Re:鮫人間

マイきぃ

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本編

第十五話 行動変更

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 小鳥のさえずるようなやさしい声が聞こえる。
「……きて……隆司くん……起きて……」
 その声で、また眠りそうになる。
「もう、そっとしておいてくれ……」
 俺はそう言ってまた眠る。

 なんだか疲れた。
 今回は、民宿で襲われたあと、とても苦しい思いをしたような気がした。
 そのへんのことが思い出せない。

「目を覚まさないと……こうしちゃうぞ……」
 それは、棗の声だった。

 耳たぶのあたりに何かが触れる。その感触は、歯の感触だった。かじられている。
 その時、俺は…………。

「さ……鮫……!」

 鮫に食われた時の痛みの記憶が脳を支配する。
 驚いた俺は、飛び上がるように目を覚まし、頭を車の天井に強くぶつけた。
「い……痛っ……」

「ご……ごめんなさい……まさか、そんなにびっくりするなんて……」
 車のドアの外で、申し訳なさそうにしている棗がいた。

 また戻ってきた……この時間に……。
 結局、どんなことをしても死んでしまう。
 なら、もう生き返る意味はない。このまま静かに死んでしまった方がいい。

 腕輪を確認する。鱗は14個も黒くなっていた。
 だが、もうそんなことはどうでもいい。
 死ぬのに……疲れた……。
(そうだ、腕輪だ。こんなものがなければ、きっと俺は死ねるはずだ)

 俺は、そっと腕輪を外し、京谷の車のダッシュボードに腕輪をしまい込もうとした。
 だが……出来なかった。

 やはり、俺は生きたいと心のどこかで願っている。
 それに、俺だけが死ぬわけじゃない。棗もおそらく死ぬ。
 他のメンバーも民宿に帰れば同じ目に合う可能性がある。
 だから、それを阻止するためにも生きたい。

 それは、生きるための口実。
 例え口実でもかまわない。そんな思いがなければ、この死の連続を耐えることはできないろう。

 必ず皆で生還する。
 そのためには、一度全員で危険な状況を生きて乗り切り、アレを見てもらうしかない。
 そうすれば、信じてもらえるはずだ。
 そして、生還するためには、何かしら武器を調達しなければならない。

「ねえ、まだ痛む?」
 我に返ると、棗が俺の頭をさすっていた。俺はその腕をつかみ、棗に話しかける。
「それより、みんなは廃村へ行ってるんだろ」
「うん」
「俺たちも行くぞ」
「え……今から行くの?」

 俺は、これからの行動を変えることにした。民宿より先に、部長や京谷たちと合流し、武器を調達する。
 武器は、大きな斧でも構わない。廃村なら、そのぐらいのものが放置されていてもいいはずだ。

 俺は車の中から自分の荷物の入ったリュックを取り出し、背中に背負い、廃村の場所を棗に聞いた。
「棗、京谷たちの向かった廃村はどこだ?」
「えっとね……ここからちょっと下った沼の近く」
「そうか」

 すると、棗は不安そうな顔をして答える。

「ねえ、隆司……焦ってない?」
「ん……そんなことはない」
「そう……ならいいんだけど……」

 確かに、焦っているのかもしれない。
 それを見抜いた棗は、警戒しているのだろう。

「それより、何があるかわからない。注意していこう」
「うん……そうだね。隆司もね」

 軽く注意を促す。棗はそれを聞いて、俺が冷静だということを知り、どうやら安心したようだ。

 駐車場の裏手にある細い路地を歩き、廃村へと向かう。
 道は枯れ葉や雑草などで埋め尽くされ、整備されていない。
 道の両側には、誰もいない民家が立ち並び、異様な雰囲気をかもしだしている。


 
「一応、こんな島でも人は住んでたんだな」
「ほとんどの人は、島を出て行って都会で暮らしてるんだね」
「過疎って誰もいなくなったということか……それで人を呼び寄せるのに人魚伝説を作ったのか」

 棗は、なぜか尊敬の眼差しを向ける。

「ええ、そうなの?」
「いや、俺の憶測だ」
「なーんだ。でも人がいなくなると、村もこんなに寂しくなるんだね」
「そうだな……」

 俺らしくないつまらない会話だと思われただろう。
 だが、こんな場所だと、そんな他愛ない会話でも不思議と会話が続くものだ。

 道が細くなる。俺は前を歩き、邪魔な小枝を折りながら進む。
 もし薔薇の棘などがあったら大変だ。それだけは十分に注意している。
 出血した血が死亡フラグを呼び寄せるからだ。

「あっ……」
 後ろで棗が声を上げる。

「どうした?」
「ううん……なんでもない。ちょっと蚊に刺されただけ……」
「なんだ、そうか……」

────パチン!────



「キャッ! (グシャア※音)」

──その時、俺の体に恐怖が走った──

 強烈な生臭さを感じた。俺は、すぐに後ろを振り向く。
「棗……その蚊……潰したのか……あれっ……」
 だが、振り向いた先に、棗はいなかった。
 そこにいたのは上を向いて、血のついた牙を見せ、何かを食べている鮫人間だった。
──ウーーーーメーーーー!──
「棗……じゃない!」

 信じられない。
 あの一瞬で鮫人間が現れたとでもいうのか。
 それとも、俺たちを捕捉して追ってきていたのか。

 だが、そんなことはどうでもいい。
 もっと早く言っておくべきだった。
 蚊を潰さないように一言でも声をかけていれば、こんな事にはならずに済んだかもしれない。

 そして、もう助からない。俺はおそらく、ここで……。

──ゴーーーーチーーーーソーーーーウーーーー!──



 鮫人間の無慈悲な牙は、俺を頭から丸飲みにした。

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