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第四章 心を満たす魔法の手

オーディナル様のアイギス

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「オーディナル様の力を、この指輪から感じます」

 私がそう言った瞬間、そこかしこから「は?」「え?」という驚きと疑問の声がこぼれ落ちました。
 誰もが疑問を覚えるはずです。
 どうして、オーディナル様の創った物がテオ兄様の指にはまっているのでしょう。

「アーゼンラーナ、まさかとは思うんだが……白と黒の全部オーディナルの作品とか言わねーよな」
「少なくとも、ラングレイとクルトヘイムに伝わる物は、どちらも神鉱石で出来ておる。それを扱うことができるのは、父のみじゃ」

 なるほど……そういう理由からも、オーディナル様が創った物であると言い切れるわけですね。
 気がついて嬉しいと言わんばかりの、喜びに満ちた笑顔でした。
 もしかして、今までは口外出来なかったのですか?
 父の偉業を伝えられず、不満だったとか……?

「父の愛し子であるルナであれば、触れるだけで良かろう」
「……え?」

 な、なんか……すごくプレッシャーのかかる一言をいただきましたよっ!?
 イーダ様の浄化で良いのではないでしょうか。
 しかし、指輪にまとわりつくモヤも気になりますし……
 リュート様を見上げると、彼は黙って頷き私を手のひらに乗せて、指輪に近づけてくださいました。
 うう……なんでしょう、このモヤ……えいえいっ!と翼で払ったら、それを嫌がるように避けていきます。

「何やってんだ?」
「黒いモヤみたいなのが嫌な感じなのです。もう……まとわりついちゃいけません。消えなさい、えいっ」

 黒いモヤを翼でぺちっと叩きそこなって指輪をペチリと叩くと、瞬間、信じられない光が炸裂して、全員が言葉を失いました。
 え……えっ?

「な、何っ、今のどうしたのっ!?リュート、ルナちゃん無事っ!?」

 まずは弟の心配をするロン兄様が流石です。
 おかげで冷静になれました。
 周囲を見渡せば、庭で訓練中だった黒騎士様たちも各々武器を持ち戦闘態勢で部屋に入ってきていますし、キュステさんやセバスさんも急いで駆け込んできて、ちょっとした大騒ぎです。
 とりあえず、テオ兄様の指にはまっている指輪に視線を移すと、黒いものが綺麗サッパリ消えていて、指輪もなんだかピカピカになったような?
 黒と青っぽい銀の指輪は、どちらも澄んだ色を取り戻して黒い素材が真っ黒というわけではなく、艶っぽい黒でガラス質な感じがする透明感も持っていることに気づきました。
 誰もが言葉を出せずにいる様子をどうしたらいいのかわからずに戸惑っていたロン兄様は、全員の視線がテオ兄様の手元にあるのだと理解し、同じように覗き込みます。

「あ、あれ?テオ兄のアイギスって、そんなデザインだった?」
「いや……今しがた……変化した」
「え……どうして?」
「ルナが触れたら、違和感が消えたと同時に光を放ち変化したのだ」

 先程よりもオーディナル様の力を強く感じられるようになった指輪は、テオ兄様にとても馴染んでいるように見えました。
 何気なくロン兄様の左親指を見ると同じような指輪があり、デザインは違うようですがオーディナル様の力を感じる物です。
 この指輪って、一体何なのでしょう。

「父上が創ってからずいぶんと長い時間、魔物の放つ魔素を浴びてきたのじゃ。浄化しきれぬものが蓄積していてもおかしくないじゃろう。もしかしたら、父上が己の代わりにルナに頼んだのかもしれぬ」

 以前、魔物の魂の源であるという『魔核』については聞きましたが、新たな単語である『魔素』って……と首を傾げていると、リュート様が『魔素とは、魔核から放たれる毒素みたいなもので、人や神には有害なんだ』と教えて下さいました。
 称号を持つ者は総じてその魔素に耐性を持つようですが、称号を持たない一般の市民では、魔物に攻撃されただけで魔素により体調を崩し、下手をすれば命を失う危険性もあるのだとか。
 それもあって、強い魔物は優先的に討伐されることになっている。
 特に、神族は魔素の影響を受けやすいとのことでした。

「妾たち神族は、それ故に直接魔物を討伐することが出来ぬ。己の力を糧とされ、魔素に蝕まれて力を失う可能性があるのじゃ」

 力を満たすために糧とされる神族。
 腹を満たすために糧とされる人間。
 この2つの種族はとてもマナ性質も近いため、お互いに手を取り合ったのは自然の流れだったのだろうとリュート様が教えて下さいました。
 魔物にとっての誤算は、捕食する対象者が協力体制を築き上げたことにより、劣勢に陥ったことだねとロン兄様の補足説明も入り、なるほどと納得してしまいます。

「それまでは、儂ら竜人族を警戒しておればよかった奴らが、神と人の共同戦線に慌てふためくさまは見ものじゃったな。人と神を食らうことで力をつけていた強力な魔物は片っ端から封印され、未だに出て来れんのじゃから」

 当時を見てきたアレン様が楽しげに笑い、愛の女神様も思い出して「アヤツらの慌てふためく姿は見ものであったな」と鈴を転がしたような声で笑う。
 もう、1000年も前のことだろ……と、リュート様の小さな呟きに、ちょっぴり目眩を感じました。
 以前お話されていた古代魔法の件や魔物のこともあり、神と人間が手をとりあった……全ては偶然であり、必然であったのかも知れません。

「アイギスも当時創られた物じゃから、長年蓄積されたものがあるのやもしれぬな」
「まあ、流石にガタが来ておっても不思議ではなかろう」

 愛の女神様とアレン様の言葉に、全員の視線がテオ兄様の指輪に注がれます。
 今は消え失せて見えませんが、私が見る黒いモヤとは少し質が違いました。
 しかし、最近はこういう物がよく見えるようになってきましたね。
 それだけ、リュート様の魔力譲渡で私の中の何かが変わってきているということなのでしょう。

「ふむ……」

 テオ兄様は何かを思いついたように、少しみんなから距離を取ります。
 魔力の流れを感じたと思った瞬間、指輪がみるみる変化し手の甲から肘までを覆い、大きな盾が出現しました。
 え……えっ!?

「スムーズに行えるようになったな」
「速いね……」

 テオ兄様とロン兄様が驚き、アイギスという物が変形した部分を見ていますけど……え、えっと……あの……アイギスって……な、何なのですかっ!?

「ああそうか、ルナは知らねーわな。アイギスは黒と白の騎士団に代々伝わる鎧なんだ。魔核を捧げることで、己の鎧たるアイギスを得る。それを得て、はじめて一人前なんだ」

 形態変化があるんだ、すげーだろ?とリュート様が悪戯っぽい笑みを浮かべて言うのですが……そ、それってRPGとかでいうラスボスっぽいっですよ?
 通常形態が指輪……というのは、ラングレイの家のみで、守護騎士の家であるクルトヘイム家には腕輪が代々受け継がれているのだとか。
 初期状態が違うだけで、どちらも形態変化は変わらない。

 第一形態 篭手
 第二形態 ライトアーマー
 第三形態 フルプレートアーマー

 という具合らしく、用途にあわせて形態変化を行える便利な防具なんだとか……って、一々着脱しなくて良いのは助かりますよね。
 黒騎士様たちは装備を解除するのが大変そうでしたもの。
 それでも私の世界の人たちよりもスムーズというか、かなり手軽に着脱出来ていたみたいですが……

 そんなことをリュート様とお話している間に、テオ兄様は次々に形態変化を経て、第三形態になると軽く体を動かしてみて、口元をほころばせました。

「いつもより調子が良い」
「まさか、鎧の影響だったとはね……」
「それだけこの鎧に守られているということだ」

 どうやら最近テオ兄様は不調だったようで、何が原因なのか調べていたところだったみたいです。
 良かった……
 ということは、ロン兄様やお父様……いえ、リュート様のアイギスも同じような状態なのではっ!?
 いけません、それはダメです。
 ちゃんとテオ兄様のような状態にしなければ!
 急ぎロン兄様の手元を見ると、テオ兄様ほどではないのですが、やっぱりモヤがかかっていました。
 リュート様の肩からちょんちょんと動いて、リュート様の近くに立っているロン兄様の指輪に翼を伸ばします。
 触れた瞬間、テオ兄様のときと同じように光が放たれ、黒いモヤは消失しました。
 うんうん、うまくいきましたね。

「ありがとう、ルナちゃん。でも……大丈夫?体は……」

 平気ですと答えようとして、猛烈な眠気が襲ってきたのを感じます。
 あ……これは平気ではなかったかも……ですね。

「少し……眠い……です……」
「力を使いすぎたようじゃな」

 止める間も無かったわと愛の女神様が苦笑を浮かべて私の頭をよしよし撫でます。
 いけない……これは、少し長く眠っちゃいそうですね。
 リュート様に、また心配をかけてしまいます。

「リュート様……少し……眠っちゃいそう……です」
「ああ。ありがとうな、ルナ。俺の兄たちを守る力になってくれて」
「いいえ、力になれて……嬉しい……です……」

 ああ、そろそろ呂律も怪しくなってきました。
 でも……ちょっぴり離れたくありません。
 私が落ちないように手の上に乗せようとしたリュート様の手をかいくぐり、ちょんちょんと動いてリュート様の胸元へダイブ!
 体のサイズを少し小さくして目測通りの場所に入り込み、もぞもぞと体を動かし居心地を確かめた私は、ここがいいと言わんばかりに頭だけぴょこりと出しました。

「何故胸ポケットにIN……やべぇ、可愛い、すげー可愛い……」
「離れたく……なかったのです」
「そ、そっか……えっと……そう……なのか」

 ここからだとリュート様の表情を伺うことは難しいのですが、ぬくもりを感じられて安心。
 布地がごわごわしていないから、とても快適ですし、ほら……リュート様が指先でくりくり頭を撫でてくれるので、とっても幸せな気持ちになれますもの。

「うわ、いいなリュート様!俺もポッケINしてほしい!うわぁ……」

 失言くんの元気の良い声が聞こえましたが、さすがにリュート様以外にはしませんよ?
 私にはリュート様のおそばが一番なのです。
 眠たくて呂律があやしい口調でそう伝えると、ピクリとリュート様の体が反応したような気がしました。

「リューがベリリ……」
「チェーリーシュー」
「ルーはおねむなの?」
「力を使いすぎたせいだな。うとうとしているようだ……」
「可愛いの」

 私が眠りに入りそうなので、声を抑えたチェリシュの心遣いが嬉しいです。
 本当に心優しい子ですよね。

「リュート様……少し……長い眠りに……」
「ああ、大丈夫だ。回復のための眠りだとわかっているから、気にしなくていい。ポケットでいいのか?」
「はい、できるかぎり……そばに……いたい……です」
「お、おう……わかった」
「リュート様のそばに……いると……安心……あったか……ふわふわ……しあわせぇ」

 思いつく限りの単語を口にしてみると、「そうか」と嬉しさをにじませた彼の声が聞こえてきて、こちらまで嬉しくなってしまいます。

「眠っている間に魔力譲渡も済ませておく。多めに渡しておくから、ベオルフによろしくな」
「はい」

 今日は目覚めないとわかっているのでしょうか、でも……それだけ深く眠ってしまいそうだと感じておりますから、リュート様も同じなのかも知れません。

「ルナの手は、本当にみんなを守ってくれる、優しい手だな。ありがとう……ゆっくりおやすみ」

 リュート様のあとに、みんなからも「ありがとう」と「おやすみ」という言葉をいただきました。
 優しい声と言葉に包まれながら、私を労るように撫でてくれるリュート様の手こそ、私を満たしてくれる魔法の手のように感じます。
 孤独を癒やし、心を光で満たしてくれる……
 みんなを守ってくれているのは、貴方の手です。
 本人は気づいていないみたいですが、起きたらまずはそれを伝えようと心に誓いました。

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