13 / 13
商人ウィリアム
しおりを挟む「「……………はあ?!」」
「てなんでセオも驚いてんの!」
「いやいやいやいやこれは驚くっしょ!!!隊長が男から告白されたんすよ!!男から!!!前代未聞でしょ!!!!」
「うるさい!!!」
フレイアがペシッとセオの頭を叩くとセオは「いてっ」と声を上げてとりあえず黙る。
セオの言った通り、フレイア自身男に告白されたことなど人生で初めてで、どうしたらいいのか分からず視線を存分にさ迷わせてからチラリと未だ胡散臭い笑みを浮かべるウィリアムを見る。
「あのー、お気持ちはありがたいのですが、今は勤務時間内なので…」
「真面目か!!!」
「当たり前だろ!!!!!」
一旦断ろうとしたフレイアにセオが突っ込むがフレイアも負けじとまたセオの頭を引っぱたく。先程同様かなり加減をしているが、セオは大袈裟に頭を押さえる。
そんな様子を表情を変えずに見ていたウィリアムが懐を探り、1枚の紙を取り出す。
「そうですね、ではこちらをお渡ししますので、是非今度食事にでも」
「えっ、」
「もしよろしければ商会にお立ち寄りの際にお名前を仰ってくださればお通しするよう言いつけておきますので」
「え、あの」
「それではお仕事の邪魔にならないように私はこれで失礼しますね」
そう言ってウィリアムはフレイアに1枚の紙を押し付けてさっさと姿を消した。
呆然としたフレイアの手の中には彼の名刺が残された。
「いやぁ、驚きっすね~それにしても押しが強い…さすが商人」
「……」
「隊長聞いてます?」
「……」
「おーい」
「聞こえてる」
セオが立ち上がってフレイアの目の前で手を振ると、それを煩わしそうに払い除ける。
疲れからか少し動きが鈍い頭をほぐすようにこめかみを押さえて、深く息を吐き出す。
今しなければならないことをしよう。
少し頭を落ち着けて目を開く。
「この男を起こして詰所に戻ろう……」
「はい」
セオが足元に転がる男に少し大きめの声で呼びかけると男は目を覚まし、共に詰所へと向かった。
ーーーーー
ある日のこと。暖かい日差しの入る執務室で書類を整理していると、エルシーが封筒を差し出してきた。
「隊長、手紙が届いてます」
「ん?ああ、ありがとう」
手紙なんてここ数年、かつての友からしか貰ったことがなく、それらの手紙は全て寮の方に届くので、エルシーから手渡しされることなどないので、心当たりがないが宛名は自分宛になっているので、取り敢えず封を開けた。
『美しい騎士 フレイア・フローレンス様
先日はあなたと会えて、大変幸運だったと今でも感じています。
是非一緒にお食事などいかがでしょう?
宜しければロペス商会まで手紙をいただきたいです。
ウィリアム・ロペス』
「………………は?」
「どうされたんですか?」
思わず、と言ったように声を出したフレイアに対して、エルシーが心配するように声をかけた。
フレイアの手に先程渡した手紙があるのを見て、少し首を傾げる。
「いや、少し理解が追いつかなくてね」
「その手紙ですか?」
「ああ」
頭痛を抑えるかのように目頭を揉むフレイアにエルシーは声をかける。
「差出人を伺っても?」
「……ウィリアム・ロペス殿だ」
「ロペスって、あの……?」
「ロペス商会の会長ですか?!」
フレイアが名前を告げると、直ぐに思い当たったようで、エルシーは目を見開く。その場にいた補佐官のテオも話に食いついてきた。
「あ、ああ。その、ロペス商会のウィリアム殿だ…」
「どこで知り合ったんですか隊長!!」
「えっと、この前の巡回の時に……」
「なんてことだ……」
頭を抱えて項垂れるテオを見てフレイアは目を白黒させながらエルシーに助けを求めるように視線を送る。
「彼、ロペス商会の文具のファンなんですよ」
「ああ、なるほど……?」
文具のファンと言うだけでこれほど項垂れるものなのか…?と思っていたら、急にガバリと状態を起こしてフレイアの方に前のめりになってテオが話し始めた。
「ロペス商会の文具は凄いんですよ!!機能性もさることながら何よりもデザインがいい!私にも手が出る価格帯のものでも手に馴染むような素晴らしい文具が販売されているのです!!しかもそのデザインを考案したのがウィリアム・ロペス会長なんですよ!!!そんな方にお会いしたんですか?!」
「あ、ああ、そんなに凄い方だったんだな」
「そうですとも!!!ああなんて羨ましい!!!」
「テオ、落ち着いて」
今までにないほど饒舌に話すテオに少し引き気味なフレイアに対して、エルシーは冷静にテオに注意する。
きっとこの反応から見るに、エルシーは何度かこのように興奮するテオの姿を見てきたのだろう。
「それで、どう言った内容だったんです?」
少し落ち着いたらしいテオがそう聞いてきた。
「あー、うん、食事の誘い?」
「食事?!あの方と?!」
「うん」
テオはまたなんて羨ましい……と小声で言ってから空想でもしてるのか何も言わなくなってしまった。
「行きたくないんですか?」
「どうして?」
「隊長、気が乗らないなーって顔してます」
核心をついてきたのはエルシー。
確かにフレイアは気が乗らないと思っている。
自分の中には彼に対して特別な感情がないし、それなのに彼の食事の誘いに乗って気があるような素振りを見せるのは、彼に対して失礼なのでは、という気持ちがある。
「うーん、そうだね、あんまり?」
「差し支えなければ理由を聞いても?」
「…………告白をされて、」
「えっ?!」
目をまん丸にして驚くエルシーがとても可愛いな、と少し現実逃避をしながらフレイアは続ける。
「私の中にそういった気持ちがないのに受けるのは失礼じゃないかと」
「えっえっ、あっえっ、?」
「だから申し訳ないけど断ろうかなって」
「えっ、えー、」
フレイア様は団長と付き合ってるのかと思った、と小さく呟くエルシーの声は頭を悩ませるフレイアには届かない。届いていたならきっと否定しただろう。
結局フレイアはさてどうしたものか、と頭を悩ませながら返事の手紙の内容を考えるのだった。
0
お気に入りに追加
7
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ポッコチーヌ様のお世話係〜最強美形の騎士団長は露出狂でした~
すなぎ もりこ
恋愛
※【番外編】その②ロイヤル編☆王妃よ花がほころぶように笑え投稿しました!
※【番外編】その①ポッコチーヌ日記
投稿しました!
ゲルダは地方で騎士を勤めていたが、抜擢され、王都にある中央騎士団で任務に就くことになる。しかし、何故かゲルダのみ研修生扱い。四つある騎士団をタライ回しにされる事となってしまう。
とうとう最後の団である白騎士団に辿り着いたものの、眉目秀麗、文武両道で名高い白騎士団長マクシミリアン・ガルシアは、とんでもない変わり者だった。
しかも、ゲルダはその団長の世話係を押し付けられてしまい…
不憫なヒーローが男前のヒロインと出会い、自分を取り戻していく、愛と救いと平和(?)のロマンス(ラブコメ)です!
長くなりますが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです~
難しいテーマはありますが、コメディを絡めてあるのでそんなには重くないと思います。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜
束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。
家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。
「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。
皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。
今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。
ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……!
心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる