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勝者たちの宴
しおりを挟むその年、隣り合うふたつの国で続いていた、長い長い戦が終わった。
そうして、勝利した国の若き将ーーエドアルト・リ・グランディエは自国では英雄、敵国に於いては憎しみの象徴となった。
属国と成り下がった敗戦国では、いまなお怨嗟の声がこだましている。
◇
ごらんになって、エドアルト様よ。
やっぱり素敵ね。恋人はいらっしゃるのかしら。
さぁ、どうかしら。お堅い方だと聞いたもの。
踊ってみたいわ。
話しかけてくださったらいいのに……。
こそりこそりとさざめく人並みの中、四方から注がれる視線に、エドアルトは居心地の悪い思いを抱えていた。白亜に輝く美しい王城では、今夜も煌びやかな夜会が開かれている。その輪の中へ、主君によって半ば強制的に投じられたエドアルトは、早く下がりたいと、そんなことばかりを考えていた。
「少しは笑いかけてやれ」
そう面白がるように笑ったのは、エドアルトの主君ーーヴェルディ・リ・クラウナード王太子だった。肩まで伸びた金色の髪を、今夜も一括りにして片側へ流している。その口元は緩みっぱなしだ。
「お嬢さんたちはみんなお前と踊りたがってるぞ」
言ったヴェルディの目尻が赤すぎるように見えるのは、気のせいではないのだろう。
「殿下」
エドアルトは両目を細めると、そっと口を開く。
「少々飲まれ過ぎでは」
「これくらい、平気平気」
ヴェルディはくすくすと笑って、エドアルトにもたれかかった。やはり飲み過ぎている。エドアルトは内心で深いため息を吐いた後、仕方なくヴェルディを支えた。そうして、そばにいた同僚ーーカティアスに耳打ちする。
「殿下を部屋へお連れする。手伝ってくれ」
「本当に学習しないお人だな」
傍観を決め込んでいたカティアスは呆れたように呟いた後、しかしこれも仕事かと背筋を伸ばしなおした。国王にヴェルディの体調が優れないことを伝え、三人で会場を辞する。
「殿下、少しは自分で歩いてください」
「ん、ああ」
歩く、歩くぞ、と言いながら、ヴェルディはよろりとエドアルトに体重をかけた。
騎士として日々鍛錬を詰んでいるとは言え、成人した男を抱えるのは容易いことではない。ましてや相手は泥酔しているのだ。
ヴェルディを真ん中に挟んで回廊を行くエドアルトとカティアスは、目を合わせて苦笑した。弱いくせに飲みたがる主君の介抱は、いつも決まって自分たちの役目だった。
でも、これで今夜は仕事を終えることが出来ると。エドアルトはほっとしていた。
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