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第二章 外堀はこうして埋められる
レシピ制度も大変そうです
しおりを挟む「やっぱり、人間族は変わってるのにゃ」
「いや、人間だけじゃなく、それは竜族もエルフ族も恥ずかしがるからね!?」
ロン兄様が、すかさずナナトにツッコミを入れています。
あ、やっぱり、他の種族でも恥ずかしいと思うのですね、人間だけじゃなくてよかったです。
ドワーフ族は獣人族と同じ……理解しました。
ツッコミはいれません。
危険ですもの!
しかし、この子はポテトフライのことを聞きに来たようですが、作っているのはポテトチップスですよ?
「ソレはなんにゃ?はじめて見るにゃ。フライドポテトというのは聞いたことあるけど、ポテトフライにゃ?」
あれ?言われてみれば、どっちも同じ物ですね。
どっちかが和製英語……とか兄が言っていたような……?
「そ、それについては同じもので、呼び方が違うだけです……だ、大丈夫、同じものなのです!」
そこは間違いありません。
で、ですよね?リュート様……助けてくださいーっ!
結界内のリュート様に視線を向けますが、相変わらず難しい顔をして、テオ兄様と何やら話し込んでいるようでした。
どうしましょう、油物をしている時に離れたくはありませんし……ちょ、ちょっとだけ聞きたい。
そういう時のための、イルカムでしょうか。
えっと、使い方は……この耳元の宝石部分に触れるんでしたっけ?
耳に装着してあるイルカムの宝石部分に指を這わせると、冷たい感触が伝わってくる。
ふわりと目の前にウィンドウが開き、リストが表示された。
一番上にリュート様の名前があるので、そこを見つめながらもう一度石に触れると、プップップッとなにかの音が途切れ途切れに聞こえたのだけど、これって通話中?コール中?
『ん?ルナ、どうした』
「え、あ……あの……フライドポテトとポテトフライって、どちらが和製英語でした?」
『あー……』
ソレ以降の音が聴こえづらいのは、先程、黒騎士の方々と通話していたロン兄様がおっしゃていたように、結界があるからなのでしょうか。
ちょっと聞きたかっただけなのですよ?
それなのに、とても大事な話をしていた様子であったリュート様が、結界を抜けてこちらへやってくる姿が見えます。
わぁ、身長高い!
脚が長い!
顔小さすぎませんかっ!?
どこのモデルですか!
というツッコミいれながらも、歩いてくる姿だけでもドキドキするくらいの魅力に溢れていて、見惚れてしまいました。
ものすごくカッコイイです、リュート様!
違う、そうじゃないですよ、私!
こんなことでリュート様の手を煩わせてしまうなんて……召喚獣失格です!
改めて考え、ご迷惑をかけてしまったことにションボリしてしまいました。
「リュー!」
「いい子にしてたか?」
「あいっ!」
ロン兄様に抱っこされている春の女神様をよしよしと撫でている姿は、若いお父さんです。
春の女神様もご満悦のようで、ニコニコしていますね。
可愛いですっ!
小さな手を伸ばして抱っこをせがんでいる姿は、親子以外の何物でもありません。
ああ……この光景を写真におさめたいです。
「ちょっと待ってくれ」
リュート様が「ごめんな」と謝ると、春の女神様は「だめぇ?」と悲しげでしたが、「あとでな」と約束して貰ったので嬉しそうに「あいっ!」と元気よくお返事していました。
素直な良い子です。
「リュートの手が空くまでは、俺といようね」
「あいっ!ロンにおねがいなのっ」
「うん。ルナちゃんのお料理している姿が見える、危なくない位置にいようね」
「あいっ!」
ロン兄様はロン兄様で、姪っ子を預かってるように見えて……うん、ほんわか家族ですね。
顔の偏差値が高いので、春の女神様の父親と伯父さんだと言っても通用するところがスゴイです。
「ロン兄、黒騎士たちはいいの?」
「大丈夫。終わったらここに集合するよう伝達した。ルナちゃんのお料理が食べられるよって言ったら、リュートに取られないように見張ってて欲しいって」
「アイツら……わかってやがるな。さすが元クラスメイト」
ニヤリと笑うリュート様と、いつの間にかそんな通信をしていたロン兄様。
お二人とも楽しそうです。
黒騎士様たちは、みんな仲がいいのですねぇ。
微笑ましくなってしまいます。
「ナナト、本当にお前は新しいものに敏感というか、儲け話に目がないっていうか」
「褒めないでほしいにゃ!」
「褒めてねーよ……ったく」
ふっと笑って頭をグリグリ撫でているところを見ると、呆れていると言うよりは感心しているといったところでしょうか。
こちらも仲が良いのですねぇ……い、いえ、いいなーなんて思ってませんよ?
少しだけです、すこーしだけ!
そして、私の方を見たリュート様は、ニッコリ笑って耳のイルカムに指を這わせてから甘く囁くような声を出した。
『和製英語はポテトフライだな』
「そ、そう……なのですか……」
近くにいるから通話する理由なんて無いのに!
ぞわりとする感覚を覚えるような良い声を聞いてしまった耳元を、驚き押さえる私を見て満足したのか、彼は一瞬だけつなげた通話を終え、そばにやってくると手元を見てニッと笑う。
「あーん」
え、えっと?
こ、これ……は?
「くれねーの?」
「え、あ……は、はいっ、どう……ぞ」
良い感じに熱がとれて油もきれたポテトチップスに塩をまぶし、リュート様の口に運ぶと、パリッといい音をさせて咀嚼している。
嬉しそうですね……幸福感がにじみ出てくるようないい笑顔です!
けど、私の頬が赤くなって仕方ありません。
もう……この方は!
少し離れただけでこれなんですから、リュート様からの笑顔だけでドキドキしてしまうのですよ?
も、もっとしてくれても……いいのですが、人前ではなくてですね、出来ることなら二人っきりの時がいいのです。
そしたら、甘えられるのに……い、いえ!いけません。
それは家に帰ってからですよ、私!
「ん、うまい。やっぱりルナの料理は最高だよな」
そ、そんなに褒められると照れてしまいます。
だけど、心からそう思っている言葉だとわかる表情に胸が熱くなってしまいました。
そういえば、難しそうな顔をして話し込んでいた件はどうなったのでしょう。
お邪魔をしてしまいましたが……何だかとても申し訳ないです。
「お忙しいのにすみません……お話の途中ですよね」
「ああ、要件は聞いたし、暫く席を外すのも言っておいたから大丈夫だ。俺の最優先事項はルナだからな」
目を細めてそんなことをいうリュート様……ど、ドキドキしてしまいますから、あまり言わないで───
いえ、やっぱり言ってください!
ですが……あ、あの……そんなに熱い視線で見られると赤くなりますので、そこは手加減してくださいませんか?
見られるのが嫌なのではなく、赤くなっても頬を隠せない現状が問題なのであって……
私が心の中で右往左往していることを理解しているのかいないのかわかりませんが、嬉しそうに微笑むリュート様が素敵すぎます!
嬉しくなってしまって頬を緩めていると、鋭く刺さるような視線を感じました。
ナナトさんがジーッとポテチを揚げている手元を真剣な表情で見つめていて、その強い視線に驚いてしまいます。
「何だ、レシピでも盗みに来たか?」
「そんな恥さらしなことしませんにゃ。欲しいレシピなら交渉しますにゃ」
「だろうな」
レシピを盗むことが恥さらしなんです?と不思議に思っていると、キャットシー族では、他の者が発案してレシピにおこすまえの料理を真似ることは恥ずべき行為なのだという。
そして、そんな真似をしたら、一族から爪弾きにされてしまうほど罪深いのだと教えてくださいました。
徹底してますね。
「それに、レシピを管理している神様がいらっしゃるから、不正なんてすぐにバレちゃうにゃ」
「レシピを管理する神様がいらっしゃるのですか?」
「もちろんにゃ!『司書』の称号を持つ家に加護を与えている知識の女神様にゃ」
あ、あー、あのハイテンションなレシピは、知識の女神様が書かれたものなのでしょうか。
ということは、色々ご存知なのですね……異世界のことも……じゃないと、マヨラーなんて言葉出てきませんもの。
トリス様にバレないか心配です。
「新しい物をつくると、レシピをおこすおこさないに関わらず、知識の女神側に仮登録されるみたいなんだ。それに、一番最初に作った者がおこしたレシピは、レシピギルドでも判別つくらしい。その判別方法は教えてもらえねーが、色々あるみたいだな」
レシピを守るために、様々なルールがあるのですね。
それでも抜け道を見つけ、レシピを盗んで自分が作ったんだと主張する人たちもいるらしく、レシピギルドではそういうトラブルを防ぐ理由もあって、名前と完成品のイラストと大まかな内容説明しか見えないようにしているということでした。
スキル制でレシピがあれば誰でも作れるという弊害……というか、だからこそ起こるトラブルも多いのですね。
ちなみに、レシピ詐欺みたいな行為を行う人は、かなり厳しい罰則を与えられるようですよ。
怖いですね……
でも、生産している人々を守るためなのだと考えたら、必要なことであると思えました。
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