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第8章 南国リゾートへの旅

第86話 砂上のレストラン La luna

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 夜6時、オープンと同時に砂上のレストラン『La Lunaラ・ルーナ』の席に着いた。

 こんなに暑い日には、まず冷たいビールが飲みたい。
 飲兵衛3人はビール、エミリアはトニックウォーターを注文した。
 すぐにお洒落なトールグラスに注がれた生ビールとトニックウォーターがサーブされた。

「新たに旅のメンバーとなったエミリアを歓迎して、カンパーイ!」
 オレはグラスを高く掲げて美女3人と乾杯した。

 女性陣は、みんな水着のまま来たので、至近距離にある胸の谷間についつい目が行ってしまう。
 それは男のさがなので仕方がないことだ。

 海に視線をやると沖の島影に沈むオレンジ色の夕陽が見事だった。
 夕陽の上には筋雲が掛かっており、刻々と変化し黄金色こがねいろに染まっていく。
 オレはスマホを取り出して夕陽の写真を撮り、ジェスティーナに送信した。
 きっとまた羨ましいとか、1人だけズルいとかと言ってくるに違いないが、約束なので送らない訳にはいかない。

 ビールを飲みながら、素晴らしい夕陽に見とれていると料理が運ばれてきた。
 ロブスターの香草焼き、生牡蠣、チーズフォンデュ、ヒレステーキ、イカスミパスタ、海老のカクテル、タンドリーチキン、生ハムとチーズとフルーツサラダの盛り合わせ、バケットなどを皆でシェアして食べた。

 やがて夜のとばりりてマジックアワーの時間帯となり、水平線のオレンジ色から天上のディープブルーまで無段階のグラデーションが美しかった。

 辺りが暗くなり始めると、ウェイターがキャンドルに明かりを灯し、辺りは幻想的な雰囲気に包まれた。
 レストラン『La Lunaラ・ルーナ』の名に相応ふさわしく、東の空には綺麗な満月が出ている。

 隣に座ったエミリアが、唐突にこんなことを語り始めた。
「カイト様、私こんな素敵なレストラン初めてです」
 エミリアは、感激して涙目になっていた。

「もしカイト様が、旅亭アルカディアのスイートルームに泊まらなかったら、私はあのホテルで一生を終えるか、エレーゼ伯爵様の妾として買われ、その内捨てられて野垂れ死にしていたでしょうね」と悲しそうに語った。

「でもカイト様が私を救って下さったから、自由の身になれました。
 私、一生カイト様に付いていきます」と真剣な眼差しでオレを見ている。

 そこまで言われると、オレも何だか照れくさくなってくる。
「多分、これは運命だったんだと思うよ。
 せっかく自由になれたんだし、エミリアはこれから何がしたい?」

「私はカイト様のリゾートホテルで、 専属客室係バトラーとして働きます。
 そして、ホテルでお客様に快適にお過ごしいただけるよう、精一杯サポートして、また来たいと言っていただけるように頑張ります」と張り切っている。

 オレは街で買い物がしたいとか、美味しいものが食べたいとか、そんな答えが返ってくるかと思っていたが、エミリアの答えは仕事だった。
 専属客室係バトラーの仕事が、よほど気に入っているらしいが、彼女には色々な可能性があるとオレは思っていた。
 いずれにしても、優秀な人間がオレの傍で働いてくれるのは嬉しいことだ。

 エミリアは、黒髪ポニーテールで洗練された極上の美貌とバランスの取れたプロポーションを持つオレ好みの美女だ。
 彼女が少なからずオレに好意を寄せているのは、言葉の端々から感じ取れる。

 エミリアと出会ってまだ数日だが、彼女のオレに対する想いは、不幸な境遇から救い出した事に寄るのもあるだろうが、英知の指輪のスキル『魅了』が効いているのも間違いない。

 オレたちはビールからワインに切り替えて、砂上のレストランで2時間ほど食事を堪能した。
 その後、ホテルの屋外バーへ移動し、カクテルやスパークリングワインを満喫し、月明かりの中、さざ波をBGMに美女3人との会話を楽しんだ。

 そんな中、珍しくステラが酔って頬を染めている。
 普段はいくら飲んでもシレッとして顔に出ないのだが、今日は酒量もかなり捗り、頬から首筋までピンク色に染まっている。
 目が座ってきて呂律ろれつも怪しくなっている。
 普段は寡黙なステラであるが、オレにお願いがあるのだと言う。
「カイトさま、お願いが、2つ、あります…」とトロンとした目でオレを見つめているが、それが何とも色っぽい。

 Sクラス冒険者にして蒼雷そうらい剣姫けんきの二つ名を持つステラだが、他人がこの状態を見れば、酔っ払った色っぽい極上の美女としか映らないだろう。

「え、お願いが2つ?、って何?」

 酔っ払っているが、目は真剣そのものだ。
 逆に酔っていないと言えないのかも知れない。

「カイトさまの…、専属に、なりたいです…」

 クラリスが補足してくれたが、ステラから専属の護衛としてオレに仕えたいと相談されたそうだ。
 今回、ステラが王室と結んだオレの護衛契約は、旅が終わるまでの一時的なものだ。
 次回の旅の護衛は、新たに契約するのだが、ステラはオレ個人の専属の護衛としてつかえたいらしいのだ。

 その話は、オレにとって悪い話では無いし、兵士100人の戦力を持つステラが常時護衛としてそばに居てくれるのは、とても心強いことだ。

「ありがとう、ステラに専属の護衛をお願いするよ。
 早速、報酬も決めないとね」

 ステラは自分からお願いしたから、衣食住を保証してくれれば報酬は要らないというのだが、そうも行かないので、1ヶ月金貨10枚でお願いすることにした。
 兵士100名分の戦力を持つSクラス冒険者なのだから、それでも安いくらいだ。

 あとで聞いた話では、オレの傍に居たいから専属の護衛になりたかったのだとクラリスが教えてくれた。
 やはり、これも英知の指輪のスキル『魅了』の効果だろう。

「ステラ、専属護衛契約は、お願いするとして、2つ目のお願いって何?」
 そう言うと、ステラは真っ赤になり、黙ってしまった。
 ステラはクラリスに何事か耳打ちしていたが、結局ここでは言えないそうだ。
 一体どんなお願いなのか、とても気になる。
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