運命の番

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招待

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「アーシェン、グラーツ帝国の皇太子から手紙が来たよ。是非グラーツに遊びに来て欲しいって」

「グラーツの?皇太子さま?」

イシス国。いつもの家族の食卓で、ウルシュ国王がアーシェンに書簡を手渡そうとすると、父のセーカが素早く奪い取る

「グラーツの戦闘好き皇太子からだって?あの狼獣人がうちのアーシェンに何の用だ」

王から引ったくった手紙をバサバサと開く

「ちょっとセーカ、アーシェン宛だよ」
「もしかして恋文?アーシェンは可愛いもの」

ノア女王が呑気に話す。

手紙には形式的な、初めましての挨拶の後、

「アーシェン姫やアレン王子の好きな古代ローラン朝の遺跡群がグラーツ帝国には数多くあり、今回グラーツ国内で視察団を組織することになった。よろしければお二人とイシスの国民を招待したい。
だって。アーシェン宛だけど、アレンも招待されてるよ。なんで会ったこともない皇太子が僕の可愛い子供達が遺跡が好きだって知っているんだ?」

「レイド皇太子だったかしら18才よね。確か。賢帝マデリーン様のご子息」
「外国から書簡が届くのも何年ぶりかな、珍しいね。王宮の投書箱に入っていたよ。グラーツにはお抱えの魔女がいるのかな」

セーカの疑問と心配は、2人の王には届かない。

イシスは国自体を結界で閉じているため、外国に手紙を送るのも一苦労。王宮の投書箱に搬送できるのは王族や魔族のような特殊な能力を持った者か、外国にひっそりと住む数少ない魔女のみと言われている。


アーシェンとアレンにとったら、ずっと行ってみたかった歴史ある大グラーツ帝国

「グラーツは治安が悪いし、野獣がアーシェンを指名してきているのが解せない。嫌な予感しかしない」

セーカは渋ったが、歴史好きのウルシュ国王が言った。

「アーシェンとアレンが行くなら、私も行ってみたいな。せっかく招待されたんだ研究者も何人か連れて行こう。もちろん警備は結界を張って移動するので心配ないよ。セーカの不安もわかるけど、マデリーン女帝も皇配も立派な人物のようだし、その両親の手前で、皇太子も妙なことはしないんじゃないかな」

「そうね。ウルシュが一緒なら安全だし、2人が外国を見るいい機会だと思うわ。ずっと行きたがっていたものね」

とノア女王も応戦してくれたので、双子は初めての長期旅行に出ることが決まり、舞い上がった。



「アーシェン起きてる?」
夜になりアレンが部屋を訪ねてきた。

「うん。グラーツからの手紙のこと?」
「そう。皇太子が僕達のことをどうして知っていたのか、気になって調べたんだ。グラーツ帝国は狼獣人の人口が多いでしょう」
「私も考えていた。この間の助けた狼」
「父上に聞いたんだけどあの日、三国の森の暴走竜を止めようと、グラーツの皇太子が帝都から応戦に来ていたけど突然、行方不明になったらしい」

「・・・」

「半月以上経って城に帰還、そしてアーシェン宛ての招待」
「・・・あの子の前では色々お話をしてしまったわ。18才だなんて。ただの可愛い狼だと思っていたのに」

アレンにはあの大きな狼が怖かったのだが。
だからアーシェンがいる時にしか会わないようにしていた。

「立派な成人した獣人だったんだね。狼の姿のままだったのは疑問が残るけど、結界の中に入れたということは、彼はイシスに受け入れられたんだよ」

そうね。ある日あっさりと去っていった銀色の狼。
グラーツ帝国に訪問できるのも、狼と再会できるのもとても嬉しいけど。

「男の人だったなんて、どうしよう・・・」
泉で泳いだことを思い出してしまった。


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