悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第四章 心を満たす魔法の手

リュート様の提案

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 とりあえず、うどんとピザのレシピは時間がかかりそうなので、今作成したレシピのコピーを4人分作成することにした私を見ていたボリス様は、リュート様に「そろそろいいかな」と言い、何やら話し込んでいます。
 最初は興味深げに聞いていたリュート様でしたが、だんだん何かを考える様子を見せ、完全に沈黙して自分の考えに没頭し始めてしまいました。
 うわ……そ、その考え込んでいる姿が、とんでもなくカッコイイです!
 キリッとした目元、口元を覆う大きな筋張った手、視線が正面から左斜下へ移動する様……な、何故それだけなのに、奇妙な色気が伴うのでしょうか。
 仕事モードになった男性って、見ているだけでカッコイイ! ってなりますけど、それがリュート様だと、私の心臓がドクドクうるさくなるくらいの衝撃を受けるから不思議です。
 彼の地球のような色合いの瞳が神秘的に輝くところも素敵ですし、そ、その口元を押さえている手が魅力的で……リュート様の挙動ひとつひとつに鼓動が跳ねてしまいそう。
 い、いけません。
 私は私で集中しないと!
 
「じゃあ、まずは実物大を見せてくれねーか」
「わかった。そこに出すね」
 
 そこ?と全員の視線がボリス様の指し示す場所に向いたと同時に、床に小さな術式が浮かび上がります。
 リュート様ほど緻密ではありませんが、それでも他の方々よりは作り込まれている感じがしました。
 とはいえ、私が参考に出来る術式は少なく、リュート様か黒騎士様たちですから……比べる次元が高いかもしれませんよね。
 黒騎士様たちも、スペック高そうですもの!
 暫くして術式が放つ光の中から現れたのは、チェリシュくらいの大きさの丸っこいシルヴェス鉱で出来たウサギのぬいぐるみみたいな外見を持つ物体。
 エプロンドレスを着ていますよ?
 真っ白で目が黒で可愛いですね。
 口がバツマークなのは、某有名キャラクターを思い出しそうですが、この子は目がまるっとして大きく、ほっぺの赤みも可愛いです。
 
「大きさはこれくらいでいい?」
「外見もう少し可愛くできねーの?」
「そこっ!? 注文はそこなのっ!?」
「ルナの商品を扱うゴーレムがごっつくて可愛く無いなんて、俺には許せん」
「こだわるところはそこでいいんだ……」
 
 リュート様の言葉にボリス様が脱力したようにハハハッと乾いた笑いを浮かべ、ガックリ肩を落としました。
 ま、まあ……そうなりますよね。
 でも、ぬいぐるみみたいに可愛いこの子がゴーレム……もっとずんぐりむっくりして大きな物が出てくるかと思いました。
 
「だいたい、リュートのデザインをなるべく忠実に再現したんだけどっ!?」
「ふわふわじゃねーのな」
「待って、それはもうちょっと待って。いま外側の防護膜を加工中で、それをふわふわにする予定だから。これは素体、中身なの」
「ふーん?手はこれでつかめるんだな?」
「大丈夫、これはどういう仕組みかわからないけど、神々が創った部分だから問題ないはず」
 
 そうなの?とリュート様が振り返り尋ねると、ゴーレムの様子を興味深そうに見ていた愛の女神様が頷きます。
 
「そうじゃな。このゴーレムはもともと父上が、人々の嘆きを聞いて創ってくださったものじゃ。間違いはなかろう」
「あ……だから、素体がシルヴェス鉱だと相性が良いのですね」
「よく気づいたのぅ。ルナは父上のことをよく見ておる」
 
 良い子良い子と私の頭を撫でる愛の女神様と、納得というように頷くリュート様。
 1人、意味がわからないと首を傾げているボリス様をスルーして、リュート様は私にハーブソルトのレシピを一つお願いしてきたので、すぐさま作成して渡しました。
 
「レシピをどう渡せばいいんだ?」
「手に渡せばいいよ」
 
 言われたとおりにすると、うさぎ型のゴーレムはレシピを受け取ったあとジーッと見てからパクリと口にくわえます。
 バツマークの口にレシピが……もしゃもしゃいいながら食べてませんかっ!?
 美味しそうにレシピを食べたゴーレムに、リュート様はハーブソルト作成で必要なアイテムを出して並べると、ピクンッとウサギの耳が反応してテーブルの上のアイテムを使い、丁寧にハーブソルトの作成に入ってしまいました。
 
「で?これって、レシピを覚えさせたら……それしかできねーの?」
「普通はそうだよ。だから、何体ぐらい必要か聞きに来たんだ」
 
 うわぁ……それって、頼みたいレシピの数だけ、ゴーレムの数を増やすことになるのですね。
 それは途方も無い数になりそうです。
 そこでリュート様は、先程と同じように考え込んだあと、うーんと唸ってからボリス様に疑問を口にしました。
 
「ゴーレムって基本どんな感じで作られているんだ?」
「えっと……簡単にいうと、コアとなる部分と体の素材と術式で組み上げていくんだ。魔法を補給する魔石をタンクにして、起動させる。基本動作はコアにもともと組み込まれているから、こちらからはどうなっているかわからない」
「レシピをいまさっき食っていたけど、それはどういう扱いだ?」
「ああ、食べて取り込んで、本体のコアにそれを刻みつけるんだよ」
「……なるほどな。そういうことか」
 
 頭の中でゴーレムの作成イメージが湧いたのか、リュート様は納得だと頷いたあと「それじゃあ、1レシピ1体だわな」と呟き苦笑します。
 確かに、その方法でしたら……そうなりますよね。
 
「じゃあ、質問を変えよう。ボリス、メインコア以外の……頭脳の役割を持つサブコアみたいな物をゴーレムに作ることは可能か?」
「はあっ!? ……ず、頭脳って……?」
「そうだな、例えば……いまコアに刻みつけているレシピを、一時的に内蔵されたコアか魔石に刻みつけ、それを外部から取り替えることは可能かってことだ。コアには触れず、命令系統を別に作り出そうっていう提案しているんだが、どうだろう」
「ま、待って……待って、ちょ、ちょっと待って! 考えるから、少し時間をちょうだい!」
 
 ボリス様にとっては予想外な言葉だったのでしょう。
 慌てて両手を振ってリュート様の言葉を遮り、ブツブツいいながら自分の考えに入り込み、用紙やペンを取り出して何やら記入し始めました。
 これは暫く時間がかかると判断したリュート様は、うさぎ型ゴーレムを尻目に、私の傍らに立ち周囲には聞き取れないくらいの小さな声で呟きます。
 
「ハードとソフトという簡単な考え方だったんだがな……」
「リュート様……その考えをゴーレムに当てはめようとする人は、そういないと思いますよ?」
「そう?」
 
 キョトンと目を丸くして小首を傾げるリュート様の愛らしさと言ったら!
 い、いけません、まだ背中に張り付いていたチェリシュがひょっこり顔を出したタイミングも相まって、可愛らし過ぎる姿に……も、悶えてしまいそうです。
 この父娘は、時々私のライフポイントを確実に削って来ますよね!
 
「面白い考え方をするもんじゃな」
「なるほど、それが可能やったらレシピ1枚に1ゴーレムにならへんわな」
 
 リュート様の意図したことを理解したアレン様とキュステさんが頷き、お母様は目を輝かせてゴーレムを見ていたかと思うと、次にボリス様の書き込んでいる紙を覗き込み、綺麗に整えられた細い指先で数箇所指摘しては何やら呟いていらっしゃいます。
 指導が入っていますね……お、お母様……ボリス様より出来る方でしたか。
 リュート様は日本ではIT企業に勤めていたそうですから、ハードやソフトという考え方がより身近だったのでしょう。
 ゴーレムがPC、レシピがソフトなんて、同じ日本人の私でも考えつかないことでした。
 
「リュートの考え方は柔軟だね、お兄ちゃんも見習わないと」
「何を言う。お前よりも私のほうだろう」
 
 ロン兄様とテオ兄様の言葉を聞いて、照れくさそうにしているリュート様の肩に登りきったチェリシュが何故かえっへんと胸を張ります。
 その姿は、まるで父を褒められて上機嫌な娘の姿。
 可愛らしくて、ついほっこりしてしまいました。
 
「何か賑やかだったにゃ?」
「楽しそうだにゃっ」
「片付け終わったぜー」
「お待たせいたしましたにゃっ」
 
 どうやら4人が帰ってきたようです。
 ひと仕事終えた4人を笑顔で出迎えると、私の前まで来てから顔を見合わせてニッと笑いました。
 
「師匠、これからよろしくですにゃ!」
 
 ペコリと頭を下げる4人に、思わず目を丸くしてしまいます。
 し、師匠……ですか?
 
「片付けをしながら4人で呼び方を考えましたにゃ」
「マスターか師匠でわかれましたにゃっ」
「まあ、どっちも同じ意味だけどさ」
「マスター呼びも良かったのですけど、こちらにしましたにゃ」
 
 私を呼ぶ呼び方一つを4人で考えてくれたことが嬉しくて、思わずまとめてぎゅーっです!
 お礼を言って抱きしめてから頭を1人1人撫でていると、チェリシュも慌ててリュート様の肩から降り、列に参加しました。
 
「チェリシュも一緒なのっ」
「はい、チェリシュもよしよしです」
「きゃー」
 
 並べば頭を撫でてくれるのか?というリュート様の言葉に私が狼狽え、思わず振り返りますが「まあ、ご褒美のほうが良いか」と意味深に微笑まれてしまい、顔が瞬時に真っ赤になります。
 い、いけません、それはここで言わないでください。
 突っ込まれたら困る内容ですから!
 
「あ! ルーがベリリなの!」
「あぁぁ……もうっ! リュート様!」
「言ったのはチェリシュで、俺じゃないぞ」
「リュート様のせいなのですーっ」
「俺は『ご褒美』としか言ってないだろ?」
 
 それが問題発言だと言っているのにーっ!
 真っ赤な私の顔の頬を突いたリュート様は、耳元に唇を寄せ低く甘く呟きます。
 
「そんなに狼狽えたら、『ご褒美』って言葉に変な意味があるって思われるかもな」
 
 ひいいいぃぃぃっ!
 そ、それだけはご勘弁を!
 小刻みにぷるぷる首を左右に振って、それだけは駄目だという意思表示をした私を「可愛いなぁ」と目を細め、色気タップリに見つめてくれるリュート様が、私的には魔王モードのときより大変なのだと改めて感じました。
 

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