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第二章 外堀はこうして埋められる

アツアツのパリパリです!

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 幸せ空間いっぱいの中、ロン兄様が急に「ん?」と声を上げ、私達から離れて耳にずっと装着したままであったイルカムを操作しているようであった。

「ああ、うん。わかった。白騎士が来てくれたんだね。助かるよ……え?聴こえづらい?あー、結界かな、ちょっと待ってね」

 どうやら、黒騎士様たちからの通信のようで、結界があるためにノイズでもはいるのか、外に出ていくロン兄様を見送り、先程の騒動で活躍してくれていた黒騎士様たちを思い出した。
 あれからずっと働いてくださっていたのですよね……魔法を使っていましたし、リュート様たち並にお腹ペコリのはずですよね。

「リュート様……」
「ん?」
「黒騎士様たちも、おなかペコリですよね」
「……あー、確かにそうかもな」
「手元にあるのはおじゃがさん……食べやすいのはポテトフライしかないでしょうか」
「んー、じゃあさ、俺……ポテチ食いたい」
「なるほど!その手がありました!でも、さすがに大きなフードカッターは置いてきちゃいましたね……」

 手作業でどこまで薄く切れるかしら……と考えていたら、リュート様がごそごそしはじめ「あったあった」と私の目の前に、日本では見慣れた形の道具を出してくる。

「試作品のスライサー。以前作った物なんだけど、フードカッターのほうが高性能だから使わなくなったんだよな」
「携帯には、こちらのほうが便利だと思いますよ?」
「そうだな。携帯用も試作してみよう」

 ニッコリ笑って次々に作りたいものが出来ていくリュート様……本当に大丈夫でしょうか。
 過労死しませんよね?
 もしかして……前世、社畜だったんじゃないかと心配になってしまいます。

「では、これでポテチ作ってきます!まだお腹ペコリさんですよね?」
「……す、少し?」
「隠してもバレバレなのです」
「バレバレなのー」
「二人して言わなくてもいいだろ……でも、いつもより大丈夫っていうか、落ち着いてる。以前だったら山のように食べねーと、飢餓感がすごくてさ」

 美味しくない料理を大量に食うのって……地獄なんだ……と、シミジミ言うリュート様から漂う哀愁が半端ありません。
 そ、そうですよね、それは辛いですよね。

「しかも、リュートが魔力を枯渇させる状況は、魔物討伐をしている現場が多い。そうなると、騎士団で支給されている携帯食になる。今の料理と比べたら雲泥の差だな」
「まさしく泥だ、あんなもん泥食ってるようなもんだ!」

 う、うわぁ……リュート様が涙目です。
 泥と称される携帯食ってどういうものなのでしょう。
 興味がわいて聞いてみると、とんでもない物でした。
 小麦粉に水と塩と油と回復系の薬草を混ぜて練り、片手で掴めるような長方形のブロック状に成型して焼いた物。
 もしくは、それを4分割したほどの大きさにして乾燥させ、携帯しているということでした。
 リュート様ほど魔力が枯渇した状態になると、固形食だけでは足らなくなるので、回復系ポーションと水を2:8で割った水を鍋に入れ、携帯食をそれで煮て食べるのだそうです。
 リュート様は味は最悪ですが、回復ポーションと携帯食の中に入っている薬草の相乗効果なのか、それぞれを個別摂取するより回復するため、一度一緒に煮たものを大量に食べざるを得なかった……ということでした。

 それは、涙目になるかもしれません……リュート様はそれでなくても美味しい物の記憶を持っている方なのですよ?
 生きるためとは言え、辛かったでしょうね。
 だって、テオ兄様だって眉根を寄せるくらいということは、この世界の通常レベルから考えても美味しくないということですよ?
 リュート様……よく我慢しました。
 エライエライ。
 私の肩口に額をグリグリして「あの味は思い出したくねー……」と弱々しく呟く彼の頭を、慰めるようにヨシヨシと撫でてしまいます。
 わかってくれるか!という顔をしてこちらを見るリュート様に、静かに頷いて見せました。

 だって、私だってそんなの食べたくないです!

「ポテチ作りましょうね。塩味ですが……」
「シンプルが一番!」
「はい!では、作ってまいります」
「あ……そうだ、出来たらコレに入れたら良い」

 何気なく出してきた紙袋……中がツルツルしていることから、油がしみ込むことはないでしょうが……と、考えていたら、他にペーパーを出してきて何枚か中に入れてしまいます。

「これで余分な油を吸い取るだろ。アイツラの人数を考えたら5つあれば足りるか?」

 同じような紙袋を5つ準備したリュート様は、さらに、キッチンペーパーのような物の束を取り出しました。

「これ、油をきるのに最適な素材だと思う。元々は、鉄製品の油差しで余分なものを拭き取るために作ったんだけど、熱に強く食べ物を置いても問題ない素材だから使ってくれ」

 リュート様って……本当にスゴイですね。
 なんでも作ってしまいます!
 工業用品の副産物というか、調理用品として考えて作ったものではないようですが……食べ物を置いても問題ないのは助かりますし、今後も活躍してくれそうですね。
 ペーパーの束を受け取った私は、ポーチ型のアイテムボックスに収納する。
 さて、行きますか!と立ち上がるために春の女神様をリュート様に預けようとしたのですが、彼女はシッカリ私にしがみついています。
 どうしたのでしょう。

「おいもごろごろする?」
「先程のおじゃがはまだ残っていますが……私と一緒がいいのですか?」
「うん!ルーのお料理すきー!みたいの!」
「邪魔すんじゃねーぞ?油ものであぶねーし……やっぱ、俺も行くか」

 リュート様が心配してついてこようとしたのですが、それを愛の女神様が止めてしまいました。

「まてまて、そなたには少し別件で話がある。テオドール、お主もじゃ」
「は?」

 リュート様とテオ兄様が愛の女神様に呼び止められてしまい、何か言おうとした彼は、何か感じたのか小さくため息を付いて、こちらを振り返り見る。

「すまねーな。なんか、野暮用だ」
「はい、美味しい物を作ってきますから、少しだけお待ち下さいね」
「任せた。ありがとうな」
「いいえ」

 スライサーと紙袋もアイテムポーチに入れた私は、春の女神様と共に結界を抜けて、ロン兄様が設置してくださっていた簡易キッチンへと向かいます。
 気になってチラリと振り返り見ると、リュート様がテオ兄様と共に難しい顔をして考え込んでいる様子が伺えました。
 どうやら、とても難しいお話をされているようですね。
 リュート様が見守ってくださっている中でのお料理が一番楽しいのですが、こればかりは仕方ありません。

「ルナちゃんはまた何か作るの?」

 ポンッと肩を叩かれ振り向くと、ロン兄様が笑顔で立っていらっしゃいました。
 通話が終わり、一度中に戻ってテオ兄様たちと話をしていたのに、結界を抜けて外に出てきたということは、黒騎士様のお仕事でしょうか。

「リュート様がまだ食べれるようですし、黒騎士様たちもお腹ペコリさんでしょうから、いまからリュート様が食べたいって言ったものを作ろうかと……」
「ごめんね……うちの連中のことまで……」
「皆様すごく頑張っていらっしゃいましたもの!お腹ペコリさんは可哀想です」
「そっか、すごく助かるよ。白騎士に引き継ぎしているところなんだけど、お腹が空いて力が出ないって嘆いてたから」
「あ……やっぱり、みなさんも大変なんですね」

 通信している黒騎士様ではなく、遠くにいたらしい騎士様がそうボヤいていたそうで、あまりにも可哀想だから早く切り上げられないものか考えていたようです。
 もう少し時間がかかるのであれば、エネルギー補給してもうひと踏ん張りですよね!

 ロン兄様は、出来たものを持って行ってやろうということで、お料理が出来るまで私達と行動をともにすることを決め、私が抱っこしている春の女神様を預かってくださったのでちょっぴり助かりました。
 春の女神様を抱っこしていると、ずーっとそのままでいたくなるから不思議です。

「さて、やりますか!」

 掛け声と共に、私は綺麗にしたジャガイモを準備し、先程使ったまま放置されて冷えてしまった油に、オリーブオイルを足して火を入れ温めましょう。
 取り出した大きめのボウルにスライサーで薄くスライスしたジャガイモを入れ、水にさらしておきます。
 大きなボウル2つ分できあがりましたね。
 ザルを使って水からあげたジャガイモを、リュート様にいただいたペーパーを使ってしっかり水気を切ってジャガイモの準備は完了です。
 菜箸を油の中に入れて温度を測ってみると、菜箸全体からやや大きめの気泡が浮いてきます。
 大体の目安ですが、170℃程度……これなら問題ありませんね。

「飛ぶかも知れませんので、少し下がっててください」

 ロン兄様と春の女神様にそう告げ、二人が距離を取ったのを見計らい、スライスしたジャガイモを油の中へ投入する。
 パチッとやっぱり跳ねちゃいますが、これくらい平気です。
 すぐに、じゅわぁという音が響き渡り、ジャガイモたちがいい音を立てて油の中で踊っていますね。
 薄いきつね色になってきたらバットにあげて、油をシッカリ切りましょう。
 ここでも、ペーパーが大活躍です。

 ある程度油がきれたらボウルにうつし、熱いうちに塩をまぶして……完成ですね!
 一枚つまんで、春の女神様の口元へ運びます。

「あちちですからね?」
「あちちー!ふーふー……はむっ」

 パリッという音と共に、春の女神様の瞳がこぼれんばかりに開かれて、ふにゃんっ可愛らしい笑顔をみせてくださいました。

「ルー、これもおいしいの!パリパリなの!おいもなのにパリパリなの!」
「そうですね、やみつきになるパリパリですよ?……はい、ロン兄様も」

 大興奮の春の女神様に笑顔を向けたあと、もう一枚取ってロン兄様の口に運びます。
 パクリと食べたロン兄様は口をもぐもぐさせたあと、何とも言えない顔をして困ったように微笑んだ。

「これ……すごく美味しいし、次が欲しくなるね。一番困るのは、お酒が欲しくなることかなぁ」
「え、そうですか?確かにあうかも?」
「やっぱり、早く帰してやらないとかぁ」

 ロン兄様はそういうと、色々考え始めてしまったようです。
 お疲れ様です、ロン兄様。
 という思いをこめて、お二人にもう一枚ずつ食べていただき、私は次々に揚げていきましょう。
 リュート様も、きっと楽しみに待っていてくださいますから。

「それは、おじゃが料理かにゃ」

 これでは足りないかな?と追加で作っていた私の耳に、誰かの声が聞こえ、思わず手を止めます。
 はて……誰の声でしょう。

 首を傾げていると、近づいてきたロン兄様が「茂み」と小さな声で教えてくださいました。
 簡易キッチンから少し離れた茂みの中から、ゆらりと揺れる尻尾……キジトラ模様……あっ!

「キジトラさん、お店は良いのですか?」
「キジトラ種だけど、名前じゃないにゃ。オイラの名前はナナトですにゃ!」

 ナナトって……バナナさんですか。
 辛口コメントしていたわりには、甘い名前でした……意外です。

「ナナトさん、お店が忙しいのでは?」
「バイトが来たから大丈夫ですにゃ。それよりも、お客様が食べてみたいって言ってた料理を見に来たにゃ!敵情視察というやつにゃ!」

 茂みからシュバッ!と勢いよく出てきたナナトは、空中で一回転したあと華麗に着地してビシッ!と私に指を突きつけた。
 華麗な動きに、お見事!と、拍手したい気分です。
 春の女神様はきゃっきゃ笑いながら手を叩いていますから、掴みはOKですよナナト!

「……といっても、だんにゃさんの番みたいだから、それも違うかにゃ?つまり、様子見にゃ!」

 どうしてもあなた方キャットシー族は、私をリュート様の嫁認定したいのですね?
 カフェもラテも……あ、シロ、クロ、マロもそうでした。
 キュステさんは、みんなが言うから面白がっていただけでしょう。

「私は番ではないですよ?」
「それは嘘にゃ。だんにゃさんの魔力の匂いがプンプンですにゃ。獣人族は魔力香に敏感ですにゃ。だんにゃさんと子づく……」
「ちょっと待った!それは、公衆の面前で言うことじゃないから!人間族は恥じらう案件だから謹んでね!」
「そうなのですにゃ?あんなに、人前でいちゃいちゃしてたのに……ですにゃ?」

 いま……とんでもない言葉が聞こえた気がしますが?
 確かめたら、私がとても恥ずかしい思いをしそうな予感しかしません。
 絶対に羞恥心で泣けます……この件についてはスルーしたほうがいいでしょうか。
 それとも、あとでリュート様に確かめたほうがいいのでしょうか……悩みますが……とりあえず、小さな春の女神様や公衆の面前で何言ってるんですか!


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