運命の番

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銀の腕輪

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グラーツ帝国の家族の食卓では、着実に進んでいる工事の進捗が話されていた。

「あの国に行かずとも、イシスの技術者達を見ていると生活水準が高いのがよくわかる」

神殿の着工と言うからうるさくなるかと思いきや、音もなく気がつき見る度、白い石壁が高くなってゆく。

「責任者のセト、と言ったかな。私が何故こんなに早く静かに建設できるのか尋ねたんだけど、国家秘密だと教えてくれなかったよ」

セトは皇配殿下と言えど内緒ですぞと、笑ったそうだ。レイドは父の左腕に付けられている銀の細い腕輪に気がつき凝視した。

「イシスの国費で建てられている以上、しょうがあるまい。城内の制服を総取っ替えするついでに、私とエスメラルダの服も全て楽な物に変えるぞ」

古いドレスは売り払ってしまおう、とマデリーンはご機嫌だ。エスメラルダは辺境時代から来客がある時はドレスに着替えるが、剣の稽古がある普段は動きやすい男装だった。横暴な行動の多いレイドの存在感が大きく、エスメラルダが男装してようと注視されないのがよかった。

「兄上のおかげで苦しいドレスから解放されます。助かります。あの、父上の手に何か?」
エスメラルダは、父エナンの手をじっと見る兄に聞く。

「ああ・・・父上失礼ですが、この銀の腕輪はどうされたので?」

「これ?これは建築家のセトが私の顔色が悪いと言って付けてくれたんだ。イシスで作られた血流促進の腕輪で、血行が良くなると自動的に外れて消える仕組みになってるんだって」

レイドは心の中で唸った。

なんて事だ。
セト前国王め、やってくれた。

よりによって我が父に子種採取の腕輪を付けるとは。回収してイシスの神殿に保管されたら、父は中年とはいえ長身の美男子だ。希望する女性はいるはずだ。誰も知らぬ間に妹か弟が出来てしまう。

「すごい発明品ですね」
「それはいいな」

家族3人、イシス国に対しては疑念を抱いていない。
レイドは急用があると食事を中断し、イシス一行が滞在している建物へ急いだ。

建物の前に若い兵士が一人いた。結界が張ってあるので警護不要と言われたが、念のため一人配置していた。

イシスの結界はレイドには通過できるので、建物内に入り結界の不法侵入に驚いているイシスの女性に、セトの部屋を尋ねた。
彼は街に繰り出しているのか不在だったので、外の警備兵に尋ねる。

「どこかに出掛けた者はいるか?」
「は、髭のある男性はお一人で外出しましたが、他の方々は中におります」

そう言った兵士の槍を持つ左手首には、銀色の腕輪が月明かりで綺麗に輝いていた。

「・・・この腕輪はセトからか?」
「お名前は存じませんが、外出中の髭の男性よりいただきました」

知らぬ間に兵士にまで配布している。
この兵士も背が高く、なかなかいい男だ。
なるほど。良い子種を選抜しているな。

とりあえず、執務室に戻ろう。
マティアスは夕食は城で取るから、まだいるだろう。
相談して対策を練ることにしよう。
どれだけ腕輪が配られたかはわからないが、父のだけ外せればいい。あとはイシスにくれてやろう。

「マティアスまだいたか」
「ええ。もう少しかかります。こちら昨日の嘆願書なのですが、」

レイドは嫌になった。
マティアスの左手首にも、銀の腕輪がしっかりと付いていたのだ。

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