Re:鮫人間

マイきぃ

文字の大きさ
上 下
5 / 29
本編

第三話 巻き戻り

しおりを挟む
 ──そして────
 ────目が覚めた──

 俺は、車の助手席に乗っていた。
 車は動いている。そして、京谷も生きている。

(あ、あれ……さっきのは夢?)

 左腕にジャラっとした感覚がある。それは、少女にもらった腕輪だ。
 じゃあ俺は、車の修理が終わるまで、寝ていたのか。

「おい隆司、もうすぐ林道だ。窓しめとけ。蚊が入る」
「あ……ああ……わかった」

 ドアに付いているハンドルを回し、窓を閉めた。
 周囲の風景は、一度見た海の光景だ。

(この景色……一度戻ったのか……)

 腕輪を確認したついでに、時計も確認する。

(フェリーがこの孤島に着いたのが3時だ。もう、一時間は経過した。なのに、時計の針はまだ午後3時20分。おかしい……俺は、疲れているのだろうか……まさか……予知夢)

「おい、隆司。おまえ、変だぞ。顔色青くないか?」
「そ……そうか!?」
「まあ、もう少しまってくれ。この林道を抜けたら、部長たちと合流できる」
「ああ、頼む」

(まさかとは思うが、このあと車がエンストするなんてことが起これば……それと、蔵だ。もし蔵が……車が故障した先にあれば……)

 確かめなければならない。
 蔵の置物、謎の少女、そして、京谷を襲うものの正体。

 もし、京谷が襲われるのであれば、助けなければならない。
 彼は、俺が唯一本音をぶつけることのできる友人だ。
 こんなところで失いたくはない。

 だが、実際のところ、どうだろう。
 もし、さっきの夢のような恐怖に駆られたら、俺は平静を保っていられるだろうか。
 そんな不安が、頭をよぎる。
 少し、考えすぎたかもしれない。取り越し苦労であればいいのだが……。


 しばらくして、林道に入る。わだちがひどく、荒れ地のような道だ。
 車は上下左右に激しく揺れ、頭が天井にぶつかり舌をかみそうになる。

(やはり、同じだ。俺は一度、これを経験している。そしてこの後、車が止まる)
 予想通り車は、突然止まった。故障の原因は点火プラグだ。

 京谷は、悲鳴を上げるように叫んだ。

「あーもう……エンストかよっ!」
「プラグ、かぶったんじゃないか?」
「あーいらいらしてきた」

 京谷は車から飛び出し、後部のドアを開けて工具を取り出した。
 もちろん、この後の行動も俺ははっきりと覚えている。

 京谷は車のボンネットを開け、黙々と修理を始める。
 プラグコードを外し、プラグレンチで点火プラグを引っこ抜く。
「あ~あ、プラグがかぶっちまってるよ……ハハハ、しょうがねえな。隆司の言った通りだ」
 京谷は、故障の原因がわかって嬉しそうにしている。
 安心した京谷は、胸のポケットからタバコを取り出した。

「ちょっと一服するか……」
「俺も、コーヒーを一服する」
「タバコも一服してみるか? コーヒーの後の煙草はうまいぞ」
「いいや、俺は吸わない派なんだ」
「ま、無理にとは言わねえけどな」

 京谷は近くにあった石段を上り、広い所で煙を吹かし始めた。
 俺もその後に続き、缶コーヒーを飲みながら京谷の後ろを歩く。もちろん、風上だ。

「隆司、蔵があるぜ。ずいぶんボロボロだな」
「ああ、そうだな」
 京谷が蔵に興味を持つ。ここまではいい。
 あとは蔵の中にある金の像だ。

 それが確認できれば、認めざるを得ない。
──俺の時間が巻き戻ったことを──

 京谷は蔵をこじ開ける。
「ずいぶん古い蔵だな……潰れたりしねーよな」
「気をつけろよ」

 中に入る。すると、見覚えのある神棚があった。
 だが……



 そこに金の像はなかった。

「なんだ、神棚以外、なんにもないな。あるのは瓦礫の山だ」

 おかしい、鮫と人間の形をした金の像があったはずだ。
 やはり、俺の勘違いなのだろうか。

「俺は修理にもどるぜ」
「ああ、頼む」

 京谷は蔵を出て車に向かった。
 次は、中学生の少女だ。

 だが、おそらく、彼女を待つと、京谷が危ない。
 その確認は諦めて、京谷のところへと向かう。

 石段を下り、京谷の姿を確認する。
 京谷は動いていた。まだ無事だ。

 俺は、車の運転席の横に置いてある工具ボックスから、スパナを取り出し、京谷の後方につく。
 この位置なら、生い茂る木の間から蔵を見ることができるので、少女がきたかどうかが確認できる。
 もちろん、車の周囲も見渡せる。もし、誰かが襲ってきてもわかるはずだ。
 
 しばらくして、生臭い臭いが漂ってきた。
 この臭いは、やはり前に感じたものと同じだ。
 この臭いの主が、おそらく京谷を殺した犯人だ。

 俺は、息を殺した。そして、耳を澄ました。どんどん臭いがきつくなる。
 あまりの生臭さに吐き気がしてきた。だが、それをじっと我慢する。

 荒い息遣いが聞こえてきた。周囲に姿は見えない。だが、近くにいる。
 集中する。とにかく、全神経を尖らせる。

──ウマ……ソウ……──

 声がした。
(どこから……どこからくる!)

 周囲を確認する。そして、京谷との距離をゆっくりと詰めた。
 震える足を無視して、スパナを握る手に力を込める。

 その瞬間、どこからか、ガサッと草木の擦れる音が聞こえた。
(何かくる!)

 その瞬間、俺の視界は闇に飲まれた。
 首筋に痛みが走り、首から下の感覚が消え、意識が遠のく。
(狙われていたのは……俺……!?)



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

タクシー運転手の夜話

華岡光
ホラー
世の中の全てを知るタクシー運転手。そのタクシー運転手が知ったこの世のものではない話しとは・・

ゴーストバスター幽野怜

蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。 山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。 そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。 肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性―― 悲しい呪いをかけられている同級生―― 一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊―― そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王! ゴーストバスターVS悪霊達 笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける! 現代ホラーバトル、いざ開幕!! 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

呪配

真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。 デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。 『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』 その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。 不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……? 「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!

奇妙でお菓子な夕日屋

響ぴあの
ホラー
たそがれどきに強い思いを念じた人だけがたどりつける不思議で奇妙なお店があるらしい。その名は夕陽屋。 過去につながる公衆電話、人間の一生が書かれている本がしまわれている人生の書庫があるという都市伝説のお店だ。 寿命が見えるあめ、書いたことが事実になるメモ帳、消すと事実が消える消しゴム、ともだちチョコレート、おたすけノベル、美人グルト、老いを遅らせるグミ、大冒険できるガム、永遠ループドリンク、運命の赤い糸、死んだ人と会えるミラクルキャラメル……。 不思議なお菓子や文房具が置いてあるらしい。 そんな不思議な夕陽屋には10代であろう黄昏夕陽という少年がいて、そこに迷い込んだ人間たちは……? かすみと黄昏夕陽は何かしらの因縁があり、かすみだけは夕陽は特別扱いだ。 最後は黄昏夕陽になるまでの過去が描かれる。 奇想天外な商品と裏切り系人間ドラマが待っている。

あなたの願いを叶えましょう

栗須帳(くりす・とばり)
ホラー
謎のお姉さんは、自分のことを悪魔と言った。 お姉さんは俺と契約したいと言った。悪魔との契約と言えば当然、代償は魂だ。 でもお姉さんの契約は少し違った。 何と、魂の分割払いだったのだ。 全7話。

ホラー短編集

緒方宗谷
ホラー
気付かない内に足を踏み入れてしまった怨霊の世界。

不穏ラジオ−この番組ではみんなの秘密を暴露します−

西羽咲 花月
ホラー
それはある夜突然頭の中に聞こえてきた 【さぁ! 今夜も始まりました不穏ラジオのお時間です!】 私が通う学校の不穏要素を暴露する番組だ 次々とクラスメートたちの暗い部分が暴露されていく そのラジオで弱みを握り、自分をバカにしてきたクラスメートに復讐を!!

処理中です...