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26 月明かりの泥棒2
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村井太信こと相島純平は森の中を走り抜ける。もう幸也は追ってきていない。
【気配探知LV7】のスキルを使う。彼はまだその場から動いていないようだ。
このスキルの不便なところは、集中しないと使えないという点だ。自動で探知してくれれば便利なのだが、無い物ねだりだろう。
相島は前方にいたコボルトらしき魔物を短剣で切り裂き、そのまま走り去って行く。
「人間の心の方が醜いなんて、皮肉だな」
イガルス邸に潜入し麻薬を見つけるまで3年かけた。慎重に慎重を重ねた。
それだけ当主のイガルスは悪賢いのだ。悪知恵が働く。
まぁその間にも他の貴族のところに盗みに入ったが・・・。
お金を持つとみんな変わってしまうのだろうか?一向に悪徳貴族が減らない。こっちの仕事が無くならなくていいのだが。
相島は盗んだ金品を孤児院やスラムにバラまいていた。足の付きやすい宝石類は避けた。
貴族連中からは恨まれるが貧しい者からは感謝された。まさに【異世界の石川五右衛門】だった。
追っ手がいないことを確認し、木にもたれかかって休む。腕を組むのが彼のスタイルだ。
あの宮原という少年・・。最後に何かを放とうとしていた・・。あれは・・。考えに詰まった相島はため息を吐くと、
「確証バイアスか・・・」
と、呟き思考する。
あの少年は転移者と言っていた。仲間が王都にいるらしいので本当だろう。勇者召喚か?最後に放とうとしたものあれは確か今はない剣術。なぜあんな少年が?年齢が合わない。
それにあの少年の乗っていた乗り物。あれは元の世界でもなかった『空飛ぶスケートボード』魔道具なのか?彼のスキルなのか?情報が足りない。
相島は再び走り出した。
ここ王都では連日、勇者の訓練が行われていた。
相変わらずみんなの様子がおかしい。柳田はそう感じ取っていた。普段はいつもと変わりないのに魔物との戦闘になると目つきがおかしくなるのだ。
かと言って全員で逃げ出すように説得できるとは思えなかった。まともなのは水川だけか・・。
「おはようございます。柳田様」
「おはようございます。公平さん。様はやめてくださいよ。様は」
彼は王都に納品をしている野原公平さん。日本人だ。彼も転移者だ。気がついたらこの世界にいたと言っていた。
彼はスラリとした長身で外国人風の容姿をしている。とても気さくで話し易く女性からの人気も高い。
そういえばクラスの女子も何人かうわさ話をしてたか・・・。
「今日は暑くなるかな?」
「そうですね。訓練も大変です」
「大変そうだね。勇者様は」
「自分は勇者なんて感覚がないんですけどね~」
「柳田君が勇者じゃなかったら誰がやるのさ?」
「んー、まぁ1人だけ相応しいヤツが・・」
「へー。その人は柳田君よりすごいのかい?」
「えぇ。ただの脳筋バカですけどね」
「あはは。会ってみたいもんだ」
王都の警備は厳重な体制をしている。ここまで厳重にするものかと思えるほどだ。
野原は【気配探知】を使って人気のない通路を探す。さすがにこれ以上の潜入は厳しい。
少し強引な手口を使えば行けないこともないが・・。ここで騒ぎ立てるのは得策ではないか・・。
どうやらこの国は隣国に戦争を仕掛けようとしているらしい。しかも勇者召喚した者達を兵士として戦わせようとしている。
それ以上の秘密を隠しているはずだが、警備が厳重すぎて先に進めなかった。
野原は『また来るよ』と言い残し去っていく。
幸也は信が消えたあとその場に立ち尽くした。
信が使ったのは【永遠の幻影】のようだったからだ。だが確証はない。似たような技かもしれない。
先代しか使えなかった技がなぜ?彼は転移者と言っていた。内影神妙流剣術と関係があるのか?考えがまとまらない。
信の行っている【悪徳貴族しか狙わない】をどことなく肯定している自分がいる。だから迷いもでるし本当に捕まえようとしているのか疑問になる。
頭の中がグルグルと同じところを回っている。
幸也はそれ以上思考するのを止めた。
今日は相島にとって久しぶりの仕事だった。
もちろん泥棒の方だ。【気配探知】を使えば忍び込むことも容易だ。
もしヤバくなったらあの技を使って逃げる。同じ【気配探知】を持っているヤツがいたらやっかいだが、そういう時は真っ先に退場してもらう。
このスキルはレアだしあまり気にしなくてもいいが。
下調べも欠かさない。臨時の仕事や日雇いの仕事を利用して、情報を収集する。
1度だけヤバい時があった。【気配探知】と【氷魔法】のスキル2つ持ちのヤツだ。しつこく追い回されたが体力の差で逃げ切れた。
やはり歩くことは大切だな。
相島は盗んだ金品は、ほとんど孤児院やスラムに置いてくる。まぁ少しは生活費としていただくが。
別に偽善者と呼ばれてもかまわない。自分がしたいから、しているだけだ。
やはり子供は笑っている方がいい。
大人の自分勝手な都合で捨てられる子が多い。
捨てられた子はスラムなどで満足に食べるに食べられず瘦せ細り、死んだような目をしている。見ていると、とても悲しい。
『贅沢をしているヤツから奪って何が悪い?』
そいつはこの異世界で月明かりのある晩にだけやって来る。
【気配探知LV7】のスキルを使う。彼はまだその場から動いていないようだ。
このスキルの不便なところは、集中しないと使えないという点だ。自動で探知してくれれば便利なのだが、無い物ねだりだろう。
相島は前方にいたコボルトらしき魔物を短剣で切り裂き、そのまま走り去って行く。
「人間の心の方が醜いなんて、皮肉だな」
イガルス邸に潜入し麻薬を見つけるまで3年かけた。慎重に慎重を重ねた。
それだけ当主のイガルスは悪賢いのだ。悪知恵が働く。
まぁその間にも他の貴族のところに盗みに入ったが・・・。
お金を持つとみんな変わってしまうのだろうか?一向に悪徳貴族が減らない。こっちの仕事が無くならなくていいのだが。
相島は盗んだ金品を孤児院やスラムにバラまいていた。足の付きやすい宝石類は避けた。
貴族連中からは恨まれるが貧しい者からは感謝された。まさに【異世界の石川五右衛門】だった。
追っ手がいないことを確認し、木にもたれかかって休む。腕を組むのが彼のスタイルだ。
あの宮原という少年・・。最後に何かを放とうとしていた・・。あれは・・。考えに詰まった相島はため息を吐くと、
「確証バイアスか・・・」
と、呟き思考する。
あの少年は転移者と言っていた。仲間が王都にいるらしいので本当だろう。勇者召喚か?最後に放とうとしたものあれは確か今はない剣術。なぜあんな少年が?年齢が合わない。
それにあの少年の乗っていた乗り物。あれは元の世界でもなかった『空飛ぶスケートボード』魔道具なのか?彼のスキルなのか?情報が足りない。
相島は再び走り出した。
ここ王都では連日、勇者の訓練が行われていた。
相変わらずみんなの様子がおかしい。柳田はそう感じ取っていた。普段はいつもと変わりないのに魔物との戦闘になると目つきがおかしくなるのだ。
かと言って全員で逃げ出すように説得できるとは思えなかった。まともなのは水川だけか・・。
「おはようございます。柳田様」
「おはようございます。公平さん。様はやめてくださいよ。様は」
彼は王都に納品をしている野原公平さん。日本人だ。彼も転移者だ。気がついたらこの世界にいたと言っていた。
彼はスラリとした長身で外国人風の容姿をしている。とても気さくで話し易く女性からの人気も高い。
そういえばクラスの女子も何人かうわさ話をしてたか・・・。
「今日は暑くなるかな?」
「そうですね。訓練も大変です」
「大変そうだね。勇者様は」
「自分は勇者なんて感覚がないんですけどね~」
「柳田君が勇者じゃなかったら誰がやるのさ?」
「んー、まぁ1人だけ相応しいヤツが・・」
「へー。その人は柳田君よりすごいのかい?」
「えぇ。ただの脳筋バカですけどね」
「あはは。会ってみたいもんだ」
王都の警備は厳重な体制をしている。ここまで厳重にするものかと思えるほどだ。
野原は【気配探知】を使って人気のない通路を探す。さすがにこれ以上の潜入は厳しい。
少し強引な手口を使えば行けないこともないが・・。ここで騒ぎ立てるのは得策ではないか・・。
どうやらこの国は隣国に戦争を仕掛けようとしているらしい。しかも勇者召喚した者達を兵士として戦わせようとしている。
それ以上の秘密を隠しているはずだが、警備が厳重すぎて先に進めなかった。
野原は『また来るよ』と言い残し去っていく。
幸也は信が消えたあとその場に立ち尽くした。
信が使ったのは【永遠の幻影】のようだったからだ。だが確証はない。似たような技かもしれない。
先代しか使えなかった技がなぜ?彼は転移者と言っていた。内影神妙流剣術と関係があるのか?考えがまとまらない。
信の行っている【悪徳貴族しか狙わない】をどことなく肯定している自分がいる。だから迷いもでるし本当に捕まえようとしているのか疑問になる。
頭の中がグルグルと同じところを回っている。
幸也はそれ以上思考するのを止めた。
今日は相島にとって久しぶりの仕事だった。
もちろん泥棒の方だ。【気配探知】を使えば忍び込むことも容易だ。
もしヤバくなったらあの技を使って逃げる。同じ【気配探知】を持っているヤツがいたらやっかいだが、そういう時は真っ先に退場してもらう。
このスキルはレアだしあまり気にしなくてもいいが。
下調べも欠かさない。臨時の仕事や日雇いの仕事を利用して、情報を収集する。
1度だけヤバい時があった。【気配探知】と【氷魔法】のスキル2つ持ちのヤツだ。しつこく追い回されたが体力の差で逃げ切れた。
やはり歩くことは大切だな。
相島は盗んだ金品は、ほとんど孤児院やスラムに置いてくる。まぁ少しは生活費としていただくが。
別に偽善者と呼ばれてもかまわない。自分がしたいから、しているだけだ。
やはり子供は笑っている方がいい。
大人の自分勝手な都合で捨てられる子が多い。
捨てられた子はスラムなどで満足に食べるに食べられず瘦せ細り、死んだような目をしている。見ていると、とても悲しい。
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