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第21章 新リゾート開発編

第345話 建築設計デザイナー見習いアリスの旅立ち

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 ティンバーランド・リゾート開発協議会は、オレの基本構想(案)が原案通り承認可決され、一致協力してリゾート開発を行なうこととなった。
 全ての建物をログ建築で建設するので、開業までには1年近く掛かりそうだ。

 当初は、リゾート構想に懐疑的であった副部族長のダレンも、リゾート開発に賛成と公言するようになり、最大の懸案事項であった住民の理解を取り付けることが出来た。
 オレは領主であり、この地の主産業であるログ建築の大口発注者であり、豊かな森があるとは言え、質素な生活を送る彼らラビティア族が経済的に潤うような仕組みを提供しようと言うのだから当然と言えば当然だ。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 その日の午後、オレたち一行は、飛行船『空飛ぶベルーガ号』に乗りティンバーランドを後にした。
 飛行船には、大学のインターンシップ制度を利用してアクアクスター・デベロップメントの新入社員研修に参加するアリスも同乗していた。

 離陸前、アリスの父バルテスと母アリシアがアリスと暫しの別れを惜しんだ。

「パパ、ママ、行ってきます」

「アリス、カイト様の言うことをよく聞いて、しっかり勉強するんだぞ…」
 バルテスがアリスの手を握りながら言った。

「アリス…、忘れ物はない?、体に気をつけるのよ」
 アリシアも娘の手を握りしめた。

「パパ、ママ、大丈夫よ、もう子供じゃないんだから…
 それじゃ、行って来るね」
 そう言いながらも、アリスの目は潤んでいた。

「カイト様、娘をどうか宜しくお願いします」
 族長夫妻が深々と頭を下げた

「バルテス殿、私にお任せ下さい」
 オレはバルテス夫妻の手を取り、安心させた。

 全員が飛行船に乗り込むと、サクラがシートベルトを確認してくれた。
 オレが電源スイッチを入れ、ハッチ開閉ボタンを押すとタラップが格納され、自動でハッチが閉まった。
 コンソールのヘッドアップディスプレイには現在の気象情報と周囲の地図が3Dで表示されている。
 離陸ボタンを押すとジェットエンジンが起動し、下向きの噴射を開始した。
 飛行船は地上30mまでゆっくりと浮上すると、そこから一気に地上1000mまで上昇した。
 アリスはティンバーランドが見えなくなるまで手を振っていた。

 途中、アーロンをエッセン市庁舎前で下ろし、残りのメンバーは、そのまま王都へ飛行し僅か45分で到着した。

 飛行船『空飛ぶベルーガ号』が到着したのは、王都に新しくできたアクアスター・グループ本社ビルである。
 地上24階建と王都では1番の高層建築だ。
 その最上階が飛行船ステーションとなっており、反重力エレベータで各階へ直行できるようになっていた。
 アクアスター・グループは、社員数が800名を超え、今までバラバラだったグループ企業12社の本社と営業所を集約したのだ。
 ビル全体の半分ほどは空室であるが、グループ企業が増えてもすぐに対応できるようにフロアを多めに用意したのだ。

 アリスが入社するアクアスター・デベロップメントの本社は、21階の1フロアを全て使っていた。
 現在、社員数は36名であるが、設計技術者として新規採用した18名の大学生を加えると50名を超えるのだ。

 18名の内、半数の9名は地方出身者で、研修期間中は会社が借り上げた宿舎に寝泊まりしながら、BIM設計技術を1から学ぶのである。
 女性用の宿舎として借り上げたのは、近場にある宿『踊る銀ねこ亭』だ。
 オレが女将に頼んで半年間、2部屋借りたのである。
 アリスを含め4名のインターン生が、『踊る銀ねこ亭』から会社に通ことになった。

 アリスと同室となったのは、ジュリアと言うセントレーニア出身の可愛い女子大生である。
 明るい性格で、少し話してみて気が合いそうだなと少し安心した。
 来週から始まる新入社員研修でカイト様の期待に沿えるように精一杯頑張ろうとアリスは心に誓った。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 ヒカリのスイーツの店『ルミエール・ド・エトワール』は、開店後連日売切れの絶好調が続いていた。
 当初は女性客ばかりであったが、いつ頃からか男性客が増えだし、今では男女半々の割合となっていた。
 男性客のお目当ては、スイーツではなく双子の美少女である。
 どこから聞きつけたのか、天使のように可憐で愛らしい双子の美少女がスイーツの補充やレジを担当していると王都中の噂になり、一目見よう男性客が押し寄せたのである。
 中には、セリーナとセレーナに話しかけて名前を聞き出そうとしたり、仕事が終わってから外で会おうとか、休みの日にデートしようと誘う輩が続出し、レジ前で警備担当の女戦士ヴァルキュリーアストレアが、そのような輩を排除するのに忙しかった。
 お陰で、開店前から長蛇の列が出来て、警備兼店外整理要員と配置していた女戦士ヴァルキュリーのアストレアだけでは足りなくなり、急遽フローラの護衛のレクシアとアリエスの護衛のレイフェリアが駆り出されることとなった。

 並ぶ人が余りにも多過ぎて、通行の妨げとなり、近隣の商店に迷惑が掛かるので、開店初日に配布していた整理券が復活した。
 ヒカリと製造担当のスタッフが、どんなに頑張ってスイーツを作っても自ずと限界があるからだ。
 『ルミエール・ド・エトワール』は、スイーツの人気に加え、双子の美少女目当ての客もいて想定以上の盛況ぶりであった。

 セリーナとセレーナの2人の王女(資格停止中)は、今まで経験したことのない忙しさと、男性客から言い寄られる精神的な疲労もあり、連日クタクタであった。
 今までは、お茶を飲んで姉妹でお喋りに花を咲かすのが日課であったが、自分たちに課せられた罰であるスイーツショップの店員として働くことが、これほどハードだとは思わなかったのだ。
 閉店後、2人ともゲートで領都公爵邸の自分たちの部屋へ戻るのだが、慣れない立ち仕事と精神的な疲労で、部屋で風呂に浸かって、食事を済ますと睡魔が襲い、ベッドで僅かな語らいの時間を過ごすのが精一杯であった。

「セレーナ、スイーツショップの店員って、こんなに大変だとは思わなかったわね」

「姉様、やっぱりこれが私たちに課せられた罰なのよ」

「でも、何とか6ヶ月間耐えないと…、カイト様も、陛下も許してくれないし…」

「姉様、何が何でも6ヶ月間乗り切りましょ」

「そうね、セレーナ、頑張りましょ」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 一方、廃嫡となったマリウス王子は、その後ASRの研修生として練習に没頭し、充実した日々を送っているかと思えばそうではないとリオナが教えてくれた。
 リオナ曰く、マリウスは何か悩みを抱えているようだと言うのだ。
 マリウスは、自分に課せられた重圧から開放され、自分が熱中できることを見つけた筈であるが、一体何を悩んでいるのだろう。

 オレはアクアスタープロダクション社長として、ASRメンバーや研修の世話を任せているサクラを呼んで話を聞いた。
「マリウス王子が悩んでいると聞いたが、それは本当か?」

「はい、練習は人一倍熱心にやってますし、他の研修生たちとのコミュニケーションも取れているのですが、1人になると暗い顔をして何か悩んでいるようです。
 私もリオナに言われてから気になって、本人に直接聞いてみたんですが…
 本人は、何でもありません、大丈夫ですと言うばかりなんです」

「う~ん、サクラにも話せないことなんだろうか」

「カイト様なら、悩みを打ち明けるかも知れませんね」

「ん~、どうだろなぁ…
 何れにせよ、一度マリウス王子を呼んで話を聞いてみよう」
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