上 下
146 / 374
第12章 領都シュテリオンベルグ復興編

第144話 神テクノロジーの洗礼

しおりを挟む
 スーの驚くべき秘密が明らかになった女神たちとの夕食会の後、オレはスーを自室へ呼び叱った。
 純真無垢な子供であれば咎めることも無かったが、分別のある成人女性と考えれば話は別だ。
 自分を幼女と偽り、人を騙し続け、愛の行為と知った上で、それを揶揄やゆするのは許されざることだ。
 しかも客人である女神まで侮蔑するような物言いは、許されるものではない。

 国王陛下の紹介とは言え、スーはオレと雇用関係にある使用人の立場なのだ。
 何故、成人であることを隠し、人を騙し続けたのか、スーを問いただした。
 返答次第では、雇用関係の解除まで考えたが、スーは事の重大性をようやく悟り、涙ながらに自分のしたことを懺悔ざんげし、謝罪した。

 スーは科学や論理的な事象に対する理解度は極めて高いが、善悪の判断や倫理的な考え方は未成熟で、子供と変わらないレベルと分かった。
 言うなれば脳の急激な発達に、心が追いつかない状況と言ったところか。

 オレはスーの謝罪を受け入れ、以後オレに対し嘘は付かない、裏切り行為はしないと言う条件付きで雇用を継続することとした。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 翌日、スーを伴い、女神たちの工房アトリエを訪れた。
 工房アトリエとは、オレが勝手にUFOビルと呼んでいる直径24m高さ96mの円柱形の建物だ。
 縦方向に伸縮自在で、その実態は飛行船と言う神テクノロジーの産物である。
 入口は自動ドアとなっており、中はフロアの半分くらいが3階部分まで吹き抜けとなっていた。

 それとは別に入口の右側2箇所、直径1.5m位が最上階まで貫通しており、見上げると女神が一人、こちらへ降下してくる途中だった。
 女神は半透明なエレベーターに乗っているかのような感じで降りてきた。

「いらっしゃい、私たちの工房アトリエへようこそ」
 そう言って、女神フィオナはオレたちを迎えてくれた。

 今日の女神の衣装は『巫女装束みこしょうぞく』である。
 白衣びゃくえ緋袴ひばかまを付け、長い髪は後ろの低い位置でまとめて奉書紙を巻き、麻紐で縛っているのだ。
 『巫女装束みこしょうぞく』を細部までリアルに再現しており、彼女たちの気合の入れ方が半端で無いことを伺わせた。

「今日は、よろしくお願いします。
 早速ですが、これはエレベーターですか?」

「そうよ、これは反重力エレベーターです」
 反重力エレベーターとは反重力制御装置を利用した昇降装置で、吹き抜けのような何もない空間を上下に移動することができるのだ。
「しかし、階の移動は、どのように指定するのですか?」

「ああ、それは実際に乗ってみれば分かりますよ」

 オレとスーは、女神フィオナに勧められて反重力エレベーターの中に入った。
「もう少し右側です」
 そう言われて、30センチほど右に寄ると目の前にタッチパネルが現れた。

「24階のボタンを押して下さい」
 女神フィオナがオレの横に乗りながら言った。
 ホログラフィ技術を応用して浮かび上がらせた光学的なタッチパネルなのだ。
『空飛ぶイルカ号』のコンソールに使われているのと同様の技術か。
 24と書かれたボタンに触れると反応し、オレたちは何もない空間を急上昇し、最上階に到達すると停止した。

 オレとスーは室内に入ると、改めて反重力エレベーターを見た。
「乗り心地は如何でしたか?
 何もない空中を上昇するので、体が拒絶反応を起こして、背筋がゾクゾクしてますが、慣れれば便利に使えそうですね」

 因みに右が上り、左が下り専用になっているそうで、体が両方に掛かっている場合は動作しないそうだ。
 この装置は1階の床下部分に反重力制御装置が埋め込まれており、人が乗り込んだことを感知すると作動する仕組みであると説明してくれた。

「凄い技術ですね」
 オレはいきなり、神テクノロジーの洗礼を受けて感動した。

 それを聞いた女神フィオナは、笑いながらオレたちを部屋に招き入れた。
「これで驚いていたら、これから何度も腰を抜かすことになりますよ。
 さあ、ここが最上階の展望リビングです」

 そこは広い空間で、壁が全面透明な広いワンルームであった。
 窓からは湖が一望でき、絶景が広がっていた。
 眼下にアクアスターリゾートの本館があり、オレのペントハウスが遥か下に見えた。
 奥にパーティションで仕切られた未来的なデザインの応接セットがあり、そこに女神フィリスが座り、オレたちを手招きしていた。

「いらっしゃい、お待ちしてましたよ」

 オレたちが、ソファに掛けるとメイドロイドがお茶を出してくれた。
 するとスーが神妙な顔つきで立ち上がり、頭を下げた。
「昨日は失礼なことを言ってしまい、ご免なさい。
 あの後、カイト様に叱られて目が覚めました。
 心を入れ替えますので、どうかご指導宜しくお願いします」と女神に謝罪した。

「まあ、頭を上げて下さい。
 私たち、気にしてませんから」と女神たちは寛大な態度を見せてくれた。

「スーの失礼な態度をお許し下さり、ありがとうございます。
 これから、厳しく指導してやって下さい」

「はいはい、分かりましたよ」
 悪戯いたずらした孫娘を許す、優しい老婆のような寛容さであった。

「さあ、その話はこれでお終い。
 ここからは前向きな話をしましょ。
 カイトさんは、私たちに何をお求めなのかご説明いただけますか?」

「はい、では、私のプランをお話し致します」
 オレは女神たちに自分のクリアすべき課題を披露した。
 ◎MOGを使った建築ユニットの製作実験
 ◎湖の中島にヴィラを建設
 ◎領都シュテリオンベルグの市庁舎建設
 ◎領都シュテリオンベルグの領都邸建設
 ◎エメラルドリゾートのホテル建設
 ◎飛行船の建造技術習得

「当面はこんな感じでしょうか」

「なるほど、建物の建設が多いですね。
 あなたがお考えのように、MOGが役立ちそうです」

「MOGで何か建物を造って見ましょうか?」

「はい、ぜひお願いします」

「カイトさんは設計済の建築データをお持ちですか?」

「以前、設計した建物で良ろしければありますが…」
 オレは転生前に設計したBIMのデータがパソコンに残っているのを確認していた。
 その中に、某リゾート用として設計したヴィラのデータがあり、それをMOGで再現してみようと思ったのだ。

 因みにBIMとはコンピューターで現実と同じ建物の立体モデルを作成して、平面図や立面図、断面図、展開図、屋根形状、パース図などの図面の他、その建物に使用する壁材、建具、設備、部材、家具などの配置、性能、品番、数量、価格など建築設計で取り扱う全ての情報を一元管理できるシステムである。

「これにヴィラのBIMデータが入っています」とフラッシュメモリを見せた。

「分かりました、お預かりしますね」

 オレは女神フィリスにフラッシュメモリを渡した。
「それではBIMデータを解析してMOG形式のデータに変換しますから、少し時間を下さい」

 そう言って女神フィリスは席を外した。

 待っている間、オレとスーは室内を見せてもらった。
 直径24mの円形の室内は想像以上に広く、機能的かつ洗練されたデザインで居心地の良い部屋だった。
 ガラスにしか見えない、周囲の窓はビルの外壁で透明度を変えているだけであると分かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

処理中です...