上 下
19 / 31

第十九話 下剋上

しおりを挟む
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 この時の私は少し感情的だった。こんなにはらわたが煮えくりかえるとは夢にも思わなかった。
 しかも、その勢いで、ザックに下剋上バトルを申し込んでしまう始末。

 けれども、エミリア、エリザ、シグルドは、皆同じ思いでそれを了承してくれた。
 そのおかげで私は少し安心することができた。
 だが、戦うからには絶対に勝利しなければならない。

 ギルドへ帰還した私たちは採取したクリスタルドラゴンの角を納品し、クエストを無事終了。
 ザックのおこぼれに預かった時の精神的屈辱は負け犬になったようで気分がいい……いや、大変屈辱だったが、クエスト遂行のためには仕方がなかったことだ。
 だが、そのおかげで下剋上バトルでの順位差分の負担がかなり軽くなった。

 下剋上バトルは、ギルドに登録されたパーティー同士が優劣を競う戦いの場だ。
 それにより、一気にパーティーのランク付けが入れ替わることがある。

 そのおかげで私以外の三人はAランクに格付けされた。喜ばしい限りだ。
 もちろん、パーティーのランク付けも上がり、私たちは8位の功績をマークすることができた。

 今回の下剋上バトルは、私たち8位と、1位のザックパーティーとの戦いだ。
 当然トップが負ければ失うものも大きい。
 なので、私たちが負けた場合、それに見合う順位差分の対価を支払うことになる。

 対価に選んだのは、私が持っている聖騎士の称号だ。これを選んだ理由は、ザックが一番欲しがっていたからだ。
 もちろん、職業としての騎士ではない。能力を認められた者のみが得ることのできる称号だ。

 私は、努力して聖騎士の称号をえた。貴族特権で無理やり得たものではない。(そもそも、その特権で得ることは、よほどのことがない限り無理なのだが……)だが、国民にそれを示したところで、その意味を知るものは少ない。なので、意味のないものとなってしまった。

 というわけで、その称号を失っても貴族としての身分は残るので、事実上、賭けたことにはならないのだが、聖騎士の称号を得るために努力した分を賭けたと思えば、その価値に納得できる。

 そして、ザックは野心家だ。ザックには好条件、断る理由がない。なので貴族になれるチャンスをみすみす逃すはずがない。
 ザックの仲間には直接恩恵はなさそうだが、おそらく、いろいろと交渉して説得することだろう。
 聖騎士の称号によって、税の免除、報酬増加といろいろあるが、それよりも、奴にとっては貴族として扱われるようになるのが何よりの特権になるはずだ。

 今回、このチャンスをものにするため、奴は全力でくる。
 だが、私たちは負けない。それを必ず粉砕してみせる。
 私の仲間を侮辱したことを、後悔させてやらなければならない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 私たちは、クエスト報酬を手にし、ギルドのロビーにある円卓テーブルに着いて一休みしていた。
 報酬の額はかなりのものだ。3か月は遊んで暮らせる。
 本当はその金で打ち上げをやるつもりだったのだが、下剋上バトルのせいで、そういう雰囲気ではなくなってしまった。

「それにしても、ムカつきますわね。あのような輩がギルドのトップランカーだなんて……私の召喚魔法で潰してあげたいですわ」
「これは、絶対に勝たなきゃいけないです! 教官が自分の地位を賭けてるんですから」

 エミリアとエリザのやる気がひしひしと伝わってくる。
 エミリアは、強いとは言えないが、パーティーとして、十分に役に立つレベルだ。エリザは十分な力を秘めている。その素早い身のこなしだけで相手を翻弄するかもしれない。

「あの方たちには、無様な敗北を与えてやりましょう」
 シグルドは、目を赤く光らせながらそうつぶやくと、魔剣グラムを頬にこすりつけ、まるで恋人のように抱きつく。
 未知数な部分はあるが、おそらく、常人には測れない力を持っていることだろう。

「皆、ありがとう。迷惑をかける」
「迷惑だなんて、思っていませんわ。むしろ……楽しみです。彼らも、もしかすると死ななそうですし」
「教官の教え通りに、いつも魔力量を鍛えるため、システマの呼吸を会得したんですから」
「主の命令があればこそ、私の能力が発揮されます。どうぞ、思う存分にお使いください」
「ああ、皆……恩に着る!」

 皆、頼もしい仲間たちだ。私のわがままにここまで付き合ってくれるとは…………この出会いを与えてくれた運命に感謝したい。


──それから数日後──

 私たちは決戦の日を迎えた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

美少女だらけの姫騎士学園に、俺だけ男。~神騎士LV99から始める強くてニューゲーム~

マナシロカナタ✨ラノベ作家✨子犬を助けた
ファンタジー
異世界💞推し活💞ファンタジー、開幕! 人気ソーシャルゲーム『ゴッド・オブ・ブレイビア』。 古参プレイヤー・加賀谷裕太(かがや・ゆうた)は、学校の階段を踏み外したと思ったら、なぜか大浴場にドボンし、ゲームに出てくるツンデレ美少女アリエッタ(俺の推し)の胸を鷲掴みしていた。 ふにょんっ♪ 「ひあんっ!」 ふにょん♪ ふにょふにょん♪ 「あんっ、んっ、ひゃん! って、いつまで胸を揉んでるのよこの変態!」 「ご、ごめん!」 「このっ、男子禁制の大浴場に忍び込むだけでなく、この私のむ、む、胸を! 胸を揉むだなんて!」 「ちょっと待って、俺も何が何だか分からなくて――」 「問答無用! もはやその行い、許し難し! かくなる上は、あなたに決闘を申し込むわ!」 ビシィッ! どうやら俺はゲームの中に入り込んでしまったようで、ラッキースケベのせいでアリエッタと決闘することになってしまったのだが。 なんと俺は最高位職のLv99神騎士だったのだ! この世界で俺は最強だ。 現実世界には未練もないし、俺はこの世界で推しの子アリエッタにリアル推し活をする!

姫騎士と呼ばれた少女が町を滅ぼした話

さくら書院(葛城真実・妻良木美笠・他)
ファンタジー
ダンジョンで目覚めた二人は記憶を失っていた。 そして始まる仮面をかぶらぬマスカレイド。 あなたは誰? そして、私は…。

処理中です...