92 / 558
第二章 外堀はこうして埋められる
天空のお散歩
しおりを挟むチェリシュとお揃いのパジャマや、必要になるだろう下着や衣類を購入してお会計を済ませ「今度、ギムレットと一緒にお店に食べに来てくれたらサービスする」というリュート様に、その旨を必ず伝えると嬉しそうに微笑んだライムさんの店を出て、グレンタールと合流したのは、空が夕焼け色に染まり始めた頃であった。
チェリシュが抱えている黄色いもちもちしたひよこのクッションに興味津々な様子であったグレンタールは、鼻先を寄せてふんふん音とたてながら匂いを嗅いでいるようである。
危険なものなのかどうか確認しているのでしょうか。
「さて、二人共グレンタールに乗るからな。ほら、ルナから」
「は……はい」
ヒョイっと抱え上げられてグレンタールの背に乗せられてしまう私の姿を、やはり周囲の方々が見ているので……恥ずかしくてグレンタールの背で顔を手で覆ってしまいました。
恥ずかしいので、あまり見ないでいただけると助かります。
じ、自力で乗れるように頑張りますから、それまではなにとぞご容赦を!
「チェリシュ。そのクッションは一度しまっておけ。グレンタールの背に乗れないだろ?」
「うーっ、もーちゃん……」
もーちゃんって言うのですか?
牛ではないのですが……『もちもち』な感触ということで『もーちゃん』となったのでしょう。
「そんなところは母親に似たのか。あの女神もネーミングセンスがな……」
「そうなのですか?」
「月の女神は、月光鳥という御使いを地上に遣わすことがあるが、名前が『ピーちゃん』だったからな」
「……えっと、まさか鳴き声からとったとか」
「そのまさかだ」
「ママが、お名前はわかりやすいのがいいっていってたの」
わ、わかりやすい……もちもちしてるところから、『も』を取ってきたのならわかりやすい部類……かしら。
呼び方としてはわかりやすいですよね。
しかし、リュート様は月の女神様と何かあったのでしょうか……呆れたような声色が強く混じっているような?
でも、嫌悪感という感じではなくて親しいからこそであり、ちょっと面倒だけどしょうがないという雰囲気ですね。
もしかしたら、愛の女神様同様、仲が良いのかもしれません。
女神様ばかりですけど───
あ、いえ、別段気にしておりません。
大丈夫です、相手は神様ですからね。
それに、愛の女神様も月の女神様も、ちゃんと結婚されていらっしゃいますから、嫉妬なんて………………嫉妬?
ありえませんよ、私!
何故、女神様に嫉妬なんてして……いえ、していませんったら、していません!
愛の女神様はとても素晴らしい方でしたし、月の女神様もチェリシュというこんなに可愛い子の母親なのですから素敵な方に決まっています。
もーちゃんをしまったチェリシュをグレンタールに乗せようとしたリュート様は、何か思いついたようにグレンタールに話しかけ、目の前の取っ手付き座席がもごもご動いたと思ったら、背もたれが出来ました。
え、なんて快適そうな座席になったのでしょう。
これなら落ちませんね。
「おイスなのー!グーちゃん、すごいの!」
チェリシュに手放しに褒められたグレンタールは得意げに右前足を踏み鳴らして「すごいでしょう?」という仕草をしていますが、リュート様は肩を竦めたあと、先程のように私の後ろに……って、あれ?ぴったりくっついてますね……これは……
「ふーん?これは抱っこ前提の距離だな」
「です……よね」
グレンタールなんということを!
す、すごく密着しています!
するりと伸びてきた腕が私の体を包み込んでしまいました。
手綱を持つために前に身を乗り出したリュート様の吐息が耳にかかりますし、後ろから覆いかぶさられるような感覚にドキドキですよっ!?
すごく、近いですーっ!
羞恥心で真っ赤になっていた時と比べ物にならないくらい赤く染まる頬と、騒ぎ出した心臓に慌てていると、耳元でリュート様の低めの声が響きます。
「ルナは、さっきので何を撮りたい?」
さ、さきほどのカメラみたいなものですか?
結局、黒、白、ピンクという色違いを3つ購入して、黒がリュート様、白が私、ピンクがチェリシュという具合に所有しておりますが……赤金貨というものを使用すると高価な部類に入る金額だということはわかりました。
リュート様は結局、あのカメラみたいなものを3台分、赤金貨3枚で購入されたのですけど、ライムさんは最後まで本当に良いのかとためらっている様子でしたもの。
つまり……私の日常準備にかかった金額も、とんでもなかったというわけですよねっ!?
か……確認しなくては!
「りゅ……リュート様?赤金貨って……どれくらいの価値があるのでしょう」
「教えない」
「どうしてですかっ!?」
「前にも言ったが、ルナは遠慮するからダメだ」
「ですが……こ、高価なもの……なのでしょう?私の日常準備にかかった金額も、赤金貨って言ってましたもの」
肌触りの良い衣類や下着は勿論、それなりの金額がするのではないかと予想しておりましたし、このカメラもどきも使ってみたいですけど、高価なものだとわかっただけで使う手が震えそうです。
勿論、撮りたいのは……後ろにいるリュート様に決まってますよ?
それに、チェリシュとも撮りたいですし、3人で一緒にいる姿も撮りたいですね。
お店のみんなやイーダ様たち、たくさん撮ってみたいです。
「日用品は、安く済んでいるほうだと思うから気にしなくていい。今回の買い物は、高価な物でも使って欲しいって思ったから購入したんだよ。俺が、ルナの撮りたいものを見たかったんだ」
「撮りたいものを?」
「だって、それってルナにとって大切なものだろ?それが知りたい。見てみたい。俺も撮ってくれるのかなってさ」
「当たり前じゃないですか。リュート様を撮らずに何を撮れと……あ、でも、3人で一緒にいる姿も撮りたいです」
「そうだな。それは俺も欲しい」
ぎゅっと力強く後ろから抱きしめられ、どうしていいかわからなくなります。
心臓は騒ぎ出すのに、そわそわしてしまうような、むずがゆいような感覚があって落ち着きません。
「チェリシュもとるの!リューとルーとパパとママと、ねーねたちなの」
「ねーね?」
「ああ、夏と秋と冬の姉たちのことだな」
「お姉さんたちのことだったのですか、なるほど……そうですか、チェリシュにとっての大切な中に……私も入ってるのですね」
大切なもの……記憶の水晶に撮りたい物は、その人の大切なもの……ですね。
それがとても嬉しくて、ついつい頬が緩んでしまいます。
「な?いい買い物だろ?」
「……はい」
「グーちゃんともーちゃんもとるの!いっしょなの!」
ねーっとグレンタールを撫でるチェリシュに私達もそうですねと同意し、嬉しそうにグレンタールがこちらをチラチラ見ていますが、前を見て歩かないと危ないですよ?
「そろそろ飛行禁止区域から出るから、店まで頼む」
リュート様のその言葉を待っていたというように、天馬専用通路の色がほんのりと青い石に変わった辺りで、グレンタールがほのかに輝き始めました。
背中に翼……天馬の翼って、実物ではなく魔力で出来た物だったのですか……!
足元の青紫色の炎と同じ色の翼が広がり、透明な道があるのだというように走っています。
空を飛んでいるというよりも、空を駆けるといった感覚が近いですね。
風をきる音がするほどのスピードが出ているのに、体に受ける衝撃はほぼなくて、何かに守られているのだとわかりました。
「グレンタールは優秀だろ?空を駆けるのに、これほど頼もしいヤツはいないよ」
「そうですね、とてもすごいですっ」
「グーちゃんすごいの!」
褒められて嬉しかったのか、グレンタールが更に上昇して聖都の上空を旋回します。
うわぁ……こんなに上から見てようやくわかるくらい、聖都は大きな街なのですね。
まだ見たこともない、行ったこともない地域もあるようです。
いつか、リュート様が案内してくださるでしょうか。
あ、学園がそこで……あちらには先程までいた海浜公園と海岸沿いの市場が見えます。
そして、白くて大きく、何かの煌めきに守られた建物……あれが王城ですね。
とても大きくて綺麗で、グレンドルグ王国の城と比べ物になりません。
白亜の城とでも言うべきでしょうか、白く輝く外壁に深い青の屋根のコントラストが綺麗で、緑の庭園を様々な色の花が彩っている様子が上からでも見えました。
聖都の周辺には大きな山と湖と森も見えます。
とても豊かな土地なのは上空からも見て取れました。
「中央にある大きな建物がウィステリアージュ城だ。聖都を守る結界の中心にあり、東大陸の魔物と戦う要でもある」
「結界は、町ごとにあるのですか?」
「ああ、どんなに小さな村にも存在する。町や村の中心に守り石を置いているはずだ。それがあれば、魔物は近寄れないからな。それはどこの種族も同じだから、町の中や村の中であれば人は安心して暮らせる」
だから、魔物が弱い地域ほど戦力は必要ないんだとリュート様は苦笑します。
北と西と南の大陸は、比較的強力な魔物は存在せず、魔物の驚異にさらされることが少ないのだとか。
反対に、中央と東大陸は強力な魔物が多く存在し、どちらも対魔物専門の戦力が必要となるそうです。
この国でいうところの『黒の騎士団』が存在するように、竜族には『ドラグーン』という魔物討伐組織があると教えてくださいました。
「中央と東の魔物の強さは、他の大陸とは比べ物にならない。だから、黒の騎士団は必要だし、俺もいずれはそこに入る。この国だけではなく、他国へおもむき討伐することだってあるが……必ずしも、歓迎されるわけではないんだ」
自分たちの命を危険に晒す魔物を討伐しにきてくれたのに……?と首を傾げれば、リュート様は「それが普通の反応だよな」と笑います。
「俺達は魔物食いだから、不浄な者なんだとよ。近寄れば汚れる、そんな不浄を身に取り入れるから、魔物などと戦えるのだと言われたことだってある。まあ、そういうことを言うのは、エルフや獣人だけだがな」
ドワーフ族は比較的友好的だと言いますが……それって、おかしくないですか!?
「だったら、自分たちで解決すればいいではないですか!」
「軍備が脆く、強い魔物に太刀打ちできないから助けを求めるんだよ。そして、神に加護を与えられているのだから、それくらいして当たり前だと思われている」
何なんですか……それは!
聞いているだけで腹が立ってきた私をよそに、リュート様は空を見上げます。
「人間は他の種族より力がなかった。竜族ほどの強靭さも、獣人族ほどの敏捷性も、エルフ族ほどの知恵も、ドワーフ族ほどの技量もな。命も短く、100年生きたら良いほうだろう」
それは、とても不思議な感覚でした。
地球で一番長く生きる種族ですし、あちらの世界でもそれは変わりません。
しかし、この世界では100年でも短いと言われるだけの寿命の違い……
「神々の加護を得て強くなっても、他の種族は人間と付き合うこと厭う。親しくなっても、脆くすぐに死んでしまうからだ。親しいものが死ぬ痛みを容赦なく与えてくる種族で、死に最も近い種族だからだ」
そう言われて置いていかれる者の気持ちを考える……いずれ、私達もチェリシュを置いていってしまいますよね。
チェリシュは……その時どう思うのでしょう。
多分、100年そこそこでは姿も変わらず、この子はこのままでずっと変わっていく私達を見ているのでしょう。
苦しくて悲しい思いをするはずです。
そんな思いをするくらいなら、最初から親しくならないほうが良いと拒絶するエルフと獣人族は、とても繊細で臆病な種族なのかも知れませんね。
だからといって、言って良いことと悪いことがありますが!
「他の種族から見れば人間はすぐに死ぬ。だが、伝えていける思いや願いがある。俺たちがいずれこの世界を去ることになっても、子々孫々と受け継がれていくことだってあるさ。だから、チェリシュは大丈夫だ」
私の不安を視線の先から察したのでしょうか。
リュート様が優しく私の頭を撫でて安心させてくださいました。
「チェリシュ、ねーねになるの?」
「いや、まだ先の話だ」
「ねーね……チェリシュがねーねなの!」
「オイ待て、早まるな、まだだっていってんだろ?」
「ねーねなの!グーちゃん、ねーねなの!」
「おーい、話を聞け」
きゃーっと大はしゃぎしはじめるチェリシュに、リュート様が腕を伸ばし頭をわしゃわしゃ撫でます。
そんなやり取りを見ながら、そうか、チェリシュに妹か弟ができれば、寂しくなくなるんだ……なんて考えてから、うん?と首を傾げました。
誰と誰の子ですか?
ま、まさか……今の話しの流れから言うと……わ、私とリュート様っ!?
そっ、そんな畏れ多い!
自分の考えで真っ赤になってしまった私を、リュート様とチェリシュが不思議そうに眺めていますが、見ないでください。
今の私は見ないほうが良いです!
二人して顔を見合わせて首を傾げていますが、真っ赤になった原因は教えませんからね?
338
お気に入りに追加
12,205
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます
神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。
【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。
だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。
「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」
マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。
(そう。そんなに彼女が良かったの)
長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。
何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。
(私は都合のいい道具なの?)
絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。
侍女達が話していたのはここだろうか?
店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。
コッペリアが正直に全て話すと、
「今のあんたにぴったりの物がある」
渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。
「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」
そこで老婆は言葉を切った。
「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」
コッペリアは深く頷いた。
薬を飲んだコッペリアは眠りについた。
そして――。
アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。
「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」
※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)
(2023.2.3)
ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000
※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。