運命の番

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セーカは神殿に閉じ込められているので、アーシェンは泉の水を運び、大量の薬を持ってきた。
ボロボロの竜の巨体を聖水で清め、薬を優しく塗りこんでいく。
丸くなっているので全部は難しいが、できる箇所はできるだけ治療したいと黙々と作業していた。

「私には愛し合っているお父様とお母様がいて、とても幸せです。お父様とお母様のような温かい家庭を築きたいとずっと思っていました」

竜は丸まったまま動かない。
また長い沈黙が続き、薬が塗られていく。

「私はレイド様のことが好きなので、彼と家族を作れたら幸せです。グラーツ国で一目惚れしてしまってから、ずっと思っていました。もしかしたら泉で狼の姿で出逢った時から、好きだったのかもしれません」

グアアッ、と変な声が洩れる。

「だから、どうかお父様、レイド様を殺さないでください。お父様がお嫌なら18才まで結婚を待っていただくように、お願いしてみます。結婚するまで来訪もお断りします。他にもありましたら仰ってください」

黒竜の長い尻尾の先がピクピク動いている。

「双子が生まれたら、すぐにお父様とお母様にお世話をお願いするかもしれません。そうしたらその双子を私だと思って、また可愛いがってください」

グアアアアアア---!

神殿からまるでこの世の終わりかのような、竜の悲痛な叫び声が響いた。

その声は長く長く続いた。



「あの大バカ竜っ、うるさいわね」

ノアはイライラしている。
今日は面倒を起こされ、雷やら封印やら多大な力を使って疲れたのに、ウルシュもアレンも不在で交代してくれる人がいない。よって大層機嫌が悪い。

イシス王家の能力は無尽蔵ではないのである。
使ったら使った分、疲弊するのだ。
結界と神殿の機能を維持するのだって、毎日身体から数時間ずつ光の能力を取られている。

だから2人の王がいないと非常時に厳しくなる。
いざとなったら前王達に頼めるが、退位して一般人の身分になり自由を謳歌しているので、滅多なことがない限り、呼び出したりしない。

「バカ竜、バカ竜、バカ竜!」

不在だったウルシュとアレンは事の顛末を知り、レイドに謝罪をした。

家族会議の結果、レイドが帰国するまで父竜セーカは静養という名目で神殿に封印されることとなった。

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