タライ落とし

タライ 三個目

────７月１日（土曜日）　午後８時19分

　あのタライの事故から一週間が経った。だが、番組は相変わらず放送していた。

　今回は『異世界転生ズ』のお見舞いを兼ねて、別な二人組の芸人が、『異世界転生ズ』のネタをやるらしい。

　ネタをやる二人は、『筋肉令嬢』という、今、絶好調のマッチョなお笑いコンビだ。

「同じネタやらなくてもいいのに……」

　できれば、『筋肉令嬢』の持ちネタを普通に披露してほしかったのだが……。

”
『異世界トラックだよブッブー。ブッブー。あ、あぶなーい』（ハンドルを持つそぶりからハンドルをがっちりと握りしめ、ブレーキを勢いよく踏むそぶり）

『キャー！　どかーん』（横断歩道を渡っていたら車にはねられ、豪快に吹っ飛ぶそぶり）

（トラック役は、トラックから投げ出されるそぶりで吹っ飛ぶ）

（二人同時に倒れる）

『『異世界転生！』』（二人で起き上がってポーズ）
”

　やっぱり、芸風が違うと見栄えが違う。どうみても『筋肉令嬢』のほうが芸風は上だ。だが、やはりつまらなかった。

　『筋肉令嬢』が『異世界転生ズ』のネタを馬鹿にしているような感じが、ヒシヒシと伝わっていたせいなのかもしれない。

────6月24日（土曜日）　午後８時22分

　俺は、このネタが、普通に終わり、次のコントに進むものだと思っていた。

　──だが……。

　────その時、そのお笑いコンビの頭に『黄金のタライ』が落ちた。

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「────「ゴーン、ゴーン」（二人同時に倒れる）
”

「またタライ！？」

　まさか、嘘だろ？　ネタだろ？　起きるよな……起きるよな……起き……。

　だが、僕の思いは届かず、テレビ画面は、動物園のペンギンの姿の画像に切り替わった。

「これも……ネタだよな」

　しばらくして、画面はニュースに切り替わった。

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『番組の途中ですが、緊急のニュースをお伝えします。今日の夜８時22分ごろ。またも、アルポリテレビのスタジオの生放送中に、お笑い芸人の『筋肉令嬢』の二人が落下物により意識を失い、緊急搬送されました。現在、安否は不明です。以上、ニュース速報でした』
”
　これは、二人が本当に倒れたこと告げるものだった。

「全く同じ……こんなことが、あるのか……！？」

　僕は、思い出した。

　幼馴染の零子の言葉を……。

「『つくも神』の呪い……！？」