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第四章 心を満たす魔法の手

いつの間にか通じていました

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 レシピを全部作り終えた私は、全員に配らなくては……と、今度はコピー作成に移ります。
 全員分を確保しないといけませんものね。
 ぴょんぴょん飛び回ってレシピを作っていると、何故かみんなが和んだ様子で見ていたのが気になりましたけど、こちらはそれどころではなく必死です。
 結構な量ですもの!
 リュート様が用意してくれる用紙にぴょんっと乗っては魔力を流す作業が、思いのほか大変でヘトヘトになりそうでした。
 何とか全員分用意ができ、作業がようやく終わって一息つきます。
 リュート様がレシピをまとめてトントンしている姿がこなれているというか、慣れている感じがしてジッと様子を伺っていると、テーブルの上にまとめられたレシピがとても綺麗に整頓されていることに気づきました。
 やはり、社会人だったころの癖ってこういう時に出ますよね。
 枚数があっているか、指サックをつけていないのに指で綺麗に紙をめくって素早く数をチェックしていると、サラ様とアレン様が感心した声をあげました。
 リュート様は気にした様子もありませんでしたが、こちらの書類管理されている方は、紙の枚数を数えるときってどうされているのでしょう。
 一枚一枚めくって数えていたら、かなり時間がかかりますが……
 しかし、リュート様は仕事ができる人だったのでしょうね。
 テキパキした動きがそれを物語っていました。
 社会人のリュート様……見てみたかったです!
 スーツ姿も似合うでしょうし、リュート様のような上司だったら、お仕事も残業も休日出勤だって頑張っちゃいますね。
 そして、「頑張ってくれてありがとう」なんて言われたら……それだけで仕事を頑張ってよかったーって喜びを噛み締めちゃいます。
 残業で夜のオフィスに二人きり……とか、も、もう……ドキドキしちゃいますよね!
 思わず翼で目元を覆って内心「きゃーっ」と悲鳴を上げて悶えてしまいました。

「どうした?あぁ、魔力使って疲れちまったのか。ほらおいで」

 綺麗にまとめられたレシピ越しに手を伸ばして私を拾い上げたリュート様が、優しい笑顔で私をねぎらってくださいました。
 リュート様のためなら、あと100枚でも頑張れます!

「がぅ」

 何ですか、いままでおとなしかったのに、呆れた声で「またやってる」とか言わないでください。
 主を好きなのは、あなた方だって同じでしょうに。

「にゃーぅ」

 そうでしょうそうでしょう。
 私たちみたいに仲の良い主と召喚獣はそんなにいませんよね。
 ファスはよくわかっていますが、ガルムは不満そうです。
 しかし、どうしたのでしょう……この子たち、どこか疲れているような?

「がるぅ……」
「にぅー」
「え?体がだるいのですか?病気にでもなったのでしょうか……うーん……風邪かしら」

 困りましたね。
 体調が思わしくないということは、魔力譲渡がうまくいっていないとか?
 ふるふるとレイスが首を振って「そうじゃないよー」と言っているので、何か他の原因が……

「ルナ?」
「はい、なんですか?」

 恐る恐るリュート様に声をかけられた私は、彼の戸惑ったような瞳を見つめて首を傾げます。
 どうしたのですか?
 あ、もしかして、リュート様には原因がわかったとかっ!

「ガルムとファスとレイスと……会話しているのか?」
「はい、何だか体がダルイって言うのですが、風邪でしょうか」
「召喚されて明日で一週間になるから、早い奴だったら第一変調が出る頃だな。マナの書き換えが上手く行っていたら、少しだけ体が重くなったりダルくなったりする傾向にある。それがなくて、反対に元気いっぱいだと上手くいっていない証拠だから、魔力調整の回数を増やす必要があるんだ」

 へぇ……そんなことがあるのですね。
 あれ?
 私は元気ですから、回数を増やさなければなりませんか?

「ルナの不調も、第一変調の影響が出ている可能性がある。だから、できるだけ大人しくしていてくれ」
「はい、わかりました」

 なるほど、前回の騒動だけが原因での不調ではなかったのですね。
 納得している私の頭を指先でくりくり撫でていたリュート様は、コホンッと咳払いをしてから改めて声をかけてきました。

「なあ、ルナ。ガルムたちの言葉がわかるのか?」
「え?……あ……ああぁぁぁっ!」
「お、おっと!」

 驚きすぎてころりと転がった私をリュート様がキャッチです。
 あわわわ、い、いつの間に私は彼らと会話が出来るようになっていたのですかっ!?

「がう?」
「にゃにゃにゃっ!」
「っ!」

 3人共、今気づいた!というように跳ね起き、わーいわーいと私の周りで跳ね踊ります。
 私も一緒になってぴょんぴょん跳ねていたら、チェリシュがきゃーっと言って混じってきてさながらお祭りですね!

「ヤバイ可愛い、マジで可愛いというか、お前ら落ち着け、フラフラしているのに落ち着け、おーちーつーけー!ルナもダメだろっ!?」

 ひょいっと拾い上げられて、目線をあわせて「メッ」と言われますが、嬉しかったのでつい……ご、ごめんなさい。
 ペコリと頭を下げて謝罪をしていたら、リュート様の体にチェリシュだけではなく、ガルムもファスもレイスも登ってきて、「遅い!けど、やっと話せるようになった!」「うれしいっ」「やっと通じたー!」と次々に言葉を投げかけてきます。
 どうやらこの子達の間では既に会話が出来ていたようで、元気いっぱいお話中。

「ガルム、戻ってこい。リュートに怒られるぞ」
「本当にこの悪戯っ子は……ごめんなさいね」
「ほら、レイス。嬉しいのはわかったから、こっちへおいで」

 それぞれの主に呼ばれて戻っていくのですが、何だか急に元気になりましたね。
 しかし、それも束の間だったようで、再びぐったりしております。
 一時的にテンションが上っただけだったみたい……だ、大丈夫でしょうか。

「まあ、普段より少し多めに魔力を渡していれば、回復も早くなるだろう。ルナにも多めに渡しておく。あ……沢山渡しておこう」
「過保護過ぎるのではないか?」

 レオの言葉にリュート様は首を振ります。

「ルナだけなら普段より多めでいいが、ベオルフの件がある。互いに生命線だといわれる相手なんだ、そっちも守らないとルナを守れない」
「リュート様……ありがとうございます」
「いや。本来は俺がやりたいことを、ベオルフがやってくれてんだから、できるだけサポートしてやりたい」

 リュート様に気遣いに感謝しながら、ぐったりしてしまったガルムたちを眺めました。
 私が彼らのようになっていないのは、もしかしたらベオルフ様のおかげなのかもしれません。
 足りないものを補給してくださっている……何が足りないのかわかりませんが、二人で居ると感じる何かに近い気がします。
 まあ、それが何であるか全くわかっていないから、謎掛けみたいですよね。

「その方、本当に大丈夫ですの?あの呪いは多少の魔法抵抗があったとしても、影響を受けるはずですわよ?」
「ベオルフ様自身が持っている力なのか、近くにある呪いの効果を無効化しているので、その点は全く問題ないかと思います」
「無効化?あれだけの呪いを……ですの?こちらの世界でも、そんな存在は居りま……」

 いないと言おうとしたイーダ様は、一瞬考え込み……そして頸を振りました。

「いえ、今は居ないというべきでしょうね。昔は居たのですから」
「そうだな……しかし、奴であったとしても跳ね除けられるものか?」
「……難しいと思います。相手の呪いは巧妙ですし、私でも浄化が出来なかった代物ですわ」

 レオ様とイーダ様の会話を聞きながら、リュート様は会話に口を挟まずに何か考えている様子でしたが、フッと気にかかったことがあったのか、急に違う方向を見て眉根を寄せます。

「テオ兄、指輪がどうかした?」
「鋭いな……少し違和感がある」

 私と背中に張り付いているチェリシュを連れてテオ兄様の方へ移動したリュート様は、テオ兄様の左親指に装着されている重厚な作りの指輪を眺めます。
 肉厚な指輪の中央にあるモチーフは……角がある魔物っぽいものですね。

「使いすぎみてーだな。大物を相手にしてきた感じ?」
「少しな」

 よくよく見ると、テオ兄様の指が奇妙なモヤを振り払おうと淡く輝いておりました。
 何でしょう……オーディナル様の力の輝きに似ているような?
 でも、その力が弱まっている感じですね。

「魔力補給が上手く出来てねーな。魔素を浴びすぎたか」
「浄化いたしましょうか」

 イーダ様の申し出にテオ兄様は「すまない」と言うと、イーダ様が浄化のスキルを使うために立ち上がったのですが、それを手で制した愛の女神様が私に声をかけます。

「ルナ。そなたにはアレに何か感じぬか?」

 目がキラキラしている愛の女神様を見れば一目瞭然。
 わかっておりますとも、お父様であるオーディナル様のお力で創られた物ですよね、アレって……ていうか、どうしてオーディナル様が創造した物が、ラングレイの家にあるのでしょうか。
 疑問はつきませんが、このまま放っておいたらマズイということだけは理解しております。
 お母様が心配そうに私を見ていらっしゃいますので、大丈夫と安心させるようにリュート様の肩に移動し、翼を広げてぴょんっと一回跳ねました。
 大丈夫です、お母様。
 だって、オーディナル様の力は、私を傷つけたりしません。

『僕の愛し子を傷つけるなんてとんでもない』

 そんな声が聞こえてきそうだなと、私は思わずくすりと笑ってしまいました。

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