上 下
32 / 374
第2章 王都フローリアへの旅

第30話 トラブルメーカー

しおりを挟む
「どうですか、彼女?」とアスナが言う。

「なんか受け答えが、ぶっきら棒ですね。
 一見すると、強そうに見えないけどS級冒険者だし、護衛としては申し分ないと思います」

「彼女が暇な理由、お分かりになりますか?」

「いえ、分かりません、何か特別な理由があるんですか?」

「ええ、あの通り、コミュ障で協調性は無いし、男嫌いと言うのもありますが、最大の理由は、曰く付きのトラブルメーカーと言うことなんです」

「なるほど、何となくそんな感じしますね」

「トラブルが多いので、ほとんど仕事の依頼がないとクラリスが言ってました。
 仕事を干されている状況で、今回この護衛の話が来て、彼女にとっては喉から手が出るくらい美味しい話だと思います」

「なるほど、彼女が暇な理由がようやく分かりました」

「その辺のことを全部呑み込んで、上手くコントロールできれば、間違いなく最強の護衛なんですが…」

「う~ん」
 オレは考え込んだ。

「トラブルメーカーって、いったいどんなトラブルを起こしたんですか?」

 アスナが冒険者ギルドの受付嬢クラリスから聞いた話を詳しく説明してくれた。

(逸話その1)
 ステラが酒場で呑んでいた時に、他所者よそものの男たちがステラにしつこく言い寄って来たところを完膚無かんぷなきまでブチのめして全員病院送りにした。この件は絡まれたと言うのもあるので多少同情の余地あり。

(逸話その2)
 ワイバーン(小型の翼竜)退治を請け負った時に、彼女の颯雷そうらい魔法を使った剣技でワイバーンを見事に退治したまでは良かったが、勢い余って周囲の森まで根こそぎ壊滅状態にしてしまって、その森の特産だった薬の原料である希少なキノコまで根絶やしにして、賠償請求された。

(逸話その3)
 金鉱に住み着いたサイクロプス(一つ目の巨人の魔物)の退治を請け負って魔物の退治は成功したが、坑道を崩落させてしまって金の採掘が暫くできない状態になり、賠償請求された。

「まだまだありますが、ざっとこんな感じです」
「力加減を知らないと言うか、後先考えないと言うか、今は稼ぎよりも損害賠償の支払いの方が多いと言う噂ですよ」

「なるほどね~、力の制御が不得手なんですかね」

「本人も度重なる不祥事続きで仕事にあぶれていて、最近はだいぶヘコんでると、ステラが言ってました」

「私は、彼女を護衛として連れて行って、ハヤミ様にご迷惑を掛けないかと、心配しているんです」

「今の話を聞けばアスナさんの心配は理解できますが、起こるかどうか分からないことを心配するよりも、護衛として絶大な力を持っている彼女を雇うのが、今は正しい判断だと思います」

「採用するに当たり、条件を付けるのも、ひとつの手かなと思うんです。
 例えば、酒でトラブルを起こしているので、護衛中は禁酒にしてもらうとか…
 あとは自分で判断して勝手に行動しないとか」

「なるほど、ではその追加条件を飲めるかどうか、彼女に話してみましょう」

 オレとアスナは、ステラのいる部屋へ戻った。
「お待たせしました。
 ステラさん、あなたを護衛として採用したいと思いますが、2点ほど条件があります」とアスナが切り出した。

「どんな条件だ」

「はい、1つ目は護衛中の飲酒の禁止、2つ目は自分で判断して勝手に行動しない、必ず私かハヤミ様の指示または許可を得て行動する、この2点が条件です」

「承知した」
 ステラはあっさりと条件を飲んだ。

 アスナが提示した条件で契約書を作成し、ステラ・リーンと護衛契約を締結した。
 護衛任務の詳細はこんな感じだ。
 ①王都からカイトの館までの往復、オレとアスナ、メイド2名を護衛する。
 ②往復3週間を拘束期間とし、その間の寝泊まり、移動手段、飲食その他の経費は雇い主負担とする。
 ③護衛任務中は禁酒とする。
 ④自分で判断して行動せず、アスナかカイトの指示を得てから行動する。
 出発は明後日の朝と決まった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 王都から帰る日がやってきた。
『踊る銀ねこ亭』の前にはバレンシア商会当主のリカール・バレンシアと錬金術師のソラリア師、それに『踊る銀ねこ亭』の女将と亭主、娘のマリンも姿を見せた。
 ちなみに銀ねこ亭の亭主の顔を見るのは、これが2回目だ。

「カイト様、たまにトリンに会いに来て下さいね」
 3ヶ月間、王都に残るトリンとレイは寂しげな表情だ。

 トリンは会ってまだ1ヶ月あまりだが、もう長いこと一緒に暮らしているように感じる。
「うん、毎月1回は王都に様子を見に来るよ、だからソラリア師の元でしっかり修行するんだぞ」とオレがトリンを励ます。

「ソラリア様、トリンとレイを宜しくお願いします」
 ソラリア師は無言で頷いた。

「銀ねこ亭の皆さん、お世話になりました、王都に来たらまた泊めて下さい」
 そう言って、銀ねこ亭と見送りに来てくれた人たちに、ローレンが醸造した赤ワインと白ワインを1ダースずつプレゼントした。

 この旅にはバレンシア商会が専用の馬車を出してくれた。
 なので人目に付くところでは馬車で移動することにしている。

「それじゃ、行ってまいります、お父様」
 アスナが父に挨拶する。

 馬車が動き始めるとトリンは泣きながら手を振り、見えなくなるまでずっと手を振っていた。
 オレたちは王都の検問所まで、バレンシア商会の2頭立ての馬車に乗り、何事もなく検問所を超えた。

 検問所を越えて暫く行ったところで、異空間収納からアウリープ号を取り出し、代わりに馬2頭と馬車を異空間収納に入れて乗り換えた。

 初めてみる四輪駆動車をステラはいぶかしげに見ていた。
 今回の席順は後席にアスナ、リア、ステラ、助手席にナビゲーターのソニア、運転席はもちろんオレだ。

 そしてアウリープ号をステルスモードにして国境までひた走る。
 王都に来た時よりは道に慣れたが、初日に国境検問所までの500キロを走破するのは、流石に難しい。

 今日は8時間、約420km走ったところで野営することとした。
 空き地を見つけて、道路脇に車を止めてテントを張る。
 来る時とは違う場所だが、このように野営に適した空き地が所々にあるのだ。

 テントを張り、火を熾して食事の準備をする。
 今日は『踊る銀ねこ亭』の女将が持たせてくれた食材を調理して野菜炒めと焼き肉にスープとパンと言うメニューだ。

「いただきま~す」
 女性たちが焼き肉に手を伸ばし、頬張る。
 みんな美味しそうに食べている。

「この肉、美味しいですね」
 アスナは美味そうに肉を頬張っている。

「肉、美味いな」
 口数少ないステラも肉の旨さに満足そうだ。

 その時、野太い濁声だみごえが聞こえてきた。
「美味そうな匂いだな~、兄ちゃん、オレたちにも食わせろよ」
 なんか、どこかで聞いたようなフレーズだ。

 即座にソニアとリアが戦闘態勢に入る。
 現れたのは、この前オレたちが追い払った、ならず者だ。
 この前の仕返しをしようと待ち構えていたのか、今日は20人近くいる。

「美女をはべらせ、美味そうなもん食って、いい身分だな」
 男らは、こちらに近寄ってきて挑発する。

「お前ら、この前の仕返しか?、返り討ちにしてくれるわ」
 既にソニアとリアの2人は短刀を抜き、対峙している。

「威勢がいいな、ねえちゃん」
「後でたっぷり可愛がってやるからな、楽しみにしてろ」
 ならず者のリーダーと思しき男は舌なめずりしながら言った。

「野郎ども、男は殺していいが、女は生かしとけよ!」
 そう言うと奴らは剣を振りかざし襲ってきた。
 女4人と男1人など、楽勝だと思ったのだろう。

 そんな状況になっても、ステラはまだ平然と飯を食っている。
 まあ確かに、指示があるまで動くなと言ったが、厳格に守り過ぎだ。

「あの~、ステラさん、ピンチなので奴ら、やっちゃって下さい」
 オレがそう言うとステラは、スッっと立ち上がった。

「承知した」と言うと疾風の如く、奴らに走り寄り、両手に持った剣を目にも留まらぬ速さで振り抜いて、ならず者共を一瞬の内に退治した。
 見ると男たちは全員、地べたに転がり動かなくなっていた。

 ステラは何事もなかったように戻ってきて、そのまま平然と飯を食べ始めた。

 一瞬の出来事にオレたちは呆気に取られた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活

破滅
ファンタジー
総合ランキング3位 ファンタジー2位 HOT1位になりました! そして、お気に入りが4000を突破致しました! 表紙を書いてくれた方ぴっぴさん↓ https://touch.pixiv.net/member.php?id=1922055 みなさんはボッチの辛さを知っているだろうか、ボッチとは友達のいない社会的に地位の低い存在のことである。 そう、この物語の主人公 神崎 翔は高校生ボッチである。 そんなボッチでクラスに居場所のない主人公はある日「はぁ、こんな毎日ならいっその事異世界にいってしまいたい」と思ったことがキッカケで異世界にクラス転移してしまうのだが…そこで自分に与えられたジョブは【自然の支配者】というものでとてつもないチートだった。 そしてそんなボッチだった主人公の改生活が始まる! おまけと設定についてはときどき更新するのでたまにチェックしてみてください!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

聖女(性女)様と一緒 ~悠々自適の一人旅が、波瀾とエロに満ちた珍道中に~

ぐうたら怪人Z
ファンタジー
 ――エッチから始まる愛があっても、いいんじゃない?  気ままに一人旅を続ける青年ヴィルは、ひょんなことから“聖女”エルミアの危機を救う。  その際に腕を見込まれ、彼女の旅への同行を頼まれてしまった。  自分好みの美少女と一緒できるとあって、二つ返事で快諾する青年。  この時、まだ彼は知らなかった。  聖女と呼ばれるこの少女が、脳内にピンク妄想満載の、淫乱ドスケベ女だということに。  今、エロとか変態とか、そういう性的なモノに満ち溢れた、冒険(?)が始まる。 ※ヒロインは淫乱ですが、主人公以外に抱かれるようなことはありません。 ※基本的に、主人公とヒロインのイチャラブです。 ※エッチな描写がある話には(H)マークが付きます。 ※※マークが付いている話に挿絵があります。 ※ハーメルンにも投稿しています。

【R18 】必ずイカせる! 異世界性活

飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。 偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。 ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。

処理中です...