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第二章 外堀はこうして埋められる

天空のお散歩

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 チェリシュとお揃いのパジャマや、必要になるだろう下着や衣類を購入してお会計を済ませ「今度、ギムレットと一緒にお店に食べに来てくれたらサービスする」というリュート様に、その旨を必ず伝えると嬉しそうに微笑んだライムさんの店を出て、グレンタールと合流したのは、空が夕焼け色に染まり始めた頃であった。
 チェリシュが抱えている黄色いもちもちしたひよこのクッションに興味津々な様子であったグレンタールは、鼻先を寄せてふんふん音とたてながら匂いを嗅いでいるようである。
 危険なものなのかどうか確認しているのでしょうか。

「さて、二人共グレンタールに乗るからな。ほら、ルナから」
「は……はい」

 ヒョイっと抱え上げられてグレンタールの背に乗せられてしまう私の姿を、やはり周囲の方々が見ているので……恥ずかしくてグレンタールの背で顔を手で覆ってしまいました。
 恥ずかしいので、あまり見ないでいただけると助かります。
 じ、自力で乗れるように頑張りますから、それまではなにとぞご容赦を!

「チェリシュ。そのクッションは一度しまっておけ。グレンタールの背に乗れないだろ?」
「うーっ、もーちゃん……」

 もーちゃんって言うのですか?
 牛ではないのですが……『もちもち』な感触ということで『もーちゃん』となったのでしょう。

「そんなところは母親に似たのか。あの女神もネーミングセンスがな……」
「そうなのですか?」
「月の女神は、月光鳥という御使いを地上に遣わすことがあるが、名前が『ピーちゃん』だったからな」
「……えっと、まさか鳴き声からとったとか」
「そのまさかだ」
「ママが、お名前はわかりやすいのがいいっていってたの」

 わ、わかりやすい……もちもちしてるところから、『も』を取ってきたのならわかりやすい部類……かしら。
 呼び方としてはわかりやすいですよね。
 しかし、リュート様は月の女神様と何かあったのでしょうか……呆れたような声色が強く混じっているような?
 でも、嫌悪感という感じではなくて親しいからこそであり、ちょっと面倒だけどしょうがないという雰囲気ですね。
 もしかしたら、愛の女神様同様、仲が良いのかもしれません。
 女神様ばかりですけど───
 
 あ、いえ、別段気にしておりません。
 大丈夫です、相手は神様ですからね。
 それに、愛の女神様も月の女神様も、ちゃんと結婚されていらっしゃいますから、嫉妬なんて………………嫉妬?
 ありえませんよ、私!
 何故、女神様に嫉妬なんてして……いえ、していませんったら、していません!
 愛の女神様はとても素晴らしい方でしたし、月の女神様もチェリシュというこんなに可愛い子の母親なのですから素敵な方に決まっています。

 もーちゃんをしまったチェリシュをグレンタールに乗せようとしたリュート様は、何か思いついたようにグレンタールに話しかけ、目の前の取っ手付き座席がもごもご動いたと思ったら、背もたれが出来ました。
 え、なんて快適そうな座席になったのでしょう。
 これなら落ちませんね。

「おイスなのー!グーちゃん、すごいの!」

 チェリシュに手放しに褒められたグレンタールは得意げに右前足を踏み鳴らして「すごいでしょう?」という仕草をしていますが、リュート様は肩を竦めたあと、先程のように私の後ろに……って、あれ?ぴったりくっついてますね……これは……

「ふーん?これは抱っこ前提の距離だな」
「です……よね」

 グレンタールなんということを!
 す、すごく密着しています!
 するりと伸びてきた腕が私の体を包み込んでしまいました。

 手綱を持つために前に身を乗り出したリュート様の吐息が耳にかかりますし、後ろから覆いかぶさられるような感覚にドキドキですよっ!?
 すごく、近いですーっ!
 羞恥心で真っ赤になっていた時と比べ物にならないくらい赤く染まる頬と、騒ぎ出した心臓に慌てていると、耳元でリュート様の低めの声が響きます。

「ルナは、さっきので何を撮りたい?」

 さ、さきほどのカメラみたいなものですか?
 結局、黒、白、ピンクという色違いを3つ購入して、黒がリュート様、白が私、ピンクがチェリシュという具合に所有しておりますが……赤金貨というものを使用すると高価な部類に入る金額だということはわかりました。
 リュート様は結局、あのカメラみたいなものを3台分、赤金貨3枚で購入されたのですけど、ライムさんは最後まで本当に良いのかとためらっている様子でしたもの。
 つまり……私の日常準備にかかった金額も、とんでもなかったというわけですよねっ!?
 か……確認しなくては!

「りゅ……リュート様?赤金貨って……どれくらいの価値があるのでしょう」
「教えない」
「どうしてですかっ!?」
「前にも言ったが、ルナは遠慮するからダメだ」
「ですが……こ、高価なもの……なのでしょう?私の日常準備にかかった金額も、赤金貨って言ってましたもの」

 肌触りの良い衣類や下着は勿論、それなりの金額がするのではないかと予想しておりましたし、このカメラもどきも使ってみたいですけど、高価なものだとわかっただけで使う手が震えそうです。
 勿論、撮りたいのは……後ろにいるリュート様に決まってますよ?
 それに、チェリシュとも撮りたいですし、3人で一緒にいる姿も撮りたいですね。
 お店のみんなやイーダ様たち、たくさん撮ってみたいです。

「日用品は、安く済んでいるほうだと思うから気にしなくていい。今回の買い物は、高価な物でも使って欲しいって思ったから購入したんだよ。俺が、ルナの撮りたいものを見たかったんだ」
「撮りたいものを?」
「だって、それってルナにとって大切なものだろ?それが知りたい。見てみたい。俺も撮ってくれるのかなってさ」
「当たり前じゃないですか。リュート様を撮らずに何を撮れと……あ、でも、3人で一緒にいる姿も撮りたいです」
「そうだな。それは俺も欲しい」

 ぎゅっと力強く後ろから抱きしめられ、どうしていいかわからなくなります。
 心臓は騒ぎ出すのに、そわそわしてしまうような、むずがゆいような感覚があって落ち着きません。

「チェリシュもとるの!リューとルーとパパとママと、ねーねたちなの」
「ねーね?」
「ああ、夏と秋と冬の姉たちのことだな」
「お姉さんたちのことだったのですか、なるほど……そうですか、チェリシュにとっての大切な中に……私も入ってるのですね」

 大切なもの……記憶の水晶に撮りたい物は、その人の大切なもの……ですね。
 それがとても嬉しくて、ついつい頬が緩んでしまいます。

「な?いい買い物だろ?」
「……はい」
「グーちゃんともーちゃんもとるの!いっしょなの!」

 ねーっとグレンタールを撫でるチェリシュに私達もそうですねと同意し、嬉しそうにグレンタールがこちらをチラチラ見ていますが、前を見て歩かないと危ないですよ?

「そろそろ飛行禁止区域から出るから、店まで頼む」

 リュート様のその言葉を待っていたというように、天馬専用通路の色がほんのりと青い石に変わった辺りで、グレンタールがほのかに輝き始めました。
 背中に翼……天馬の翼って、実物ではなく魔力で出来た物だったのですか……!
 足元の青紫色の炎と同じ色の翼が広がり、透明な道があるのだというように走っています。
 空を飛んでいるというよりも、空を駆けるといった感覚が近いですね。
 風をきる音がするほどのスピードが出ているのに、体に受ける衝撃はほぼなくて、何かに守られているのだとわかりました。

「グレンタールは優秀だろ?空を駆けるのに、これほど頼もしいヤツはいないよ」
「そうですね、とてもすごいですっ」
「グーちゃんすごいの!」

 褒められて嬉しかったのか、グレンタールが更に上昇して聖都の上空を旋回します。
 うわぁ……こんなに上から見てようやくわかるくらい、聖都は大きな街なのですね。
 まだ見たこともない、行ったこともない地域もあるようです。
 いつか、リュート様が案内してくださるでしょうか。
 あ、学園がそこで……あちらには先程までいた海浜公園と海岸沿いの市場が見えます。

 そして、白くて大きく、何かの煌めきに守られた建物……あれが王城ですね。
 とても大きくて綺麗で、グレンドルグ王国の城と比べ物になりません。
 白亜の城とでも言うべきでしょうか、白く輝く外壁に深い青の屋根のコントラストが綺麗で、緑の庭園を様々な色の花が彩っている様子が上からでも見えました。

 聖都の周辺には大きな山と湖と森も見えます。
 とても豊かな土地なのは上空からも見て取れました。

「中央にある大きな建物がウィステリアージュ城だ。聖都を守る結界の中心にあり、東大陸の魔物と戦う要でもある」
「結界は、町ごとにあるのですか?」
「ああ、どんなに小さな村にも存在する。町や村の中心に守り石を置いているはずだ。それがあれば、魔物は近寄れないからな。それはどこの種族も同じだから、町の中や村の中であれば人は安心して暮らせる」

 だから、魔物が弱い地域ほど戦力は必要ないんだとリュート様は苦笑します。
 北と西と南の大陸は、比較的強力な魔物は存在せず、魔物の驚異にさらされることが少ないのだとか。
 反対に、中央と東大陸は強力な魔物が多く存在し、どちらも対魔物専門の戦力が必要となるそうです。
 この国でいうところの『黒の騎士団』が存在するように、竜族には『ドラグーン』という魔物討伐組織があると教えてくださいました。

「中央と東の魔物の強さは、他の大陸とは比べ物にならない。だから、黒の騎士団は必要だし、俺もいずれはそこに入る。この国だけではなく、他国へおもむき討伐することだってあるが……必ずしも、歓迎されるわけではないんだ」

 自分たちの命を危険に晒す魔物を討伐しにきてくれたのに……?と首を傾げれば、リュート様は「それが普通の反応だよな」と笑います。

「俺達は魔物食いだから、不浄な者なんだとよ。近寄れば汚れる、そんな不浄を身に取り入れるから、魔物などと戦えるのだと言われたことだってある。まあ、そういうことを言うのは、エルフや獣人だけだがな」

 ドワーフ族は比較的友好的だと言いますが……それって、おかしくないですか!?

「だったら、自分たちで解決すればいいではないですか!」
「軍備が脆く、強い魔物に太刀打ちできないから助けを求めるんだよ。そして、神に加護を与えられているのだから、それくらいして当たり前だと思われている」

 何なんですか……それは!
 聞いているだけで腹が立ってきた私をよそに、リュート様は空を見上げます。

「人間は他の種族より力がなかった。竜族ほどの強靭さも、獣人族ほどの敏捷性も、エルフ族ほどの知恵も、ドワーフ族ほどの技量もな。命も短く、100年生きたら良いほうだろう」

 それは、とても不思議な感覚でした。
 地球で一番長く生きる種族ですし、あちらの世界でもそれは変わりません。
 しかし、この世界では100年でも短いと言われるだけの寿命の違い……

「神々の加護を得て強くなっても、他の種族は人間と付き合うこと厭う。親しくなっても、脆くすぐに死んでしまうからだ。親しいものが死ぬ痛みを容赦なく与えてくる種族で、死に最も近い種族だからだ」

 そう言われて置いていかれる者の気持ちを考える……いずれ、私達もチェリシュを置いていってしまいますよね。
 チェリシュは……その時どう思うのでしょう。
 多分、100年そこそこでは姿も変わらず、この子はこのままでずっと変わっていく私達を見ているのでしょう。
 苦しくて悲しい思いをするはずです。
 そんな思いをするくらいなら、最初から親しくならないほうが良いと拒絶するエルフと獣人族は、とても繊細で臆病な種族なのかも知れませんね。
 だからといって、言って良いことと悪いことがありますが!

「他の種族から見れば人間はすぐに死ぬ。だが、伝えていける思いや願いがある。俺たちがいずれこの世界を去ることになっても、子々孫々と受け継がれていくことだってあるさ。だから、チェリシュは大丈夫だ」

 私の不安を視線の先から察したのでしょうか。
 リュート様が優しく私の頭を撫でて安心させてくださいました。

「チェリシュ、ねーねになるの?」
「いや、まだ先の話だ」
「ねーね……チェリシュがねーねなの!」
「オイ待て、早まるな、まだだっていってんだろ?」
「ねーねなの!グーちゃん、ねーねなの!」
「おーい、話を聞け」

 きゃーっと大はしゃぎしはじめるチェリシュに、リュート様が腕を伸ばし頭をわしゃわしゃ撫でます。
 そんなやり取りを見ながら、そうか、チェリシュに妹か弟ができれば、寂しくなくなるんだ……なんて考えてから、うん?と首を傾げました。

 誰と誰の子ですか?
 ま、まさか……今の話しの流れから言うと……わ、私とリュート様っ!?
 そっ、そんな畏れ多い!

 自分の考えで真っ赤になってしまった私を、リュート様とチェリシュが不思議そうに眺めていますが、見ないでください。
 今の私は見ないほうが良いです!
 二人して顔を見合わせて首を傾げていますが、真っ赤になった原因は教えませんからね?


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