を支えてくれる腕の力強さに安堵します。
 暫く大人しくしていた私も、沈黙に耐えかねてソロリと視線を上げると、案の定、全く動かない表情でベオルフ様が私をジッと見つめていました。
 こういう時は、何かおっしゃってくれないと……こ、困りますよ?
 恥ずかしいじゃありませんか。
 これは状況を説明しなければ、私がまた何かやらかしたと呆れられてしまうパターンです。

「わ、わざとでは無いのですよ?ベオルフ様のところに行こうとしたら、壁みたいなものに思いっきり額をぶつけて、何か良くないものを感じたものですから急ぎ壊そうとしたんです」
「そうか、そのようなものが覆っていたのか……額は大丈夫なのか?痛みは?」

 心配そうに私のおでこを見つめて少しだけ眉間にシワを寄せたベオルフ様の表情から察するに、赤くなっているのかもしれませんね。
 ベオルフ様は、私が傷つくことを異様に嫌いますから……だ、大丈夫ですよ?
 すこーしヒリヒリしているだけですもの。

「だ、大丈夫です。覆っていたものは、硬質で真っ黒な物質でした。それを体当たりで壊したまでは良かったのですが、同時に世界がぐるんっと回って落下してしまったのです……だ、だから、わざとでもドジでもないですからね?」
「ほう……」
「ほ、本当です、信じてください!」

 今しがたあったことを必死に説明することにした私は、あまり信じてもらえていない様子の返答を聞き、どうしたら信じてもらえるのか必死になりますが、彼はわかっていると言いたげに、口元をジッと見ていればわかる程度の変化しかない笑みを浮かべる。
 な、なんだ……さ、最初からわかっていたのではありませんか。
 必死に説明していた私が恥ずかしいです。
 照れ笑いを浮かべながらベオルフ様にお礼を言うと、彼は私をゆっくりと地面におろしてくれた。
 それから怪我がないか確認して「自分のことに関して無頓着過ぎる」とお小言をいただき、心から心配してくれる彼に胸がじわりと熱くなる。
 だって……こちらでこんなに心配してくれる人がいたという記憶までも、あの忌々しい呪いに奪われていたのだと理解したから───
 こんなに心を砕いて、私のことを考えてくれていた。
 なのに、どうして1人だと思えたのでしょう……それが悔しくて哀しい。
 そんなことを考えていると悟らせないように笑顔を浮かべ「やっぱり、お兄ちゃんです」というと、彼は全てを見通すような静かな瞳で私を見て、その大きな手で頭を包み込むように優しく撫でてくれました。

 かなわないなぁ……と思っていたことは口に出しませんが、伝わっているかもしれないですね。

「ちょっと……なんでアンタがこんなところにいるのよ!」 

 え?
 和んだ空間を引き裂くような第三者の声に驚いていたら、ベオルフ様が視線を鋭くさせて声がしたほうを見るので、その視線を辿ると……そこには、意外な人が立っていました。
 ピンク色のふんわりとした髪と、新緑の瞳。
 一見すれば、守ってあげたくなるような華奢で儚い体つきの彼女───ミュリア・セルシア男爵令嬢が敵意を剥き出しにして私を睨みつけています。
 はて……どうしてミュリア様がここにいるのでしょう。
 ベオルフ様に「お邪魔でしたか?」と問いかけると、心底迷惑だと言わんばかりの態度で、彼女がここにいることを快く思っていないようでした。
 私とベオルフ様が話をしている様子を見つめているミュリア様は、まるで仇敵でも見るかのような鋭い視線で私を睨みつけてきます。
 そうですよね、貴女にとって私は厄介者のようですものね。
 私だけに何かをするつもりであれば問題なかったのですが、ベオルフ様を巻き込むということであれば話は別ですから、受けて立ちましょう。
 それに、今までの私と思われても困りますもの。

「何の御用でしょうか。ベオルフ様と先約があったのはわたくしなのですが……」 

 こちらから声をかけると、彼女は鬼のような形相で口を開き「セルフィスがいながら、ベオルフ様にも粉をかけていたのね!」と、わけのわからないことをおっしゃいました。
 意味がわからないし、婚約破棄された身の上だということと、ベオルフ様は友人であり、兄代わりでもあると伝えた上で、憶測で物を言うのはやめたほうが良いと忠告したのですが、聞いているかどうかもあやしいですね。
 しかし……彼女はこんなに品のない行動を取る方だったでしょうか。
 もっと淑やかであったイメージでしたが……いえ、強かさは以前からチラチラと見え隠れしておりましたし、これ見よがしの嫌味を言われたことはありましたけど、この変化は異様とも感じられます。
 いつものように、根暗だと言われても心が動くこともなく、傷つくこともありません。
 昔の私とはもう違うと自信を持って言えるからかもしれませんね。

 彼女に感謝していることがあるとするならば、セルフィス殿下を私から遠ざけてくれたことでしょうか。
 今思えば、何故付かず離れずの距離を保とうとしていたのか理解に苦しみます。
 婚約者だったから……?
 そういわれたら、それまでなのですが……外的要因によって、完全に離れることが無いように操作されていたフシがあります。
 今だったら、熨斗つけてミュリア様に差し出しますし、返品不可でお願いしたいくらいですもの。
 あ……もう既に持っていってくださいましたものね。
 セクハラ三昧の第二王子殿下は、貴女が責任を持って監視していてください。
 愛し合っているといっていましたから、心配しなくても大丈夫でしょう。
 そう考えていた私は、次の瞬間、彼女の口から放たれた言葉に耳を疑いました。

「ベオルフ様が私の想いを受け取ってくださらないのは何故です!貴女が邪魔しているからでしょうっ!?」

 え?えっと……え?
 あの……もう一度言ってくださいというにはあまりにも衝撃的で、二度も聞きたくありません。
 冗談ですよね?
 本気ではありませんよね?
 心のなかで僅かな希望にすがりながら、彼女に疑問を投げかけます。

「セルフィス殿下とは破局したのですか?」
「変わらず彼は私を愛してくれているわ」
「今の言葉が事実でしたら……市中引き回しの上、打ち首獄門ですけどいいのですか?」
「は?」

 いえ、は?って言いたいのはこちらですよ?
 なんて考えていたら、ベオルフ様からジッと呆れたような視線を受けて、なにか変なことを言ったかしらと考え……
 あ!『市中引き回しの上、打ち首獄門』って、時代劇が好きな人にしか通用しませんよね。
 これは失敗です。
 前世では祖父母と一緒によく時代劇を見ていたので、その影響で咄嗟に出てきた言葉がコレだったとか……さ、さすがに無いですよね。

「あ、すみません。つまり、頭と胴体がサヨナラしますけど……」
「聴衆の前で斬首の刑に処されると言ってやれ」
「さすがにストレート過ぎて、ショックを受けるのではないかと考えて言ったんですよ?」
「言葉を選んでソレか……まあ、相手が相手だけに、いらん気を回す必要はないだろう」

 ベオルフ様の容赦ない言葉に、これは何かあったな……と感じました。
 騎士という家柄であるためか、基本的に女性に優しい彼が冷たい対応を示す彼女に心底同情……いえ、きっとこうなる何かがあったのでしょう。
 だったら、同情する余地がないかもしれませんね。
 とりあえず、彼女は一般常識的なところが欠落しているのかもしれないと心配になり、グレンドルグ王国ではごく一般的なことを語って聞かせました。

 オーディナル様の教えで、一夫一妻制を取っているグレンドルグ王国では、浮気や不倫に関してとても厳しい罰則を設けております。
 それは、権力を持つ者ほど厳しく、現在、ミュリア様はセルフィス殿下の妻になる可能性があるため、関係を清算することなく他の男性に言い寄れば、とても重い罪に問われることになる。
 正直に言えば、これは幼い子供でも知っている一般常識であった。
 だから、ミュリア様が知らないのはおかしいのだ。
 学園にも通っていた彼女が知らないなんて、誰に主張したところで通用しない。
 しかも驚いたことに、セルフィス殿下と肉体関係があったとベオルフ様から驚きの発言が飛び出し、私は「ええええーっ」と内心驚きの声を上げましたが、ソレを知ってしまった彼の心中を察すると、同情したくなりました。
 現在、ミュリア様の立場は第二王子妃(仮)ということらしく、誘拐未遂事件のことと私が神の花嫁だという噂が広がったために、万が一を考えて幽閉状態なのだということでしたが、思い通りにいかない憤りを発散するために、城の備品を壊したり、人々にあたって暴れたりしているのだとか。
 本来なら、それだけでも厳しい処分がくだされそうですが、さすがに王族に名を連ねるかもしれないこともあり、周囲の方々が我慢しているようでした。
 理不尽すぎます……ミュリア様。
 さすがに物語のヒロインでも、やっていいことと悪いことがありますよ?
 そのことでベオルフ様に厳しく叱責された彼女は、不満げに鼻を鳴らしたあと、私とベオルフ様を交互に睨みつけました。

「そんなのどうでもいいのよ。貴方たちは夢の中の出来事を覚えていられないようになっているのだから、問題ないわ。そうあの方が言っていたし」
「あの方?」

 誰のことでしょう。
 この方の話は、言いたいことだけ言っているような感じがして、会話とは言えないようなものが多い気がします。
 同じ人間のはずなのに意思疎通が難しく、宇宙人にお話をしているような感覚さえ覚えました。
 ああ、そういえばセルフィス殿下もそういうところがありましたね……そんなことを思い出していた私は、少し遠い目をしていたかもしれません。

 その時でした、何かぞわりとした物を感じ、慌てて周囲を伺います。
 なにか良くないものが近づいてきているような感覚に、身震いがしてベオルフ様のそばに体を寄せました。
 言いようのない不快感を伴う寒気は治まらず、新米時空神のルーペと神石のクローバーが一体化したペンダントを握りしめます。
 それでも不安だったので、思わずベオルフ様の袖口を握りしめてしまいました。
 彼は何も言わずに、耳障りなミュリア様の負け惜しみのような言葉の羅列を聞き流し、私を気にかけてくれます。
 周囲の気配を探っていたのですが、何かの気配がそれを遠ざけるのを感じ、それでも警戒していたらオーディナル様の気配を一瞬だけですが感じ取れ、あ……オーディナル様が動いてくださっているなら安心だと、体に入っていた無駄な力を抜きました。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。