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第十話 Sクラスの冒険者

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 裏路地に沿ってギルドへ向かう途中、花壇の側に籠を持った少女を見つけた。そこに若い町娘たちが、少女を取り囲むように集まっている。
 少女は、売り口上を叫んでいた。

「これをつければAがBに! もっと欲しいならこれ! これならAがCに! これなんて、形のいいDになるプレミアだよ!」
「やっぱり、Dは売れてるの?」
「もちろん、Dが一番人気だよ」
「そうねぇ……じゃあそれください!」
「わたしもそれ!」

 ──バストアップパッドを売っているのだろうか。
 
「キャー! 男がいるわ!」
 こっちに気が付いた女性が、とても恥ずかしそうな様子で僕を睨みつける。
 その瞬間──

「なんでこんな所うろついてんのよ!」

 ──町娘は怒鳴り声とともに石を投げてきた。石は、ビュンと音を立てて頬をかすめる。

「な……なんでもないです~!」
 ものすごい殺気だ。危険を感じた僕は顔を隠してその場を走り抜けた。

 それにしても──あの場にいた女性たち。そのほとんどはおそらくAカップだ。大きい町娘もいたが、パッドの可能性がある。
 よくよく考えてみると、この世界の母の乳も大体そのぐらいだった気がする。それに、前に町を歩いた記憶からみても、胸の小さい女性が多かった。
 この世界の女性の胸は、小さいのが普通なのだろうか──いや、たまたま僕が見た女性の胸が小さいだけなのかもしれないが──と、今は胸の事よりも金だ! 雑念は後回しだ。

 冒険者ギルドへとたどり着く。レンガ造りの大きな建物だ。
 ひとまず、ギルドの窓口へと赴く。カウンターへと足を運ぶと、受付のメイドは掃除の手を止め、にこやかな顔でカウンターに立った。

「おはようございます。お早いですね。今日はどんなご用件で」
「あ、おはようございます。ええと……冒険者登録をしたいのですが」
「冒険者登録ですね。かしこまりました。では、石板に手を当てて下さい」

 返事をすると、メイドは棚から石板を取り、僕の目の前に差し出しす。
 その石板に手を当てると、石板は虹色に輝きだした。
 虹色の光を見た見たメイド、慌てた様子で話し始めた。

「え……と、あなたが……勇者様でいらっしゃいますか?」
「はい、一応……」
「承知しました。登録はこれで完了です。では、軽く説明をします。このギルドに登録された場合、あなたは無条件でSクラスの冒険者となります。そして、Sクラスには、特殊権限が与えられます」
「特殊権限?」
「Sクラスの冒険者は、全ての依頼を優先的に受けることができます。一般宅への家宅捜索権限を持ちます。伯爵階級が与えらえます。基本的な権限はこの3つですが、詳しくは、こちらの書類に目を通してみてください」

 ──と、メイドは分厚い本を差し出す──もちろん、一瞬で読む気が失せた。

「後で読ませていただきます」
「わかりました。それでは、何か質問はありますか?」
「ええと……軍資金を稼ぐのに効率のいい依頼はありますか?」
「そうですね……まずは、手始めにゴブリンの巣穴潰しでもやってみたらどうでしょうか」
「ゴブリンの巣穴潰し?」
「はい」

 普通、軍資金を稼ぐなら、ドラゴン退治や、魔王の幹部討伐みたいなものが効率がいいと思うのだが──。

「軍資金を稼ぐなら、ドラゴン退治や、魔王の幹部討伐みたいなものが効率がいいと、今思いましたよね」

 ギクッ──このメイド、今、僕の心を読んだのか!?

「そういった依頼は無いのが今の現状です。今現在、実害はないですし。もし、こういった異例で大規模な依頼をして失敗すると、敵の報復で大規模な被害を受ける場合があります。その場合、冒険者は死んでしまっていることが多いので、その被害の責任を依頼者が全て負うことになるんですよ」
「なるほど……藪をつつかなければ蛇は出ないってことか」
「いい例えですね──勉強になります。ゴブリンであれば、放っておくほど被害がでるので、さっきのそれとは依頼の性質が違います」

「でも、ゴブリン退治がなぜ稼げるんだ?」
「ゴブリンの巣穴潰しは、敵の個体数が多いので討伐人員の数が必要です。当ギルドでも、最低4人と定めています。ですが、Sクラスには、その制限がありません。それに、本当に勇者様なら、それをお一人で達成することも可能かと思います。それと、被害が出る前に早く退治してもらいたい方が多いので、金額が吊り上がる場合があるんです」

 なんだか、試されているような気もするが──悪い話ではない。

「じゃあ、それでお願いします」
「はい。じゃあよろしくお願いしますね」

 僕は、メイドが差し出した依頼書にサインをした。
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