運命の番

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反省

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アーシェンとアレンは父親の壮絶な生い立ちに、自分達がいかに恵まれて育ったのかを痛感した。

実につまらないことで悩んでいた。
アーシェンは何の能力もなく、女王にも竜にもなれない自分が肯定できずにいた。学業も真面目な割には特別優秀ではない。体格も家族は皆、背が高いが自分だけは小柄だ。双子の兄アレンは全てを兼ね備えた天才だが、アーシェンはただ子供を産むだけを期待された、役立たずでちっぽけな存在だと感じていた。

アレンは王家に生まれてしまったが故、自分の好奇心と体力がある若い時期に王宮に縛られ、好きな仕事に就けないことが重圧だった。一つのことに没頭している時間が幸せで、結婚できなくてもいいから研究者となって一生を研究に捧げたいと思っていた。

双子は平和な国で何不自由なく育ててもらった。
同い年頃の父は生死をかけた人生で、悩む暇などなかっただろう。
どちらも世間知らずの、我が儘な悩みに反省した。夜に2人で父竜の元を訪れ、いつもよりも長く話し込んだ。


翌日、話があると神殿に呼び出されたレイドは大きな黒竜と結界越しに対面していた。
この神殿の結界は触ろうとすると、弾き飛ばされる特別仕様なので下手に近づけない。

「先日は悪かったね。つい頭に血がのぼってね」

竜のままだが、いつもの飄々とした口調に戻っている。身体もこの数日で完全に回復しているように見える。

「僕の母は14才で無頼漢のような貴族の父に襲われて、僕を身ごもったんだ」

苦労を重ね、苦しみながら亡くなった幸の薄い人生だったと語る。

「殺し屋だった僕に言われたくないかもしれないけど、グラーツの皇太子の評判は最悪だった。短気で我が儘、自信過剰で非常識、傍若無人の戦闘狂い、男尊女卑のくせに無類の女好き」

「最後のは違います」

少なくとも、今は違う。全然違う。
正反対だ。番以外には無反応、不能だ。

「厄介な男の番になってしまったから、アーシェンが攫われたり手込めにされて悲しむ前に、消してしまおうと思ったんだ」

番への異常な執着心で、病的な行動にでる獣人は多い。特に相手が人族の女性の場合、片思いのオスが暴走して悲劇的な事件を起こす。

「僕は騙されてるって何度も警告したんだけど。アーシェンがどうしても君と一緒になりたいって言うから、君を殺さないでくれって必死に頼むから。とりあえず、もうしないと思う」

曖昧な断言が気になったが、番の自分への言葉に心の中で歓喜した。

「アーシェンは世界で唯一無二の愛する番です。嫌がることは、一切しないと誓いました。私の悪評は消えませんし、母のような賢帝になれるかわかりませんが、番と子供達だけは守るとお約束します。家族が安心して生活できる場所を増やしていきます」

「・・・嫌だけど、しょうがないよね。僕だって愛する家族から村八分にされたくないし。ただ、もしも契約不履行があった場合は、真っ先にグラーツの皇太子に刺客を送り込んで、城を焼き払ってやるから」

竜の目の瞳孔が開いた。これは本気だ。
セーカはリュウ国に飛んでいくことが多々あるそうなので、来るとしたら実家の配下の刺客だろう。

「こちらに来るエスメラルダ皇女については心配ないよ。女性には非道なことをしないのが、我が一族の流儀なんだ。僕が殺したいのは君だけだから、安心して」

これほど安心できない、安心してという言葉を聞くのは初めてだが、エスメラルダに害がないならもうそれでよしとしよう。

「ありがとうございます。妹をどうぞ宜しくお願い致します」

レイドは大きな竜の後方に、ベッドや机、椅子、本や食べ物などがあるのが垣間見えた。

「ところで、神殿ではずっと竜の姿のままなのですか?」

黒竜はふんっ!とそっぽを向いた。

「そうだよ。誰一人、服を持ってきてくれないんだよ。起きたら素っ裸だから竜になってるんだよ。ノアなんか一回も来てくれないんだ。番なのに一回も会いに来てくれないんだ。匂いをかぎたいのに」

匂いをかぎたいと言った。
来てほしいと2回言った。
竜の番がノアであって、ノアには番の概念がないので、番なのにと言われてもわからないだろうが。

「すぐにお伝えします」

レイドは神殿を後に、王宮へ向かった。

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