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はじめてのモフモフ

第2話 モフモフの能力

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「ハッ!」

 目が覚めると、そこはサバンナのような広い草原だった。少し、肌寒い。熱帯ではなさそうだ。

「こ、これは一体……ってか、ここどこ?」

 まず、自分の体を確認する。どこも怪我はなく、トラックに跳ねられる前の状態だ。若干骨格に違和感を感じるが、人間の体だ。もしかすると、魂だけが他の体に移った可能性もある。

「僕は転生したのか、それとも転移……まさか、ラノベみたいに異世界に転生しちゃったのか」

 服装は、中学校指定の学生服のままだ。だが、靴がない。こんな場所を歩いたら、足がマメだらけになってしまいそうだ。

 周囲を見渡す。すると、遠くにヨーロッパの城のような建物がそびえ立っているのが見えた。その周囲には城壁が広範囲に広がっていた。おそらく城壁の内側に町がある城郭都市のようなものだろう。

 僕は、その城を目指し、ゆっくりと歩き始めた。まずは情報を集めないといけない。RPGでは──この世界がRPGであるかどうかは別として──基本中の基本だ。

 土の上を素足で歩く。細かい石が転がっていて踏むと痛い……はずだった。だが、思ったほど痛みも感じない。足裏が分厚い皮で覆われているような気分だ。そして、どういうわけか、足がやけに軽い。

「軽い……裸足って、こんなに軽いのか!?」

 ──この違和感は……少し、走ってみるか。

 僕は地面を蹴り、勢い良くダッシュした。すると、どうだろう……今まで体験したことのない速度で草原を走っている僕がいる。

「あれ、僕ってこんなに足速かったっけ……」

 普通に走る速度の3倍は出ていた。しかも、息も乱れてはいない。これはこれで、とてもすがすがしいのだけど、やっぱり何か変だ。

「いったい何が起こってるんだ!?」

 頭を両手で抱えて今起きていることを考えた。その時、頭を抱えていた手に何かが当たった。どことなくモフモフな感触だ。それは、僕もよく知っている感覚……そう、動物の耳だ!

 走る足を止め、そのモフモフの感触を確かめた。その感触は…………モフモフな狐耳だった。

「狐耳……まさか、これは……九尾の女神の呪いなのか!? じゃあ、シッポは……」

 僕は、モフモフな耳が頭から生えているのに驚き、全身をくまなくチェックした…………シッポは無かった。他はどこも異常はない。頭だけに耳が生えているだけだった。

 ──けど、これって何の意味が……やっぱり呪い? もしくは、転生の体がコレだったとか? チート能力は……足の速さ? あー考えれば考えるほど、わけがわからなくになってくるぅ!

 考えても仕方がない。そう思った僕は、まっすぐ城を目指した。



 一時間ほど走って城壁の側まで来た。これが普通の足だったら、3倍以上の時間がかった上にクタクタになっていたはずだ。この足の能力、なかなかあなどれない。

 周囲は、高さ5メートルぐらいの城壁に囲まれていた。迂回して入り口の門を見つけると、そこには犬の着ぐるみのようなものを着て武装した兵が2人ほど待機していた。

 ──あそこから入るのはやめよう。他に入り口は……。

 僕は体をふせ、その場から遠ざかろうとした。その時、背中の辺りがムズムズした。何かが近づいてきてるような、そんな感覚があった。

「なにしてるのニャ?」

「わっ! だ、誰だ!?」

 後ろを振り向くと、猫の着ぐるみを着たかわいい猫っ娘とご対面してしまった。

「フィオラちゃんですニャ。君こそ 誰ニャ? 悪だくみでもしてるのかニャ?」

「そんなわけない! 僕は、池波柔人だ」

「じゃあ、なんでこんなところでコソコソしてるニャ?」

「それは……ここへ来たのは初めてだから……って、お前こそ、何をしてるんだ」

「秘密なのニャ」

 ──あれ……言葉……通じるのか……。

 何気なく猫っ娘と会話していることに僕は気が付き、びっくりした。とりあえず、言葉の壁の難関はクリアしたようだ。もしも言葉が通じなかったらこの先どうしていいかわからない。その辺は女神も考えてくれていたのだろうか。

 それはそれとして、この猫の着ぐるみ。と、いうか、着ぐるみにしては肌に密着しすぎている。まさか、本物!? 本物なら、モフればわかるはず。

「どうしたのニャ?」

「ちょっといい?」

「どうかしたのかニャ?」

 僕は、猫っ娘の後ろに回り込み、背中の毛並みをモフって確かめた。

「モフモフ……んんっ! これは……本物だあ!」

 僕の中で、何かのスイッチが入るような音がした。

「な、何をするのニャ!」

 このツルっとして、それでいてモッフモフな感触。これは、本物の毛並みだ! しかも、あったかい!

「もっふもふ~! もっふもふ~!」

「や、やめるのニャ~!」

 猫っ娘は暴れた。だが、僕の腕はがっちり猫っ娘の腰をホールドしているので安心だ。モフり終わるまで離すものか!

「もっふもふ~! もっふもふ~!」

「お願いだから、ゆるしてなのニャ~」

 少し、獣臭いが、あまり、気にならない程度だ。

「もっふもふ~! もっふもふ~!」

「もうだめニャ~。フニャニャ~」

 猫っ娘は、モフモフショックに陥って脱力状態になり、崩れるように倒れた。

「っしゃー! モフモフチャージ────完了!」

 モフモフは無事終わった。とても良いモフモフだった。それにしても、何か体が変だ。爪がムズムズする。僕は、自分の手を注意深く見た。すると、いつの間にか僕の爪は、獣のような爪に変化していた。それと、耳が少しスッキリした感じがする、触ってみると、耳が薄く変化していた。まるで猫耳のように……。

 ──まさか、モフった相手になる能力だったり……しないよね……。

 ガシャン! ズシャシャシャー!

 門の方から大きな音が聞こえてきた。振り向くと、馬車が門の少し手前で倒れていた。そして、黒装束を纏った怪しいやつらが複数、馬車の周りを取り囲んだ。黒装束の一人が声を上げる。

「おらー、でてこいよぉ! 姫様! 逃げたって無駄なんだよぉ!」

 そう言って倒れた馬車の上に乗り、扉を開けた。それと同時に、馬車の扉から鎧を纏った黒い犬のような男が現れ、槍を振るった。

「姫様! 私がこの命に代えても、お守りいたします!」

 男の攻撃を、黒装束はかわして距離を取る。その瞬間、別の黒装束2人が、男の両側から絡みつき、馬車から引きずり下ろした。

「んニャ~。なんの音ニャか?」

 どうやら、フィオラはモフモフショックから回復したようだ。身を低くし、黒装束の襲撃現場を指差して、音の正体をフィオラに伝えた。

「誰か、襲われてるぞ」

「あ、あれは……ケゾールソサエティーの連中ニャ」

「ケゾールソサエティー?」

「やつらは、手当たり次第獣人を捕まえて、毛を刈り取ってしまうひどいやつらなのニャ」

「け……毛を刈るのか!?」

「そうニャ。絶対関わりたくないやつらなのニャ」

 馬車から引きずり降ろされた男は、黒装束たちに囲まれ、鎧や服を剥がされた。数は5人だ。黒装束の4人は男の両腕両足を各々押さえ込み、もう1人が石で作られたナイフを懐から取り出した。

「肥えた無駄毛は、怠惰の証。救い欲しくば、無駄毛滅せよ! これは洗礼だ!」

「や、やめろ! やめろおおぉぉ~!」

 男は叫ぶ。だが、黒装束は、容赦なくナイフを振り下ろす。

「おらぁ、ここも! ここも! ここもおおぉぉ! 無駄毛なんですよぉ全部うぅぅぅ!」

 シュパッパパパパパッ! シュパッ!

 黒装束は、男の黒い毛を全て剃り落とした。黒く美しい毛並みの男は、ツンツルなのピンクの体になってしまった。

「む……無念……」

 男は、脱毛ショック*1で倒れた。

「あ、あいつら……あの黒いドーベルマンのような毛を……」

「かかわると、ああいう風になるニャ……」

 その後、黒装束の男たちは、馬車の中に入り、1人の少女を引っ張り出す。馬車から出てきた少女は、ピンクのお姫様服を着たかわいい狐っ娘姫だった! おまけに体よりも大きくてフッサフサな1本の上品なシッポが生えていた。

「あ、あのシッポは……!?」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

*1 【脱毛ショック】 毛を消失したショックで心神喪失になる。
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