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第九話 町に着く

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 次の日の早朝、僕は、近くの町へと足を運んでいた。
 スマホのマップ機能で現在位置を確認する。このあたり一帯の地理は記憶しているので問題はないが、念のための機能と精度の確認だ。
 動作においては、何も問題はない。どうやって位置情報を得ているのかは疑問だが、そこは異世界スマホなのでよしとしよう。

 大きな川が見えた。橋が架かっており、橋の向こうには城壁のような門がある。そこが町の入口だ。

 橋を渡り、門番に挨拶をする。

「こんにちは、町に入りたいのですが」
「ああ、そこの農場の子かい。一応石板に手を当ててくれないか」
「はい、わかりました」

 僕は、門番に出された石板に手を当てた。
 この石板は、いわば個人識別装置のようなものだ。ここで登録を済ませた者が、町中で悪いことをすれば、ブラックリストに入れられ、追報された後立ち入り禁止になる。
 もちろん僕は何も悪いことはしていない。なので、自由に行動できる──筈だ。

「ちょ……あんた、いったいどうしちまったんだ。ついこないだまで村人だっただろ……この石板、壊れたのか? ……いや、それは無い筈……」
 門番は、突然びっくりしたように声を上げた。
「ええ! 僕……何もしてないですけど」

 通常、石板は青に光る。もし、ブラックリストに入っていれば赤く光る筈なのだが──僕が触れた石板は虹色の光だった。

 虹色は、重要人物などに適用される光──まさかとは思うが──。

 門番に、今の職業を答えてみる。
「僕、いろいろあって勇者になりました」
「何! ほ、本当かい!? まさか……なら、これも頷ける……わ、わかった。通ってくれ……いや、お通りください、勇者様!」

 門番の態度が一変した。これが俗にいう勇者特権というものなのだろうか──。

 門を通過すると、風景ががらりと一遍した。
 レンガ造りの家が立ち並び、石畳の道が一直線に続く。
 広場では荷馬車の往来が目立ち、朝市が始まっていた。

 広場から、声が聞こえてくる。
「聞いたか、また勇者が来たぞ」
「勇者? 本当なのか! 今度のはやれそうか?」
「なんだか、ろくな装備じゃ無かったらしいぞ」
「どうせまた、帰らぬ人になるんだろ……期待しちゃあいけない」

 買い物客同士の会話が聞こえてくる。
 どうやら、勇者が来たという噂が広まっているようだ。
 原因は恐らく門でのチェックの時──そこで情報が拡散されてしまったのだろう。

 それにしても、勇者に対しての評価はどうも微妙だ。
 やはり勇者は見た目も大事ということか──。
 
 堂々と広場を抜けるのは気が引けると感じた僕は、正面の道を避け、裏通りを通ってギルドへと向かった。
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