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第六章 氷を繰る敵対者

第41話

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 外河川とは、重陽町の外周を流れている河川を指す。陸路で重陽町から出るとなれば必ず外河川にかかる橋を渡る必要がある。

『冬鷹、聞こえるか』
 襟から佐也加の声が流れてくる。拾った背後の音からは、まだ戦闘中なのが窺える。

『敵の戦力は現在、徐々にではあるが集中しつつある。とはいえ、まだ他方での戦闘が続き、被害が少しずつ拡大している。救助にも人員を割くため、戦力は大きく分散されている状態だ』

『外河川では敵陣五名に対し、自陣四名はで戦闘中だ。橋の前にて足止めはできているようだが、敵の一部が、先の男がしたように氷の中に籠城しつつ、隙を伺い攻撃をしかけているらしく、苦戦を強いられている。故に、私は此度の対籠城に特化した隊を組んだ。我らが着けば状況は大きく動くはずだ』

『だが問題は先の通り、機動力が低い事だ。我々が現着するまでに状況が良くない方へと動く可能性が十分にある』

 良くない方向……冬鷹の身体に自然と力が入る。

『取り調べ班、現状で判った事を教えろ』
 繋ぎます。と、オペレーターの後、しゃがれた声が通信に応えた。

『はい、取り調べ担当利賀とがです。現状判った事につきまして、まず奴らの目的ですが、郡司雪海さんと郡司冬鷹隊員である事は間違いないようです。次に、奴らの半数以上は所謂いわゆる「傭兵」で、主犯と思われるのは五名前後。取り調べ中の対象はその主犯たちの事を「研究所の人間」と呼んでいます。伊東怜奈につきましても、この「研究所の人間」に該当するようです』

『伊東怜奈の家族――「美堂みどう家」については何か判った事はあるか』
『それにつきましては蓮見はすみの方から報告があります』
 と言って、今度はバリトンが効いた別の隊員に替わった。

『蓮見です。「美堂家」についてですが、伊東怜奈の父「美堂勝彦かつひこ」、兄「美堂俊助しゅんすけ」も伊東怜奈と同研究組織に所属していたようです。ですが、父は二年前に研究中の事故で、兄は八ヶ月程前に病で亡くなっているという話です。研究内容は第一異能分類にこだわらず、治癒ちゆ・医療系、晩年では〈反魂はんごん〉などのあらゆる異能についてだったそうです。どうやら伊東怜奈の母が重い病だったらしく、容体に伴い研究が変わっていったようです』

『それと、伊東怜奈についてですが、信じがたい事ではありますが、あの氷冷系異能具は郡司雪海さんの捕獲に重点をおいて彼女が設計したものだそうです。使用者のキャパに合わせてより高度な〈氷冷操作〉も付随させているものもあるとか』

 取り調べ班からの報告が終わると佐也加は再び口を開く。

『聞いたか。伊東怜奈は間違いなく「研究所の人間」だ。意図は判らぬが、目的は冬鷹と雪海。つまり、貴様が手を貸そうとしていた少女は間違いなく貴様の「敵」。そして貴様は奴らの「餌」だ』
「覚悟はできています」
『無論だ。今さら怖じ気付くなど許さぬ』

 冬鷹の力強い返事を、佐也加は淡々と受け流した。

『外河川前にいる敵五人の内、「研究所の人間」は恐らく伊東怜奈を含めた三人だ。「傭兵」ほど機動力がないようで、容易には逃げられぬだが、過信はするな。
〈転移妨害〉を警戒してか判らぬが、奴らは〈転移〉を使用していない。使用したとて、街の〈転移妨害〉は強力だ。仮に〈妨害〉が突破されたとて、目の前での〈転移〉ならば痕跡を辿り、すぐに追い付く事ができる。痕跡が残らぬほど高等な〈転移〉が可能ならばすでに使用しているのが道理であろう』

『だが、やはり何があるかわからぬ。故に、貴様らはあくまで我らが着くまで「足止めの加勢」に徹しろ。いいか。他の者の邪魔をするな。余計な仕事を増やすな。さもなければ、それだけ雪海の奪還確率が下がる事に繋がると肝に銘じておけ』
「……わかりました!」

 それでもいい――冬鷹はふるう気持ちを込め、応えた。
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