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 指が不器用に、クレアのブラウスのボタンを外す。だがその手を止め、ファリドはうわごとのように呟いた。
「いや、強引に抱く男が、悠長に服など脱がすはずはないな」
 ファリドが懐から短刀を取り出し、メイドのお仕着せの襟元につきつける。なにを、と口に出す間もなく、クレアのボロボロの服が縦に裂かれた。
 突如むき出しになった肌を恥じらい、クレアは身をよじる。下着姿を人に見られたことなど一度もないのに……。だが彼の指は器用によれた下着を引っ張り、身体に傷を付けぬようぷつりと生地を裂く。
「なかなかいい眺めだな。僕から逃げられなくなる感想はどうだ」
 服の残骸に両袖を通しただけのあられもない姿で、クレアは羞恥と恐怖にぎゅっと唇を噛んだ。
 ――殿下、どうか罪など犯さないで。
 だがその祈りは届かなかった。
 クレアの身体から下着の残骸を引きはがしたファリドが、己の衣装をかなぐり捨てて、痩せた身体にのし掛かる。
「い、いや、だめ……だめぇ……ッ」
 すくみ上がって動けなかったクレアは、組み敷かれて我に返り、必死にもがいた。
 だが、放してはもらえなかった。
 ファリドはクレアの右手首を押さえつけ、もう片方の手で、閉じようとする足を、強引に開かせる。
「あ……あ……だめ……」
 一糸まとわぬ姿で秘部を暴かれ、クレアの身体がすくみ上がる。
 人目にさらしたことのなかったその部分に、冷たい夜の風がひやりと触れた。
「っ、だめ、見ないで……っ!」
 だが、足を閉じることは出来なかった。
 ファリドの身体が、両足の間に割り込み、更に大きく足を開かせる。
 このままでは王子である彼が、本当に罪を犯してしまう。
 怯えたクレアは、自由な片手で必死にファリドの肩を押しのけようとした。
 だが、記憶のものより遙かにたくましさを増した身体には、非力な彼女の抵抗など何の意味もなさなかった。
「どこに逃げるんだ。こんな裸同然の格好で……いや、裸よりずっといやらしいな。君は自分が今、どんな姿で男を誘っているのか分からないのか」
 ファリドの声に愉悦がにじむ。
 同時に彼の片手が、味わうように内股の肌をなでた。
 たださらりと触れられただけなのに、身体中に衝撃が走る。
「あぁ……っ!」
 思わず声を漏らしたクレアの反応に満足したのか、ファリドが小さく喉を鳴らした。
 ファリドの指先が、濡れて震える裂け目をすうっと撫でた。
「い、っ」
 あり得ない。こんな場所に触れられるなんて。クレアの腰がビクンと跳ね上がる。
 彼の指は離れず、閉じ合わされた陰唇を左右に開かせ、より深い部分をもう一度撫でた。
「いやぁ!」
 クレアは指先から逃れようと必死に身体をよじった。だがファリドは容赦せず、敏感な反応を見せるその箇所を執拗に弄び続けた。
「お前のここに、俺の指を入れたい」
 あっさりと囁かれた言葉に、クレアは愕然となって目を見開いた。
「え、な……っ……ああぁ……っ!」
 長い指が、小さくすぼまった蜜孔にズブリと沈み込む。
 異物を受け入れたことのなかった襞と襞のあわいが、与えられた衝撃にわななく。
「中が狭いな、これから少し辛いかもしれない」
 いいながら、彼が更に指を進めた。じゅぷりという嫌らしい水音を立てて、濡れそぼったクレアの中がゆっくりとかき回された。
「あ……あ……なに……を……」
「広げているんだ、こんな風に」
 蜜洞を弄ぶ指が、中でクイ、と軽く曲げられた。音を立てて粘膜が開かれ、身体の奥から熱い雫があふれ出す。
「ひぃ、っ!」
 衝撃と共に、クレアの目尻から一粒の涙がこぼれ落ちる。
 ――きもち……いい……。
 クレアは、重なり合う肌の熱に理性を失いかけている事を実感し、歯を食いしばった。
 ――私の馬鹿。だめよ、だめ、ファリド様にこんな事をさせてはだめ、ファリド様を汚しては……駄目なのに……。
 涙が次々にあふれ出し、止まらなくなった。
「痛いのか?」
 クレアの涙の意味を誤解したのか、ファリドが秘裂を弄ぶ手を止める。
「いいえ、痛くは……」
 素直に答えると、ファリドは目を細めた。
「なら、いい」
 泥濘の外に出ている親指が、きゅっと茂みの中に立ち上がる花芽を押す。
「あ、だめ……そんなところに、さわっては……」
 途切れ途切れの言葉が、再び接吻で塞がれる。
 厚い舌先がクレアの唇をこじ開け、口内に侵入してきた。
「ん……っ!」
 クレアは、驚きのあまり思わずうめくような声を漏らす。
 その声に煽られたように、舌の動きはますます激しくなった。
「ん、ふぅ……っ!」
 そのとき、蜜襞を弄んでいた指が、一度、中から抜けた。だがその指は本数を増やし、再びクレアの隘路をこじ開けようと忍び込んできた。
 身体の疼きが抑えられなくなる。
 クレアは唇を噛み、ファリドの裸の背中に片手を回す。
 逃げないと悟ったのか、右手首を押さえつけていた彼の手が緩む。クレアは自由になった両腕で、彼の身体に縋り付いた。
「お願いです、指を、抜いて」
 懇願しながらも、吐き出す息は熱を帯びてゆく。
 こうやってファリドにしがみついていないと、自分が自分でなくなりそうだ。
「嫌だ、止めない」
 ファリドが、うわごとのような声音で呟いた。
「お前の中は嫌がっていない。こんなに俺の指を締め上げて、もっと触ってくれって、可愛らしく強請ってる」
「そんな……ちがう、ちが……んっ……」
 逆らう言葉は、再び唇で塞がれた。
 淫らな姿勢で大きく足を開かれ、蜜音と共に秘部をもてあそばれながら、クレアははしたない声だけはあげまい、と唇を噛み続ける。
 いつしかクレアの脳裏からは、理性が失われはじめていた。
 ファリドにこんな愚行を止めさせねばいけないはずだ。
 なのに、なぜ中を責め立てる指を恥ずかしい場所にくわえ込んで、何度も口づけを交わしているのだろう。
「駄目……ファリドさま……」
 ようやくその言葉を押し出すと、ファリドの指が離れた。ぬるい蜜が、名残を惜しむように幾筋もしたたり落ちる。
「あ……」
 ようやくこの甘くて苦しい責めから解放されたのだ。ほっとしたクレアは手の甲で涙を拭う。
 だがその瞬間、いきなり両手で腰を捕まれた。
「残念だが、まだ終わっていない。これからだ、クレア」
 ファリドの形のいい唇が弓形に釣り上げられる。
 クレアの両足を再び大きく開かせた彼は、ズボンを下ろし、そこから立ち上がる巨大なものを彼女の秘裂に押し付けてきた。
「い、いやあっ!」
 裂け目にぴったりと、反り返った肉杭があてがわれる。彼の身体はどうなっているのだろう。戸惑って震えるクレアの蜜裂を、幾度もその肉杭の表面が行き来する。
 ぐちゅぐちゅと音がするたび、下腹が焼かれたように熱くなる。
「……っ、あ……いや、だめっ、これ、だめ……っ」
 本能的に恐怖を感じて、クレアは激しく首を振る。だが彼は、それを擦りつけるのを止めてくれなかった。
「あぁ……っ、こするの、やめて……っ」
 クレアの身体の芯に、再び耐えがたい疼きが生じる。クレアはその快感をやり過ごそうと、大きな呼吸を懸命に繰り返した。
 そのとき、ファリドが大きく息を吐いた。
「もう限界だ」
 クレアの足首がつかまれ、軽々と持ち上げられる。あられもない体勢を取らされ、クレアの頬が羞恥に火照った。
「見ないでぇ……っ!」
「ああ。のんきに見ている余裕などない。今から俺は、お前を犯すんだからな」
 ファリドの低い声が、クレアの耳朶を震わせた。
「おか……す……?」
「そうだ。俺の事は嫌いになっていい。……全部、俺がお前を側に置きたいからすることだ」
 ファリドの美しい顔が、一瞬苦しげにゆがむ。
 だが彼はすぐに厳しく眉を寄せ、下腹部をクレアの秘部に押し付けてきた。
 散々愛撫されて濡れそぼった蜜口に、反り返った肉杭の先端が押し付けられる。
「挿れるぞ」
 その言葉と共に、指とは比べものにならない圧倒的な質量が、クレアの身体の中に押し入ってきた。
 身体を開かれる違和感に圧倒され、クレアは思わず枕の端を握りしめる。
「っ……あ……いや、いれないで……こんなの、無理……」
 切れ切れの哀願も、ファリドには届かなかったようだ。
 クレアの痩せた身体が、昂ぶる剛直に無理矢理開かれる。あまりの恐ろしさに、クレアはのけぞって訴えた。
「ひぃ……っ、いや……こわい……こわい……っ」
 しゃくり上げるクレアに、ファリドが優しい声で囁く。
「枕ではなく、俺の首筋につかまれ」
 混乱していたクレアは、素直に彼の首筋にしがみつく。言われたとおりにすると、少し楽だった。身体の震えは止まらないが、肌と肌がぴったり重なっていると安心する。
「ファリド……さま……」
 頼りない口調で彼女は、懐かしい人の名を呼んだ。
 こんなことになって、取り返しが付かないかもしれない。服まで真っ二つにされて……どうしていいのか分からない。このままでは彼が本当に『犯罪者』になってしまう。
 ファリドが少し半身を離し、ボロボロと涙を流すクレアの顔を覗き込んだ。
 その顔は柔らかく、優しくて、心底幸せそうな男に見える。これから不幸になる人の顔には、到底思えない。
「いけま……せん……」
 クレアの声はかすれて震えていた。
「いいんだ。愛してる。お前がいなければ、俺は生涯、ただの泥人形だ」
 紫色の透き通るような目が、クレアの顔を映した。
 ……久しぶりに、自分の顔を見たような気がした。明るい灰金色の髪に、青色の丸い目。そうだ、自分は確かに、こんな髪と目の色をしていて、こんな顔立ちだった。クレアは食い入るように、ファリドの瞳に映る自分の顔を見つめた。
 瞳の中の自分の顔が、不意にふわりと笑う。
 ――私……笑って……る……。
 自覚した瞬間、クレアの目から、ぼろぼろと大粒の涙があふれ出す。その涙は、今までの苦しさや寂しさや諦めを全部押し流すような、不思議な涙だった。
「私も……お慕いして……います」
 小さな声で告げたクレアに、ファリドが晴れ晴れと笑いかけた。最高の言葉を聞いた、といわんばかりの笑みだった。
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