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16 商人サルム

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【ゴルディロックス効果】
高中低のように3つあると真ん中の物を選びやすい   

 ゴスプルの街まで帰ってきた幸也はその足で商人サルムさんの店に行く。
 店に行くとサルムさんがせわしなく働いている。
 どうやら陳列変えをしているらしい。

「こんにちは。サルムさん」
「おお!ユキヤ君。用事は済んだのかい?」
「おかげさまで。帰りの護衛、すみませんでした」
「気にしなくていいさ。それより中に入って。時間あるだろう?」
「はい。失礼します」

 建物の中はけっこう広い。サルムさんはなかなかやり手のようだ。

「それより変な噂を聞いてね」
「どんな噂ですか?」
「辺境の貴族が破滅したらしい」
「そ、そうなんですか」
「それでおかしな点があってね。建物が崩壊する時に雷を見たという人がいるんだ」
「こ、怖いですね・・」
「いや、なにね。あの貴族には商人仲間も酷い目にあったことがあってね、雷様に感謝したいくらいだ」
「・・・雷様」

 その後の会話はこの間のバザーがいかに成功したかについてだった。
 サルムさんの話しをまとめるとこうなる。

【サルムが決めていた値段】
Aカバン:銀貨3枚
Bカバン:銀貨2枚←1番利益が高い
Cカバン:銀貨2枚

 で売ろうと決めていたが幸也のアドバイスを聞いて

【幸也スタイル】
Aカバン:銀貨5枚
Bカバン:銀貨3枚
Cカバン:銀貨2枚

 に変更したらしい。
 すると、Bカバンが先に完売してしまい

Aカバン:銀貨5枚→:銀貨4枚
Bカバン:売り切れ
Cカバン:銀貨2枚

 に値下げしたらAカバンもすぐに完売、Cカバンもバザー中に完売した。
 それで幸也のアドバイスのおかげでかなり儲かっと。

(いやいや。【ゴルディロックス効果】は教えたけど・・・知識もないのに【コントラスト効果】まで・・)

【コントラスト効果】
 カレーは食べたら辛い。
 けど、激辛カレーを食べた後にカレーを食べると甘く感じる。
 激辛カレーという上限を引き上げられたことにより、同じカレーでも全く別の辛さに感じる。
 つまりカバンAの上限を引き上げ他のカバンを安く感じさせたのだ。
 この様な人の錯覚を利用した効果を【コントラスト効果】という。

 サルムさんは知識を持っていなかったのにも関わらず商売センスだけでこれを行ったのだ。

(商人サルムおそるべし・・・)

「いや~。ユキヤ君の言っていた『人の~』も良かったんだよね」
 
【人の視線は必ず、左から右に動く】

 幸也は【人の視線は必ず、左から右に動く】ので、安い物を左から順番に並べろとアドバイスした。 そうすると見やすくなるのだ。

「うちの店だけ人だかりが絶えなくてさ」

 そう言えば、この『人の~』って先代のじいさんから習ったんだっけ。懐かしい。

『裕也、人の視線は必ず、左から右に動く。覚えておけ』

 幸也は前世でこれを利用し相手が幸也を見た瞬間、視線は自分の右側に集中すると考え、その死角から斬撃を放つのを得意としていた。
 対戦する相手からは【消える斬撃】と恐れられていたが、幸也にとってはただの斬撃で大げさ過ぎとしか思っていなかった。


「ところでユキヤ君。うちで働かないか?」
「えっ!?」
「君だったら一月、金貨20枚いや30枚出す」
「ええっ!?」

(どうしよう?この条件はめちゃくちゃグラっとくる。冒険者として命をかけて同じくらいの報酬。一方安全な店で金貨30枚)

「ちょ、ちょっと待って。少し考えさせてください」
「返事はいつでもいいからね。冒険者を辞めてからでもいいし」

 再就職先をゲットした。幸也は思う。
 自分が【アイテムボックス】と【鑑定眼】を持っていることを教えると給料が更に跳ね上がるんじゃないかと。


 サルムの店を去った幸也は宿に帰りまだ悩んでいた。
 アイテムボックスのスキルは、本来商人向きであり戦闘に用いる幸也の方が異常なのだ。
 落ち着かない幸也は盗賊から奪った金品の事を思い出し確認してみる。

 ビビった。金貨100枚以上、宝石類もたくさある。

(小金持ちじゃん!やったー!)

 とは、ならなかった。なぜなら幸也は知っている。

【ラチェット効果】
人は一度身につけた贅沢からは、なかなか抜け出せない。

 なので今まで通り生活するのだ。
 1人だし保証もないしね。

 幸也はギルドに向かう。
 ギルドには【B】ランクパーティの【ウッドカッター】がいた。依頼を終えたらしい。
 キリルが幸也を見つけ駆け寄ってくる。

「ユキヤー。パーティ作ったの?」
「いいや、作ってないよ」
「作れよ?」
「遠慮しとく」
「ケチ!バーカ。バカ。バカ。バカ。」

 バカを連呼しながら去っていく。彼女は何がしたいのだろう?

 依頼ボードを見るとパーティが条件の依頼が多い。
 さすがに1人ソロではキツくなってきた。パーティを組むべきだろうか?
 色々考えることが増えたのでちょっと疲れ気味だ。

 受付の方を見るとミレイユさんが笑顔で受付をしている。
 ミレイユがこっちを見たので目が合った。幸也に笑顔で手を振る。グッとくる。幸也も照れ笑いしながら手をあげた。

 ミレイユさんの笑顔は、まさに【デススマイル】男の心を釘付けにし脳殺してしまうのだ。
 男冒険者は、この【デススマイル】にやられている人が多い。
 ゆえに用もない冒険者がギルド内にたむろしている。なにやら本人非公認のファンクラブがあるらしい・・・。

(ミレイユおそるべし・・・)

 ギルドの依頼ボードで何にしようか決めかねていると

「たいへんだー。魔物の群れが」

 と冒険者が入ってきた。ざわつくギルド。 
 冒険者は肩で息をしながら

「魔物の群れがこっちに向かっている。スタンピードだ。今回は数が・・・」

 途中まで言いかけた冒険者を落ち着かせ再びたずねる。

「今回は魔物の数10,000だ!」

 再びざわつくギルド内。
 キリルが青い顔をしている。
 キリルに聞いてみると前回のスタンピードも多くて3,000ほどだったらしい。
 それでも街が破壊され立て直すのに時間がかかったと。
 どうやらこの辺の魔物がスタンピードになると【魔物強化型スタンピード】になるようだ。
 魔物の戦闘力、連携力が強化され普通のスタンピードより危険性が増す。
 なので前回の3倍以上の数となると・・・。

 ギルドのマスターのグレイブは焦っていた。普段、冷静な彼が焦るほど今回のスタンピードの厳しさがうかがえる。

「魔物の群れがくるまで、どの位だ?」 
「おおよそ2日かと・・・」
「たったの2日だと!」

 ギルドは急いで冒険者を集める。
 高ランクパーティは緊急で帰還するように命じられる。街の人達も避難させねばならない。
 戦力も時間も足りなかった。
 
 王都からの応援も期待できなかった。
 元々王都とは犬猿の仲だし今のおかしくなった王都はなおさら期待出来ない。
 だが、グレイブの思考はギリギリのところで破綻せず、スタンピードに備えて準備をしていく。

 幸也は集められた冒険者と一緒にいた。
 普段は見られないかなりの数がいる。
【A】ランク、ワールドスクエアのジェラルさんが仕切って冒険者に説明をしている。
 そして冒険者に残酷な宣言をされる。

「今回のスタンピードは命の保証はできない」

 冒険者達がざわつく。当然だ。
『街の為に死んでくれ』と言われてるようなものだし。

 会議が終わるとジェラルさんに声をかけられる。
 今回幸也は前衛に入ってくれ。と。

 まだ若い【C】ランクの幸也にジェラルが申し訳なさそうに頼む。
 前衛。いわば特攻だ。
 ジェラルさん、スクラドさんも前衛。ラーラさんは中衛みたいだ。
 ラーラさんと目が合う。悲しそうな顔をしてすぐに目をそらされてしまった。

 幸也はジェラルに言う。

「1つお願いがあるのですが?」


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