運命の番

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恋わずらい

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「レイド様、さっさとこちらの緊急案件の書類の山を片付けてください。もう昼になりますよ」

側近のマティアスは、いまいち手の進んでいない主君を淡々とせっつく。彼も狼獣人なので大柄だが、レイドと違い、物静かで生真面目な性格だ。

「イシスからの馬車は今サマサの辺りを通過中だろうか、これからノープルの遺跡を訪れるんだな」

「そのようでございますね。はい、これに目を通して署名を。番さまが到着されるまでに、この机の上の紙の山を全てなくしませんと、イシスご一行様の遺跡案内はメスメラルダ様に行っていただきます」

「アーシェン、まさかこんなに早く再会できるとは、夢のようだ。やはり反対を押し切ってでも迎えに行くべきだった。こんな寒い国で、見慣れぬ男共に囲まれてさぞや不安だろう。ああ、兵士共の目に彼女が映ると想像しただけでも嫉妬でおかしくなりそうだ」

マティアスは番に出会ってから、どこかポンコツになってしまった皇太子を見つめ、ため息をつく。

辺境時代からずっと一緒に過ごしてきた、乳兄弟で幼なじみのマティアス。戦いでは傍若無人の暴れ狼と言われてきたが統率力があり、実務では実直で沈着冷静な判断を下すレイドを陰ながら尊敬していた。
しかし三国国境の森から、真っ裸で帰って来てからは、どうにも様子がおかしい。

女性なら誰でも何でもよかった人だ。

乳兄弟で幼なじみの贔屓目をもってしても、女性に対しては手が早く、来る者拒まずで、愛だの恋だのを鼻で笑って、蹴飛ばすような人だった。
それが一夜の相手にさえ、見向きもしなくなった。

アーシェン、アーシェンとうわ言のように呟き、
結婚できなければ、皇太子位を妹に譲りアーシェンの下僕としてイシスに連れて行ってもらうと会議でのたまったようだ。

おかげで野獣皇太子は竜に脳みそを食われて、バカになってしまったと噂が広まっている。

マティアスも全くもって同感だった。
獣人が適齢期に、番に遭遇できる確率は皆無に近いと、すでに伝説扱いだった。
まさか、この狼獣人の中でも、特に気性の激しいレイドが番と巡り合うとは。

それも相手は、あの神の国イシスの王女様だ。
いずれ女王になる聖なるお方だ。

それが暴れ狼の番?
そんな奇跡があるのだろうか。
そうならば、世界は謎に満ちている。

「はい。次はこちら。きちんと読んでください。番さまはどういった方なんですか?その見た目ですとか」

「目が眩むほど美しいぞ。直視しているとあまりの美しさに頭がぼんやりしてきて、息ができなくなり自分が石になってしまったように感じるので、定期的に匂いを嗅いだりして視線をそらせないと危険だ」

なんと、これは重症だ。
本当に竜に脳みそを食われてしまったのではないか。

「なるほど。よく分かりました。では次こちらの書類です」

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