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第2章 王都フローリアへの旅

第26話 花の女神のパレード

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 始祖から数えて120年余りの歴史を持つソランスター王室は、永きにわたり善政を敷き、現国王クラウスも祖先の薫陶くんとうに従い、国民をおもんばかり、実直な政治を行ってきた。
 その結果、国民の王室への信頼も篤く、相まって王国は久しく繁栄が続いていた。

 ソランスター王室には国王クラウスと王妃ジェシカの間に1 男なん 女じょの子がいる。
 第1子は第1王女のフローラ(18歳)
 第2子は第2王女のアリエス(17歳)
 第3子は第3王女のジェスティーナ(16歳)
 第4子が第1王子のマリウス(14歳)
 これがソランスター王室の、次の世代を築く子たちである。

 フローリア・フェスティバルは7月の第3金曜日から3日間にわたって開催される。
 秋の五穀豊穣ごこくほうじょうを祈願する祭りとして、毎年この時期に開催され、各地から毎年多くの見物客が訪れる。

 2日目の今日は、祭りの花である『花の女神のパレード』が行われ、王室に咲く可憐な花と言われている、3人の美しい王女が登場するのだ
 そして、日が暮れて辺りが暗くなる頃には、王宮の夜空に2万発の花火が打ち上げられるのだ。

『踊る銀ねこ亭』の女将から、このパレードの話を聞いたオレたちは、予めベストポジションを確保し、パレードの到着を心待ちにしていた。

 爽やかな夏の日差しの中、マーチングバンドの軽快な音楽を先頭に『花の女神のパレード』が始まった。
 王都のメインストリートは、色とりどりの花々で飾られていた。

 まずは前日同様に「花の妖精」に扮した少女たちが、チューリップや紫陽花、スミレ、カーネーションなど、夫々それぞれの花をテーマに装飾された台車の中央に乗り、沿道の見物客に笑顔で手を振る。
 その周りでは花娘たちが、色とりどりのフラワーシャワーを沿道に蒔いている。

 一見すると紙吹雪に見えるが、すべて本物の花びらなのだ。
 沿道には見物客が、ひと目見ようと押し寄せていた。

『踊る銀ねこ亭』の女将が言っていた通り『花の妖精』に扮した娘たちは、各地から選抜された美少女たちばかりであった。

 パレードも中盤に差し掛かり、いよいよ『花の女神』の登場だ。
 当然のことながら、この辺からは近衛兵が周囲を取り囲み、警備が厳重となっている。

 最初は、薔薇の花の女神に扮した第1王女のフローラが、薔薇の花で飾った山車の上から、沿道の見物客に笑顔で手を振っている。
 その見目麗みめうるわしい顔立ちと、気品あふれる立ち姿は、沿道の見物客を魅了し、溜息が出るほどの美しさだ。

 次に登場した向日葵ヒマワリの花の女神に扮した第2王女のアリエスは、向日葵ヒマワリの花を飾った山車の上から、沿道の見物客に満面の笑みを浮かべ、手を振っている。
 鮮やかな向日葵ヒマワリの女神の衣装が青空に映え、明るく爽やかで健康的な輝きを放つアリエスは、姉に負けず劣らずの美しさだ。

 3番目に登場した秋桜コスモスの花の女神に扮した第3王女のジェスティーナは、静かな微笑みを浮かべ、見物客に向かって優しく手を振っている。
 ジェスティーナは細身ながら均整の取れたスタイルで、その顔立ちは可憐で愛らしく、ひと目見ただけで、思わず息を飲むほどの超絶美少女なのだ。
 秋桜コスモスの花で飾った台車の上から手を振るジェスティーナと、束の間つかのま目が合い、彼女がニッコリと微笑みかけてくれたように思えたのは、オレの気のせいだろうか。

 オレは3人の王女が扮する『花の女神のパレード』を見て、それぞれの容姿や雰囲気にあった花を的確に選択していると感心した。

 陽が沈み、濃いブルーのマジックアワーの時を迎えると、間もなく花火が打上げられた。
 ソランスター城の後方からと、城の手前の池から、次々と打ち上げられる2万発の花火は圧巻だった。
 まるで某有名テーマパークの○ンデ○ラ城の花火のようだと言えば分かり易いだろうか。
 闇夜に打上げられた花火は、城を極彩色に照らし、池の水面に反射した光と相まって、得も言われぬ光のページェントを繰り広げた。

「こんな凄い花火見たことないです、綺麗過ぎです」
「偶然ですが、この祭りに来られてホントに良かったです」
「でも、花の女神のパレードも、お姫様たち凄く綺麗でした」
 花火が終わり、宿への帰途、トリンとメイドたち女性陣は興奮冷めやらぬ様子で話していた。

 腹を空かせたオレたちは『踊る銀ねこ亭』へ戻った。

「遅かったね~、花火は見れたかい?」と女将が出迎えてくれた。

「今まで見たことがないくらい綺麗な花火だったよ」

「そうかい、それは良かったねえ。
 お腹空いたでしょ、奥に食事の用意できてるよ」
 女将は奥のテーブルへ案内してくれた。

「さすがに腹が減ったな~」
 オレが、そう言うと、厨房から見覚えのない少女が夕食の皿を運んできた。

「娘のマリンだよ、私に似て美人だろ~」
 その後からオレたちの料理を運んできた女将おかみが言う。

 確かによく見れば女将に似ている。

「マリンです、宜しくお願いします」
 そう言って女将の娘は頭を下げた。
 マリンは肩までの短めのポニーテールと大きな瞳が印象的な美少女だ。

「え~、トリンと名前似てる~、1字違いだ~」とトリンが騒いでいる。

「へ~、女将さんに、こんな美人の娘さんがいたとはねえ」

「そうさ、こう見えても名門王立大学の3年生なんだからね」
 女将が誇らしげに自慢する。

「美人だし頭もいいし、とんびたかを生んだって客の間じゃあ評判だよ」
 隣で酒を飲んでいた常連客がそう言った。

「何言ってんだい、アタシだってね~、昔はモテだんだよ、知らないのかい」と女将が反論する。

「そうだったかな~、覚えてないな~」
 そう言って客は笑っている。

「まあ、確かにこの娘は、私らの娘にしては出来過ぎかも知れないね~。
 その分、期待してるんだけどね」
 そう言いながら女将は厨房に料理を取りに戻った。

「女将、ちょっと嬉しいことがあったんで、祝いに料理を追加したいんだが」
 オレは戻ってきた女将にそう言った。

「へ~、何かいい事あったのかい?」

「そうなんだ、商売が上手く行ったんで、そのお祝いをしたいんだ。
 このロブスターのガーリックバター焼きを5つ追加でお願いするよ」

「あいよ、ロブスター5人前追加ね、じゃあ、ちょっと待っとくれ」
 そう言うと女将は厨房にオーダーを入れに行った。

 注文したドリンクを待っていると、娘のマリンがスパークリングワインとグラスを運んできた。
「え、オレたち注文してないけど」

「これは母からのお祝いだそうです」
 そう言うと、マリンはスパークリングワインを開け、グラスに注いだ。

「え、なんか、気を使わせちゃって悪いな~。
 あれ?、でもグラスが2つ多いけど」

 そう言うと女将が奥からやって来た。
「あたしと娘もご相伴に与ろうと思ってねぇ。
 女の子たちも少しは飲めるんだろ?」

 そう言いながら、女将とマリンとオレたち5人で乾杯した。
「カンパーイ!」

「ところで何のお祝いなんだい?」

「ん~、詳しいことは言えないけど、バレンシア商会と取引が成立したんで、そのお祝いなんだ」

「え、バレンシア商会?、あの有名な商家の?
 そうかい、それはお祝いしたくもなるね~、あたしも嬉しいよ」
 そう言って自分のことのように喜んでくれた。

 オレは食事しながら、ソニアたちと相談してバレンシア商会との継続取引契約の詰めや、錬金釜の発注、帰りのお土産の調達、帰路の警護などを考えて、王都の滞在をもう3日間延長して『踊る銀ねこ亭』も3泊延長することにした。

「ありがたいね~、特別室に追加で3泊も泊まってくれて…
 なんか、サービスしなきゃねぇ」

「女将さん、もう十分サービスしてもらってるから、気を使わなくていいよ」
 ホントに気のいい女将だ。
 全くの偶然だが、オレたちは居心地の良い宿『踊る銀ねこ亭』に巡り会えたことに感謝した。
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