運命の番

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前国王セト

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今日は学校終わりのお昼に、レイドが学校の門前まで迎えに来ることになった。
一緒にいられるのがあと数日なので、狼たっての願いだった。

「門の前に、すごーい大きな男の人が立ってる」
「本当だ。大きいし、すごい筋肉」
「銀髪だからグラーツの留学生かな」
「30才位じゃない?特別業務の招待客かも」

門の前にいれば、それは目立つ。
数少ない男性の上、見たこともない厳つい体つき、イシスにはいない鋭い容貌、無駄に大きい背丈、そして威圧感。

イシスの学生の学校と家庭教育の水準は高く、皆勉学や習い事に忙しいため、あまり他人に干渉しないのがいいところだ。自分にしか興味がない完全個人主義とも言えるが。

それでも大型の眼力鋭い狼獣人はピカピカに目立った。人の目など気にしたことのない性格と育ち方をしたので、堂々と番を待っている。

「レイド様、お待たせしました」

アーシェンが他の誰よりも速く駆けてきた。
別の場所に移動して人目を避けなければ、との思いから一目散に急いのだ。

レイドは番を抱きしめようとした両手を、アーシェンにハシッと掴まれ、そのまま手を引かれるように歩きだした。

「今日は積極的だな」

恋する狼は珍しく番がグイグイ引っ張るのに新鮮味を感じていた。おめでたい男である。

「ああ、アーシェンのお父さんか」
「そういえば、お父さん外国人だって言ってたよね」

狼が聞いたら、悲しみに暮れる会話内容だ。
髪の色が違うとか、全然似てないとか、興味のないことを追求しないのがイシスの国民性である。
なので人間関係はいたって楽だ。

ちなみにアレンは別の学校に通っている。
特別な理由はなく、王宮近くに2つの学校があっただけだから。家で一緒だから学校は別でもいいんじゃないかというノア女王の思いつきだ。

「お昼ご飯はどうされますか?」

「アーシェンの好きな店に入ろう」

手を繋ぎ、もう片方の手では番の荷物を持つ。
恋人のようだなとご機嫌だったが、前から歩いてきた髭のある40代位の金髪男性から突如、声がかかった。

「アーシェンか?久しぶりだな!」

「セトおじいさま!」

祖父?やけに若いな。
現国王の母に夫はいないと聞いたが。

「レイド様、セト前国王です。現在は建築家として国中を渡り歩いています」

ノアとウルシュの母の双子の弟だ。
大叔父のことを、お祖父様と呼んでいるらしい。

前国王はイシス男性にしては筋肉質な方で髭もあり、獣人のレイドからすると男らしく見える。

「おじいさま、こちらが、こ、婚約者のレイド様です」

婚約者と紹介してくれた。実にいい響きだ。

「おおっそうか!グラーツのレイド殿下か。実に見事な体格だな。遙々よく来た、よく来た。グラーツ城内の神殿建設な、あれワシが担当するから。そっちに行った際は是非、宜しく頼むぞ。そうだ、2人とも昼は食べたか?よし、一緒に食べよう!最近できた肉料理がある稀な店だぞ」

明るい人柄の面白そうな人だが声が大きいので、アーシェンにお祖父様、お声、お声と情報漏洩を注意されていた。

「あと今日な、ノアとウルシュに呼び出されたから、晩餐も一緒だぞ。イングリッドも来るらしい」

やや、面倒くさそうだ。
前女王イングリッドは王様業を早期退職後、現在医師として田舎で暮らしている。

イシスは男女共に小食で菜食だが、セトは注文を多く取り、肉料理もモリモリと食べ完食していた。
国内の建築失敗あんなこんなや、地方都市での面白話しを聞いた後、

「じゃあ、また今夜会おう!若い恋人同士の貴重な時間を、楽しむんだぞ!」

と大きな声で手を振られ、周囲にいた人に「まさか、あの子供とあの大男が恋人?」とチラチラ見られたアーシェンが赤くなっていた。



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