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第11章 新領地経営編

第133話 サエマレスタリゾートの重鎮

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 その男はよわい60を超え、長身痩躯ちょうしんそうくで、短く手入れされた顎髭あごひげたくわえ、表情は柔和であるが眼光だけが鋭い老紳士であった。
 30年以上もの長きにわたり、サエマレスタリゾートを率い、孫であるアンジェラに社長の座は譲ったものの、今も会長職にとどまる実質的なグループのトップであり、この業界の重鎮なのだ。

「当グループの会長を務めております、エルビン・サエマレスタでございます。
 伯爵閣下、王女殿下、この度はお目通りの機会を賜り誠に光栄に存じます」

「いやいや、こちらこそ突然無理なことをお願いして申し訳ない」

「早速でございますが、孫娘から伯爵閣下の壮大な構想をお聞きしました。
 この度は、身に余るお話を頂戴し、この上なく名誉なこととアンジェラと話しておりました。
 私共と致しましては、領民救済と領内全体の発展を深慮なされる伯爵閣下のご意向に沿う考えでございます。
 しかし、如何せん当グループの資力にもおのずと限界がございますれば、如何ほど出資すれば宜しいのか伺いたく存じます」

「エルビン殿の賢明なご判断に感謝致します。
 サエマレスタリゾートには金貨20万枚(200億円)の出資をお願いしたいと考えております」

「金貨20万枚ですか、またそれは途方もない金額でございますなぁ…」と言うと老紳士は暫く考えていたが、長年培った自らの経験を元に答えを導き出した。

「承知致しました、金貨20万枚の出資をお引き受け致しましょう。
 私共の会社は元々サンドベリアで生まれ、サンドベリアと共に育った企業です。
 サンドベリアの窮地を救うために、伯爵閣下がご尽力下さっているのに何を迷う必要がございましょう。
 私どもサエマレスタ・リゾートは、資金も含め全面的にご協力致します」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 こうして、セントレーニアと旧サンドベリアを代表する二つの企業グループからの出資が約束され、最終的には下記の7社が出資することとなり、金貨150万枚(1500億円)を超える資金が集まった。

 シュテリオンベルグ・リゾート開発共同企業体(SRDC)候補企業
 ◎アクアスターリゾート  金貨30万枚
 ◎アルカディアグループ  金貨30万枚
 ◎ソランスター王室    金貨30万枚
 ◎サエマレスタリゾート  金貨20万枚
 ◎バレンシア商会     金貨20万枚
 ◎イシュトリアシーフード 金貨10万枚
 ◎アルテオン公爵家    金貨10万枚

 これらはエメラルド諸島のリゾート開発を目的とした資金だが、その3分の1を旧サンドベリア地区の住民救済のために資金を拠出することが了承された。

 後日談であるが、ジェスティーナが国王陛下に奏上してくれて国庫上納金の金貨45万枚を、今年に限り15万枚に減額してくれることとなった。
 これにより、金貨30万枚の資金が浮いたことになる。

 実はジェスティーナが国王陛下に『前領主の尻拭いをカイトだけに押し付けるのはどういう事』と詰め寄ったそうで、国王も責任を感じ国庫上納金を3分の1に減額してくれたのだ。

 ジェスティーナは婚約者で、まだ妻ではないが、これも内助の功であろう。

 イシュトリアシーフードは、旧サンドベリアを代表するレストランとカフェ&バーなどの飲食業を展開する企業だが、サエマレスタグループの強力な後押しにより、出資を決めてくれたのである。
 ちなみに『唄うクジラ亭』のショーパブは、イシュトリアシーフードがテナントとして入って経営していることが分かった。

 出資企業7社の内、アクアスターリゾートは、オレとアスナとバレンシア商会が出資して設立したオレが社長かつ大株主の会社だ。
 資本金は、たかだか金貨1万5千枚で、金貨30万枚(300億円)もの資金などあるわけがなく、ソランスター王室つまり国王から金貨30万枚の増資(=借金)を得て共同企業体に出資したのである。

 領主であるオレが共同企業体に出資しないわけには行かず、これで何とか面目が保てたのである。
 婚約者であるジェスティーナの父親であるとは言え、これでますます頭が上がらなくなったのだ。

 バレンシア商会は、セントレーニアとシュテリオンベルグに支店を開設し、アルカディアグループ、サエマレスタリゾート、イシュトリアシーフードの3社とそれぞれ業務提携契約を締結した。
 これにより、シュテリオンベルグ伯爵領と王都の商流の活性化が約束されたと言っても過言ではない。

 ちなみにバレンシア商会は、定期航路開設予定の国内主要都市に支店を開設する準備を進めており、アスナは人材確保に駆けずり回っているらしい。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 資金問題に目途が付いたオレは、市庁舎建設に着手した。
 通常の方法では時間ばかり掛かりそうなので、困った時の神頼みということで、女神フィリアに電話で相談した。

「もしも~し、フィリアで~す」
 相変わらず軽い乗りの女神フィリアがすぐに電話に出た。

「フィリア様、カイトです、ご無沙汰してます」

「お久しぶり~、カイトくん元気してた~?」

「はい、お陰様で元気ですが、忙しくてバタバタしてます」

「うんうん聞いたよ~、前領主の後始末で奔走してるんだって?」
 いつもの事ながら、フィリアが何処からその情報を仕入れたのか気になった。

「そうなんですよ、前の領主の尻拭いと金策が大変で、あちこち走り回ってますよ」

「そうなんだ~、領主って大変だね~。
 ところでカイトくん、今日はどんな用?」

「今日はフィリア様にご相談があるんです」

「えっ、なになに?」

「領都に新しい市庁舎を建設したいんですが、人手不足だし、建設するにも時間が掛かりそうなので、フィリア様、何かいい方法知らないかな~って思ったんです」

「あ~なるほどね、うんうん知ってるよ。
 幾つか方法あるけど、一番簡単なのはカイトくんも知ってるユニット工法かな~」

「あれだと出来合いのパーツをブロックみたいに組み合わせるだけだし、安価で工期も短くて済むんだよね~。
 従業員宿舎とか、さほど見栄えを気にしないんだったら、問題ないと思うんだけど。
 街のシンボルになるかも知れない市庁舎には、ちょっと向かないかもね~」

「やっぱり、そうですよね~。
 他には何か方法ありますか?」

「そうだね~、後は設計図を引いてユニットを作成してもらう方法かな~。
 この方法だと格段に自由度は上がるけどね」

「え、設計図から建物のユニットを作るんですか?」

「うんうん、ユニットの製造は3Dプリンターのような技術を使うのよ」
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