スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助

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41 雪山の怪物3

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 幸也達は調査を再開した。天気が変わりやすいので、動ける時に動かないと時間がかかってしまう。

「キャー」

 そのとき、エルミラさんの叫び声が。エルミラさんの元に向かうと全員が立ち尽くしていた。
 真っ白な雪の上に撒き散らされた真っ赤な血のあと。白と赤がバランスよく見えるほどの、おびただしい血の量。

「こっちに引き裂かれた魔物らしき物がありますにゃ」
「見ろ!こっちに大きな足跡が」
「40センチくらいか?それほど大きくないな」
「40センチは大きいですにゃ!」
「この足跡の主がやったんですよね?」
「元はおとなしい魔物と族長さんは言ってたわ」
「祠にあった物で凶暴化したんですにゃ・・」
「まだ近くにいるかもしれません。これからは、かたまって行動しましょう」

 結局この日はこれ以上の進展はなかった。

「なぁー、もうこれで依頼の報告した方がいいんじゃないか?」
「でも実物を見てないですにゃ」
「我々だけで倒せんかな?」
「何を取り込んだのか分からないうちは止めておきましょう。前に神の魔石を取り込んだやつと戦ったんですが、無限再生してましたから」
「無限再生?!よく勝てたわね?」
「運が良かったんです・・(ポポムに騙されたんです)」

 翌日、早朝。幸也とタケルは剣術の練習をしていた。

「ユキヤ、俺だいぶ強くなったろ?」
「そんなに簡単に強くなれるわけないだろ」
「でも少しは才能あるだろ?」
「どうかな~。それより練習が終わったら、シロを散歩に連れてってやれよ?シロがにらんでる」

 幸也達は昨日の足跡があった場所から、さらに奥に進んで行く。
 昨日の時点では足跡は途中で消えていた。そこで調査を中断し引き返したのだ。
 動物が追跡から逃げるために使うバックトラックなんてされたら、こちらが危険になってしまう。慎重に先に進む。

「見てください。木がなぎ倒されています」
「この木、太いですにゃ」
「それだけ力があるということかー」
「危ない!」

 崖の上から飛び降りてきたのは探していた白い毛並みの魔物だった。体長3メートルはあろうか。ゴリラのような見た目に白というより銀色の毛をしている。
 銀毛の魔物はこちらを見ているが目つきが尋常じゃない。

「全員、戦闘準備に入れー」
「戦うしかないのか・・」

 幸也、フェアラス、ギルーノが前に出て、エルミラ、ティーネが後ろに下がった。
 フェアラスが先制攻撃を仕掛ける。フェアラスの剣を銀毛は腕で受け止める。

「こいつの毛、ただの毛じゃない。硬いぞ!」

 幸也、ギルーノも攻撃する、硬い毛に阻まれてダメージを与えることができない。

炎爆発フレアボム

 エルミラが炎の魔法を放つ。銀毛は両腕を交差させて防ぐ。魔法も効いていないようだ。

「どうするにゃ?」
「細かい傷は再生してません。ダメージを与え続ければ・・」
「ギルーノのいくぞ!」

 フェアラス、ギルーノのコンビネーションが炸裂するが、ほとんどダメージになってはいない。

「毛がない。体の正面を狙いましょう」
「ユキヤ、下がってろ!俺達の連携技を使う。ティーネ!」
「はいですにゃ。ダブル回復ヒール
回復ヒール???」
 
 続けざまにエルミラがフェアラス、ギルーノに向かって炎魔法を放つ。火の玉人間と化した2人が銀毛に突っ込んで行く。

(火の玉???)

 銀毛は驚いたように一瞬止まる。火の玉ギルーノが槍で突く。銀毛は反応が遅れたが腕で槍を払いのける。
 火の玉から出てきたフェアラスが銀毛の心臓部に剣を突き刺した。銀毛の動きが止まる。

(火の玉の意味は分からないけど凄いよ、この人達!)

 しかし、とどめを刺しと思われた銀毛が再び動き出しフェアラス、ギルーノを殴り飛ばす。幸也も2人のもとに向かうが隙を突かれて吹き飛ばされてしまう。
 銀毛はエルミラ、ティーネの前に、ゆっくりと歩き出し2人を殴り倒した。
 幸也はよろけながら立ち上がる。全員、気を失っているが命までは奪われていないようだ。
 銀毛はなぎ倒した木をつかむと叫び声を上げ、その木を山の頂上付近に向かって投げ飛ばす。

(そんなことをしたら、雪崩が・・・)

 幸也の予想通りに雪は崩れ出し雪崩となって襲いかかる。幸也は、フェアラス達を雪崩から守る為に巨大な【ウォール】を出現させる。
 だが、そんなことでは雪崩は止まらない。
 雪が【ウォール】に当たった瞬間にヒビが入る。ズルズルと幸也は押し流され、後ろにあった木に背中が当たる。
 さらに、その木を押し倒し後退させられる。ようやく止まったのは木を何本も押し倒した後だ。
 背中がひどく痛む。巨大な【ウォール】を出した為に頭も痛む。【ウォール】は今にも砕けそうだ。
 幸いだったのは銀毛が立膝をつき動きを止めている点だ。

「ユキヤー!」
「ワンワンワンワン」
「タケル・・か!逃げろー」

 タケルとシロが、いつの間か銀毛の側まで来ている。

「ユキヤさん。私の手伝います」
「ミヤビ!もうダメだ。逃げろ・・」

 動きを止めていた銀毛が再び活動を始める。

「銀の毛、巨大化。【モード・ハートの女王クイーンオブハート】・・・なるほど、魔族の数珠ね。その銀毛の魔物、ただ剣をコアに刺しただけではダメだわ。コアを焼き斬りなさい」

(誰だ?・・・コアを焼き斬る?迷ってる時間はない・・)

「不知火、力を貸せ!【モード・紅蓮ぐれん】」

 幸也は不知火に紅蓮の炎を付与エンチャントさせる。

「シロー!」
「ワンワンワンワン」
「この刀をタケルの所まで持って行け。俺は手を離せない・・」
「ワンワン」

 シロは、 刀身を真っ赤に染めた不知火をタケルの元まで運ぶ。

「タケル・・お前がとどめを刺せ・・」

 銀毛を目の前にしたタケルは手足を震わせ、その場に立ち尽くししてる。

「タケルー」
「そ、そんな・・俺には・・無理だ・・」
「おまえの大切な姉ちゃん・・守るんじゃなかったのか!」
「姉ちゃん・・!守る・守る守る守る!」

 タケルは手足の震えを止め不知火を握りしめる。
 タケルは、そのまま銀毛に向かって走り出す。 

「うわぁぁぁぁぁぁあ」
 
【剣術LV1を取得しました】

 タケルの頭にスキルを取得したメッセージが流れる。タケルは、そんな事をお構いなしに銀毛に向かって突っ込んで行く・・・。
 銀毛の動きは止まった。タケルの握りしめた不知火は銀毛のコアを貫いている。

「や、やったー!ユキヤー」
「限界だ・・逃げるぞ、ミヤビ!【エアウォーク】」

 【ウォール】の片方を解除し、ミヤビを抱え【エアウォーク】で雪の上を滑り降りる。

「シロー、タケル捕まれ!」

 さらに、シロを抱えタケルがユキヤに飛びつく。
 目を覚ましたフェアラス達は、雪崩を目にし絶望の表情を浮かべている。

「フェアラスさん、全員、俺に捕まってください!」

 フェアラス達が幸也に飛びつく。

「重っー!」
「ユキヤ、雪がすぐ後ろまできてるにゃー」
「ユキヤさん、目の前は崖ですー」
「ユキヤー飛べーーー!」

 本当に飛んだ。まるでコメディーの映画のように・・・。
ボス。ボス。ボス。ボス。ボス。ボス。ボス。ワン。
 幸也達は崖を飛び越え反対側の雪の上に頭から落ちた。

「生きてるにゃーー!」
「と、飛びましたね・・」
「死ぬかと思った・・」
 
 全員、雪まみれで酷い格好だ。シロなんて、どこにいるか分からないぞ。
 こういう時って、なぜか笑いが込み上げる。みんな雪まみれで笑っている。全員ボロボロだ。早く 帰った方がいいな。

「しかし、残念にゃー。討伐した銀毛の証拠があれば報酬が増えたにゃ」
「ププッ」
「ユキヤ、何がおかしいにゃ?」
「ミヤビ」
「はい【出でよ】」

 ミヤビのアイテムボックスから銀毛の魔物が出てくる。

「な、何にゃー!?」
「滑ってる時に収納したんです」
「やったにゃー!」

 族長には報告と泊めてもらったお礼を言い、いよいよ帰りの時間がきた。
 もし温泉街で地盤沈下が起こるようなことがあれば、我々が助けに行くので安心してくれとのことだ。

「ユキヤさん、もう少しスキルの事を教えてもらいたかったです」
「今度ね、また来るさ」
「ユキヤ。今度来る時は、おまえより強くなってるかもな」
「そう言えばタケル、スキルは剣術だったんだろ」
「俺の才能を見せつけてやるぜ!」
「ああ、楽しみにしてるよ」

 幸也達は村まで戻り調査と魔物の討伐を報告すると村長は驚いていた。まさか討伐してくるとはと。
 調査と討伐報酬、金貨300枚。全員で山分けだ。

「やったにゃー!」
「無駄遣いは禁止ですわ」
「槍が欲しい・・・」
「肉食いに行こうー」
「さて帰りましょうか」

 幸也達はギルドの依頼を終えた。


(しかし、俺達を助けてくれた女・・誰だったんだ?)



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