上 下
161 / 558
第四章 心を満たす魔法の手

周囲、警戒、なの!

しおりを挟む
 
 
 私を危険な目に合わせただけではなく守れなかったセルフィス殿下を、「会うことが出来たらぶん殴る」と宣言したリュート様に同調して、ロン兄様とテオ兄様が「加勢する」と言い出し、キュステさんが慌てて3人を「無理やから!世界越えたらアカン、だんさんら3人揃ったらやりそうやから勘弁して!」と制しました。
 ほ、本当にそうですよね。
 何故かリュート様たち麗しの三兄弟が揃うと、何でも可能にしてしまいそうな雰囲気があって怖いです。
 ボリス様が「なに?異世界研究するの?だったらさ、こういうのが……」と本を出してきたところで、アレン様が無言で取り上げ「禁書の類じゃ」と愛の女神様にパス。
 え……ほ、本当に禁書なのですかっ!?
 愛の女神様がくすくす笑いながら受け取っていたので、どうやら冗談みたいですね……と胸をなでおろしたのも束の間、火に油を注ぐような行為をしたためか、ボリス様はお母様に耳を引っ張られて少し離れた場所へと移動します。
 向かい合って椅子に座った状態で、お母様がボリス様に何かおっしゃっているようですが……どう見てもお説教ですよね。
 禁書とはいかずとも、かなりマズイ系の書物であったようだと察しました。

「あんな書物が存在していたんだねぇ……」

 サラ様から呆れたような声が漏れ、「術式にも詳しいのか」というテオ兄様の問いかけを聞いた彼女は、慌てて「少しだけ!」と首と手をオーバーなくらい左右に振ります。
 先程の本は術式関連の本だったのですか?
 サラ様って、いろいろ知ってますよね。
 レシピギルドにいらっしゃいましたし幅広い知識が必要となる場所ですものね、様々な勉強をされたのかもしれません。

 それにしても、サラ様……わかりやすいくらい狼狽えていらっしゃいますね。
 テオ兄様はお優しい方ですから、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?
 あと、ロン兄様とキュステさんが何やら話をしている様子が気になります。
 指折り数えている様子が見えますけど、キュステさんが何か報告しているのでしょうか。
 ロン兄様はソレを見て、一瞬だけ視線を鋭くしました。
 この二人に共通していること……
 絶対にリュート様関連ですよね。
 ナイショで情報交換している内容が気になりますので、私も混ぜてください!

 ジーッと見つめて「混ぜてー!」という思念を二人に送り続けていた私に、違うところから声がかかりました。
 私の名を呼ぶ愛らしい声の主は、チェリシュです。
 
「ルーはベリリを、ちゃぷちゃぷするの?」

 そうでした!
 振り返ると、チェリシュが大事そうにベリリの酵母が見事に育った瓶を持っています。
 リュート様の頭にコツリと当たっていますが……痛くないですか?

「待った。ベリリの酵母に手を加えるのは、もう少しあとにしよう」
「そうなの?」
「どうしてですか?」

 チェリシュとともに首を傾げていると、リュート様が周囲に指を滑らせ、クルクル回すように人差し指を動かします。

「周囲、警戒、なの!」
「ハンドサインですか」

 周囲を警戒?
 ラングレイのお屋敷で?

 意味がわからず、辺りの異変を感じ取ろうと二人揃ってキョロキョロしていると……どこからともなく良い香りがしてきました。
 これは、スープの匂いでしょうか。
 チェリシュも気づいたのか「いい匂いなの」と呟きます。

 それと同時にリビングの扉が開き、見知った顔が入ってきました。

「何だか難しい話をしている感じだにゃ?」
「お腹は減ってないかにゃ?」
「そろそろいい時間だぜっ」
「お昼を作ってまいりましたにゃ!」

 リュート様の物騒な気配に怯え、距離をとっていた黒騎士様たちから「おおっ」という歓声が上がり、キラキラと目が輝きます。
 ハードな訓練をしていたようですから、お腹がすいていたのでしょう。

 リュート様が「もう少しあとにしよう」とおっしゃったのは、お昼ごはんの時間だから先に昼食を済ませようってことだったのですね。
 カフェとラテとカカオとミルクの4人でお昼ごはんを作ってくれていたなんて、とっても嬉しいです!

「奥様がお元気そうですにゃ」
「起きて動いているだけで嬉しいですにゃっ」

 エナガの姿であっても判別できるということは、やっぱり魔力の匂いで判断しているのですね。
 どんな匂いがしているのか気になりますけど……リュート様のような良い香りなら良いなと思います。
 リュート様の香りって、本当にうっとりするくらい素敵なんですもの!
 チェリシュのベリリみたいな甘い香りも好きですし、愛の女神様のバラの芳香のような大人な女性っぽい香りも好きです。
 そういえば、ベオルフ様の香りってオーディナル様の香りに似てますよね。
 お二人共、私を安堵させる効果がある香りといえば良いのでしょうか、どんな状況であっても「大丈夫だ」と落ち着いてしまいそうな香りなのです。

「奥様のお料理にはまだまだ追いつけにゃいけど、いっぱい食べて欲しいですにゃ」
「心をこめて、いっぱい作りましたにゃっ」

 二人の言葉に嬉しくなって「はいっ!」と返事をしてリュート様の頭の上でぽんぽん跳ねていると、リュート様から苦笑が漏れ、チェリシュに「ぽんぽんなの!」と言われてしまいました。
 あ……リュート様の髪が乱れてしまいましたね。
 なでなでしていたら直るかしら。

「二人にも心配をかけてごめんなさい」
「元気なら良いのですにゃ!」
「また一緒にお料理できるようになったら嬉しいですにゃっ」

 リュート様の髪を翼で撫でながらカフェとラテに謝罪すると、二人は嬉しそうに笑い優しい言葉かけてくれました。
 その言葉がとても胸に響き、ジーンッとしてしまいます。
 本当に良い子たちですよね。

「さて、準備をいたしましょうか」

 セバスさんがムンッ!と力こぶを作って見せてから、広いリビングに設置されている家具を移動させ、昼食をみんなで取れるように準備をするようでした。
 大きなテーブルや椅子を軽々と移動させ、部屋のセッティングを行っている様子を見ていたのですが、豪快!の一言ですね。
 男性が4人がかりで移動させそうな物でも、軽々と運んでしまうのですもの。

「アイツらは別でいいだろう。こちらで食べると味がわからんとか言い出しそうだ。天気もいいし季節の花が咲き誇っていて景観もいいだろうから、気楽にできる庭に準備してやってくれ」

 リュート様の言葉を聞いたセバスさんは、黒騎士様たちを見てからニッコリ笑って「では、ガゼボへお連れいたします」と軽く頭を下げる。
 え……えっと……そんなにお庭が広いのですかっ!?
 そういえば、リュート様のお家の全貌を見ていませんけれども、とんでもなく広い可能性が……あります……よね?
 グレンドルグ王国に存在する私の家も広かったですけど、自分の部屋の外へあまり出なかったから実感がわきません。
 セバスさんが他の使用人の方々に指示を出している中、あからさまにホッとした様子の黒騎士様たちを見て苦笑が浮かんでしまいました。
 確かに、この面々と一緒に食事というのは気が休まりませんよね。
 上司だけではなく、十神である愛の女神様と前竜帝陛下も一緒なんですもの。
 折角カフェたちが準備してくれたお料理ですから心から味わって欲しいですし、ナイス提案と言わざるを得ません。
 さすがは気配り上手なリュート様です!

 テーブルや椅子の配置が終了したセバスさんたちは、本格的に昼食をいただくためのセッティングをしはじめました。
 4人が昼食用に作った料理を乗せたワゴンが次々と室内へ搬入され、食欲を刺激する美味しそうな匂いをより一層感じます。

 カフェとラテと共にお料理が作れたのが嬉しかったのか、セッティングの手伝いをしているカカオとミルクの尻尾が上機嫌にゆらゆら揺れております。
 ふふっ、慕われてますね、カフェ、ラテ。
 大きな皿や器にたくさんのお料理が並んでいて、どれもこれも美味しそう!

 さすがにここでは準備を手伝うということはせず、リュート様もアレン様も会話をして待っている状態ですが……キュステさんは職業柄というか条件反射のようにお手伝いをしていますね。
 慣れって怖い。
 セバスさんはキュステさんが手伝ってくれることに恐縮しておりましたが、本人にとっては日常茶飯事のことで全く気にしている様子もありません。

「ルナは食べられそうか?」

 頭の上にいた私を手のひらに乗せて覗き込んできたリュート様が心配そうに尋ね、リュート様の肩から背中の方へ降りてきたチェリシュも一緒になって覗き込んできました。

「チェリシュがおうどん作る?」
「朝よりは元気になりましたから大丈夫です」
「そっか、食べたいものがあるなら言ってくれよ?」
「じゃ、じゃあ、食べたいものを作りたいので、お料理しても良いですか?」

 首を傾げて尋ねてみたのですが、一瞬の沈黙の後に顔を見合わせた二人が、とっても良い笑顔を浮かべてくださいます。
 こ、これは、許可が出るかもっ!?
 期待に満ちた視線を向けて二人の返答を待ちます。

「駄目」
「ダメなの」

 うぅ……この流れで許可が降りるかと思ったのですが、やはり甘くはなかったですね。
 ダメ元で言ったとはいえ、ちょっぴり残念です。
 リュート様とチェリシュが「美味しいね」と笑ってくれる顔が見たかったのですが……
 私の体調のことを考えて「ダメ」と言ってくれる二人のために、ここは欲求を抑えて我慢です!
 本日は、ベリリの酵母に手を加えるだけに留めておきましょう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

恋愛
いつの間にか異世界に転移してしまった沙紀は森で彷徨っていたところを三人の騎士に助けられ、その騎士団と生活を共にすることとなる。 後半からR18シーンあります。予告はなしです。 公開中の話の誤字脱字修正、多少の改変行っております。ご了承ください。

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

この結婚、初日で全てを諦めました。

cyaru
恋愛
初めて大口の仕事を請け負ってきた兄は数字を読み間違え大金を用意しなければならなくなったペック伯爵家。 無い袖は触れず困っていた所にレント侯爵家から融資の申し入れがあった。 この国では家を継ぐのに性別は関係ないが、婚姻歴があるかないかがモノを言う。 色んな家に声を掛けてお試し婚約の時点でお断りをされ、惨敗続きのレント侯爵家。 融資をする代わりに後継者のラジェットと結婚して欲しいと言って来た。 「無理だなと思ったら3年で離縁してくれていいから」とレント侯爵夫妻は言う。 3年であるのは離縁できる最短が3年。しかも最短で終わっても融資の金に利息は要らないと言って来た。 急場を凌がねばならないペック伯爵家。イリスは18万着の納品で得られる資金で融資の金は返せるし、、3年我慢すればいいとその申し出を受けた。 しかし、結婚の初日からイリスには驚愕の大波が押し寄せてきた。 先ず結婚式と言っても教会で誓約書に署名するだけの短時間で終わる式にラジェットは「観劇に行くから」と来なかった。 次期当主でもあるラジェットの妻になったはずのイリスの部屋。部屋は誰かに使用された形跡があり、真っ青になった侯爵夫人に「コッチを使って」と案内されたのが最高のもてなしをする客にあてがう客間。 近しい親族を招いたお披露目を兼ねた夕食会には従者が「帰宅が遅れている」と申し訳なさそうに報告してきて、戻ってきても結局顔も見せない。 そして一番の驚きは初夜、夫婦の寝室に行くと先客がいた事だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★8月10日投稿開始、完結は8月12日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【完結】偶像は堕ちていく

asami
恋愛
アイドルとして輝かしい未来を信じていた彼女たちだったが……

自分の気持ちを素直に伝えたかったのに相手の心の声を聞いてしまう事になった話

よしゆき
BL
素直になれない受けが自分の気持ちを素直に伝えようとして「心を曝け出す薬」を飲んだら攻めの心の声が聞こえるようになった話。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。