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第2章 王都フローリアへの旅
第30話 トラブルメーカー
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「どうですか、彼女?」とアスナが言う。
「なんか受け答えが、ぶっきら棒ですね。
一見すると、強そうに見えないけどS級冒険者だし、護衛としては申し分ないと思います」
「彼女が暇な理由、お分かりになりますか?」
「いえ、分かりません、何か特別な理由があるんですか?」
「ええ、あの通り、コミュ障で協調性は無いし、男嫌いと言うのもありますが、最大の理由は、曰く付きのトラブルメーカーと言うことなんです」
「なるほど、何となくそんな感じしますね」
「トラブルが多いので、ほとんど仕事の依頼がないとクラリスが言ってました。
仕事を干されている状況で、今回この護衛の話が来て、彼女にとっては喉から手が出るくらい美味しい話だと思います」
「なるほど、彼女が暇な理由がようやく分かりました」
「その辺のことを全部呑み込んで、上手くコントロールできれば、間違いなく最強の護衛なんですが…」
「う~ん」
オレは考え込んだ。
「トラブルメーカーって、いったいどんなトラブルを起こしたんですか?」
アスナが冒険者ギルドの受付嬢クラリスから聞いた話を詳しく説明してくれた。
(逸話その1)
ステラが酒場で呑んでいた時に、他所者の男たちがステラにしつこく言い寄って来たところを完膚無きまでブチのめして全員病院送りにした。この件は絡まれたと言うのもあるので多少同情の余地あり。
(逸話その2)
ワイバーン(小型の翼竜)退治を請け負った時に、彼女の颯雷魔法を使った剣技でワイバーンを見事に退治したまでは良かったが、勢い余って周囲の森まで根こそぎ壊滅状態にしてしまって、その森の特産だった薬の原料である希少なキノコまで根絶やしにして、賠償請求された。
(逸話その3)
金鉱に住み着いたサイクロプス(一つ目の巨人の魔物)の退治を請け負って魔物の退治は成功したが、坑道を崩落させてしまって金の採掘が暫くできない状態になり、賠償請求された。
「まだまだありますが、ざっとこんな感じです」
「力加減を知らないと言うか、後先考えないと言うか、今は稼ぎよりも損害賠償の支払いの方が多いと言う噂ですよ」
「なるほどね~、力の制御が不得手なんですかね」
「本人も度重なる不祥事続きで仕事に溢れていて、最近はだいぶヘコんでると、ステラが言ってました」
「私は、彼女を護衛として連れて行って、ハヤミ様にご迷惑を掛けないかと、心配しているんです」
「今の話を聞けばアスナさんの心配は理解できますが、起こるかどうか分からないことを心配するよりも、護衛として絶大な力を持っている彼女を雇うのが、今は正しい判断だと思います」
「採用するに当たり、条件を付けるのも、ひとつの手かなと思うんです。
例えば、酒でトラブルを起こしているので、護衛中は禁酒にしてもらうとか…
あとは自分で判断して勝手に行動しないとか」
「なるほど、ではその追加条件を飲めるかどうか、彼女に話してみましょう」
オレとアスナは、ステラのいる部屋へ戻った。
「お待たせしました。
ステラさん、あなたを護衛として採用したいと思いますが、2点ほど条件があります」とアスナが切り出した。
「どんな条件だ」
「はい、1つ目は護衛中の飲酒の禁止、2つ目は自分で判断して勝手に行動しない、必ず私かハヤミ様の指示または許可を得て行動する、この2点が条件です」
「承知した」
ステラはあっさりと条件を飲んだ。
アスナが提示した条件で契約書を作成し、ステラ・リーンと護衛契約を締結した。
護衛任務の詳細はこんな感じだ。
①王都からカイトの館までの往復、オレとアスナ、メイド2名を護衛する。
②往復3週間を拘束期間とし、その間の寝泊まり、移動手段、飲食その他の経費は雇い主負担とする。
③護衛任務中は禁酒とする。
④自分で判断して行動せず、アスナかカイトの指示を得てから行動する。
出発は明後日の朝と決まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王都から帰る日がやってきた。
『踊る銀ねこ亭』の前にはバレンシア商会当主のリカール・バレンシアと錬金術師のソラリア師、それに『踊る銀ねこ亭』の女将と亭主、娘のマリンも姿を見せた。
ちなみに銀ねこ亭の亭主の顔を見るのは、これが2回目だ。
「カイト様、たまにトリンに会いに来て下さいね」
3ヶ月間、王都に残るトリンとレイは寂しげな表情だ。
トリンは会ってまだ1ヶ月あまりだが、もう長いこと一緒に暮らしているように感じる。
「うん、毎月1回は王都に様子を見に来るよ、だからソラリア師の元でしっかり修行するんだぞ」とオレがトリンを励ます。
「ソラリア様、トリンとレイを宜しくお願いします」
ソラリア師は無言で頷いた。
「銀ねこ亭の皆さん、お世話になりました、王都に来たらまた泊めて下さい」
そう言って、銀ねこ亭と見送りに来てくれた人たちに、ローレンが醸造した赤ワインと白ワインを1ダースずつプレゼントした。
この旅にはバレンシア商会が専用の馬車を出してくれた。
なので人目に付くところでは馬車で移動することにしている。
「それじゃ、行ってまいります、お父様」
アスナが父に挨拶する。
馬車が動き始めるとトリンは泣きながら手を振り、見えなくなるまでずっと手を振っていた。
オレたちは王都の検問所まで、バレンシア商会の2頭立ての馬車に乗り、何事もなく検問所を超えた。
検問所を越えて暫く行ったところで、異空間収納からアウリープ号を取り出し、代わりに馬2頭と馬車を異空間収納に入れて乗り換えた。
初めてみる四輪駆動車をステラは訝しげに見ていた。
今回の席順は後席にアスナ、リア、ステラ、助手席にナビゲーターのソニア、運転席はもちろんオレだ。
そしてアウリープ号をステルスモードにして国境までひた走る。
王都に来た時よりは道に慣れたが、初日に国境検問所までの500キロを走破するのは、流石に難しい。
今日は8時間、約420km走ったところで野営することとした。
空き地を見つけて、道路脇に車を止めてテントを張る。
来る時とは違う場所だが、このように野営に適した空き地が所々にあるのだ。
テントを張り、火を熾して食事の準備をする。
今日は『踊る銀ねこ亭』の女将が持たせてくれた食材を調理して野菜炒めと焼き肉にスープとパンと言うメニューだ。
「いただきま~す」
女性たちが焼き肉に手を伸ばし、頬張る。
みんな美味しそうに食べている。
「この肉、美味しいですね」
アスナは美味そうに肉を頬張っている。
「肉、美味いな」
口数少ないステラも肉の旨さに満足そうだ。
その時、野太い濁声が聞こえてきた。
「美味そうな匂いだな~、兄ちゃん、オレたちにも食わせろよ」
なんか、どこかで聞いたようなフレーズだ。
即座にソニアとリアが戦闘態勢に入る。
現れたのは、この前オレたちが追い払った、ならず者だ。
この前の仕返しをしようと待ち構えていたのか、今日は20人近くいる。
「美女を侍らせ、美味そうなもん食って、いい身分だな」
男らは、こちらに近寄ってきて挑発する。
「お前ら、この前の仕返しか?、返り討ちにしてくれるわ」
既にソニアとリアの2人は短刀を抜き、対峙している。
「威勢がいいな、ねえちゃん」
「後でたっぷり可愛がってやるからな、楽しみにしてろ」
ならず者のリーダーと思しき男は舌なめずりしながら言った。
「野郎ども、男は殺していいが、女は生かしとけよ!」
そう言うと奴らは剣を振りかざし襲ってきた。
女4人と男1人など、楽勝だと思ったのだろう。
そんな状況になっても、ステラはまだ平然と飯を食っている。
まあ確かに、指示があるまで動くなと言ったが、厳格に守り過ぎだ。
「あの~、ステラさん、ピンチなので奴ら、やっちゃって下さい」
オレがそう言うとステラは、スッっと立ち上がった。
「承知した」と言うと疾風の如く、奴らに走り寄り、両手に持った剣を目にも留まらぬ速さで振り抜いて、ならず者共を一瞬の内に退治した。
見ると男たちは全員、地べたに転がり動かなくなっていた。
ステラは何事もなかったように戻ってきて、そのまま平然と飯を食べ始めた。
一瞬の出来事にオレたちは呆気に取られた。
「なんか受け答えが、ぶっきら棒ですね。
一見すると、強そうに見えないけどS級冒険者だし、護衛としては申し分ないと思います」
「彼女が暇な理由、お分かりになりますか?」
「いえ、分かりません、何か特別な理由があるんですか?」
「ええ、あの通り、コミュ障で協調性は無いし、男嫌いと言うのもありますが、最大の理由は、曰く付きのトラブルメーカーと言うことなんです」
「なるほど、何となくそんな感じしますね」
「トラブルが多いので、ほとんど仕事の依頼がないとクラリスが言ってました。
仕事を干されている状況で、今回この護衛の話が来て、彼女にとっては喉から手が出るくらい美味しい話だと思います」
「なるほど、彼女が暇な理由がようやく分かりました」
「その辺のことを全部呑み込んで、上手くコントロールできれば、間違いなく最強の護衛なんですが…」
「う~ん」
オレは考え込んだ。
「トラブルメーカーって、いったいどんなトラブルを起こしたんですか?」
アスナが冒険者ギルドの受付嬢クラリスから聞いた話を詳しく説明してくれた。
(逸話その1)
ステラが酒場で呑んでいた時に、他所者の男たちがステラにしつこく言い寄って来たところを完膚無きまでブチのめして全員病院送りにした。この件は絡まれたと言うのもあるので多少同情の余地あり。
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(逸話その3)
金鉱に住み着いたサイクロプス(一つ目の巨人の魔物)の退治を請け負って魔物の退治は成功したが、坑道を崩落させてしまって金の採掘が暫くできない状態になり、賠償請求された。
「まだまだありますが、ざっとこんな感じです」
「力加減を知らないと言うか、後先考えないと言うか、今は稼ぎよりも損害賠償の支払いの方が多いと言う噂ですよ」
「なるほどね~、力の制御が不得手なんですかね」
「本人も度重なる不祥事続きで仕事に溢れていて、最近はだいぶヘコんでると、ステラが言ってました」
「私は、彼女を護衛として連れて行って、ハヤミ様にご迷惑を掛けないかと、心配しているんです」
「今の話を聞けばアスナさんの心配は理解できますが、起こるかどうか分からないことを心配するよりも、護衛として絶大な力を持っている彼女を雇うのが、今は正しい判断だと思います」
「採用するに当たり、条件を付けるのも、ひとつの手かなと思うんです。
例えば、酒でトラブルを起こしているので、護衛中は禁酒にしてもらうとか…
あとは自分で判断して勝手に行動しないとか」
「なるほど、ではその追加条件を飲めるかどうか、彼女に話してみましょう」
オレとアスナは、ステラのいる部屋へ戻った。
「お待たせしました。
ステラさん、あなたを護衛として採用したいと思いますが、2点ほど条件があります」とアスナが切り出した。
「どんな条件だ」
「はい、1つ目は護衛中の飲酒の禁止、2つ目は自分で判断して勝手に行動しない、必ず私かハヤミ様の指示または許可を得て行動する、この2点が条件です」
「承知した」
ステラはあっさりと条件を飲んだ。
アスナが提示した条件で契約書を作成し、ステラ・リーンと護衛契約を締結した。
護衛任務の詳細はこんな感じだ。
①王都からカイトの館までの往復、オレとアスナ、メイド2名を護衛する。
②往復3週間を拘束期間とし、その間の寝泊まり、移動手段、飲食その他の経費は雇い主負担とする。
③護衛任務中は禁酒とする。
④自分で判断して行動せず、アスナかカイトの指示を得てから行動する。
出発は明後日の朝と決まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王都から帰る日がやってきた。
『踊る銀ねこ亭』の前にはバレンシア商会当主のリカール・バレンシアと錬金術師のソラリア師、それに『踊る銀ねこ亭』の女将と亭主、娘のマリンも姿を見せた。
ちなみに銀ねこ亭の亭主の顔を見るのは、これが2回目だ。
「カイト様、たまにトリンに会いに来て下さいね」
3ヶ月間、王都に残るトリンとレイは寂しげな表情だ。
トリンは会ってまだ1ヶ月あまりだが、もう長いこと一緒に暮らしているように感じる。
「うん、毎月1回は王都に様子を見に来るよ、だからソラリア師の元でしっかり修行するんだぞ」とオレがトリンを励ます。
「ソラリア様、トリンとレイを宜しくお願いします」
ソラリア師は無言で頷いた。
「銀ねこ亭の皆さん、お世話になりました、王都に来たらまた泊めて下さい」
そう言って、銀ねこ亭と見送りに来てくれた人たちに、ローレンが醸造した赤ワインと白ワインを1ダースずつプレゼントした。
この旅にはバレンシア商会が専用の馬車を出してくれた。
なので人目に付くところでは馬車で移動することにしている。
「それじゃ、行ってまいります、お父様」
アスナが父に挨拶する。
馬車が動き始めるとトリンは泣きながら手を振り、見えなくなるまでずっと手を振っていた。
オレたちは王都の検問所まで、バレンシア商会の2頭立ての馬車に乗り、何事もなく検問所を超えた。
検問所を越えて暫く行ったところで、異空間収納からアウリープ号を取り出し、代わりに馬2頭と馬車を異空間収納に入れて乗り換えた。
初めてみる四輪駆動車をステラは訝しげに見ていた。
今回の席順は後席にアスナ、リア、ステラ、助手席にナビゲーターのソニア、運転席はもちろんオレだ。
そしてアウリープ号をステルスモードにして国境までひた走る。
王都に来た時よりは道に慣れたが、初日に国境検問所までの500キロを走破するのは、流石に難しい。
今日は8時間、約420km走ったところで野営することとした。
空き地を見つけて、道路脇に車を止めてテントを張る。
来る時とは違う場所だが、このように野営に適した空き地が所々にあるのだ。
テントを張り、火を熾して食事の準備をする。
今日は『踊る銀ねこ亭』の女将が持たせてくれた食材を調理して野菜炒めと焼き肉にスープとパンと言うメニューだ。
「いただきま~す」
女性たちが焼き肉に手を伸ばし、頬張る。
みんな美味しそうに食べている。
「この肉、美味しいですね」
アスナは美味そうに肉を頬張っている。
「肉、美味いな」
口数少ないステラも肉の旨さに満足そうだ。
その時、野太い濁声が聞こえてきた。
「美味そうな匂いだな~、兄ちゃん、オレたちにも食わせろよ」
なんか、どこかで聞いたようなフレーズだ。
即座にソニアとリアが戦闘態勢に入る。
現れたのは、この前オレたちが追い払った、ならず者だ。
この前の仕返しをしようと待ち構えていたのか、今日は20人近くいる。
「美女を侍らせ、美味そうなもん食って、いい身分だな」
男らは、こちらに近寄ってきて挑発する。
「お前ら、この前の仕返しか?、返り討ちにしてくれるわ」
既にソニアとリアの2人は短刀を抜き、対峙している。
「威勢がいいな、ねえちゃん」
「後でたっぷり可愛がってやるからな、楽しみにしてろ」
ならず者のリーダーと思しき男は舌なめずりしながら言った。
「野郎ども、男は殺していいが、女は生かしとけよ!」
そう言うと奴らは剣を振りかざし襲ってきた。
女4人と男1人など、楽勝だと思ったのだろう。
そんな状況になっても、ステラはまだ平然と飯を食っている。
まあ確かに、指示があるまで動くなと言ったが、厳格に守り過ぎだ。
「あの~、ステラさん、ピンチなので奴ら、やっちゃって下さい」
オレがそう言うとステラは、スッっと立ち上がった。
「承知した」と言うと疾風の如く、奴らに走り寄り、両手に持った剣を目にも留まらぬ速さで振り抜いて、ならず者共を一瞬の内に退治した。
見ると男たちは全員、地べたに転がり動かなくなっていた。
ステラは何事もなかったように戻ってきて、そのまま平然と飯を食べ始めた。
一瞬の出来事にオレたちは呆気に取られた。
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